第四章 三年前の事件
時を遡り、ディロ家の事件の帰り、マックスがマーク警部の運転するパトカーに乗る前の話。
「それにしても、"先祖代々受け継いでいる宝"が"王冠"だったとはな……」
と、マーク警部。
「前から聞きたいと思ってたのですが、警部はなぜ"チャルロット"から"マーク"に改名したんですか?」
マックスが訊くと、マークは
「"マーク"にしたのは、区切りを置き、チェックつまりマークして繋げていき、冷静に事件の真相へつなげるため。焦って、3年前に銃をぶっ放したこともあったしな……」
「例の事件ですか?」
「あぁ。じゃぁ、物色人はなぜマックスに改名した?」
「事件の真実を明かすため、全力を尽くす事からマックスに……」
少年が
「……そうだ、チャルロット刑事って、あの有名だった、チャルロット!?」
(過去形はまだしも、呼び捨ては……)
その時、マックスの携帯電話がまた鳴る。
「もしもし」
『ビル。予告状が届いたって本当か?』
電話の相手は、ルーズだ。
「どこからその情報を……」
『カリスからだ』
「誰?」
『お前の助手だろ』
マックスは完全にルーズのペースに巻き込まれていた。
『女の子の方。昔、ビルが俺の家に来て遊んだ子だよ』
「っで、その後離婚」
『それを言うな』
「ということは、カリス・ハドレットか?」
『正確に言えば、カリス・ハドレット・ディロだ』
助手の一人、少女の名前はカリス・ハドレット・ディロらしい。
「……ちょっ、ちょっと待て!? ディロ!?」
『こないだの事件は、ありがとうな』
「再婚したのか!?」
ルーズの再婚相手は、ディロ家のジェネリー。
『そうだ。事件時、丁度出かけていたからマックスに頼めって、ジェネリーに言ったんだよ』
「じゃぁ、何で自分の子をこっちに……」
『分かってるだろ? 俺の所には』
「助手10人、研修15人、秘書5人だろ」
『……あっ、済まない。これからリークの葬式だから』
そこで、電話が切れた。
「ルーズ、お前の話、漫才か? 突っ込むところがいっぱいだな……」
マックスは笑うしかない。
ちなみに、ゼロも改名していた。元々は"怪盗α"だったが、人気ニュース番組でαをキャスターが誤って"ゼロ"と読んでしまったため、仕方なく"ゼロ"という名前になったらしい。
3年前の事件、それはそれぞれが失敗した事件。
だが、今から再び立ち向かい、汚名返上に向かう。
「まさか、またここに来るとはな」
マーク警部が現場に一番乗りで到着した。
「警部、少し早くないですか?」
ポリスンが言う。後ろの鑑識、刑事らは大欠伸。流石に、朝5時はきつい。
「……どこに、待機しときましょうか?」
「全員、各部屋でいつでも行動できるように待機! 以上、解散!」
朝日を見て、
「ビル、アルファ……待ってるぞ」
と、マーク警部が決めたが、ポリスンが敬礼しながら
「私も部屋で待機しております」
「待て、お前は一緒に居ろ」
「しかし、……」
「ゼロが現れる前のお前の行動が変だから、突き止めてやる」
「はいぃ?」
「たぶん、お前が怪盗ゼロだろ?」
マークが単刀直入に言った。
「なっ、何を言うんですか、警部」
ポリスンが焦っている時、怪盗ゼロは、
(こんな催し、一体誰が……)
どうやら、ゼロが企画したものではないらしい……
それから数時間後、マックスが到着した。助手は……居ない。連れてこなかったのだろう。
「3年前の各時刻は、確か、殺害事件発生が12日午後12時20分頃、ゼロとの接触が同日午後7時頃、13日午前10時に推理ミス、午前10時30分誤発砲、そして、ホテル側はゼロの犯行予告状を見せてくれなかった」
手帳をパタッと閉じた。
「さて、マーク警部はもう到着してるのかな?」
その日の午後、急に
「なっ、なんだ?」
「キャァァー」
宿泊客が騒ぐ。停電だ。
