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その冒険者、死地に踏み入れし者につき・2

 男の名前はガッシ。マレイル国で最もCランクに近いDランク冒険者を自称する男だ。

 自称するだけに飽き足らず、その実力はCランク冒険者であってもおかしくはないのだが、再三にわたる命令無視、規律違反のためDランクの冒険者として甘んじている。


「へっ、やはり予想通り、こんな迷宮楽勝だな」


 ガッシは嘲り笑うようにリザードマンを斬り殺し、調査のために訪れたダンジョンの奥に進んだ。

 冒険者ギルドからの依頼は新しく見つかったダンジョンの入り口付近の調査――決して深入りはしないこととあった。特にダンジョンはその中身によっては大切な資源となる場所がある(例えばこのダンジョン付近の村人はベビースライムを捕まえて売りさばいて商売をしている)ため、無許可でのダンジョン破壊は許可されない。

 だが、ガッシはそんな命令に従うつもりはない。

 勿論、ダンジョンを破壊してもメリットはないが、彼は聞いたことがあった。

 ダンジョンボスをぎりぎりまで追い詰めた後、交渉すれば莫大な財宝が手に入ることがあると。勿論、このような出来立てのダンジョンにそんな財宝があるとは思っていないが、それでも暫くは遊んで暮らせるくらいの金は手に入ると思っていた。

 そのため、調査範囲を大きく逸脱し、ガッシは前に進む。


 と、足元に大量のヒヨコたちが押し寄せてきた。


「鬱陶しいっ!」


 男はそう言って、ヒヨコたちを蹴とばして前に進む。


「帰り道に出くわしたら全員捕まえて丸焼きにして食ってやる」


 と本気で苛立ちながら、男は通路を進む。

 その先に扉と看板を見つけた。


【この部屋、休憩ポイント。休憩ポイントの扉を超えると魔物が一気に強くなります。死にたくなければ引き返すべし】


 ガッシはニヤリと笑うと、その拳を看板にたたきつけた。


「俺様が死ぬだって? はっ、バカらしい」


 男はそう言って、扉を開けて部屋の中に入る。


(罠の類はないな)


 単独で行動しているため、索敵、罠探知の類は全てできる。本当に素行の悪ささえなければいつでもCランクになれる実力の持ち主だ。

 広い部屋には、わざとらしく椅子のような形の石や、トイレとして使うらしい部屋まである。


「このダンジョンのボスはよっぽどバカらしい――わざわざ食料まで用意してくれてよ」


 と男は部屋の中で寝ているらしいベージュ色のベビースライム(生クリーム味)を掴み、噛みついた。


 迷宮のベビースライムは全て食用に適しているという調査報告は受けていたが、男はこれほどまでに美味しいベビースライムを食べたことがなかった。甘味が口いっぱいに広がる。


「うめぇじゃねぇかっ」


 と感心していると、壁に文字が書かれていた。


【休憩部屋限定ベビースライム販売中。一匹二百シール。お金を入れて味を選択してください】


 味は先ほどのクリームの他に、いくつか種類が書かれていて、その下に突起物のようなものがあり、さらにその下には穴があった。


「……ダンジョンが商売してるのか?」


 どうやら、このダンジョンを作った奴は本当にこの部屋を休憩ポイントとして使ってもらいたいらしい。

 腹が減っていたガッシは、とりあえず壁を蹴った。壁の向こうにベビースライムがいるというのなら、蹴られて驚き落ちてくるのではないかと思ったからだ。

 そんなことをしてもベビースライムは落ちてこないが。


(……まぁいい、今払った分もダンジョンボスから取り返せばいいだけのことだ)


 とガッシはそう思い、財布を取り出したが、百シール銅貨がなく、千シール大銅貨しかなかった。


「千シール払ったら五匹出てくるのか?」


 当然、その疑問に答える人はいない。まぁ、どうせ取り返すんだし、と男は千シール大銅貨をお金の投入口に入れ、


「よし、これにするか」


 と男が選んだのは、ベビースライム(プリン味)だった。

 と同時に、お金の音がする。取り出し口の横の小さな穴から銅貨が八枚落ちてきた。

 男は無言でそのお金を取り、心の中で(便利なものがあるんだな)と感心した。


 そして、取り出し口から変わった形のベビースライムが落ちてきた。

 薄い黄色のスライムなのだが、頭の部分だけ茶色い。


 腐っているんじゃないかと思ったが、そもそもこのベビースライムは生きているから腐っているわけがない。

 とりあえず、男はそのベビースライムの頭を一度殴り気絶させ、どこから食べたらいいのかと、とりあえず黄色い部分から食べた。


(う、うめぇぇぇ)


 言葉のレパートリーの少ないガッシはそう思うしかなかったが、口の中に広がるのはミルクの優しい味と、そして濃厚なクリームと卵の味。続いて頭を食べると、甘味と苦味が同時に口の中に広がる。本来なら不快に感じる苦味も強烈な甘みの中ではこの味をさらに一段階上に引き上げる。


 気が付けば男はベビースライム(プリン味)を一瞬で完食し、そして思った。

 ほかにどんなベビースライムがあるのか? と。


 手元にある八枚の銅貨が壁の中に吸い込まれるまでさほどの時間はかからなかった。

 そして、腹がいっぱいになったガッシは、そのまま休憩部屋で寝ようとした。


 だが、ガッシはあることに気付き罠解除用の針金を取り出してお釣りの取り出し口の下から針金を突っ込んだ。

 お釣りが出てくるってことは、この中に金がいっぱい入っているのだから、罠を解除する要領で金が落ちてこないかと思ったのだった。


 結局、お金は出てこなかった。

ベビースライム自動販売機の仕組みについては次回か次々回か。


現在の課題 (クエスト)

・忠告を聞かない冒険者を血祭に上げよう

・勇者について調べよう

・2500ポイントを使ってタードを強化しよう

・一年後の新人戦に備えよう

・冒険者を迎撃できるようになろう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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