進退
「え、どうして」
「わかるだろう? 君はなんせ“当事者”だ」
9人の魔法使いに捕らえられている時に言われた言葉の数々。
僕の作り上げてきた魔術コードの数々はイレギュラーに近い。
例外で、異端で、監視しなければと。
自由を制限される身になった。
それだけじゃなく、権利を剥奪されるなんて。
「君はね、有能すぎたんだ。これ以上、好き勝手されて悪戯に注目を浴びさせるわけにはいかないんだ」
「だからと言って、あんまりです! あいつ等ですか? ナーー」
突然の衝撃と視界の暗転。驚きながらも、状況を認識すると、トムが僕の目の前にいて、僕は壁に押し付けられている。首には冷たい感触が、——剣だ。トムは僕を押さえつけて剣を首筋にあてがっている。ニコニコしながら。
「アキ。そのオッサンな、俺より強いんだ」
ジルバがそんな情報を補足する。
流石、ジルバの上司なだけあるよね。全然初動が見えなかった。机越しに座っていたのに一瞬でこんなに距離を詰められるの?
「君は聡いよねえ。その歳でそれだけの技術をもっているんだから。だからこそ、口にしていけない事も判るんじゃないかな? 私は歳よりも実力で評価するタイプなんだ」
つくづく、本気の大人って怖いなあ。
「君に関しては、選択肢はない。これは私よりも権力と支配力があるものからのお達しだ。仮に君が話を蹴ったところで、なに、有望な者が1人いなかったことになるだけだ。とは言え、早死にしたい訳でもなかろうし、どうだろう」
選択肢はないと明言しながら「どうだろう」ってなんだよ。
「……内容にもよりますね」
ちょっとした反骨心だ。僕の人生だ。そんな一方的に言われて素直に言う事を聞くつもりはない。
せめてもの抵抗で睨みつける。
トムが、少し目を丸くして直後、短く笑った。
「いいねえ。若いころはそれくらいでいい。じゃあお望み通りの本題だ」
僕は言われながら解放された。トムは優雅に自分の席に戻り腰掛ける。
「君に自由はない。ギルド直属の職員にまずはなってもらう」
……職員に?
「我々の組織の中で辛い役割が幾つかあるが、君にはその一つで奴隷の様に働いてもらう事になる」
そのワンフレーズで、日の光を浴びられなくなるような気がした。
「定住地はない。上から命があれば東から西へ、地の果てから地の果てまで駆けてもらう。休む間もないかもしれない。体力と気力を削る事になるだろう」
唾が、喉を下る。
僕は、こんなところで躓くわけには……。
頭の中で案を練る。逃走するか、どうするか。
「君に属してもらうのはギルドお抱えの環境調査部だ。これから5人パーティを組んでもらい厄災についてと、行く先々の環境について調査してもらう」
自分が所持している魔具の種類と効果と数と、組み合わせを頭の中で確認する。まずは僕の監視状況をできるだけ把握して……。
あいつらの監視からも逃れる術を考えないと。
「アキ・レミントンのギルダーズランクをCとする。先の厄災討伐の功績を鑑みて本当はもうちょい上にしてもいいんだけどな。周囲のやっかみも考慮してまずはCだ。詳しい待遇は後程。くいっぱぐれる事はない。月給に加えてクエストの成功報酬がある。一般よりは成功報酬は下がるがな」
逃走経路と逃走先は……、あれ?
なんかさっきまでの話の雰囲気と、実際の話の中身がマッチしなくないか?
「君に課せられる役職は業務が多い。忙殺されないように注意しろ」
ジルバが苦笑いしている。このオッサン、最初から話の流れを知っていたな!?
