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セルトルジア連合の動揺

「さて、皆集まった様ですね。各国各組織の紳士淑女の皆々様、御機嫌よう」


 アマンダは世界議会に集まった各国各組織の有権者達を見て怖気づく様子もなく言った。

 放射状半円形の席配置により全ての視線は、全ての席の正面に立つアマンダに降り注いだ


「ご機嫌麗しい様で。それにしても吾輩としては、この場にまだ彼が居るのは気になりますがな」


 その目線の先にはゲイルス王国の宰相が居る。彼は聞こえている筈だが気にしていない様子だった。


「その発言の意図はなんですか? 今日の議題に関係ありますか?」


「いえ、気になったものでしたから。問題なければどうぞ進めて頂いて結構です」


「そうですか」


 アマンダはこの時点で溜息を吐きたかった。

 人間は愚かだ。世界観の狭さときたら無い。自分達の本当の危機を理解しない。

 今こうしてまとまっているのは実力行使によるもので、この議会の本質をどれだけ話をしても、ここに居る長たちのほとんどは自らの利権と利益のことしか考えない。

 ざわつく堂内を鎮めるためにガベルを叩く。小気味の良い木製小槌の打音が静寂を招いた。


「では、状況確認から参ります」


 もっぱら厄災(カタラ)の話である。


「歪の発生件数は確認できているもので、前年比で1.6倍増の211件。厄災の出現は189体。撃退が107件、退治が49件、自然淘汰が55件」


 そこから内訳を掘り下げていき、各国ごとの件数を割り出していく。


「ゲイルス王国の発生率が異常に少ないですな」


 アマンダが一通りの現状を周知して直ぐに誰かが言った。


「なんでですかねえ、場所が良いのかも。それに厄災が現れてもウチの軍部は優秀なものでね」


 瞳に一切の感情を宿さないその男はゲイルス王国の宰相シャーチャ・コンペルズ。

 確かに、ゲイルス王国は発生率が少ないのもあるかもしれないが、退治率は驚異の100%。


「ああそうだな。連合を抜けて色々熱心なようだ。このご時世に世界征服でも?」


 ゲイルス王国は第一次大厄災の騒乱の時にセルトルジア連合(CU)を離脱し、第二次大厄災の騒乱時には同じ大陸のフィンドとウェルノーを侵攻し支配した。

 余程の用意をしていたらしく、戦火はかなり小さい内に二国が呆気なくほぼ同じ時期で陥落した事は記憶に新しい。


「うまく大厄災の騒乱の混乱を使って、随分と小賢しい」


「静粛に! 議題には関係ありません」


「ありますとも! アマンダ・ベルザック殿。我々はあなた方の意思で同じ有志として連合を設立した。第三次大陸間戦争の時は手出しをしておきながら、彼らの侵略行為はみすみす許すのは筋が違うのでは? 有志である連合加盟国を侵略したというのは、今後の足並みを揃える上であまりにも大きい不安要素だ」


「はっはっはっはっはっは! 何度も説明したでしょう? もともと我々は二国から統治の願いが来ていた。我々の国力に二国を加えて、ゲイルス王国の更なる発展の恩恵に預からせて欲しいとね。争ったのはそれぞれの反乱軍だ。戦争ではない」


「それを信じろと? 情報閉鎖、厳しい出入国の管理、統合防衛協会(ギルド)の事実上の強制的な機能閉鎖。それに国王はどうした? ウェルノやフィンドの宰相も姿をずっと見せない」


「それも以前話ました。国王は病気の為に自室から動くのが厳しい。各トップは必要ない。もうゲイルス王国に統合されているのだから、ゲイルスのトップだけで十分だ。それに——」


 ふう、と軽く息を継いで、


統合防衛協会(ギルド)は我が国には必要ない。我々は、我々の力とやり方で十分に対応できる。非力な烏合の衆には無理だろうがね」


「何を!!」


「ならば貴様がここにいる理由はなんだ!?」


「それはシンプルですよ。そちらの議長様に御呼ばれされているだけです。必要ないと言えばないですが、これはこれで情報収集ができるので私としては有意義ですがね」


厄災(カタラ)は世界の脅威です。所属も国境も関係なく結託すべきことです」


「大義名分は構わない。しかしアマンダ・ベルザック殿、そちらは本当に公正かつ公平であられるのですか? 悪いがゲイルス王国と蜜月の関係を疑わざるを得ない」


「我々は対厄災技術を軍事技術への転用をしないという制限がある。しかしゲイルス王国やリアーカ合衆国もそこのところの情報さえも不明瞭だ! この世界議会は本当に対厄災の為のものですか!?」


「静粛に!!」


 この細い体のどこからそんな声量が出るのだろうか。

 身体の芯にまで響くような声が最後列にまで届き、皆が皆一様に黙り込む。

 正直、アマンダは状況が苦しいと感じていた。

 話せない事が多すぎる。

 この間の悪魔の出現も、アキ・レミントンの存在も情報操作をしている。

 ある問題がなければ、本当はもっと情報をオープンにできる。

 そのもどかしさに苛つきを覚える。

 ある問題とは獄魔(悪魔)の存在だ。厳密にいつからかは分からないが、何年も前から悪魔がこちらの世界に侵入し、このトップ達の誰かと接触している可能性があった。


「申し訳ないですな。ベルザック殿」


 白々しく謝罪するシャーチャ宰相を見る。

 一番濃厚なのがゲイルス王国のこの宰相。彼が悪魔と結託しているとしたら、少なくとも第一次大厄災の騒乱時には接触があったと思われる。


「いえ」


 もし悪魔が本当に来ているとしたら、かなりの上級な賢い個体だと予測している。

 世界の理によって魔法を制限し、技術を封印している中で魔法関係の感知はかなり容易だ。魔術コードの現象なのか、魔法による現象なのかすぐにわかる。

 なのに、その感知は一切ない。

 ベルム・リーゼ内のトリアで出現した悪魔はすぐに感知できた。そいつはそもそも隠すつもりがないようではあったが、その後姿を眩ませていても不定期ではあるが微かな存在感でも感知できている。


「今後話すべき議題として検討します。意見等はいつもどおり別で頂きます」


「はん、隠蔽されたりもみ消されたりしなければいいがね」


 そんな囁きから始まり、その疑心暗鬼は波及して堂内のアマンダに向けられる視線には全て疑いが込められていた。

 その中でシャーチャ宰相だけが生気のない目で笑みを浮かべていたのだった。


「……では、まずは本議題の続きを」


 ピリつく空気の中でも、アマンダは毅然とした姿勢を崩すことは無かった。


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