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その魔剣、妖刀につき・2

 俺たちは混沌迷宮に舞い戻った。例の妖刀を取るためだ。

「ねぇ、いいのっ! タードがいない状態で侵入者がボス部屋に入って来てそのまま突破されでもすれば私たちの迷宮は壊れるのよ!」

 とシエルが文句を言った。

 ボス部屋を突破されると、迷宮は崩れる。

 それは世界の常識だ。魔物が大量に発生する地域では、国が懸賞金を掛けて冒険者に迷宮のボス部屋踏破を依頼する。

 シエルが言うには、それはダンジョンフェアリーとボスモンスターの作戦であり、そうして強者を集めることによりポイントを稼いでいるのだとか。

「俺がいたところで意味はないだろ。スライムなんて盗賊相手でも一撃で殺される。唯一助かる手段があるとすれば、お前を盗賊に献上して命だけは助けてもらう方法だが、お前には肝心の色気がない幼児体形だ。せめてもう少し若ければロリコン盗賊相手に夜伽をさせられたのに――本当に中途半端だよな」

「誰が幼児体形よっ!」

 シエルが文句を言うが、実際のところ盗賊の対処は後回しでいいと思う。

 というのも、現在、盗賊のアジトもダンジョンの一部になっている。盗賊もバカではないと思う。ボス部屋を突破すれば、迷宮の規模にもよるが数時間から数日で崩れる。盗賊のアジトも現在は迷宮の一部になっているから、アジトごと崩れ去ってしまうというわけだ。

 それに、一応盗賊のアジトの壁の部分は気付かれないように、ポイントを使って購入した空の木箱(一ポイント)で塞いでおいた。あのアジトは金目の物以外にもゴミが散乱しているからそう簡単には見つからないだろう。

