そんな馬鹿な……。
想定外の臨時収入だった。
昼間の賊たちはどうやら賞金がかかっていたらしく、ギルドの治安維持部から賞賛と賞金を頂いた。どう分けるかお互いに譲歩しあって長引いたが、僕は爺さんの治療費と銘打って頑なに主張を譲らず、なんとか爺さんに多く受け取ってもらった。
「また会ったら、この分のお礼をするよ」
お爺さんはそう言ってトリアを発った。
僕は一応、魔具商人だ。と言ってもライセンスがないからミドルレンジよりも下の魔具しか売れないし、旅商人だと数を裁くのも厳しいけど、それでもやり繰りすれば何とでもなるのだ。
路銀に困らない職業万歳。
「さって」
お爺さんの馬車を見送って、
まずはベルム・リーゼ有数の都市のひとつトリアに来た理由は、ギルドへの登録だ。
後はついでに魔具を買い取りしてもらう。
「はい。じゃあここに拇印ね。紹介状の原本も確かに。それでもって、ここに魔結晶の筆でサインね。これで貴方の魔力が登録されたわ。契約の締結よ」
ため息。
思ったよりも書くものが多かった。でも、これで晴れてクエストを受ける事ができる。魔具商売とクエスト報酬でくいっぱぐれる事はないだろう。
「あ、そうそう。ちなみにね、これでギルドに正式登録はされたけども、あなたはFランクしか受けられないからね」
「え?」
Fランクなんて、モンスター退治を受けられないじゃないか。稼ぎになると言えばなるが、出来ればモンスター討伐系も受けて素材集めもしたいのが本音だ。
店で調達するのとでは魔具の原価が大幅に変わる。
「でも紹介状も持ってきましたよ」
「あら、知らなかったのかしら。2年前の大厄災の出現以来、“歪”の発生率と環境の危険性が増して、戦闘技術認定の基準が上がったの」
お姉さんの説明を聞きながら予定が少々狂ったことに少し惑った。
「君の歳、実績、認定スキルだとパーティを組むのは難しいかもしれないわね」
正直、自分でも難しいと認識はしている。
それにしてもFランクは想定外すぎた。
知り合いのコネでもないと、初見では断られるだろうなあ。
総術の昇級はそんな簡単にはいかないし……。
「一応、近々コーディング技術認定を取得する予定なんですけど、それはどうですか」
「うーん、それもね、基準の改定が入って今はトリアでは認定試験を行っていないの。取得できても、クエスト受注可能ランクには影響しないわ。パーティを組める確率は、コーダー認定ランク次第で格段に上がるだろうけど」
受付のお姉さんの顔は僕に同情をしている様子だ。
なんだって? 認定試験がトリアで行われない? そんな馬鹿な!
「お姉さんとしては、君ぐらいの歳の子には、まだ危ないクエストを受けてほしくないけどね」
ギルドには14歳から登録できる。だけど実際は18歳前後から登録する人達が多く、最低年齢で登録するのはかなりの少数派だ。
だから、受付のお姉さんが心配するのも仕方ない。
……いやいやいや、とかじゃなくて。それよりも、認定試験!
「試験の再開は3か月後で、確かしばらくは王都でしか行う予定はないと聞いているわ」
3か月後、しかも王都。
予定が完全に狂う、と言ってもほぼ宛も終了目安もない旅だけども、何とも言えない焦燥感が湧いて出てくる。
「……まだ若いし、焦らなくても大丈夫よ! お姉さん応援しているわ、困ったらいつでも相談してね?」
綺麗な笑顔だなー。
当然ながら僕の本当の心情なぞ知る由もない、何とも暢気な笑顔で、数秒顔を合わせていたら何だか僕まで笑顔になる。
優しいお姉さんに対しての相槌であり、僕自身に対しての間の悪さの嘲笑じみたものでもあった。
「失礼します。レミントンさんの魔具の査定が終わりました」
「丁度よかったわ。こっちも丁度説明が終わったところよ」
「どうでした?」
「あの、申し上げづらいのですが、ウチではこの魔具は査定できませんでした……。よって買取はできません」
……そんな馬鹿な……。
更なる追い打ち。ああ、無常だ。僕の予定は全て無常にも打ち砕かれた。
「ううう、最悪だ」
出鼻を挫かれた思いだった。
確かに僕の故郷は田舎だ。だから新しい情報の量がそんな多くなかったりもするし、なんなら他の町に行かないと知る事のできない情報も確かにある。
「それにしたってなあ……」
2年前の大厄災の余波が、ところどころに及ばされているだろうとは思っていたけど、まさか僕にとって辛いところにピンポイントで及んでいるなんて……。
「宿は、この道か」
受付のお姉さんに貰ったギルドご用達の宿への手書きの地図を見る。
トリア支部から少し歩いたところにあり、遠くはない。それに安い。空きもあり、これに関しては何も問題なく部屋を確保できたのは幸いだ。
これで街についても野宿なら泣けた。
地図を見る限りだと、この道を真っ直ぐ行けば宿につくらしい。
ただ、反対側に一際明るい街明かりが夜空に浮いているの見つけた。
「こんなに大きい街に来るのも初めてだし……」
好奇心が擽られ、時間もあるし僕は少し散策する事にした。
「ここら辺は繁華街なんだな」
暗くなっても街灯もあってか賑わいは絶えない。飲食店は仕事上がりらしき人たちが目立ち、お酒を片手に疲れを癒している様子だった。
この一粒でデロンデロンに酔える薬とかいらないかな。
多少でも商売に繋がらないかと考えてみたりする。
僕が歩いたエリアは基本的に飲食店ばかりだった。商業エリアはまた別らしい。
どちらかと言うと僕はそっちの方を期待していた。それはまた後日。
気づけば繁華街の端を通り過ぎたみたいで、段々と暗くなり街灯は少なくなっていた。
「やっぱりデカいなあ。流石トリアだ」
先ほどまで気分が落ちていたが、風にあたりながら歩いていたら多少は気が紛れた。
「まだ始まったばかりだ。明日から頑張ろう」
自分に言い聞かせるように明日を想った。




