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狂乱来襲2

 クロウが教室に入ると、いつも静かな教室が妙にざわついていた。

 彼を見つけて、ディオンとファスが近づいて来た。ファスはいつものように笑みを浮かべていたが、ディオンの方は顔を固く強張らせていた。

「聞いたか、クロウ」

「何を?」

「と言うことは知らないんだな。西ナリスに狂乱が現れたらしい」

「狂乱?」

 意味が判らず、クロウはディオンに聞き返した。

「ああ」

「狂乱の魔術師、スイフトだよ」

 ファスが短く補足する。

 教室がざわついているはずである。

「いつ、どこに現れたんだ?」

「3日前らしい。驚くなよ、カナルリアにだ」

 ディオンはクロウの顔を覗き込むようにしてそう言った。


「スイフトは古ロタ神秘語を使えるらしいね」

 ファスが説明する。ファスは六族の中でも有力な一族の出身であるため様々な情報に詳しく、クロウとディオンだけでなく教室中の候補生が彼の説明に耳を傾けていた。

「古ロタ神秘語って知ってる?クロウ、ディオン」

「いや、知らない」

「オレは名前だけなら聞いたことがあるな」

 ディオンとクロウの答えに、ファスは頷いた。

「神秘語が神の言葉だっていうのは二人とも知ってるよね。神の力を、神の意思に関係なく引き出せるって。古ロタ神秘語以外にも幾つか神秘語はあるらしいけど、現在まで伝わっているのは古ロタ神秘語だけで、実際に使えるのはスイフトだけだって言われてる。神秘語は本来、神の言葉だから人に発音できるような代物じゃないんだけど、スイフトは自分の体を改造することで古ロタ神秘語を発音できるようになったらしいね。

 そのために人体実験を繰り返していたって。

 彼と出会って生きて戻れた人はとても少ないけど、その人たちの話だと、喉が三つあるとか、とても長い舌が二つあるとか、いろんな話が噂として広がってる。でも、身長が150cmほどしかない小柄な人物なのは確かみたいだね。

 歳は、もう70才を越えているはず。

 で、彼が古ロタ神秘語を使って操るのが、雷神様と、我らが主、風神様、二柱の力。彼が雷神様と風神様の力を使ったことで自然のバランスが崩れて飢饉が続発して、国が傾いたって話もあるよ」

「最高神、二柱の力……か」

 ファスの話を聞いていた風士候補生の誰かが呟く。

「そう。北の大国を出奔した後は新大陸から旧大陸に渡って、しばらく旧大陸の国々を荒らし回って、最後に彼が現れたのが1年前、アースディア大陸だから、そこから西ナリスとは、急な出現だよね」

「狂乱だという証拠は何だ、ファス」

「残されてた死体」

「どんな?」

「二日前にカナルリアの民家で発見されたって。一家皆殺し。多分殺されたのはその前日。どんな死体だったか、本当に聞きたい?クロウ。ボクはあまり話したくないんだけどな」

「判った。オレも遠慮しとくよ」

「賢明だね。胸が悪くなるだけだから」

「クロウ、確かヒロちゃん……」

 リムから聞いたのだろう、ディオンがクロウに問う。

「ああ。さっき見送ってきた。親父さんといっしょにカナルリアに帰った。もう、乗合馬車の中のはずだ」

 ファスの顔から笑みが消える。

 それがクロウに、事態の深刻さを思い知らさせた。

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