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そのゴブリン、騎士につき

 混沌の迷宮。そう呼ばれる迷宮を俺は知らない。それもそのはず、そこは俺たちがいた世界とは異なる異世界なのだから。

 ダンジョンフェアリーのみが使うことを許される混沌迷宮への転移魔法により、その世界に行くことができる。ここは多くの野生の魔物が存在する。

 その中でもこの草原フロアは弱い魔物が多いらしいがそれでも油断はできない。何が起こるかわからない場所だそうだ。

 そう聞いていたので、かなりやばい場所なのだと覚悟していたが、

「お弁当持ってくればよかったな」

 と気分はピクニックだ。

 一面見渡す大草原に俺はいた。

 魔法無効体質のため、転移できないのではないかと不安だったが、シエルの転移魔法は空間と空間とを繋げる魔法であり、俺の体自体には何も作用しないため問題なかったらしい。

「本当にこれが迷宮なのか?」

「迷宮といっても、洞窟型だけではないわよ。塔の形もあれば城の形もある。中には神を奉る神殿の姿をしている迷宮もあるし、建物以外にも森や海峡の姿の迷宮もあるの」

「そういえば、迷いの森って聞いたことがあるな。あれも迷宮なのか。ところで、シエル。なんでさっきからあたりを見回しているんだ?」

 俺は、隣でずっと左右をきょろきょろと何度も見回し、時には背後を振り返るシエルを見て尋ねた。

 警戒しているのは明らかだが、こんな何もない草原で警戒しすぎだろ。

「仕方ないでしょ! 教科書で混沌迷宮については読んだことはあるけれど、実際に見るのははじめてなんだから。タードは怖くないの? スライムなんだから、ゴブリンが来ても殺されるわよ。そもそもどうやって魔物をスカウトするの? 私は規則で戦えないのよ」

「安心しろ、シエル。だからこいつらを連れてきた」

 と俺は、後ろについてきている小さなスライム――ベビースライムをシエルに見せた。

「あのね、ベビースライムなんて十匹いても戦力にならないわよ。魔物によっては携帯食料として持ち歩く種族もいるくらいなんだし」

「そうだな。で、これを見ろ」

 と俺は落ちていた果物の食べかすをシエルに見せた。

「リンゴの芯?」

「あぁ。リンゴをこういう食べ方するのは、十中八九人間かゴブリンだ。しかもまだ新しい。ゴブリンは集落を作ると見張りが一定のルートで巡回する。つまり、ここに罠をしかけたらゴブリンがひっかかるって寸法だ」

 そう言って、俺はほくそ笑んだ。


(最低、仲間をいきなり囮に使うなんて)

 シエルが声を押し殺して、俺を窘めてきた。俺を悪役にして自分の良心を傷つけないようにしているんだろうが。

(作戦聞いてから魔法で落とし穴を作ったお前が言うな)

 俺とシエルは岩の陰からじっと落とし穴を作った場所を見ていた。

 そこにはベビースライムが一匹、俺の命令を聞いてじっと待っている。ベビースライムはとても弱いが少し甘味があって、ゴブリンの好物でもある。

 待つこと三時間。遠くから一匹の魔物が近づいてきた。

 毛のない緑色の猿みたいな醜悪な面構え、頭に赤いバンダナを巻いて、手には木の棒を持っている。一般的なゴブリンだ。ちなみに、どうしてゴブリンが赤いバンダナを巻いているのかはいまだにわかっていない。

 ゴブリンはゆっくりとこちらに近づいてきて、ベビースライムを見つけると木の棒を振り上げて走ってきた。

 そんなにドタバタ走ってきたら獲物に逃げられるぞ――と思ったが、ベビースライムならば逃げられても追いつけると思ったのだろう。実際、逃げないベビースライムを見て拍子抜けしたようで、ゴブリンの速度は格段に落ちた。

 そしてゴブリンがベビースライムに近づいた瞬間、ゴブリンの重みに耐えかねた地面が崩れ、ベビースライムもろとも重力に従って落ちていった。

「成功だっ!」

 俺とシエルは急いで穴へと駆け寄る。

「俺の崇高なる罠にかかったようだな」

「ただの落とし穴でしょ」

「俺の実力を垣間見たゴブリンよ、俺の配下になれ! そうしたら毎日ベビースライムを三匹食べさせてやろう!」

 ゴブリンにとって最も重要なのは食料の確保だ。

 当然、仲間になるだろうと思ったら、ゴブリンが棒を振り上げて何か叫んでいる。

 仲間になると言っているのだろうか?

