トラブル
宿へ戻る道。僕は明日からの動きに悩んでいた。
「自分をどう売り込むか」
優先順位はパーティを組むことだ。
できれば一時的なものではなくて、トリアを旅立つまでの継続的な関係が好ましいのだけども。
継続的な付き合いになるというのは、お互いの能力が連携する事で相互効果が生まれる事が前提じゃないといけない。
最低限でも、大雑把にも前衛と後衛がある。
僕はポジションで言うなら後衛で、魔具によるサポートが主で遠距離攻撃もできる。
ギルドパスポートに登録したポジションは後援者。
ただし、新人だ。実績もない。ランクもF。
果たしてパーティを組んでくれる人がどれだけいるだろうか。
「近道はしたいけど、近道はない」
パーティを組めた方が早いけど、仕方ない。
最初は単発パーティでもいいから組めるパーティでコツコツ実績を積んで、トリアでの僕のいい評判を広めるしかないか。
そこで魔具の質の良さも何とか宣伝して、自分を売り込んで、パーティの成立率を上げよう。
魔具は手作りの方が安い。
クエスト時のコストを抑えられ良質な魔具が使えると言うのは、パーティにとっては大きなアドバンテージであるはずだ。
当初の予定よりも遠回りになるなあ。
だけど幸か不幸か次のステップまでは時間がある。
路上販売もして顔を売るのもありだ。
「やれる事をやろう」
意気込みが体に現れたのか、僕は視線を上げて三つの月と顔を合わせた。
「おい! おいおいおい!」
そんな僕の意気込みにまるで文句をつけようとでも言うかのような、そんな怒声だった。
「ん?」
なんだ?
少なくとも穏やかな声色ではない。振り返ってみれば、通り過ぎた路地から何やら揉めてる様子が聞こえてくる。
「離せ!」
そして、怒気のこもる女の声。何とも推測が容易な判断材料だろう。
そっと影から声のする通りを覗いてみれば案の定、男4人組が1人の恐らく女性に絡んでいた。
「嬢ちゃんよお。てめえからぶつかっておいて、一言もねえってのはどうなんだ? ん?」
「アンタらが狭い道を広がって歩いてるのが悪いんでしょ?」
フードを被ってるせいで女性の顔は良く見えないが、声は凛として良く通る声だった。
確かにあまり広い通りではない。人気もない。男らも酒が入ってるっぽいし、トラブルが起こりうるシチュエーションだ。
……まあ、夜なら珍しくない展開だ。
「こっちはよ、気持ちよく酔ってんのによ、水を差しやがって」
「あら。寝ぼけた顔してるんだから丁度いいじゃない」
声色と口調を変えた明らかな挑発。
「てめ」
こういう大きな街なら秩序がある。秩序があるのはそれを守る者がいるから。
状況を上手く使えば、手助けをするには大きな労力は必要ない。
「衛兵さん! こっちこっち! 早く!」
「な」
「クソ! 仕事早すぎだろ」
「っつ! おい、面倒だ。逃げるぞ」
ベタな展開には、ベタな対処法だ。この環境ならシンプルかつ強力だろう。
案外、どこでも共通で使えるもんだなあ。
もうああなってたら見守っていても仕方ないから、とっとと対処した方が良い。
足早に逃げ去る男どもの背中を影から見送って、薄い感心をしながら僕もそろそろと帰路に戻る。
「どこに行っても居るもんだね。あーゆう輩は」
僕はあーゆう大人にならないぞ。幼子の様なぶりっ子の冗談を思いながら、踵を返してすぐに、
「ねえ」
「うえっ!?」
背後から至近距離での声。
びっくりした! ……本当に、びっくりした。
あれ? 気配を抑えていた筈なんだけど。そりゃあ、気配隠しは上手じゃないけど見つかるの早すぎじゃない?
てか足音したかな?
おそるおそる振り返ると、相変わらずフードを被っているが、眼もとの暗闇では鋭い眼光が浮いている。
一方で月明かりに晒される口元には、歳の近さを感じさせる肌のハリと艶やかな唇が何故だか強調気味に見えた。
「ベタ過ぎない?」
「え?」
……え? 君が言う?
謎の沈黙が訪れる。一瞬、想定外の言葉に固まってしまったけど、
「あれで済めば一番平和だと思うけど」
誰も傷つかない。損もしない。あれでダメなら力業になるけど、それを回避するためのワンクッションな訳で。
「別にあれくらいの奴らなら私一人で余裕だった」
なにこの子。凄い好戦的なんだけど。
なんだろう。お酒飲んでる、訳じゃなさそうだ。負けず嫌い? こっちもこっちでめんどくさそうだぞ。……んん。思い返してみれば、あの会話の流れと雰囲気はこの子からも突っかかっていってたしな。
嫌な予感がした。警戒心が起こる。
故郷の飲み街の出来事にしても、やられている側が必ずしも良い人ばかりではないという事を思い出す。
妙な人だって居た訳だし。
やだなあ、あまり格闘戦は得意じゃないし、仮にも相手は女の子だし。仮にここでゴタゴタがあって、それが何かしら街のニュースになったら僕の思惑は……。
よし! 三六計逃げるに如かず!
自分の胸元から眩い閃光。すかさず臭い付きの小規模煙幕を張る。
身体能力強化を弱めに使用し、駆けた。
もろに閃光も煙幕をくらっていたし、逃げるだけなら低出力で大丈夫でしょ。
夜風が頬を撫でるのが心地よい。人通りが増えたあたりで身を紛れ込ませた。
「あーやだやだ。初日から色々トラブルに会いすぎだよ」
頭の中で愚痴りながら、尾行を確認するために宿まで遠回りし、無事に自分のベッドに横たわったのは帰宅予定時間よりも2時間後だった。
少しだけ、ぼうっとして、寝返りをうった拍子に、最後の煙幕の香が鼻腔を擽った。
女の子だったから、香水の原材料になっている花の“臭い付き煙幕”を使った。とは言え嗅覚封じなので薄めず、むしろ何倍にも増幅させている分、元が良い香りとは言え、とても強烈だ。
相手がどんな追跡手法を持っているかわからない。
だから念のため、視界だけじゃなく嗅覚封じをさせて貰った。
「臭いがついちゃったか」
蒼月花。
一枚だけ青白い花弁で、他は真っ白の花弁。
故郷でよく見かけた。
——眠気が襲い掛かりかけていたところで、消臭を兼ねて湯浴みをした。
幸い、臭いが付いたのはマントだけだった。
「明日は平和に過ごせますように」
独り言が浴室に反響し、すぐに湯煙に消え行っ




