お爺さんの昔話
「ごめんね爺さん。まだ医療系のコーディングを取得してないんだ」
「何、気にすんな。この張り薬でも十分だわ」
そう言って豪快に笑い、すぐに「あいだだだだ」と委縮する。
賊達はお爺さんと2人で返り討ちにした。お爺さんは正直強かった。僕が1人倒すと、お爺さんは3人倒している勢いだった。
だけども、張り切り過ぎたせいかお爺さんは腰をやってリタイア。
僕が残りの賊達を魔具と体に仕込んだ魔術コードを使ってなんとか倒しきったのだった。
全員縛りあげて馬車に乗せきったばかりだ。
「それにしたって、お前さん体術は粗削りだが小僧のくせにやりおるの。強化剤か何か使ったか?」
「んーんー、使ってないよ。身体中に魔術コードを仕込んでるんだ。それで身体能力を強化してるんだよ」
「んん? そんなのは初めて聞いたが、最近は魔術コードの技術の発展も著しいらしいからなあ。いやあ、わからんわ」
お爺さんが感心交じりに溜息をつく。
「して、気になったんだが、今日使ってた魔具の一部は、もしかして精霊言語だったか?」
「あははは。やっぱりわかっちゃう?」
「そりゃあなあ。あーいう事象の発現は精霊言語の魔具か、魔法そのものぐらいだしな」
精霊言語は珍しい魔術言語だ。強力強大な魔術を発現できるが、複雑かつ繊細な言語な為、コードを書くのも使うのも気を使う。
僕が何故これを使えるかは、ひとえに両親のおかげだと言える。
「精霊言語は使える奴もすくねえって聞くが、若いのにやるなあ。将来有望だ!」
「そんな事ないよ。魔法そのものが使えたら一番いいんだけどね」
「そうかもしれんが、どうだかな。あんな恐ろしいもん。関わらない方がいい」
苦笑気味に言うお爺さんを見て、僕は興味が湧いた。
「まるで魔法使いにあったみたいな口ぶりだね」
ドワーフやエルフ等を含めた一部の種族が魔法を使える話は一般的だが、畏怖される様な威力を持つ使い手はいない筈。
魔法の規模や威力等で畏怖される事がありえるとしたら、
「ああ、会ったのさ。9人の魔法使いの1人、5番目にな」
そう、御伽噺や神話でも良く出てくる9人の魔法使いだ。
「え、それ本当!?」
思わず声が大きくなる。
「ああ本当だ。昔は傭兵もやっていたんだがな。イズラルとリアーカの第三次大陸間戦争の時に、俺はイズラル側の傭兵でリアーカ侵攻に向けて海をイズラル軍艦隊で渡っていたんだ。で、まあ、あっちも防衛線を張っていてな。壮観だったよ、双方大艦隊だから衝突したらお互い無事には済まない。それで対峙し睨みあっていた時に、5番目が現れて、……海を割ったんだ」
「海を……」
いまいちピンとなかった。
「もうそのまんまの意味だよ。イズラル軍とリアーカ軍の間にデカい溝ができて、かと思えば海が元に戻ろうとして大きな水の壁ができ、飛び散った海水が豪雨みてえになって海も荒れ、もう戦争どころじゃなくなってお互い撤退したんだ」
「リアーカ軍の味方だったってこと? そもそも何で5番目ってわかったの?」
「後から聞いた話ではどっちの味方でもなかったらしい。被害はどっちも同じくらいだそうだよ。近くにいた誰かが5番目だって言ってたのと、仮面の模様を調べたら一応合致したからだな」
「へえ……。なんで、そんな事をしたんだろうね」
「さあな。とりあえずそん時に分かったのは9人の魔法使いはやべえって事だ。俺はその時に傭兵をやめてギルダーになったんだ。戦争に身を投じてたらいつから9人の魔法使いの誰かに魔法で消されるかもしれねえって思ったからな」
「話でしか聞いたことなかったけど、体験談を語れる人に会えるは思わなかったよ。ありがとう」
「ハハハハハッ! こんなジジイの昔話でも役に立ったんならいいさ!」
9人の魔法使いなんて生きていて一生に一度会えるかと言っても過言じゃないって聞くのに、このお爺さんは強運なのか不運なのか。
だけどもまあ、一生で一度会えるかどうかの9人の魔法使いよりも、世界の危機に現れない9人の魔法使いなんかよりも、僕は大厄災を討つ。
その為には追わなきゃいけないし、研究しなければいけない。そして、技術を磨いてこの世から“厄災”という存在を大厄災もろとも——。
レッドバイソンの肉を齧りながら、夜空に浮かぶ3つの月を見た。




