3人パーティ始動
「離れて二人とも!」
設置していた複数の遠隔型魔具を起動する。細長く形成され圧縮された魔素の矢が、5つの方向から連射され、番のドラゴンを足止めする。
僕の魔具を展開する準備の時間を二人に稼いでもらい、今度は僕が1人で抑え、2人の新たな攻勢の準備の時間を作る。
あの魔素の矢では、ドラゴンの鱗の鎧は貫けない。
嫌がってはいるものの、2体のドラゴンはゆっくりと前進を続けている。
トラップ型感知式魔具が発動し、今度はドラゴンの足元の地面がぬかるんで足を取る。
「あともう一発かますよ!」
叫ぶと同時に、三本の黒いスティックをドラゴンの頭上に投げ込む。
「3、2、1、今!」
スティックは弾け青白い雷が2体の身体を貫いた。強大な咆哮が周辺のものすべてを振るわせる。ところどころから白煙が漂うドラゴンの身体に、鱗が剥がれ肉が見える箇所が散見された。
「ハナ! 俺に合わせろ!」
「おう!」
オッサンは巨大な戦斧でドラゴンの顎を打ち上げ、上を向いた頭にハナが上空から体重を乗せた棍の一突きで地面に押さえつける。
ドラゴンと言っても幸い身体はそこまで大きくない雑種だ。それもあってか、その一撃で動きが鈍くなった。意識が一時的に混濁しているみたいだ。
「そいつ、後は任せて! もう一体をお願い!」
間髪入れず、先ほどの雷のダメージから復帰した片割れが、オッサンとハナに血走った眼を向けて吠えた。
「封印術式展開!」
2人を巻き込まない様に、意図を叫ぶ。術式を書き込んだ水晶付きの投げナイフを、弱っているドラゴンの周りの地面に数本刺す。雑種とは言えど流石ドラゴン、既に回復し始めていて僅かながらも抵抗の意思を見せている。
「うん。大丈夫、いける」
両の手に握る封印術式の要、封印石に魔力を込めると、ぼんやりとした紫の怪しい光が少しずつ輪郭を帯びて、各水晶と紫の光線で繋がり始める。
そしてドラゴンの上空に白い光輪が現れ、ゆっくりとドラゴンに降りて行った。
「危ない!」
「やばっ」
咄嗟に魔素シールドを展開すると、衝撃が空気越しに身体を震わせ、肌に強烈な熱を感じた。
よ、よかったあ。封印術式は解けていない。無事に進行している。
だが、ドラゴンの片割れが怒り狂った様に凄い勢いで僕に向かって駆けている。
「あと少し時間があれば……」
オッサンやハナが追い付いてドラゴンを止めるよりも、多分ドラゴンが僕をかみ殺すのが早い。
ここで手を離すと封印できず自由を許すことになる。ベストは僕が何とか出来ればいい。
そう思いながら向かってくるドラゴンに片手を向けて魔素弾を放つ。
だが素手の魔素弾は負担が大きく連射は出来ない。
3発当てて無理だと悟り、魔具を手に取る。
「イチかバチかだ」
一方は封印術式。一方は魔具。それも精霊言語の魔具だ。ミスればどっちも不発に終わる。
「いっ」
魔力を流し込むが、コントロールが難しく荒れた魔力が焼くような痛みを神経に刻む。
比較的コントロールが楽なものの中で高威力を選んだけど、やっぱ難しい。
痛みを無視して、何とか微調整をする。
意外といけちゃう?
赤いスティック状の先をドラゴンに向け、発動する事を祈って起動させると、ドラゴンを包むほどの太さがある火炎がバーナーの様に放たれる。
わーお! これはヤバい!
あきらかなコントロールミスだ。3秒も持たずに魔具は爆発。熱さで直前で手を放していたが、それでも手にダメージを負った。
「よかった」
ドラゴンは驚いたのかダメージを負ったのか、横にそれて転がっていた。
少し封印の方が乱れたけど、何とかなりそうだ。急ぎつつ丁寧に封印術式を調整。
横目でハナとオッサンが接近戦を持ちかけたのを確認する。
ドラゴンは雑種でも何でもヤバい。そう思った。あんな大きくて重そうな体のトカゲみたいなやつが、接近戦であんなに俊敏に動くなんて、恐ろしいの一言だ。
さっきのが如何に、連携が綺麗にハマったのかがわかる。
「あ」
ハナが尻尾の横なぎを武棍で受け止めて吹っ飛んだ。
それをオッサンが受け止めて一緒に吹っ飛んでいる。
そして、ドラゴンはすぐに僕を見た。……マズいね。
一直線に僕目掛けてくるドラゴンを睨みつけるが、僕の顔にも目にも迫力なんてある訳もなく怯ませることなんてできない。
「……よし!」
横っ飛びで突進を躱す。間一髪だった。
ドラゴンはすぐにブレーキをかけて、すぐに振り返る。今度は僕の番だ。
相手の攻撃から攻撃へのつなぎ目。短くも確実な隙だとオッサンが教えてくれた。
僕は駆け出していた。
距離は近く、ドラゴンの顔面に近づくと噛み付こうとする予備動作が見えたのだけど、僕の方が少しだけ早かった。
精霊言語の土属性魔術コードは僕の十八番だ。土柱がドラゴンの顎を撃ち上げる。
ドラゴンの目が白黒し、口が半開きのところに先ほどの雷属性の魔具を口に突っ込む。
「おまけしとくね」
言うのと同時にドラゴンの両頬に両手を添えて、衝撃波の魔術コードを発動させた。
冷静に見える僕だが、アドレナリンがドバドバに出ているのが判る。今の衝撃波は全く加減をしていなかった。
撃つが否や、僕は良い感じに後方に転がり魔具の効果範囲から離脱。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ」
咆哮なのか悲鳴なのか。内側から電流が流れるのは、さぞ不愉快だろうね。
距離が近いから僕の鼓膜が持つか判らない。手が無事なら両耳を是非とも塞ぎたかったのだけども、両腕が痺れていて少しも動かなかった。
「わー、流石ドラゴン。いやあ、是非とも倒れてほしかったけどね」
さながら物語の勇者の様。愛しの姫を捕らわれてるのに屈するものか。そんな目つきだった。
まるで僕が悪役だ。まあ、そうかもしれない。僕が捕らえたのは、恐らく“彼”の、恐らく“嫁”だったのだろうと思う。
「お前馬鹿か! これくらいで最終局面みたいな面するな!」
気づいたらオッサンが居て、振り下ろされた戦斧の下、ドラゴンは頭を穿たれ地に伏した。
○
「お前はアホか」
「いやあ、面目ない」
「お前は本当にアホだよ」
「いやあ、重ね重ね面目ない」
僕はオッサンに、割とガチ目な説教をされていた。
「言っただろ? 無茶をするような相手じゃないって。俺が中心に立ち回るから、お前らは自分の身を優先し長ながら動けって」
「まあ」
ハナはハナで、多分僕の方が起こられる思ってか生返事だ。まあ、実際は僕に矛先が向いている。……ハナめ。
「で、何がお前をあそこまで駆り立てた? 別に無理して封印に固執しなくてもよかっただろ。打ち合わせしたろうが」
「僕があのまま封印できた方が効率がいいかなあって」
「効率。ああ効率。そうだな、効率は大事だが、前提がいくつかあるだろうが。勝利条件として許される効率と、許されない効率がある。覚えとけ」
「へーい」
「了解でーす」
「……ったく」
僕にとって……、それならハナはなおさらか。
ジルバが本気で怒ったのを初めて見た日だった。




