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完璧な世界4

 赤い瞳を輝かせた老女は、長い息を吐いてベッドのヘッドボードに体を預けた。

 窓の広い日当たりのよい部屋である。

 老女はかなりの高齢と思われたが、彼女の歳を推し量るのは難しかった。かつて銀髪だった髪はすっかり白髪と化し、まるで一度も日に当たったことがないかのような青白い肌には、彼女が経て来た歳月そのままに、深い皺が幾筋も刻まれていた。

 老女は自分の手を見た。

 掌が僅かに赤味を帯びていた。

 しばらく黙考した後、老女は廊下に続く大きな扉に目を向けた。声は発していない。しかし、すぐに扉が開き、ひとりの若い女が入ってきた。

「お呼びですか、お母さま」

「ええ。フランを呼んで頂戴」

「はい、お母さま」

 女が軽く頭を下げて退出する。

 何ほども待つことなく、赤い髪を腰まで伸ばした少女が一人、扉をノックして入ってきた。まだ10代の前半だろう。あどけなさを残した顔に、どこか生意気そうな表情を浮かべていた。

 瞳の色は栗色で、その奥で、老女の瞳に似た赤い光が時折、輝いていた。

「お呼びですか、お母さま」

 明るい声で、少女は言った。

 老女は用件を告げようとして、ふと、眉間に皺を寄せた。

「フラン。またリィをからかって遊んでいましたね?」

 少女の--フランの顔が不満げに渋る。

「またお小言ですか?お母さま」

「あなたは体が幼くなると、どうしても言動が幼くなってしまいますね。とても不思議なことに」

「記憶はともかく、情緒はまだ12才なんだから当然ですよぉ」

 どこか甘えたように口を尖らせてフランが言う。

 老女は仕方なさそうに微笑んだ。

「そうね。では、用件に入りましょう。

 フラン、ご苦労ですが、西ナリス王国まで行って貰えますか?」

「ズイブン遠くですね。そこで何をすればいいんですか?」

「ただ見て、あなたの判断で処理して来て頂戴。必要なら東ナリス皇国も」

「いいんですか、あたしの好きにして」

「ええ。リィと一緒に行って頂戴。いずれ、西ナリス王国からショナに救援の依頼があると思うけれど、先に出発しても問題はないでしょう。魔術師協会の方にはリィを正式に救援隊に加えて貰って、あなたはリィの随員としましょう」

「あたしがリィの随員ですかぁー」

 フランの口角が上がる。そうして笑うと、まだあどけなさを残すフランの顔が、どこか年齢の判らぬ老女のように--邪悪な魔女のように--見えた。

「フラン。そんな風に笑うと、まるで妖魔みたいですよ」

「まあ。妖魔みたいだなんて」

 フランが文句を言う。しかし、気分を害した様子はない。むしろ、嬉しそうに声が僅かに弾んでいた。

「用件は以上よ。慌しくて申し訳ないけど、すぐに出かけて頂戴。フラン」

「判りました。お母さま」

 フランは腰を落として老女に頭を下げ、退出した。その姿を笑顔で見送り、老女は再びヘッドボードに体を預けて、視線を宙に彷徨わせた。遠く西ナリス王国まで見通すかのように。雷神と風神の下へと。

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