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その交渉、ほとんど脅しにつき・2

 迷宮の入り口にクイーンアントと大量のキラーアントが押し寄せた。

 キラーアントたちに囲まれないように洞窟の入り口部分で出迎えた。回り込もうと前進するキラーアントは、漏れなくロリサメのカタナの前に斬り伏せられた。それをクイーンアントは忌々しく見ている。

「久しぶりだな、クイーンアント。元気そうじゃないか。なかなか出てこないから持病の腰痛でも悪化させて出られないのかと思ったぞ」

 と俺は挑発するように言いながら、クイーンアントの周囲を固めるキラーアントを見た。これまで倒してきたキラーアントよりもさらに大きい――おそらく親衛隊のような役割を果たしている種だろうが、それでもキラーアントはキラーアント。ロリサメの敵ではない。それを知っているからか、クイーンアントも容易に彼らを動かさず、口を動かした。

「スライム、貴様の遺言はそれでよいのか? 妾の可愛い子たちを殺した罪、死して償うがよかろう」

「はっ、お前の子供を殺したのはお前の愚策のせいだろう。こっちは最初はおとなしく交渉してやろうと思っていたんだぞ? 一度だけ言う。お前に派遣してもらっているキラーアント二匹、俺の正式な部下として寄越せ。そうすればこれ以上何もしない」

「たわけ――多少力は持っているようじゃが、この巣にはまだ何万と妾の子たちがいる。それら全員と戦うつもりか?」

「交渉はしないと?」

「無論じゃ。わかっておるのじゃぞ? 其方ら三人の中で戦えるのはそのちびっこのみじゃと。確かにたぐいまれなる力を持っておるようじゃが、数の力があれば――」

「シエルっ!」

「詠唱は終わっているわよ。火矢(ファイアアロー)っ!」

 とシエルが天に向かって火の矢を放った。

「なんのつもりじゃ? わかっておると言っておろう。脅しのつもりかもしれぬが、そのダンジョンフェアリーは戦闘には参加できぬと」

「あぁ、こいつは戦闘には参加できないが――ところで、蟻の巣によっては出入り口の他にも空気穴があるんだったよな――」

「何を――」

 何を言っておる? とクイーンアントは言おうとしたのだろうが、その前に変化が起こった。蟻の巣の出入り口から少量ながらも水があふれ出たのだ。

「……蟻って利口だよな。雨の対策は万全、空気の水分を感じ取って空気穴にも蓋をするし、その横穴のような洞窟だって盛り土をしてあって雨水の侵入を塞いでいる。さらに水は地下へ地下へと流れていき、少量の水だと脇にある部屋まではたどり着かない――だが、少量ではなく、大量の水を流し込めばどうなるんだろうな?」

「貴様、一体何をした」

「情報は入っているんだろ? 俺の部下はこのロリサメだけじゃない。水魔法が得意なニンフがいる。魔力を回復する薬さえあれば無限に水を作り出すことができる――さて、お前たちの巣はどれだけの水を貯めこむことができるのか? もともと混沌迷宮はそれほど雨が降る土地じゃないらしいからな、こういう時じゃないと実験できないよな?」

 と俺が言うと、クイーンアントは部下に命じ、各部屋の――特に卵の部屋と食料の部屋の入り口を優先的に塞ぐように命令を出したが、キラーアントが自分たちの巣穴の奥に戻って行こうとした瞬間、大量の水がその巣穴から溢れ出る。

「アドミラの奴、張り切ってるなぁ」

 俺が感心するように言う。この日のために魔力をできるだけ貯めさせたからな。

「今すぐ止めさせんかっ!」

 クイーンアントが大声で叫び、何十ものキラーアントが俺たちに襲い掛かるが、狭い入口だ。俺たちを取り囲む前にロリサメによって一刀両断された。

「さて、交渉の続きとしようか。さっきまでは俺のところの二匹の権利だけでよかったが、今度はキラーアント五十匹は譲ってもらわないとな――あぁ、死体はいらんぞ? ていうか、今殺したキラーアント全部譲ってくれたらこのまま帰ってやったのにな」

「そのような交渉に乗るわけがなかろう。貴様ら、ここ以外の出入り口をすべて塞いだつもりだろうが、一カ所、ここの裏側に出口を作っておる。あと数分もすれば妾の子数千が押し寄せ、挟撃を――」

 とクイーンアントが言ったとき、水が溢れ出る巣穴の中から一匹のキラーアントがやってきて、クイーンアントに状況を報告した。

「どうした? あぁ、そういえばこの巣穴の裏側にはアドミラの先導でクレイゴーレムを十体くらい配置していたな。まぁ、それほど強くはないけど、適当に暴れさせてるが――キラーアントよりははるかに強いよな? どうする? 裏側に他のクイーンアントを回せばいいんじゃないか? で、お前に他のクイーンアントを動かす力はあるのか?」

