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パーティ結成 3人目は……

「はっはははは! 目つき悪いな嬢ちゃん!」


「女の子にそんな事を言うもんじゃねーですよ」


 ハナが怒る前に、例の如くお姉さんが分厚い本の背で喉をどついた。

 オッサンは涙目で咳き込み、一連の流れを見てハナは少し引いていた。

 わかる。僕もやりすぎでは、と思う。

 オッサンが頑丈だから良いかもしれないが、これも一種の信頼関係と言っていいのだろうか。


「ごめんね、悪気はないけど純粋にデリカシーが無くて。きっと産まれる時に髪の毛と一緒に置いて来ちゃっただけだと思うの」


「待て。髪の毛は最近まであったぞ」


「そうじゃないと思う」


 脱力した突っ込みを入れて、僕は飲み物を呷る。


「私は気にしてない。目つきの事はよくからかわれる。悪意がこもっていればすぐ判るし、今くらいのは別に気になんない」


 横目に見てみれば何とも、目つきの悪さを打ち消す穏やかな微笑だ。

 彼女はハナ・グリントと名乗った。何でも父親探しと修行を兼ねて旅をしているのだとか。

 追手共は治安維持部に引き渡され、牢屋に今は入っている。これから取り調べが行われるらしい。

 一段落ついて、僕らは夕食を共にすることになった。変な誤解もあったので、彼女との一連の出来事を話して誤解を解こうとしたが、どうやら誤解云々に関わらずからかう気ではあるらしい。困った大人達だ。

 そんなこんなで色々話しながら今に至る。


「どっちかと言えば、アンタの煙幕に恨みがまだあるけどな」


 先ほどの微笑は無かったかのように、鋭い眼差しが僕に向いている。

 僕にもさっきの微笑みが欲しいなあ。


「今回のでチャラにしてくれない?」


 そういう流れだと思ってたのに。


「はあ? あんた、ちょっと同じあの煙幕浴びて数日生活してみろよ。飯屋だって入れなかったんだぞ! 通りすがる年上のお姉さま方には、苦笑いされながら香水の使い方を教えられ、服はどれだけ洗っても臭いは落ちないし、宿屋には強制チェックアウトをさせられるし、なんならクリーニング代まで請求されかけたんだ! おかげで野宿をする羽目になったんだ!」


 しまった。余計な事を言ってしまったらしい。


「言ってたらまたイラついてきた。何発か殴らせろ」


 やっぱりこの子不良だよ! 

 胸倉を掴まれるのと同時に、僕は歯を食いしばった。


「ハナちゃん落ち着いて。そうそう、さっきの騒動の前の会話気になっていたんだけど、さっきの通りの話だと、蒼月花の悪臭事件の当事者? あなたがその話題の人?」


「そうだ……ですよ」


「そう……。アキ君、誠心誠意謝って」


「申し訳ございませんでした!」


 お姉さんの鶴の一声にすぐさま縋る僕。

 オッサンが「お、良い速さだ」と呟いたのが聴こえた。


「で、ハナちゃん。贖いとして、気が済むまでアキ君を殴るのと、アキ君に1ヶ月ご飯代と宿代を持ってもらうのとではどっちが良い」


「え?」


 出しておいてなんだけど、最高に間抜けな声を出したと、我ながら思う。


「ちょっと」


「アキ君は黙ってて」


 あの、それは僕の問題なのですが、と言いかけたがお姉さんの目が怖くて、そのまま言葉を飲み込んでしまった。

 どっちもキツい。もう少し加減が入らないものだろうか。


「できればもうチョット……」


 意を決して言葉を無理やり続けてみるが、お姉さんの目が笑わなくなったのを見て、また僕は黙った。


「アキ君。実はね、蒼月花の悪臭事件は結構ね、噂になってるの。私も街でその臭いを嗅いだけど大分酷かったわ。ハナちゃんがその被害者だと分かったら話はシンプル。貴方は残酷な事をした自覚をすべき。しかも女の子に悪臭なんて本当に残酷。ハナちゃんが今でも怒っているなら、今のうちにちゃんと決着つけておきましょ。ね?」


 僕はあれ以来、クエスト関係でジルバと郊外で過ごす事が殆どだった。街でのその話題は全く知らなかった。

 ……正直、少し話を盛ってたかろうとしているのでは、と思っていたんだけど、お姉さんの様子を見ると事実らしい。

 僕はもっと真摯に反省をすべきかもしれない。


「——ごめん。シーアさんに言われるまで事の深刻さをわかってなかった。正直、気楽に考えてた。それに早とちりして安易にあんなのを使った事も悪かったよ」


 少し間が空いた。

 なんだ? 表情を見るが何を考えているかはわからない。お姉さんの表情は和らいだ。

 ハナの顔だけはピクリとも動かない。

 数秒動きはなく、誰かのグラスの中で氷が動く音が響いた。

 少し呆れ顔になったハナは胸倉から手を放し、腰に手を当てて、鼻で溜息をついた。


「いいよ。ちゃんと謝られたら、多少は気がすいた。2回助けてもらった事になるし、私も変に脅かしてしまったのも悪いしな。あの時はやる気になってたから気が高ぶってたんだ、ごめん」


