第三章 助手希望
ゼロが右、左、中央の順に燭台に火を灯す。
「ゼロ、貴様が盗む瞬間に逮捕してやる」
手錠を握りしめる、マーク警部。そして、錠をした箱があらわれた。
(少し錠が外れている)
マックスはそれを見逃さなかった。
ゼロが錠を無理矢理開ける。
「さぁ、逮捕するぞ……」
しかし、ゼロは
「残念ながら、今回は盗んでも価値がない」
「価値がない?」
マークが箱を覗いて見ると、
「写真か!?」
「こっ、これは……」
ジェネリーが驚くのも無理はないだろう。
「なぜこんなところに……」
そこには、長男のアーロット、次男のリーク、三男のバイオレント、長女のジェネリー、祖父母、父母らが写っている写真。そのそばに、オルゴールがある。また、一通の手紙があった。
「しかし、なぜ盗まなかったんだ?」
マーク警部が問うと、
「予告状に書いてあったとおりだ。深夜十二時きっかりに盗むと書いてあったはずだ」
現在時刻 深夜一時
マーク警部は手錠をポケットに戻した。
「逮捕しないんですか?」
マーク警部は返事をしない。
「じゃぁ、私はこれで」
ゼロは、煙玉を使って消えた。
しかし、マーク警部がゼロを逃がしたことは、間違いであった……
マックスは咳払いをして
「警部、失敗しましたね」
「何!?」
「錠は最初から開いていました。予告状には、"15日の深夜12時丁度に、先祖代々受け継いでいる宝をいただきに参上する。"と、ありました。ポイントは、"15日の深夜12時丁度"というところです」
「それが?」
「"15日の深夜12時"というのは、いつだと思いますか?」
「どういうことだ?」
マークはまだ解らなかったが、マックスの次の一言で理解した。
「今日は何日ですか?」
「16日……あっ!」
「1日の始まりは深夜0時、つまり12時丁度。1日の終わりは、23時59分」
「つまり、丸一日前にゼロは」
「"先祖代々受け継いでいる宝"、王冠を昨日盗んだんですよ」
マックスは紙を見つけて、そう言った。
『王冠はいただいた。怪盗ゼロ』という紙が箱の側面に貼られていた。
「チッ、凝ったことを……」
マックスは、ふと箱の中を再度見たとき、まだ一人の赤ちゃんが写っている写真があった。
「この写真は?」
「その子は、四男のジャック・ディロです」
と、ジェネリーが答え、少し黙った後、何かを決心したように、
「実は、そのジャックが行方不明なんです」
「では、私が探しましょうか? ゼロから宝を守れなかったですし」
「でも、…………お願いできますか」
「はい」
帰り、マックスはマーク警部の運転するパトカーに乗った。しかし最後まで二人とも無言だった。しかし、マックスが降りる時にマーク警部が、
「今回は久しぶりに楽しかった、マックス」
「僕もですよ、マーク警部」
マークは顔を合わせようとはしなかったが、
「しかし、なぜゼロは盗むことができたんだ?」
「それは……、最後の扉の先、どこに続いてたと思いますか?」
「どこだ?」
「屋敷三階の廊下の突き当たりにある部屋です。僕とジェネリーが予告状の件について話していた部屋。知ってるでしょ?」
「知らんぞ、そんなこと」
「えっ? じゃあ、誰が盗聴を……。警部、予告状の件は誰から?」
「ポリスンだ」
「ということ、まさか……」
「多分、そうだろうな」
「マーク警部 ディロ家の殺人事件解決!
先日、大富豪のディロ家で殺人事件が発生した。(中略)……マックス探偵もその場にいたとか。そして」
新聞に目を通していたとき、ドアがノックされた。
「どうぞ」
玄関前には少年と少女がいた。
「マックス探偵はいますか?」
少年が訊く。
「私だが」
「名探偵ルーズ・ハドレットさんが薦めた探偵はどんな人かと思ったら、素人じゃないですか」
と、少年が言った。
(ルーズ、とんでもないものを送ったな)
ルーズ名探偵とはマックスの親友であり、たびたび事件等の情報を提供してくれる。また、3年前の事件で落ち込んだマックスをルーズが励ましたこともあった。
「何故、僕が素人だって思ったのかな?」
「だって、誰もおじさんの名前知らないし、依頼書がないから」
「正直だね。君たちの名前は?」
「推理してみてよ。探偵でしょ」
「情報が欲しいな」
マックスがそう言うと、少女が
「あげないよ。ね、お兄ちゃん」
(兄弟か。でも、兄の方はどっかで見た顔立ちだな)
マックスの携帯電話が鳴る。
「誰からだろう……」
『どうだ? ビル?』
「ルーズか。ってか、ビルという昔の名前は捨てたって言っただろ」
『助手はどうした?』
「勝手に送らないでくれよ」
『別に良いじゃないか。欲しかっただろ?』
「別に」
『別にって言うなよ。ビルのためと思って……』
「まぁ、この子達はそれなりに働かせて見るよ」
『厳しくするなよ。じゃあな』
(どうしよう――)
マックスは困った。
また携帯電話が鳴った。『物色人か?』
「警部ですか?」
『ゼロから予告状が届いた』
「予告状!? っで、内容は!?」
『3年前に盗めなかった、あのホテルの金庫にある宝石を全ていただきに参上する』
「3年前って……」
『おっと、ここまでだ。現場では敵同士だからな』
「っで、ポリスンは……」
丁度そこで切れた。
「犯行予告がいつなのか、聞くの忘れたなぁ……」
(マックスは半分認めていないが)助手の少年が、
「事件ですか?」
「そうだが、君たちを連れては行かない」
「何で? 連れて行ってよ!」
「無理だ。今回の事件は汚名返上のチャンスなんだ!」
「汚名返上って?」
助手が聞いたが、マックスはわざと無視した。
「情報を久しぶりにもらおうか……」
携帯を再度持ち、ルーズに電話しようとしたそのとき、
「おじさん、ポストにこんなものが」
少女が手紙を差し出した。
「マーク警部の言ってた予告状か」
マックスは封を切り、開いた。内容は、"あの事件があった、あの日あのホテルで、3年前に盗めなかった、金庫にある宝石を全ていただきに参上する。良い対決にしよう。怪盗ゼロ"
「三つ巴か……」
「おじさん、何で素人のところに犯行予告状が来たの?」
と、少年。
「ルーズに聞かされなかったのか? 私は、3年前まで名探偵ビルと言われていたんだ。チャルロット刑事、今のマーク警部と伝説のコンビと言われていた」
「言われていたってことは……」
助手は興味を持ったらしい。
「犯行予告にも書かれている通り、3年前のあのホテルでの殺人事件で大きな失敗をしてしまったんだ」
「大きな失敗?」
マックスが後ろを向いた。その奥には、コルクボードにいくつか新聞が押しピンでさしてあり、そこには「名コンビ解散!?」「冤罪! 罪無き人を追い詰め!」「ビル名探偵大失敗」「チャルロット刑事とビル名探偵のコンビにひびが!」などの見出しがあり、3年前の事件がどでかく載っている。しかし、
「あれは、真実ではない」
と、マックスが呟いた。
To be continued…
カギ括弧の使い方に関して、修正するか悩んだ結果、そのままにしました。『』←この括弧を台詞で使ったのは、後にも先にも『メイズ・ラビリンス』だけですね。この次の小説『黒雲の剱』以降、そういった使い方はしてないです。あと、クオテーションマークと括弧の使い方がバラバラなのも、今だと気になるなぁ。