 最初からわかっている。

 この巣にいるクイーンアントはこいつ一匹ではないことくらい。

 俺たちが最初に案内された部屋は、この規模の巣にしては浅い位置にあった。こいつは偉そうにしていても、おそらくクイーンアントの中では一番の下っ端。

 侵入者の排除や交渉の窓口として配置されている。

 もちろん、俺たちの巣にいるキラーアントと違い、かなりの自由は与えられているが、

「もう水は一番下の方まで流れているだろうな。ダメ元で頼んでみたらどうだ? 妾一匹では対処できないから助けて欲しいって――」

「そのようなことができるわけなかろうっ! たかがスライム一匹に」

「もう手遅れだよ。お前はたかが一匹のスライムだと俺を侮り、結果、巣に甚大な被害を与えた。そして、お前に俺は殺せない。お前、もう手持ちのキラーアント、ほとんど使い果たしたんだろ? 残ってるキラーアントはもう他のクイーンアントの部下たちであんたの配下じゃない。みじめだよなぁ。クイーンと名乗っていながら、あんたはこの巣の中では所詮は中間管理職なんだから。だから、俺の迷宮を乗っ取らせようと思ったんだろ? 自分が本物の女王になれる迷宮が欲しくて」

「貴様――一体何を――」

「さて、最後の交渉だ。ここで死ぬか、お前と数少ないお前の配下と一緒に俺の迷宮に来るか選ばせてやる。俺のところに来たら、少なくともキラーアントの中でだけならトップになれるぞ?」

「最初からそれが狙いか、スライム」

 とクイーンアントは諦めたように言った。


   ※※※


 そして、俺は迷宮に戻った。

 卵を愛おしそうに撫でるキラーアント(♀)と、昼寝をしていたキラーアント(♂)のいる部屋にはいる。

 その二匹の前に、ロリサメはそれを置いた。

 ひとつは生きているキラーアント。

 そして、ひとつは――クイーンアントの首だった。


 結局、クイーンアントは俺の交渉を全て拒み、子供たちを配下にしたければ自分を殺せと言った。そしてクイーンアントは最後まで抵抗を見せたが、結果アドミラに破れ、遺言を残して絶命した。

 その後、俺は他のクイーンアントが来る前にその首をシエルの空間魔法で収納して逃げだした。

『ダンナ、これは一体――』

 さすがに自分の母の首があることに、キラーアント(♂)は動揺しているようだったが、キラーアント(♀)は何かを覚悟していたのか、

『母からの伝言をお願いします』

 とロリサメが連れてきたキラーアントに尋ねた。

『……自由に生きろ。伝言は以上です』

『そうですか、わかりました』

 そして、ロリサメはキラーアントを連れて行く。

 再び混沌の迷宮に戻すために。

 そして、俺と二匹のキラーアントが残されたところで、俺は話を切り出した。

『さて、お前らに選択肢をやろう。俺の配下になるか、ここを去るか』

『だ、ダンナ、ちょっと待ってください。カカアは卵を産んだばかりで、ここを追い出されたら――』

『仲間になります』

 戸惑うキラーアント(♂)に対し、キラーアント(♀)の決断は早かった。

『お、お前』

『タードさんは、最初から私が卵を持ってこの迷宮を出ることをできないのを知っています。それに、ここでタードさんを殺そうとするものなら、外にいるホブゴブリンが黙っていません』

『はっ、わかってるじゃないか。こっちはクイーンアントを仲間にして一気に戦力拡大をしようとしていたのに当てがはずれてイライラしていたからな。生き残ったお前の母親の子供たちも俺の仲間にはならないって言うし。本当にお前らがこれ以上俺を怒らさなくてよかったよ』

 と俺は飛び跳ねて部屋の入り口に向かい、彼らに背を向けたまま、

「首の埋葬は自由にしろ」

 とだけ言い残して戻っていった。


 我ながらひどいことをする。

 だが、あの二匹のキラーアントを敵に回さずに仲間に引き入れるには、これが一番手っ取り早かった。

 吸血鬼アストゥートとの交渉がどうなるかわからない以上、後顧の憂いはこれ以上残せなかったから。

 クイーンアントは本気で仲間にしようと思っていました。この話を書いている途中まで、仲間にする予定でした。が、クイーンアントの生き様が私にそれをさせませんでした。

 完全な中ボスキャラなのに。


現在の課題 (クエスト)

・アストゥートとの会談を乗り切ろう

・2500ポイントを使ってタードを強化しよう

・キラーアント対策を練ろう(complete)

・リザードマンスポーンを設置できるようになろう

・一年後の新人戦に備えよう

・冒険者を迎撃できるようになろう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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