第十一章 ディロ家の最後
「"名誉に関わる事件"スペシャル! 今回は、予告通り、あの3人に来ていただきました!」
生放送が高視聴率でスタートした。
「マックス探偵、マーク警部、怪盗ゼロの3人です」
司会が言うと、マックスらが出てきて、握手を交わし、椅子に座った。
「捨て身的なことしたけど、よかったぁ~」
と、プロデューサーが小声で言った。
「ゼロ、来ましたね」
マックスがマークに小声で言う。
「逮捕は現行犯のみだ」
マーク警部が小声でそう言った。
「あのことを告白しておかないと……」
ゼロはそう呟いた。
カメラマンや監督、ディレクターらスタッフの後ろには、ルーズとジャック、カリスが食事しながら、スタジオを見る。何故、ルーズ達が居るのかというと、スペシャルゲストとしてこの後出るらしい。
「それでは、4年前の事件について、お話をお願いします」
すると、ゼロが
「……今まで、言うタイミングを失っていましたが、マックスさん、すみませんでした」
と、謝った。
「例の証拠ですか……」
「はい。犯人の血痕が付着した手袋を渡そうとしたのですが、誤って予告状を出して盗んだ腕時計を渡してしまった。私の失敗はこれです」
とゼロは語った。
「それによって、僕はマーク警部の名誉を汚した」
と、マックスが言った。
「次は、私が語る番か。発砲についてだな」
と、マーク警部が言うと、司会が
「その前に、CMです」
数分の長いCMが開けると、映像が流れた。
その映像は、左上のLiveという文字がモザイクで消されていた。アナウンサーの後ろでは、"Keep out"と書かれたテープが貼られたホテルの玄関前で、報道陣が必死に撮影している。アナウンサーがカメラに向かって、
「ただ今、このホテルで殺人事件が起き、犯人はホテル内を未だに逃走中です」
そのとき、一発の銃声がした。慌ただしくなるマスコミに野次馬。
「今、銃声が響き渡りました。時刻は、午前10時半過ぎをまわったところです。繰り返します。今、一発の銃声が聞こえました。誰が打ったかは断定できませんが、銃声が響き渡りました」
バライティー番組のスタジオに戻り、
「この部分の謎が今、解き明かされます」
司会が言うと、マーク警部は
「取り返しのつかないことをしてしまった。現時点で真犯人とされている、ブロダイク・タブースが、次の殺害事件を起こす少し前、そして、マックスの推理ミスから約半時間後──」
「トブリックが逃げたぞ!」
警官が騒ぐ。
犯人じゃないから、逃げるのは当然だ。しかし、マークは、意地でも犯人を逮捕する執念が、この時期、一番の山場だった。
「どっちへ逃げた!?」
と、マーク。
長い時間捜索が続いたのち
「いました!」
と、警官が叫んだ。
そのときのマーク警部は、焦っていて、冷静さを失っていた。
なぜなら、拳銃を片手に持っていた。実弾は一発。威嚇用が五発。
ホテルは、前にも記した通り、3回に分けてリフォームをした事があり、複雑に入り組んでいるところがある。しかも、廊下が坂になっているところがあり、一階にいたのに、いつの間にか三階にいたという事がよくある。そのため、廊下が突然行き止まりになるところがある。そこで──
「──そこで、私は、彼を……、彼の……」
そこまで、マーク警部は話した。唇を噛み締めて、いざ次を話そうと、息を吸い、ふとOAのモニターを見ると、すると速報テロップが流れていた。
「話の途中で、すまない。だが、あれ見ろ!」
マーク警部が言った。
「どうしたんですか? 何もないですよ」
と、マックス。スタッフはざわめく。
「テロップだ、速報の…。もうじき流れる」
マーク警部は続けて、
「ニック! 車を表に出せ! 至急、2台だ!」
あれ? ニック鑑識もここに居たんだ。
「分かりました」
ニックは敬礼して、地下駐車場に向かった。
