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その魔剣、妖刀につき・3

 俺は謎の美人が抜いた剣を俺は目の前で見た。

 片刃の細く、そして鋭い剣――煌めく刀身は芸術の域に達している。俺のよく知る、叩き潰すためのものではなく――

「斬るために鍛えられた剣――カタナか……」

 俺はそう呟いた。

「カタナ――東国のサムライと呼ばれる種族が扱う武器よね」

 シエルが生唾を呑み、俺に突き付けられた剣を見る。

 シエルも知っていたのか。カタナに関してはあまり認知度は高くない武器で、隣国でも知っている人間はほとんどいないという話だったけれども。

 俺も知り合いのサムライに何度かカタナを見せてもらったから知っている――ような気がする。そのあたりは記憶喪失なので曖昧だ。やはりシエルの知識は侮れない気もする。

「サムライか。しってるか? サムライって頭の中にナスを乗せてるんだぜ?」

「それ、都市伝説よね。実際はそのように髪を結ってるのよ」

「じゃあハゲはサムライになれないのか?」

「……それは教科書に乗っていなかったからわからないわ」

「じゃあ、この姉ちゃんは髪を結ってないからサムライじゃないのか?」

「わからないわよ、そんなの。というか、タード、なんで剣先を向けられてそんな冷静でいられるのよっ!?」

 シエルがそう言って叫ぶ。

 そう、彼女の剣はあと一ミリでも動けば俺の体に刺さる位置にある。

「さっきも言っただろ。カタナは斬るためのものだ。突くためじゃない。まったく殺気を感じない――かと言ってただの脅しというわけじゃない。俺がここを一歩でも動けば斬るし、動かなければ斬らない。だな?」

「ええ。この先は危険です。ここに安置されている刀の銘はムラサメ。人を惑わす妖刀です。触れれば自我を失い殺人鬼となる」

「キラーアントがここに来たはずだが――? しかも剣を確認している。なんであいつらは通したんだ?」

「彼らは餌を求めてここに来ました。中に彼らの餌となるものがないことを確認させるために通しました。でも失敗でしたね。妖刀の存在を他の者に話すとは思いませんでした。あの時殺すべきだったと後悔しています」

「なるほど――大体わかった」

 と俺は言うと、触手の先端から溶解液を出した。

 彼女は咄嗟に――おそらく反射的にその溶解液をカタナで斬る――が斬られた溶解液はそのまま彼女の服に当たった。

「なんのつもりです、水など飛ばして」

「水……ね。シエル、これがただの水に見えるか?」

「……私もわかったわよ、タード」

 とシエルは前置きを挟んだ。

「ええ、見た目はただの水よ……でも、その臭いは水だなんてとんでもない。強烈な刺激臭を放っている。あなた、それもわからないの? ううん、その前になんでキラーアントはこの洞窟に餌がないと判断したの?」

「それは見て貰えばわかる通り、洞窟の中にはカタナしかなく――」

「カタナ以外にもあなたがいるじゃない。キラーアントは肉食――人をも襲う魔物よ。最初からベビースライムを献上して話し合いに行くような変わり者ならばともかく、普通の女性であるあなたがキラーアントを追い払おうと思ったら、洞窟の中ではなくあなたの実力を見せるしかない。でもあなたはそれを言わなかった。なぜか――それは――いたぁぁぁぁぁいっ! タード、何をするのよっ!」

 俺の触手がシエルのスカートの下の足に絡みつき、握りしめた。

「後から気付いたくせに全部答えを言うな」

「わ、悪かったわよっ! 続きはタードが言っていいから! やめて、本気で痛いの」

 シエルが泣きながら謝るので、俺は触手から解放してやった。

 シエルはこちらに背をむけて屈みこみ、自分の足に回復魔法をかけはじめた。

 さて、せっかくの推理シーンをシエルに邪魔されてしまったが、俺の番だ。

「まぁ、単純な話だ。姉ちゃんが普通の人間ではない、というか生き物ですらない。だってそうだろ? キラーアントが食べ物がないって自分で言ったんだ。食べる物も何も置いていないのなら、普通の生物がここに住んでいられるはずがな。お前は妖刀によって作り出されたマヤカシだ……違うか? キラーアントならカタナに興味はないと思って、マヤカシを出さなかった。だからキラーアントは何もしなかった。もしもあんたを見ていたら俺にそのことも一緒に報告しているはずだ。そして、妖刀が作ったマヤカシだから俺の溶解液の臭いもわからないんだろ?」