「そしてアキ・レミントン。この場にて君をコーダーとして正式認定する。試験を受けられず悲しいとは思うが、君は今日からプラチナコードだ。おめでとう。君のこれからの活躍を心から祈っている」
○
「悪いな。正式な辞令だから俺から勝手に言う訳にはいかなかったんだ。なんにせよ大出世に免じて許せ」
そう言って、がははと短く笑う。
僕は珍しく、珍しく少しだけ、少しだけ不貞腐れていた。
「いいよ、もう」
僕を子供だと思ってどいつもこいつも。……あいつらも。
顔をろくに見せもしない9人の影が脳裏をよぎる。
「拗ねても仕方ないじゃん。あんたにとっては結局おいしい事だったんでしょ?」
「そうさ、だからもういいんだよ。色々と気持ちが追い付かないだけ」
ふんと鼻で溜息をつくハナは、
「あっそ。なら身体でも動かした方がすっきりするぞ」
「それもそうだな。お前さんは体術の課題があるからな。正真正銘の課題が」
今回のギルダーズランクC認定は、実績と実力の評価とランク認定の順番が前後になっていると言われた。
『今回はイレギュラーだ。まあ、とは言え、組織で定められている最低限の段取りと形式の順守に対して、整合性をある程度保たなければならない。……うん、ハナちゃんは問題なさそうだな。この調子でいけば総術は特級だね。オーケーだ。アキ君、そう、君だ。半年以内に……、そうだな、プラチナコードを取得した事を考えると上級でいい。そこまで頑張って昇級してくれ』
とバウンテンハウスから言いつけられた。それもご丁寧に『あ、お得意の魔術コードとかの身体能力強化は駄目ね。ジルバから聞いているよ』と爽やかな笑顔で加えて。
くそう、オッサンが恨めしい。
「ねえジルバ。上級認定はさ、要は体術と体力を加味した上で実績が出せれば言い訳じゃん」
「まあなあ」
「なら魔術コードを使ってもよくない? ブーストは別に良くない?」
「駄目だなあ。あくまで基礎体力や技術の取得と保持が前提だ。素のままで認定されなきゃいけねえし、アキのあれは結局身体がで出来上がってないから術式に振り回されて力任せになってるだろう。反動も大きいようだし、わりいが俺が監督についている内はあれ、禁止な」
「ええ!?」
「なんといわれようともだ。金輪際という訳じゃあない。身体を鍛えて仕上がるまではという意味だ。焦らなくとも俺が強くしてやるよ」
と口角を上げて笑んだ。
「確かにね。前に見せてもらったけど、力任せのオークみたいだった」
「オーク……」
ハナの比喩が心に刺さる。
「いやあ、それにしても惜しかったな」
「何が?」
「プラチナコードがだよ、最年少取得者はアキが2人目だ。史上初も夢じゃなかったかもな」
っていうのは、14歳で取得するのが最年少という事か。
「へえ、意外。もっといると思ってた」
「ばあかお前、プラチナコード保持者自体多くないんだぞ。お前さんは完全に一目置かれる存在だ」
「こいつがねえ、信じがたいな。あんなん見ちゃったから実際認めるけどさ」
人差し指で僕の頭をぐりぐり軽く押してくる。こ、この。
「で、その最初の1人は誰なのさ?」
「ギルド本部にいるらしいな。名前はわすれちまった」
「ふーん。まあ興味はないかな、目的は別だし」
「そうかい。それはそうと俺はお前らのランクの事務処理もあるからこのまま自分の仕事にとりかかる。まだ暫くは待機になるが、もう街から出ても大丈夫だぞ。郊外で好きな様に習練してくれ。じゃあまたな」
とそそくさと去ってしまった。何気に忙しいみたいだ。
「で、どうする? アンタの習練に付き合ってあげてもいいけど」
「そうだなあ。僕はちょっと魔具関係でやりたいことがあるから、今日明日はそっちに集中するよ。ハナもシャワー浴びたなら今日はオフにすれば?」
「うーん、そうだなあ。ならこっちはこっちで適当に考える」
「わかった。こっちの用事が終わったらまた習練の相手してほしいな」
「はいよ。じゃあ、また」
続いて去るハナの背中を見送る。……さて、と。
体術と体力の問題が付いて回る事にうんざりだ。
「身体能力強化がダメ。あくまで地力。なら……」
ふふふ、久しぶりに開発者魂に火が付くよ。応用できる理論と過去の開発物がある。多分そんなに時間はかからないかな。
効率化最適化は、得意さ。
それに何で9人の魔法使いの枠の中に収められるのは癪だしね。やってやる。