この間、わずか8秒。そして、繰り返しテロップが流れた。
"ーTTN速報ー
現在、クリスタルシティーの外れにある建物が炎上中。炎上中の建物は、ディロ家。
救助、消火活動は難航。火が強風によって靡き、クリスタルシティーに避難勧告発令。
ーTTN 速報 終ー"
マックスはすぐ、ルーズにこう言った。
「ルーズ! 大変だ、お前の家が燃えている!」
無論、食事中のルーズは、時間差でコーヒーを勢いよく吹き出した。
「なんだって!? ……あっ、すまん、ジャック……」
コーヒーは、ジャックの顔にかかっていた……。
「放送は中止してくれ」
と、マックスが言うと、司会がカメラに向かう直前、
「司会と1カメ他、中継車に乗って、ついて行け!」
監督が叫んだ。
スタジオは運良くクリスタルシティーの隣町にあった。そのため、早く現場に着いた。火災現場は、テロップ通り、ディロ邸だった。
「何てことだ……」
マーク警部がまず一声を。炎上前のディロ邸を一年ちょっと前の事件時に見ているので、この悲惨さが彼らには分かりすぎる。
「私らの仕事は火事の原因をつきとめることだ」
マーク警部とニック鑑識は、現在担当している警官と話をしに行った。
マックス探偵の役目は、どう考えても……
「ジェネリー!! ……家が」
混乱するルーズ。ジャックとカリスも落ち着けず炎上している家を見る。それだけしかできない。
「炎上の原因は放火だ!! 犯人は特定できないが、家の周りに可燃物が撒かれていたらしい。そこらじゅうから油のにおいがする」
マーク警部が戻ってきて、そう言った。
「まず状況を把握して、整理したいのですが」
マックス探偵がマーク警部に問う。
「警官によると、生放送が始まってすぐ放火されたらしい。消防車などが来たのは、それから約15分後。通報者は匿名で、こちらからの質問は一切答えなかったらしい。それに、変声器を使っているような声だったらしい。内部に人がいるかは、現時点では分からないらしい。火も一向に燃えるばかりで、手がつけられないようだ」
「そうですか…」
マックス探偵は炎上するディロ邸を見た。カメラはまわっている。
「家の中を調べるのは、無理に近いようですが、水をかぶっていけば、数分は活動できるでしょ」
と、ゼロが言うが
「口では簡単に言えるが、行動はできないくせに」
と、マーク警部は言う。
「さらに、いつ崩壊してもおかしくない状態ですからねぇ」
と、マックスが言う。
「俺が行く」
冷静になっても、ルーズは妻の安否が気になるのだろう。
「一体どうすれば…」
消防車がさらに2台追加されたのは、ディロ邸が炎上し続けること30分後のことだった。ようやく火がおさまってきた。それを見たゼロは、
「行ってきます」
そう言って、バケツに入った水をかぶり、まだ燃える家の中へ入っていった。
ルーズが続けて行こうとしたが、マックスが止めた。
「あいつなら、死んでも死にきれんだろ。必ず、見つけるはずだ。必ず…」
マーク警部がそう言った。
炎上する家の中は、高温ですぐに熱中症や酸欠とかで倒れそうだ。こんな所がディロ邸の中だと思えないぐらい、焼け焦げ、崩れていく。奥に進んでいくと、どこからか、途切れ途切れにピアノの"ド"と"レ"の音が聞こえる。
「2階からか!?」
それに気付いた、ゼロは上階に上れそうな所を探す。倒れた板がスロープのようになり、2階へと駆け上る。音のする部屋の扉を開けると、
「だっ、大丈夫ですか!?」
そこには意識を失いかけている、ジェネリーがいた。
不幸中の幸いで、窓まで道があった。窓を開けると、
「ジェネリーさんが倒れています」
それを聞いた、ルーズは倒れた。心配する子供たち…
「梯子だ! そこの梯子消防車をこっちへ!」
マーク警部が必死に叫ぶ!
「急いで!!」
マックスが急かす。
梯子消防車がこっちに近づく。その時、
バリン!
