表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

ジルバ・フォードの心労

 ジルバ・フォードは焦燥感に駆られていた。

 アキ・レミントンは連れ去られた。彼が何かをすることも叶わせず、5番目(フィフス)は瞬き程の合間に消え去った。

 彼はトリア支部長トム・バウンテンハウスに招集の旨を伝言しろと言った。

 ジルバはそれに従うしかできなかった。フィフスを追う事も出来ず、事後の光景を目前にして歯がゆさをかみ殺して、ただただ後処理の指揮を執った。


 国軍は一部の調査隊だけを残し、撤退していった。

 統合防衛協会(ギルド)は、モンスターや賊の討伐、街や各区画の治安維持を目的としていた。

 もちろん、パトロールを行う国軍の衛兵も巡回しているが、大抵は大した犯罪者じゃなければ統合防衛協会(ギルド)側に引き渡される。

 国賊は国が、大それたものでない犯罪は、国の法律に基づいて各ギルドが権限を代行する。

 経済を回す意味でも、力を温存する意味でも、他の意味も含めて役割分担が成されている。


「つっても、少しは手伝ってくれたっていいだろうよう」


 と少し愚痴を零しながら、去っていく国軍と、一直線に脇目もふらず厄災が倒れた場所に向かう調査隊を、ジルバはぼんやりと眺めていた。

 理屈はわかる。

 確かにその役割分担で大衆の食い扶持を支える職の斡旋にもなっている。

 ギルドでクエストなりなんなりこなして実績をつけ、国の定める水準を満たせば国軍のエリート層に入る事も夢ではない。それはそれで相応に努力は必要なので容易ではないが。

 金も回る。

 余程酷い奴じゃなければ、すぐにつける職でもある。

 どの国を渡り歩いても食っていける。そのおかげで技術や情報交換が活性化される。


 そう、ギルドは世界中にある。殆どの国に支部があるギルドは、実はどの国の所属でもない。すべては世界の中心(オーラセントゥラ)に帰結する、らしい。

 謎が多い。

 少なくとも国ではない、とされている。ギルドのすべてはそこに集約されている。世界という規模において、ギルドはあらゆるものに対して中立であり、あくまで人類を筆頭にした平和的且つ知的生物共通の危機に対して対抗する組織、と定義されている。