「A班は管理室へ。B班は客達を安全な所へ。C班は私と鑑識と一緒に発電室へ。後は各自の判断に任す。3年前のような事がないよう、十分に気をつける事」
「了解」
(3年前は、ここで冷静さを失った。しかし、今回は大丈夫……)
マーク警部は的確に指示した。
「発電室は地下三階だ」
発電室に到着してや否や、マーク警部は驚いた。
「爆破か!?」
その頃、マックスは予告状に記されていた宝石のある金庫のセキュリティを見て感心していた。
「3年前とは大違いだな。ゼロ、盗めないぞ。これは……」
厚い金庫の扉に重力感知センサー、26桁にもなる暗証番号などなど。もちろん、赤外線センサーも完備。ちなみに、ここは非常電源に切り替わっているため、マックスは停電は知らない。
そして、忘れてはいけない助手とルーズがホテルに向かっている。車を運転するルーズと助手席に二番秘書。後部座席にカリスと少年。その後ろに1台、ルーズの三番秘書と助手2人、研修生2人が五人乗りの車で付いてくる。この2台の車がマックスらのいるホテルに近づく。
「お父さん、これからどこにいくの?」
カリスがルーズに聞いた。
「これから行くところは、三人の真剣勝負の場所だ。俺らは見守るだけだが、陰ながら手助けをする」
夜の街灯に照らされた道を走る。
停電が回復し、数時間経過した。外が一層暗くなり、建物の明かりやネオンが美しく輝いている。そのなか、静かに事件が動いた。フロントを始め、どの階も騒がしくなってきた。マックスは一目散に現場に急いだ。するとそこには、待っていたかのように、マーク警部とポリスン、鑑識さんらが現場検証をしていた。
「殺害されたのは、この506号室に泊まっていたのローム・クロクシン。後頭部を何かで殴られ、大量出血により即死。現場は窓が開いていたが、ここは五階。ほぼ密室状態だ」
マーク警部が、わざとマックスに聞こえるように言う。
「警部、部屋に飛び散ったものから、殴ったものは花瓶などのものと思われます」
鑑識からポリスン。そして、マーク警部へと伝えられた。
「警部……」
マックスが戸惑いながらも、マーク警部に声をかける。
「自由に調べる事は、許可しようと思うが、変なことするなよ」
「これまでで学んだものを生かし、マーク警部の汚名返上、陰ながら応援させていただきます」
マックスが張り切り始めた。
「これは、お前の汚名返上でもあるだろ?」
「そうですね……。あと、お手数ですが、鑑識さんを1人、お借りできませんか?」
「鑑識を? ……まぁ、よかろう。おい、ニック。マックスの手助けしてやれ」
マックスの所に、鑑識のニックが来た。
「私が鑑識のニック・スクエブルです。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
マックスも軽い挨拶。その後、マーク警部が、
「やっぱり、お前と組みたい。……ゼロの犯行予告時間まで組まないか?」
「そう言ってくださると、僕もうれしいですよ」
最近、マックスが自分の事を指すのに、"僕"と"私"が混ざっているのは、マックスに改名したときに"僕"から"私"に無理矢理直したためと、感情で"僕"つまり"ビル"に戻りかけているという事であろうか……
調べた結果、犯人は花瓶でロームさんを殴り、そのまま何も盗まず去っていた。しかし、指紋はきれいに拭き取られていた。そのため、容疑者を集める事も難しいのだが、あるものがきっかけで、事件は解決へと歩み寄る。それは……
To be continued…
『メイズ・ラビリンス』は、全五章構成でしたが、ブログ掲載時に細かく分割した結果なのか、戻したら全六章構成になりました。ブログ掲載時に、第四~六章に相当するストーリーも修正していたようで、ボリュームが増えているみたいです。
そして、作者が9年前に書いたキャラの名前を憶えていないことも発覚……。どのキャラとは言わないけれど、自分が書いた作品も時間が経つと憶えてないもんだね……