まだ燃えているところの窓が割れ、炎が外に出てくる! そして、火の粉が先程以上に飛び回る。
「梯子を早く!」
ゼロが叫んだ。後方には火の手が!
梯子車がスタンバイ。
「梯子を伸ばせ!」
ディロ邸は2階なのに、通常の建物の3、4階ぐらいの高さがある。梯子が届くと、消防隊員が救出する。5分ほどで見事救出した。ジェネリー、と貧血で倒れたルーズは救急車で搬送される。
「ジャックとカリスも一緒に。こっちは任せて下さい」
マックスは2人にそう言った。
永遠に燃え続ける、ディロ邸。過ぎるのは時間だけ。
「マックス、放火犯を目撃していた人がいた」
マーク警部は言う。続けて、
「付近の公園で目撃した人からの証言で、防犯カメラに映っていた不審な人物がいた。解像すると、どうやらブロダイクらしい。ブロダイクの特徴と、放火犯の特徴があまりにも一致しすぎた。それで、ブロダイクだと予想している」
「理由は、"名誉に関わる事件"でのアレでしょうか……」
「言われたくなかったのだろうな。さらに、私らとルーズは仲がいい。それで、ディロ邸を燃やそうと考えたのだろう。どこまでも卑怯なヤツだ」
犯人は現時点で、ブロダイク・タブース。
そこに、ポリスン刑事とコリク刑事も登場。そして、映像の解像を終えたニック鑑識がパトカーに乗ってきた。
「警部、今の状況は?」
ポリスン刑事が聞くと、マークは
「お前が一番知ってるだろ」
と、怒鳴った。
翌日、早朝5時。火は収まっていた。焦げた建物。消防隊は退散した。
「捜査するにつれ、放火犯がブロダイクの確率が上がっている」
マーク警部はそう言った。マークの携帯電話が鳴り、
「もしもし、私だ」
『警部。警部の言うとおりに、レイディアン警察署周辺を捜査しているといました。しかし、逃げられて現在追跡中です』
「よし、分かった。コリクはポリスンと合流して追跡を続けろ!! 私も今から向かう」
電話の相手はコリクだった。
「マックス、ブロダイクを捕まえに行くぞ! パトカーに乗れ!」
マーク警部が叫んだ。
マークとマックスが乗ったパトカーとポリスン刑事が乗ったパトカー、コリク刑事とニック鑑識が乗った覆面パトカーが逃走するブロダイクが乗った黒いハイブリットカーを追う。
「高速に乗った!? 正気か?」
と、マーク警部。
「現在、クリスタル環状高速を東向きに走行中」
と、無線でマックスが言った。
「マックス、お前の観察力でどうにかならないのか?」
マーク警部が問う。
「いくら何でも、それは……。ブロダイクは何をしようとしてるんでしょうか?」
「私は、ヤツならレイディアン警察署を火炎で包もうとすることぐらいは想像できたけどな。だから、コリク刑事達を警察署付近を捜索させた」
と、マークは言った。
マックス探偵達は、ブロダイク・タブースを捕まえることができるのだろうか──
そして、怪盗ゼロを捕まえて正体を暴くことができるのだろうか──
四年前の事件には、まだ奥が深そうである。
マックス達は、新たに決意を示し、朝日に誓った。
「ブロダイク! ゼロ! すぐに捕まえてやる」
「警部、張り切りすぎですよ」
To be continued…
火災で長時間建物内にいたら一酸化中毒で……とか思ったけれど、修正せずに当時のままにしています。小説で初めて書いたのが、本作『メイズ・ラビリンス』でした。以降、『黒雲の剱』を半年後に書き始め、『紅頭巾』はさらに1年後に。いずれにせよ、キッカケになった作品の1つではありますね。
さて、以上が『SEASON2』でした。今日で『メイズ・ラビリンス』が丸12年。そのため、同時に『番外編』と『紅頭巾4』や偶然更新日だった『エトワール・メディシン』、第7部開始の『黒雲の剱』も更新されていますので、そちらもよろしくお願いします。他作品の同時更新は、あまりないので。