その地竜、絶対王者につき・1
ワインの他に、倉庫に残っていたガラクタも全てシエルの収納魔法により異空間に詰め込み、倉庫の中に混沌迷宮、混沌の町前に通じる転移ゲートを作成。
そしてダッシュで買い取り屋に向かう。
結局、美味しいワインをほとんど飲めないまま売り払うことに。
シエルは収納魔法から取り出したワインやガラクタの品を買い取りカウンターの上に並べると、とっとと別の目的のために店を出た。
俺ひとり残される。
「ほぉ、見事なワインだな。全部合わせて」
といつもの買い取りのドワーフのおっさんが俺が持ってきたワインを見て、
「3500ポイントだな」
と即座にその額を算出した。
「安すぎるだろ。これとこれとこれなんて、買おうと思えば10万シールは下らないワインだろうが!」
こっちは一本2000ポイント以上で買い取ってくれるつもりでいるんだが、ドワーフは首を縦に振らなかった。
「生憎だがワインを売る場合はいろいろと厄介でな。保存状態や中身の鑑定書作成にポイントがかかる。こっちも商売だ、いい加減な物を売ることはできないんでな。一本800ポイント、三本で2400ポイント。残りのワインは安物だし、残りの全部含めて3500ポイントだ。嫌ならオークションに持っていきな。時間はかかるが、お前の期待する額には近付くと思うぞ。特にワインは好事家も多い」
「……10000にしろ……時間がない、こっちは命がかかってる」
「無茶言うな。嫌なら他に行きな」
「これから地竜と戦う」
と俺が言うと、おっさんは眉をひそめた。
「地竜を倒してその素材を俺に渡すのか? お前は知らないかもしれないが――」
とおっさんが言い終わる前に、俺は触手を伸ばし――超硬化と自切により自分の体を切り離した。
超硬化された俺の体の塊が落ちる。
「おっさん、これをどう見る?」
「……スライムの体――にしちゃ、えれぇ硬いな……鉄にも劣らねぇ」
「うちの剣士は鋼鉄でも斬れるって言ってる。にもかかわらず、これは斬れないらしい。強度はどれほどのものだかはわからないが、少なくとも世間に出回っていない未知の素材だ」
「たかがスライムの体に未知の素材……ふん、口だけは達者だな。本来、口のないはずのスライムに口を付けるとこうもうるさいとはな。だが、確かにこれは――」
とおっさんはルーペを取り出し、俺の自切したパーツを凝視する。
さらに俺はまくし立てる
「早くしてくれ、時間がない!」
俺が叫ぶと、おっさんはこっちを見て、
「……5000ポイントだ」
と言った。ぐっ、5000だと予定の半分にしかならない。
それでいけるのか? 自切を繰り返してもっと俺の体を削るか?
「残りの5000ポイントはワシが個人的に貸してやる」
「本当か?」
「お前が地竜と戦うってのなら、十中八九お前は死ぬだろうがな、死んだらこの素材の値段は跳ね上がる。ワシは損はしない」
「助かる!」
「ふん――勘違いするな。ワシはただ正当な評価を下しただけだ」
おっさんのツンデレなんて誰も喜ばないぞ――そう思いながら、俺は素直におっさんに感謝を述べ、店を出た。
ただ、俺の体の素材を提供したのは本当に誤算だな。あれは間違いなくうちの迷宮の切り札になるから、いざというときまでは流出させたくなかったのだが……まぁ、あのおっさんもそれをわかってポイントを付けた節もある。それに死んだら元も子もないからな。
外には既にシエルが待っていた。
「シエル、交渉はまとまった! 倉庫に戻るぞ!」
俺はシエルの頭に飛び乗る。
「わかったわ」
シエルはそう頷いて走り出す。自分に補助魔法をかけているので、かなりのスピードだ。
「ところで、タード。さっき、タードの交渉中に送った手紙だけど、あれって」
「今は余計なことは考えるなっ! 急いで戻るぞ」
そう急かし、俺たちは町の外に出ると、混沌迷宮転移魔法により、アドミラたちのいる屋敷に戻った。
そして、シエルに敵探知の魔法を使わせ、地竜とアドミラたちの現在地を確認。
地竜はあと二十分くらいで地上に出てくる。
アドミラたちはまだ食堂にいるという。
とその時、地面が大きく揺れた。
「ちっ、だんだん揺れが大きくなってきやがる。堅い岩盤でも砕いてやがるのか」
「それだと、終わった後に穴を塞ぐのが大変そうね」
「ちょうどいい、地竜が出てきた穴にダンジョン支部でも作るか。村の中にダンジョンがあったほうが冒険者も集めやすいだろうしな。階段とか設置するのは面倒そうだが」
「それもいいわね――どうせ地竜を倒せば何万ポイントも入ってくるんでしょ? それならそのポイントで手入れをしたらいいじゃない」
「お、シエルにしては贅沢でいて現実的な案だな」
俺はほくそ笑む。もっとも、地竜を倒しても全部俺たちがポイントを総取りできるとは限らないんだけどな。
と、体の下が震えている。地震がまだ続いているのか?
と思っていたら違った。シエルが震えているのだ。
「……私たち、勝てる……わよね」
シエルが消え入りそうな声で言った。
「当然だ、最弱の種族であり最強の俺がいるんだからな」
と俺が言った時だった。扉が開いた。
「それにあたしたちもいる……タード、この時間にここに戻ってきてくれたってことは、戦ってくれるってことでいいんだよな?」
「ご主人様なら必ずいらしてくれると信じていました」
「なんで信じていたんだ?」
「そんなの、ムラサメじゃなくても私だってわかるわよ」
シエルは先ほどまでの震えが嘘のように消え、俺のようにニヤリと笑みを浮かべて言った。
「だって、タードもツンデレでしょ?」
「ええ、ご主人様は立派なツンデレです」
「へぇ、タードもツンデレなんだ。お揃いだな。別にお揃いだってうれしくないからな」
……こいつらは。
「お前ら、この戦いが終わったら全員覚悟してろよっ!」
「覚悟するのはいいけど、タード。何か作戦はあるの?」
「当然だ」
と俺は頷くと、
「起動」
とスクリーンを展開させ、ポイントによる道具購入を選ぶ。
「前にダンジョンバトルで紙風船を利用したからな――今度はこっちを利用してみる」
と俺が購入したのは――
「……スライムバルーン? 干からびたガムスライムよね、それ。子供の玩具として有名な。それを何に使うの?」
そう、干からびたガムスライムの死体。
それはシエルの言う通り、空気を入れることで膨らみ、子供の玩具として使われることが多い。
かつては空気より軽い気体――水素を中に入れて魔法を使わずに空を飛ぶというバカみたいなことに使おうとした人がいたが、太陽の熱により着火、大爆発を起こすという事件があってその計画は白紙になったこともある。
もちろん、これを使って空を飛んで逃げる――なんていう計画じゃない。
「まぁ、簡単に言えば――玉当てだな」
現在の課題 (クエスト)
・地竜を退治して大量ポイントをGETしよう
・2500ポイントを使ってタードを強化しよう
・キラーアント対策を練ろう
・リザードマンスポーンを設置できるようになろう
・冒険者をおびき寄せる餌を用意しよう
・ムラサメを強化しよう
・一年後の新人戦に備えよう
・冒険者を迎撃できるようになろう
・妖刀ムラサメの解呪をしよう
いよいよ地竜バトルスタート間近!
タードらしい作戦が展開されることに作者も期待しています!