 俺がそういうと姉ちゃん――妖刀ムラサメが作ったマヤカシが刀を引き、構えを取る。いつでも斬りかかれる体勢だ。

「……ただのスライムではないようですね」

「スライムが喋ってるんだ。それくらい最初から気付け」

「ですが、ひとつ訂正します。私の体はマヤカシですが、実体は確かにここにあります。つまり、このカタナであなたを斬れば、あなたは確実に死にます」

 実体があるのは知っている。俺の溶解液がすり抜けなかったから。だが――

「お前に俺は殺せないよ。キラーアントを殺さなかったあんたには」

「いいえ、殺します。あのカタナを――私をこれ以上外に出すわけにはいかないんです」

 そう言った彼女の目から大粒の涙が流れ落ちた。もちろんそれも本物の涙ではない、マヤカシだ。

 だが、妖刀ムラサメの意思のようなものを俺は感じた。

「お願いです、来ないでください」

「悪いな――その命令は聞けない」

 そう言って、俺は前に大きく跳ねた。と同時に彼女のカタナの刃が俺の体を捉えたのだった。


「タードっ!」


 シエルが叫ぶ――が、

「嘘っ」

 次の瞬間、粉々に砕け散ったのは俺の体ではなく、彼女のカタナだった。

 彼女は自分の砕けたカタナと残った柄を見て俺は言った。

「俺には物理攻撃が効かない。お前が今やったのは、迫りくるオリハルコンの壁に向かってカタナを振ったのと同じだ。そりゃカタナも砕け散るさ!」

 それは一部分を除けば真実だった。

「お前がマヤカシでよかったな。普通の人間がマヤカシのカタナを振っていたら、カタナだけではない、その手も砕けているところだったぞ」

「……物理攻撃が効かない――どうやら私にあなたを退けることはできないようですね」

「その通りだ」

 いや、本当のところはそうではない。俺の本当のスキルが物理攻撃無効ではなく、魔法無効だと気付かれたらやりようが残っている。

 だが、俺はそれを絶対に言わない。

 一番恐ろしいのは、彼女がマヤカシのカタナではなく自分自身――つまり妖刀ムラサメで攻撃してきた場合だ。

「お願いです、この先にはいかないでください」

「悪いな、ガキの使いじゃないんだ。はいそうですかって帰れるわけねぇだろっ!」

 俺がそう言って奥へと進もうとする。

 後ろからシエルが「やっていることはほとんど借金取りと一緒ね」と失礼なことを言っていたが、無視して。

「なんでもしますから」

「よし、服を脱げっ!」

「……え?」

「なんでもするんだろ? 服を脱げ」

「あの、それでいいんですか? 私の体はマヤカシで、見ても面白いとは――」

「少なくともシエルよりは面白い」

「わかりました」

 と彼女は頷き、帯をほどいてその着物を――

「やめなさいっ!」

 肩まで脱いだところで俺がシエルに殴られた。

「何をするんだっ!」

「弱みを握って服を脱がせるなんて最低よっ! しかもタード、服を脱いだら妖刀を諦めるって言ってないでしょっ!」

「こら、バラすなっ!」

 って、もう手遅れか。妖刀のマヤカシが俺を睨みつけているからな。

「ねぇ、ムラサメさん……でいいのよね? あなたのカタナ、一度見せてもらえない? 私の魔法で解呪できるのなら持って帰る。解呪できないなら持って帰らない――それでどう? どうせ呪われた剣なんてあって困るだけだし――あ、あなたのことを悪く言っているんじゃないのよ?」

「え……えぇ、呪いが解けるのなら私も願ったりですけれども――絶対に触れないでくださいね」

 とムラサメは着物を着なおし、俺たちを洞窟の奥へと案内した。

 そして、そこには抜身の状態で一本の剣が地面に刺さっていた。見た目は先ほどムラサメが持っていた刀とまるで同じ。だが纏っているオーラが違った。

「……なるほど、確かに妖刀だ」

 スライムの体でもわかる。禍々しい力が渦巻いていた。

現在の課題 (クエスト)

・妖刀ムラサメの解呪をしよう(new)

・謎の和服美人をメインヒロインにしよう

・魔剣を取りに行こう

・盗賊の対処をしよう

・ポイントを100ポイント貯めよう

・さらに別の魔物を勧誘しよう

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