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幸せになれない男

作者: Shinkai

 俺は自分のことを自分で制御出来なくなることがある。それも頻繁に。幼稚園に入る前から俺は手に負えない子供だったらしい。砂場で友達の髪の毛を引っ張って泣かせたんだと母親が言っていた。


 小学生になってからはちゃんと自覚もあった。イライラするとどうにも我慢が出来ないのだ。大声をあげるか物や人にあたってしまう。俺の両親はそんな我が子を心配したのか、はたまた怖くなったのか、精神科に通わせた時期もあった。薬を飲んだこともある。それでも俺の我慢が出来ない病気は治らなかった。


 中学で5回、高校で2回も停学になった。我慢が出来ずに物を壊したり、友達や先生に暴力をふるってしまったためだ。停学になる度に母親は泣いていた。俺も冷静になってからいつも泣いていた。俺は暴力が嫌いだ。当たり前だ、暴力が好きなやつなんてきっといない。物だって壊したくない。それでも……それでも我慢が出来ないのだ。


 大学生になった俺は暴力をふるわなくなった。我慢が出来るようになったわけではない。人と関わらなくなったからだ。バイトも人と関わらないものを探したし、家を出て一人暮らしも始めた。もう両親の怯えた顔は見たくなかった。背も小さく、筋肉もろくに付いていないガリガリな息子に怯えている、俺よりさらに小さい両親。本当に申し訳なかった。


 大学を卒業し、就職することが出来た。人と関わらないでいい在宅の仕事を見つけたのだ。大学生の間に資格を取れるだけ取ったおかげで選択肢は多かった。


 人と関わらないようにしている俺にも、実は友達がたくさんいる。顔も本名も知らないインターネットの世界にだ。彼らにイライラすることは少なかったし、イライラしても上手く隠すことが出来た。そんな生活を10年近く続けて、俺は勘違いをしてしまっていた。


 人が恋しくなったのか、俺はオフ会に参加してしまったのだ。2時間だけの会なら大丈夫だと思ったし、実際に大丈夫だった。そこは本当に心地がよかった。初めて自分の居場所が出来たような気がした。自分のことを自分で制御出来なくなることを忘れたわけではなかったが、考えないようにしていた。そして俺は頻繁に参加するようになっていた。


 オフ会で知り合ったひとりの女性と特に仲良くなった。俺のイライラが抑えられない性格の話をしたのに、それでも良いと言ってくれた。初めて誰かに認められた気がして彼女の前で泣いてしまった。俺に初めて恋人が出来た。


 彼女とはとても順調にいっていた。初めての彼女で舞い上がっていたのか、自己主張の少ない彼女だったからか、本当にイライラすることがなかった。あの時までは……。


 彼女と付き合って半年の記念日。俺はプレゼントとしてネックレスを買っていた。彼女が喜ぶ顔が本当に楽しみだった。人と付き合ったことがなかった俺は、デートの最初にプレゼントを渡してしまった。彼女は何故その日にプレゼントを渡されたのかを理解していなかった。半年記念日を忘れていたのだ。そんな些細なことに俺は絶望し、彼女の肩を強く掴んで大声をだしていた。ひたすら謝る彼女から、冷静になった俺は逃げた。彼女は怯えた顔をしていた。母親と同じ顔だった。


 それから彼女とは会っていない。向こうから先に謝罪の連絡が来たが、返信はしていない。何度も精一杯の謝罪の文を書いては消してを繰り返したが、結局は返信をしなかった。二度と彼女からの連絡は来なかった。そして俺はオフ会にも参加しなくなった。参加してはいけないと思った。


 以上が俺の人生だ。愚かだと思われるか、可哀想と思われるかはわからないが、それが俺の人生だ。俺はこれから人と必要以上に関わることはないだろう。でも大丈夫、それが俺の幸せだから。 

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