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そのミミック、進化前につき

ミミコの過去話です。

 ミミコが生まれたのは、十六年前。

 大きな城の中でのことだった。宝箱に擬態するミミックは人知れずこっそりと宝物庫や迷宮の奥でひっそりとその生を受ける。その時のミミコはまだ普通のミミックだった。

 彼女に転機が訪れたのは、生まれてから三年後。なんとミミコは三年物間、城の宝物庫の中で放置されていた。自我というものが芽生えていない彼女にとって、それは苦痛ではなかったし、退屈という感情すらなかった。あるのは、己を宝箱と信じて近付いてきた相手に食らいつく――ただそれだけ。

 そして、彼女はその本能に従い、宝箱を開けようとした相手に噛みついた。だが、その牙は相手の首や胸には届かずその指先を掠めただけだった。

「ほぉ……」

 そこにいたのは銀色の髪の女性だったが、この時のミミコには目がなく耳もないためそれを知ったのはずいぶん後のことだったが。

「指先とはいえ、妾に傷を付ける魔物は何年ぶりか……うむ、気に入った。この魔物をテイムするぞ」

 と言われ、ミミコはその女性の配下になった。ミミコという名前はその時に与えられた。

 それで何が変わったのかと言えば、実際は何も変わらなかった。ミミコはそれからも宝物庫に十年間放置されたから。

 ただ、少し変わったのは、年に一度、秘書という男が訪れ、ミミコにパワーアップを施すためにやってきた。その日はミミコの主人の誕生日らしく配下の魔物全てに強化を施すのだそうだ。

 ミミコもまた強化を受けた。

 自我というものが芽生えたのは七年目のことだった。と同時に、自分のいる城が迷宮と呼ばれる場所であり、もう何年も人間が来ていないからミミコの出番は一生来ないかもしれないと言われた。

 そして、八年目の強化の時にはそれは強くなり、九年目の時にミミコは秘書に言った。

「……ヒマ」

 それはミミコにとってはじめての愚痴であった。

 それを聞いた秘書の男は、それならばと魔物たちが集まる酒場の舞台の前に連れて行った。この時のミミコには既に九度の強化により視覚も聴覚も備わっていたし、触れるもの皆に噛みつくというようなこともなかった。

 そして、ミミコは酒場の舞台の前でずっと放置されることになる。

 だが、彼女にとってその一年は特別だった。

 毎日のように流れる歌、舞われる踊り。何より週に一度行われたサキュバスたちによる歌と踊りのショーはミミコを興奮させた。

 だが、その幸せな日々も終わりを告げた。ミミコが生まれて十三年目、名前を授かって十年目の日、その城に新たな宝物庫が完成し、ミミコにそこの警備を任されるようになった。侵入者など訪れない城の警備を。

 それから二年間、ミミコは宝物庫でひとり、歌い続けた。それはお世辞にも上手と言えるようなものではなかったが、彼女なりに一生懸命いろいろな歌を奏でた。そしてさらに二年後。


「歌を歌うミミックなんて初めて見たわね」

 そう言ったのは、初めて見る女性――人間の冒険者だった。

 宝物庫に四人の冒険者が訪れた。

 宝物庫の中は防音、外のことなどわからず歌い続けていたミミコにとって、それは大きな誤算だった。

「かなり強化されているようだし、ミミックと気付かずに開けていたら危なかったぜ。ま、盗賊のおいらがそんなミスをするわけねぇけどな。おい、ラズベリー、お前は宝に触るんじゃねぇぞ。お前が触ったら価値が下がりそうだ」

 と背の低い男が言って、ミミコを無視して他の宝箱を漁る。

「失礼だよ、ギーくん。それにしてもこのミミック……匂いも完全に宝箱だね。これだから嫌い」

 と獣耳の生えた女が言い、最後にローブを着た男が、

「喋れるのなら、最期の言葉くらい聞いてやろう。言い遺すことはあるか?」

 と剣を突きつけた。

 死――その言葉がミミコの小さな頭に浮かぶ。

 彼女は最後に言った。


「……ミミコ……アイドルになりたい」


 その瞬間、部屋の防音機能が機能した。つまり、彼女たちの間に音がすべて消えたのだ。外からの音も入って来ず、内側からは音が発生しない。

 そして、四人が笑いだし、武器をしまった。

 興が削がれた。

 そう言って、他の宝箱から武器や防具を根こそぎ奪っていった冒険者。最後、フードの男がミミコの口に一本の瓶を放り投げた。

「強制進化薬――副作用で三日くらい気を失うが、お前みたいな変わった魔物がどう進化するか楽しみだ」

 と言って宝物庫の扉が閉じられる直前、

「お前みたいな魔物が、もしかしたら人と魔物の関係を変えてくれるかもしれ――」

 と言う言葉を最後まで聞くこともなく、闇へと吸い込まれていく。


 そして、気が付けばミミコは山の中にいた。

「目覚めましたか、ミミコさん……でいいのですよね?」

「あれ? 秘書さん? その仮面なーに?」

 いつもの秘書の声だが、いつもと違う。狐の仮面を被っていた。

「聞きたいのは私のほうなんですけどね。まぁこちらの事情も説明しましょう。魔王様が殺されました。結果、私は魔王様の秘書ではなく、ダンジョン管理委員のソルベになります。私のことはソルベとお呼びください」

「うん、ソルベさんだね。わかった♪」

「本当に流暢に喋れるようになりましたね。それで、あなたのそのお姿はなんなのです?」

 と言われ、なんのことかとミミコは己の体を見た。

 すると、ミミコの衣装は酒場でよく見たボンテージ衣装になっている。

「え? なにこれ?」

「どうやらあなた自身もわかっていないようですね。鏡をご覧ください」

 とソルベがミミコに鏡を見せると、そこに映っていたのはウサギ耳の生えた人間の女の子のような姿だった。ただし、背中に背負った宝箱は紛れもなくミミコ自身。

「このような状態のあなたを残していくのは大変心苦しいのですが、ミミコさん。魔王様が倒された今、あなたはもう自由です」

「じゆう? じゆうってなーに?」

「何をしてもいいってことです」

「じゃあ、アイドルになってもいいの?」

「もちろんです。私はもう行かなくてはいけないようです――」

 と言うと、ソルベの姿が消えた。

 そして、ひとり残ったミミコは空を見上げる。

 そこに映っていたのは大きな月だった。

「きれーい! わーい、じゆうだー!」

 ミミコは飛び跳ねて、走り回った。

 この時の彼女はまだ知らない。彼女に魔物を合成するスキルが備わったことを。それどころか、自分がミミッコという新種の魔物として生きていることすら気付いていない。

現在の課題 (クエスト)

・ミミコをアストゥートから守ろう

・ダンジョンプレバトルの準備をしよう

・2500ポイントを使ってタードを強化しよう

・リザードマンスポーンを設置できるようになろう

・一年後の新人戦に備えよう

・冒険者を迎撃できるようになろう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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