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決着1

 クロウの家の扉がノックされたのは、翌朝、リムと二人で出かける準備をしている時のことである。クロウの借家も当然ながら天井の一部が落ち、壁も何箇所か崩れてはいたが、比較的マシなリビングで兄妹二人、寝起きしていたのである。

 クロウが扉を開けると、見知らぬ男が一人、立っていた。

 男は赤い髪をほとんど坊主のように短く刈り、口元にはシニカルな笑みを浮かべていた。半眼にした碧い瞳は、クロウを見ているのかいないのか、どこかぼんやりとクロウに向けられていた。

 外見的には、男は20代半ばと見えた。

 だが。

「誰だ?」

 リムにそこにいろと合図して、クロウは外に出て扉を閉じた。

「敵じゃねぇ。正しく言うなら、敵の敵は味方ってとこだがな」

 感情の籠らぬ平板な声。

 クロウは何があっても対処できるよう両手を下ろし、体の力を抜いた。意識して視野を拡げ、周囲にも注意を払う。

 クロウの足元で僅かに風が舞う。

「復讐者たちの一人か?」

 男を見るともなく見ながら、クロウは訊いた。

「当たりだ、兄ちゃん。もっとも、オレが最後の一人になっちまったから、もう、たち、じゃないがね。この間、兄ちゃんが大事な相棒を殺ってくれたからな」

「落とし前でもつけに来たのかい?」

 そう言いながらクロウは、そうではないだろうな、と思っていた。もしそうなら、とっくに、昨夜のうちにでも仕掛けてきているはずだった。

 男は笑って、クロウに両手を広げて見せた。

「とんでもない。むしろ兄ちゃんなんかに殺されるようなヤツだ。おっと、失礼。ま、相棒としては不足だと判って、むしろ感謝してるよ」

「それで?」

「ただね。兄ちゃんに責任を取って貰いたいんだ。いや、兄ちゃんじゃなくて風士隊にだな。狂乱のジジィを殺る為にな」

「殺れるのかい?あんな化け物みたいなジジィを」

「オレだけじゃ無理だ。最低、もう一人いる。兄ちゃんがバラしちまったヤツがその役目だったんだがな。だから手助けが要るんだ」

「だったら申し訳ないが、別のヤツを捜してくれ。オレらはオレらでやるさ」

「写本、持ってるぜ」

 短く男が言う。

 家に戻ろうとしていたクロウは足を止めた。男の顔を探るように見る。しかし、口角を僅かに上げただけの男の顔からは、何も読み取ることは出来なかった。

「兄ちゃんじゃ判断できねぇだろ?上のヤツに話だけでもしてくれねえかな。後は、オレが話すよ」

「どこで見つけたんだ?」

 男は王都に近い小さな街の名を口にした。

「ずっとジジィを追ってたのさ。で、ジジィが見つけたのを横から頂戴したって訳だ。調べてみな。死体が見つかるはずだ。ただし、お楽しみの途中でオレが写本を盗っちまったんで、ジジィらしくねぇ死体だろうがね」

「他に何か証拠はあるのか?」

「今は信じて貰うしかねえかな。そう思って、アンタんとこに、お日さんの出てるこんな時間に来てみたんだ」

「アンタ、何者だい?」

 そう訊ねたクロウの声には、畏敬の念が微かに混じっていた。

「言ったろ?復讐者たちの最後の一人さ。元はコソ泥でね。人のモノをこっそり頂くのはお手の物さ」

「判った。ちょっと待っててくれ。ただ、妹を王立病院へ送ってった後になるけど、それでもいいかな?」

「ああ。オレもついていくよ」

「できれば病院の前で待っていてくれないか。アンタの相棒に許婚を刺されたんでね。アンタが復讐者たちの一人だって判ったらヤバイからな」

「知ってる。そうするよ」

「よければ、アンタの名前を教えてくれないか」

「ネッドだ。ああ。兄ちゃんの名前は知ってるよ」

 クロウは苦笑した。

「だろうね」

 クロウはそう言って室内に戻った。閉じた扉の向こうからリムに話しかける彼の声が微かに聞こえた。。

 ネッドは玄関に背を向け、ポケットからタバコを取り出した。タバコを咥え、そのまま短く詠唱を唱える。

 タバコの先に小さな火が点る。

 精霊を呼び出すだけで四苦八苦しているクロウが見れば、間違いなく驚嘆するであろう正確さだった。

 ネッドは紫煙を吐きながら玄関から離れ、精霊への感謝を、低く低く歌った。

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