証人喚問という名の尋問 2
「調査部長マドック・ヴェルタール。解剖調査の結果を発表しなさい」
「ああ、はいはい、よっと。例の悪魔が厄災の中に居た形跡がありました。魔力の痕跡と、魔界の瘴気が付着していました。過去のサンプルと照らし合わせて間違いありゃあしませんよ。召喚術がなされた痕跡もみつかりゃあしませんでしたよ」
「ありがとうございます。各担当者へ、ご苦労様でした。では、結論の確認へ移ります。世界の理の逸脱及び、世界の理にて禁止されている認定者以外の“魔法”の使用の疑いはないという結論になる。これに関して異議は?」
例の如く沈黙。
大丈夫なのか、これ。
進行具合は結果ありきなんだろうけど。
「異議なしとする。次、悪魔召喚に関して、アキ・レミントンはシロ。無罪とする。意義は?」
沈黙。
「ではアキ・レミントンにかけられた嫌疑は全て潔白と証明されました。最後に、彼の独自の高度なコーディング技術に関して、です。先の通り、魔法に限りなく近いとされる彼の技術にはリスクと、利用価値が存在します。現在出ている案は、技術の封印、あるいは消却。もう一つは対厄災の為の利用。他に案はありますか?」
「はいはーい」
これまで、約一名がやや緊張感の無さげに応答をしていた者がいたが、それよりも場の緊張感を弛緩させる女性の声だった。
それにはここまで一定の緊張感を保っていた議長らしき女性も溜息を漏らしていた。
「ヴァレリアナ・ヴェルージ。場に則した応対を願います。発言をどうぞ」
「はいよー、さーせんね。私の助手ってのはどう? 監視もできて一石二鳥じゃんね」
何となくわかる。他の席の者達が一様に呆れているのが。少しだけざわつく。
「……一応、理由を述べて下さい」
「んふふ、堅いねアマンダちゃん。まあ、理由はね。彼と私は縁がある。以上」
「私的且つ利用価値の根拠が薄い案の為、棄却します」
「うええ!? ……容赦ないなあ。まあいいよ。いずれにしてもいつかは私と彼は会う日が来るだろうし。急がなくても、ね」
面白い程に即答だった。
議長側も結局理由を掘り下げなかったし、提案者側も食らいつかなった。通ればラッキーくらいなのか、そもそも冗談か何かの範疇なのか。
9人の魔法使いが列席する9席の中から、その一人がそれだけ言って大人しく座り、以降は静かになった。
あれ、誰も僕とあの人が縁がある事を掘り下げないの? すっごい気になるんだけど。怖いんだけど。
くそう、意味深な言葉を残しやがって。今回の件で僕は9人の魔法使いとの関わりにすっかり懲りていると言っても過言ではない。
ほんと、出来れば関わりたくはねえですがね。
とは言え、実際はこうまで僕は目を付けられてしまっている訳で、何かにつけてきっと僕に因縁が飛んでくるのだろうと、嫌々ながら覚悟をしていた。
「次にふざけたら退席を命じますので、そのつもりで」
「えええ、ふざけてなんかいないのに」とゴニョゴニョ小声が聞こえたのは気のせいかもしれない。
「はい」
もう一人、今度は先の人違い凛とした声の主だった。
「エリサヴェト・ヴァルトラ・ローマイア」
「利用するのであれば、もはや我々の使徒にするのもいいのでは?」
「使徒、ですか。彼の年齢を考えると少々酷に思えますが……」
どうやら、その使徒と言うのは道徳にやや背くところがあるらしい。勘弁してくれ、と言いたいが僕には発言権が無い。
何やら魔法か何かがかかっている様で、先ほどの様に僕に質問等が来たときじゃないと声が出ない。
「使徒にするにはメリットとデメリットがあるのは周知の事実。彼は自ら厄災に立ち向かうと言っている訳ですし、様子見でいいのでは?」
「解にも」
「然り」
と、どちらかと言えば使徒にすることに反対する意見が多かった。
「では、私は対厄災に協力してもらう事に賛成だ。ただし、監視の目を付ける事を提言する」
「わかりました。他に案はありますか?」
沈黙。
「では、決をとります。技術の封印もしくは消却案に賛成の者は青の水晶へ、反対の者は赤の水晶へ魔力を流してください」
「反対が7票上回りました。この案は棄却します。次いで、監視を付けた利用案に対してです。——賛成が9票上回りました。改めて他に案があれば聞きます。なければ当該案にて総員合意したものとし進行します。——ないですね。アキ・レミントン、斯様な決定に至りました。細かい通達は後日、直接連絡します。他に発言のある者は?」
「失礼」
と言って起立したのは、確かエリサヴェトなんとかローマイアーだったかな。
「改めて、7番目の魔法使いのエリサヴェト・ヴァルトラ・ローマイアだ。アキ・レミントン、君に問おう」
「発言を許可します」
と議長が言うと僕の喉にあった奇妙な感覚が消えた。
「あー、あー、ごほん。何でしょう」
「君の両親の名は?」
僕の両親の名前? 何故この人が気にするんだ。まあ、答えても減るもんでもないし、不快でもないからいいけど。
先ほどの気の抜けた女魔法使いが「えええ、判ってるのにわざわざ訊くの?」と憚らずに聞こえる程度に呟いていた。
まあ、調べたのだろう。
「母がアナスタシヤ、父がレフ、です」
「……そうか。わかった、ありがとう。次だ。何故旅に出た?」
旅人が珍しいなんてことは無いだろうに。
「僕はこれまで大厄災と2度程関りがあります。厄災を追い研究しようと——」
「嘘ではないだろうが、一番の本心はそれじゃないだろう。それを言え」
「……そうですね。僕は大厄災に両親を殺され、故郷と大切な人を奪われました。報復をしたいと考えています。それを果たすための一環で、旅をしながら厄災を研究したいと考えています」
「で?」
「厄災は片っ端からぶっ殺します」
「面白いな」
仮面で判らないが、多分笑っているだろう。声色に若干それがにじみ出ている。特段悪意を感じるものではないけど、少しはイラっとするよ。
「逆に訊きます」
その苛々が少し滲み語気が強くなったが、この際を怖いと思うものでもない。
「なんだ」
「どうして、厄災共の時にはあなた達9人の魔法使いは出てこないんですか?」
「……」
ここまで淡々と問答をしてきたのに、7番目は答えてくれなかった。
「私から答えます。それは機密事項です。生憎ながら答える事はできません」
代わりに答える議長の事務機械的な回答が、僕の頭に今以上に血を登らせないでくれる。
それでも、つい舌打ちが出そうになる。それを何とか飲み込んで、小さくため息をついた。
「そうですか。それには理由があるという事が判っただけでも、この場では十分です。ありがとうございます」
「……では時間となりました。以降の異議、提言等は受け付けません。これにてアキ・レミントンの証人喚問を終わりとします。皆さん、お疲れさまでした」
圧倒的支配の前では、非力な個人の力がどれだけ無力なものかが嫌でもわかる。
勝手に連れて来られ、監禁され、根掘りはぼり尋問され、一方的に痛めつけられ、そして用が済むと意識を剥奪される。
議長の終了を告げる言葉を聞いて、急激に意識が遠のいた。予兆を感じた時に、そうなるんだと刹那の中で想像した。
悔しいな。どいつもこいつも。
——ああ、なんてくそったれな世界なんだ。