 ハナは席に着いた。

 あっさりと許された事に驚きながら、僕も席に着いた。

 お姉さんは笑顔で頷いているが、僕は何だか落ち着かずソワソワしてしまう。


「なあに照れてんだあ、アキ! ほれ、飲むか?」


「ジルバさん、アキ君は後1年駄目ですよ」


「うむ、そうか。残念だ」


 酔った勢いで言ってきただけだろうに、なんでそこまで心底残念そうな顔をするんだ。


「時に、ハナ、であってるよな」


「うん。あってるよ」


 さっきまでのノリが嘘みたいに、オッサンは真面目な顔をして、お姉さんに目配せをした。

 僕らの周りに術式が展開された気配を感じる。結界術式の類だと思う。恐らく盗聴防止か。


「お前さんのグリント姓は、ゲイルス王国の英雄と関係あるか?」


 ハナは目を見開いた。


「知ってるの?」


「知ってるも何も、この界隈では有名だ。お前さん、あれか、父親探しって言ってたが」


「そう、ブラッド・グリントは私の父親だ」


 今度はオッサンが目を見開いた。驚いている様子が何だか新鮮に見えた。


「なるほどな。それで、お前さんはブラッド・グリントを尋ねながら、ハナ・グリントという名も開示して旅してきたわけだな」


「そう、だ」


「悪い事は言わん。暫くグリントの名を出すのは止めとけ」


「な、なぜ!」


「昼間の奴らは恐らくゲイルス王国絡みの組織の可能性が高い。多分、雇われの切捨て要員だろうがな。まだ情報を吐いていないが、グリントの娘というだけである程度の推測は立つ」


「でも!」


「探すなとは言っていない。暫く控えた方がいいと言っているんだ。方法も工夫した方が良い。今回の件でもそうだが明らかにお前さんの身柄を取ろうとしている。捕まったら父親探しもなにもなくなるだろう」


 オッサンはため息交じりにハナを諭す。


「最近のゲイルス王国は、不穏だ。セルトルジア連合の意思を無視して、フィンドとウェルノを侵略し始めたあたりから、色々とおかしい。ブラッド・グリントはあまりに知られすぎた伝説だ。現状ではトラブルメーカーにしかならない名だろうよ。お前さんが考えているより色々と有名なんだ。そこまでお前さんに語られていない理由は分からないがな」


 ハナは短く小さく唸って、何も言わなかった。心なしか目が少し潤んでいる様な気がする。

 ジルバがずばり言った後、僕らは誰しもが言葉を連ねることは無かった。

 それは、傍目に見ていてもハナの心情を察するところがあったからだ。


「私のお父さんは」


 数分程沈黙が続いて、ハナはぽつりと言葉を落とした。


「今から10年前に、私がまだ5歳の頃に旅に出ると言って、戻らなかった。本当は3年かそこらで戻るって言ってたんだ。だけど、戻ってこなくって、安否すらもわからない」


 ハナはカウンターに目線を落として、まるで遠くを見る目で訥々と語った。

 カウンターの鈍い光の反射に過去を投影しているように見える。


「お母さんは信じろって言った。お父さんはすごい人だから役目があるんだって。だけど便りもないまま10年近く経って、お母さんも流石に歳もあるだろうけどやつれてきた」


 酒を呷るオッサンの目はいつになく真剣で、ハナの話に気を抜かず聞いている。

 僕もじっとハナが紡ぐ言葉を聞いた。


「だから、どこをほっつき歩いているかわからないけど、探し出して文句の千や万でも言って連れ戻してやろうと思ってね。家でじっとしてても、戻ってこない気がしたから」


 不謹慎ながら苦笑する。なんだ、僕への文句の数なんて可愛いもんじゃないか。


「父親探しは私の為だけじゃない。お母さんの為でもあるんだ。毎晩、何年もあの寂しそうな顔を見るのは堪えた」


 ベリーショートで整えている髪を、両手で雑に後ろに撫で彼女は笑った。


「だから、心配してくれてるところ悪いんだけど、こればかりは私の問題だから」


「……そうか」


 ジルバは優し気に口角を上げた。そしてお姉さんに「あれを見せてくれ」と言い、僕はそんな言い方で伝わるのかと思ったりもしたが、心得ているかのように迷いなく、お姉さんは何かの資料をオッサンに渡した。


「ハナ、お前もパーティ探しをしていると聞いている」


「お、おう。そうだよ」


「ふーん、へえ」


 オッサンは資料を何枚も流し見しながら、感心しているそぶりを見せる。


「お前さんの経歴面白いな! どうだ、俺らと組まねえか?」


「へ?」


「は?」


 僕とハナの間抜けな声が被る。


「大方あれだろう、旅を続けるにも路銀心許なく、クエストで稼ごうにも目ぼしいものはパーティじゃないと受けれない。しかし、パーティを組もうにも中々マッチングしない」


「う」


 どうやら図星らしく、ハナがたじろぐ。


「お前さん、癖強そうだもんな!」


「な! う、うるさい! にょけいなお世話だ」


 噛んだ。明らかに。見る見る顔が赤くなる。ははは、可愛らしいところあるね。

 俯いたところから急に僕の方を見て、不意だったもんで僕は少しドキッとした。


「ニヤつくな!」


 ハナが拳を握ったと認識した時には視界が暗転した。

 なぜだ!

 痛みは大分遅れてきた。


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