 名目上では、ギルドに現役で所属している者は戦争に参加してはならないとされている。

 そこで傭兵職が存在する。

 ギルドにとっては下請けの様な存在だ。受注したギルダーが助人等で雇うケースがある。それは良い。

 禁止されているが、中には受注したクエストを丸々傭兵団に投げる事もある。勿論、発覚すれば罰則がある。

 一方、国軍は有事の際などに雇う事が多い。

 モンスターがいて、厄災がいて、賊がいて、戦争があって。食うに困らねえが、考え出すと素直に喜べねえ世の中だとジルバは時折、それを嘆く。


「確かにそう言ったんだな」


「ああ。間違いねえよ」


 ここは(くだん)のトリア支部長トム・バウンテンハウスの執務室。

 深く考える時、眉間を強く擦るのがトムの癖だった。

 どうやら、その招集と言うのは彼にとってあまり良いモノではなさそうだ。


「可哀そうに。聞けばまだ若い少年じゃないか。もし嫌疑をかけられての連行なら、奴らは容赦しないぞ」


 ジルバはトムの机に片手をついて寄りかかっていたが、それを聴いて思いっきり座って脱力したい衝動に襲われた。そして抗わなかった。

 椅子に歩み寄りどっかり座り込んで、吸い込まれる様に手を懐に入れて、葉巻を取り出した。

 奴らと暗にナインズウィザードを指しているんだろう。わかりやすいが、そうだとは言っていないというスタンスだとジルバは察していた。

 実は何度かフィフスの事は見かけている。長年職員をやりつつ遭遇した時の状況を考察しつつで、察しはある程度つくのだ。


「一本、いいか?」


「構わんよ」


 葉巻に火が付くと、香ばしい匂いが漂い紫煙がたゆたう。

 良いモノを吸っているじゃあないか、とトムが言うとジルバは無言で一本差し出す。トムは香りだけ十分だと辞退した。

 察してはいる。だが、いまだに答え合わせはできていない。


9人の魔法使い(ナインズウィザード)は何者だ? そろそろ俺になら教えてもいいだろう」


 ジルバが言いながら、濃い紫煙を吐き出す。


「さあな。お前が副支部長になってくれりゃあ教えられるがな。席はまだ空けている。深層部分を話すには条件が必要なんだ」


「そうかい。お優しいこって、今のでだいたい分かったよ。アンタはいつも隠し事が苦手だったな」


 ある程度は、察する条件を揃えてくれるの分、バウンテンハウスは器用だと実のところジルバは評価している。


「言ってくれるな。実際、まだなるつもりはないのか?」


 ジルバは葉巻を咥えたまま、鼻から煙を出して背もたれに寄り掛かった。トムの顔を見ながら、聞こえるかどうかの大きさで唸り、蓄えている髭を撫でる。


「まあ、本当はそのつもりで帰ってきた」


 予想外の言葉だったようで、トムは、ほうっと控えめに歓心を示した。


「ただ、育てたい奴が出来ちまったんだ。奇しくも、親友のことも絡んじまってなあ」


「そうか、後進が育つのは喜ばしいが、こっちもこっちで待ちわびてる。どれくらいで育つ?」


 豪快な笑い声が部屋に響き渡った。ジルバの笑い声だ。


「せっかちだなあ。……如何せんなあ、戻ってきてくれないとわかんねえなあ」


 トムも合点がいったようで、ああと短く言った。


「なる程な。無事に、帰ってくるといいな」


「あいつは何も悪い事はしてねえ。むしろ、厄災を討伐した大手柄だ。報告書でも読んだろう?」


「読んだとも。事実ならお手柄なのは間違いないが、上層から目も付けられる。この若さなら尚更だ」


「やっぱり、そうだよなあ」


 アキはコーダーとしての腕は間違いなく天才的だ。

 あそこまでの魔具は見た事もない。

 恐らく国軍の魔兵器級かそれ以上かもしれない。

 イレギュラーがあったとは言えど、あれは事実上アキの魔具だけで厄災を葬ったようなものだ。

 正直ジルバは当時、引いていた。

 情けない話、動じてもいた。

 ミドルレンジ(中グレード)だと言う魔具ですら高威力で、年頃だから見栄を張ってハイエンド(上グレード)をそういっている可能性を少し考えていた。

 仮にそうだとしても凄腕の認定に違いはなかった。

 その規模が違いすぎた。国軍も見ていただろう。下手すれば国軍からオファーが来る可能性が高い。いや、必ず来る。政治が絡みかねない。


「やっぱり国が動くかなあ」


「バカ。国よりももっと上だ」


「……おおん?」


「だから連行されたんだろう」


「何、それをもっと詳しく聞かせろよ」


「言っているだろうが。知りたければ副支部長になるこったな」


「クソ、食えねえおっさんだ」


「お前もな。お互い歳をとった」


 その後、程なくして招集の時間だと言い、トムとはそこで別れた。

 メッセンジャーとしての役目は終われども、治安維持部長としての仕事は尽きない。自分の仕事場へ戻る道中の事だった。目の前から同じ治安維持部の部下が急ぎの様子でジルバの元に駆けてきた。


「部長! 脱走です!」


「はあ?」


 なんだ、次から次へと。小声でそう零しつつ、「どいつだ」と訊く。


「ハナさんを追っていた5人組です!」


 あいつらか、と直ぐに思い出すことができた。

 ハナと出会いパーティを組むきっかけにもなったのもあり、良く覚えていた。

 取り調べで、奴らの応え方や雰囲気からは雇われであろうと考えていた。どうせ雇われの切捨て要員だから強めに脅せば情報を吐くかと思ったが、意外なことに吐かなかった。

 グリント姓絡みで言えば推測は絞れる。


 ゲイルス王国側か、その敵対する国か組織か、英雄様に怨恨のある者の企てだろう。

 しかし、3つ目は推測で列挙はしたものの、可能性は1番低いと思われた。

 ただの復讐者なら、そこまで頑なに口を割らない理由はない筈だ。

 そして、少なからずギルドの懐であんなに堂々と小娘を追う程ならば、相応の後ろ盾があるともとれる。それならば少なくとも小さくはなく、影響力の強い国か組織。


 ううむ。俺が今その国々を絞り出してみても何も出来る訳でもないか。とりあえず、どうにか独り立ちが出来る様にまで育ててやりたいがな。


 と、いつぞやの実の愛娘に抱いた親心に酷似するジルバの気持ちだが、あの小娘は中々面倒な血筋と宿命に産まれたな、とその大きな違いに苦笑いだった。

 しかも性格が更に拗らせる。馬鹿ではないのだが、やはり年相応だ。経験も思慮もまだまだ足りない。

 まだ自分の血筋の重大さが理解できていないのだろう。

 まあ、未来ある若者は前途多難なくらいが丁度いい。ジルバは極めて前向きに考える。


「最後に奴らを見たのはいつだ」


「厄災の出現直後だと聞いています」


「大体7時間前か……。追跡はどうなっている」


「出したには出したのですが……」


 歯切れの悪い話し方だ。もはやそれが答えだと言っても過言ではない。ジルバはそれを察しながら、どうしたと急く。


「逃亡の痕跡のダミーの数が10を超えており、追跡班を出してはいますが難色を示していて、正味可能性は低いかと」


「んーむ。そうか、警戒を怠らず、追える範囲で追ってくれ。危険ならすぐ撤退しろ」


「っは! 承知しました」


 駆け足で去る部下を見送り、本格的に先ほどの推測が現実味を帯びる。

 雇用側の救出班だろうな、とおおよその目星をつける。

 推測を改めるのなら奴らはただの雇われの使い捨てではなかったという事だ。

 わざわざ危険を冒して救出しなければいけないくらいの情報は握っていたのだ。

 それにしては随分と派手な奴らだったなという印象を想起するのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