「さて、魔剣はこの先か」

 キラーアントの情報通りの場所にあったのは、深い谷だった。

 底が見えない。

「本当にこの谷の底にあるの?」

 シエルは四つん這いになって、顔の半分だけを谷の上に出して底を覗き込んで尋ねた。

「いや、谷の底じゃなくて、谷の途中の横穴らしい」

「途中に? どうやってキラーアントはその横穴を見つけたの?」

 ゆっくりと重心を後ろに傾けながら、シエルは俺を見て尋ねた。

「キラーアントは普通にこの程度の崖なら歩けるらしいからな。偶然だそうだ――シエル。空を飛ぶ魔法とか使えないか?」

「空を飛ぶ魔法は使えないわよ。空中に静止する魔法くらいね」

「空中に静止?」

 俺がオウム返しで尋ねると、シエルは頷き、四つん這いになったまま少し下がるとそこで立ち上がり、自信満々に頷いた。

「重力からも完全に解放された上級生活魔法、見せてあげるわ!」

 シエルはそう言うと、普通にジャンプした。そして――

浮遊フロート!」

 そう唱えた直後――彼女は浮いていた。上空三十センチを。

 スカートもふわりと傘のように開いている。

「凄いな――本当に浮いてるのか? 足元に見えない床でも置いているんじゃないのか?」

「何もないわよっ!」

「本当か? 確かめてもいいか?」

「もちろんよ!」

 シエルの許可をもらったので、俺は彼女の下に入り込んだ。

「どう? 何もないってわかった?」

「いや、しっかりとあるな。」

 と俺はシエルの真下から頭上を見上げ――しっかりとそこにある白いパンツを凝視した。

「白はやっぱりいいなっ! ってうおいっ!」

 シエルが魔法を解除して俺の上に落ちてきた。

 咄嗟に避けることに成功したが、あのままだったら踏まれていたぞ。

「何覗いてるのよっ!」

 スカ―トを押さえ、彼女は俺を睨みつけてきた。

「お前が下に入っていいって言ったんだろ!」

「パンツを覗けだなんて言ってないわよっ! まるで私が痴女みたいじゃないっ!」

「人の眼前で下着姿になってるんだ。十分痴女だろっ!」

「あれはタードが私の服に穴を空けるから悪いんでしょっ!」

 と少しの間言い争いをした後、俺たちは再度下に降りる方法を考えた。

 とっかかりが少ない上、手も足もない俺が正攻法で降りるのは困難だ。同じくロープを使っても降りるのは難しいかもしれない。とりあえず、十メートル下の岩まで降りたいが。

「なぁ、シエル。さっきの魔法を使ってゆっくり落下することはできないのか? 重しを乗せたりとかして」

「無理よ。あの魔法はジャンプしたときの頂点――速度がゼロになったときに発動させて、その間持っている物――私の服とかも重力はなくなるの」

「……触れているものも重力を失う……そうか、その手があったか! シエル、もう一度さっきの魔法を使ってくれ!」

「私の下に入り込まないって約束してくれる?」

「面倒だから、命令だ。さっきの魔法を使えっ!」

「わ、わかったわよっ!」

 俺に命令され、シエルはそれに従って魔法を使った。

 ジャンプして

浮遊フロート!」

 と唱える。

 よし、浮いているな。

「そのまま魔法を解除するなよっ!」

 俺はそう命令すると、触手を伸ばしてシエルの足を掴むと引っ張っていく。

「タ、タード、一体何をっ! きゃ、キャァァァ、やめて、やめてっ!」

「集中して魔法を維持しろ。本当に落ちるぞ」

 俺はシエルを引っ張り、最終的に谷の上空に浮かばせて停止させた。

 ここで魔法を解除してしまえばそのまま真っ逆さまに落ちてしまう。

「しっかり受け止めろよっ!」

 そう言うと、俺は大きく息を吸ってシエルの無い胸にジャンプした。

「ちょっと、タードまでこっちに来たら――キャァァァァァ」

 シエルは泣きながら叫んだ。なぜなら彼女の体は浮遊魔法を使っているのに自由落下をはじめたから。

 そして彼女はそのまま十メートルは下にある岩の上に着地した。

 だが――

「あれ? あんまり痛くない? それにだいぶ遅かったような」

「そりゃそうだろ。実際遅かったんだから」

「そうよね。やっぱり気のせいじゃなかったのね。でもなんであんなに遅かったの?」

「俺にはお前の浮遊魔法が効かなかったからだ。落下したのは俺の重さのせいだな」

 俺には魔法無効スキルがある。

 今回の魔法は、シエルの体重(50キロとする)が下向きに働く力(500N)に対し魔法により上向きに働く力(500N)を発生させる魔法だ。

 シエルに俺の体重(5キロ)が加わっても上向きに力は残る。

 簡単に言えば、下から凄い風がきているなかで落ちるようなものだ。

「この調子で崖を下りていくぞ」

「わかったわ。でも今度からこんな無茶をする時は事前に言ってよね」

「安心しろ、お前がちびったことは黙っておいてやるよ」

「ちびってないわよ!」


 そうして、俺たちは崖を下っていき、そしてようやく見つけた。

 岩陰の下にある洞窟らしい穴を。

「これはすごいわね。谷の底からも上からも死角になってるわ」

 心臓の位置を手で押さえながら、シエルは笑っていた。

 魔剣の存在について半信半疑だったが、ようやく現実味が帯びてきたことで皮算用を始めたらしい。

「魔剣、売ったらいくらになるのかしら。コッペパン毎日食べられると思う?」

「売る気満々かよ――まぁ、それもありだよな。高く売れたらその金で他のダンジョンフェアリーから魔物を売ってもらうという手もある」

「それはいいわね。何か一気に成功する予感がしてきたわ」

 とシエルが言った時だった。

 誰もいないはずの、魔剣があるだけのはずの洞窟の中に足音が近づいてきた。

 その方角を見ると――そこにいたのは紫のリボンで括られた黒く長い髪の若い美女だった。

 着ている、朝顔の絵が描かれた薄い青色の服は着物と呼ばれる東国の服だが、膝上より下は肌が露出されていて色気もある。

「……なるほど……そういうことか」

 俺はごくりと生唾を飲んだ。

「タード、知り合いなの?」

「ここに来てようやく俺の物語のメインヒロインの登場というわけだな」

「えっ!? メインヒロインは私じゃなかったのっ!」

 シエルが本気で驚いている。

「あたりまえだ。お前がメインヒロインなわけないだろう。準サブヒロインだ」

「まだサブヒロインにすらなれていないの……あんなに露出させられているのに」

 ヒロインが露出をしなくてはいけないというのもお前の思い込みだ。

 時代は清純派を欲している。

 でも、さすがにこの女性はおとなしすぎるな。

「おい、名前も知らない姉ちゃん。こんなにボケてるのにツッコミはないのか?」

「……ここから去りなさい――さもないと大変なことになりますよ」

 とその女性は腰に差していた剣を抜き、その切っ先をこちらに向けたのだった。

 これはヤバイ――ツッコミのできないメインヒロインが来たようだ。 

現在の課題 (クエスト)

・謎の和服美人をメインヒロインにしよう(new)

・魔剣を取りに行こう

・盗賊の対処をしよう

・ポイントを100ポイント貯めよう

・さらに別の魔物を勧誘しよう

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