「『お前らがこの穴を掘ったのか? 俺を出せ、さもないとただじゃおかないぞ』って言っているわよ。タードの言っている言葉、まったく通じていないみたい」

「じゃあ、シエル! お前が通訳しろ!」

「わかったわ」

 とシエルが「ゴブゴブ」と言い始める。何を言っているのかはわからないが、言葉は通じているようだ。

 そして、

「『誰がスライムの配下になんてなるか!』だって」

「なんだと! ならこう言え! ここで仲間にならないのなら、俺は上から溶解液を落とす! 俺の溶解液は服を溶かす力はあるからな! それで、穴の横の地面に文字を書く。内容はこうだ。『ただいまローションプレイ中、邪魔しないでください』と。これでお前は晴れて変態ゴブリンの仲間入りだっ! ほら、シエル、訳せ!」

「いやよ、そんなの言うの!」

「命令だっ!」

「わ、わかったわよ」

 とシエルは顔を赤くして俺が言った言葉をゴブリンに伝える。

 すると、ゴブリンは一言で返した。

「『くっ、殺せ』だって。やっぱりゴブリンがただのスライムの部下になるなんて死んでもいやみたいね。正々堂々戦ったら話は変わるんでしょうけど――」

「『くっ、殺せ』って……こいつは女騎士かよ……こんなゴブリン殺せるわけないじゃないか」

 俺はこのゴブリンの説得を諦めるしかない。

 そして――


 罠を使っての説得は無理。かと言って、正攻法で戦うことなんて俺にできるわけがない。

 さて、どうしたものかと俺は草原を歩きながら考えた。

「本当に溶解液を穴の中に流して地面に文字を書くんだ。あれだけの溶解液を絞り出すのも結構手間だったでしょ。ゴブリン泣いてたわよ」

「仕方ないだろ。あそこで脅し通りにしなかったら、今後ゴブリンを脅す時にどうせ最後は見逃してくれるって思われるからな。心を鬼にしてああするしかなかったんだ」

「心を鬼にしてって、ただの鬼畜の所業よね、あれは。あのまま死んじゃったりしないかしら?」

「大丈夫だよ。ゴブリンはああ見えて賢い種族だから、仲間が助けてくれる。食料のベビースライムも置いてきたしな」

「助けられたくないでしょうね」

 とシエルはゴブリンが落ちている穴のある方角を見て嘆息をついた。

「それで、これからどうするの?」

「どうって言われてもな。このあたりにゴブリンの他にどんな魔物がいるんだ?」

 それを知らないことには対処のしようがない。

「ちょっと調べてみるわ」

 と言うと、シエルは地面に手を置き、

「わが宿敵、ここに示せ! 敵探知エネミーサーチっ!」

とシエルが魔法を唱えた。

「魔法って最後に大声で叫んでるけど、本当にそんなに叫ぶ必要があるのか?」

「……雰囲気よ」

 とシエルが恥ずかしそうに言った。

 やっぱり雰囲気なんだな。

「わかったわ。このあたりに生息する魔物は九種類ね。あ、でもベビースライムはさっき穴の中に落とした個体で、スライムはタードのことだから七種類かしら」

「七種類か。ゴブリンもいるから残り六種類だな。言ってくれ」

「土食いモグラ、グラスバード、キラーアント、クイーンアント、ファイターラビット、ソードゴブリンね。土食いモグラあたりを説得してついてきてもらうのはどうかしら? 土の中にいるから見つけるのは難しいと思うけど、あのモグラは土さえ食べていれば満足する魔物だから、迷宮の建設にも役立つと思うわよ。といっても、一日に食べる土の量は少ないんだけど」

 とシエルが提案してきた。なんとも優等生の模範解答らしい提案だ。

「……シエル。この迷宮では春なのか? 春の何日だ?」

「迷宮の中も季節は外と同じよ。春の六十二日ね」

「ならば、もっといい方法がある」

 と俺は言った。この季節だからこそ仲間にできる魔物がいる。

「ドラゴンをも倒す最強の仲間を手に入れよう」

現在の課題 (クエスト)

・ゴブリンを勧誘してみよう(failure)

・別の魔物を勧誘しよう(new)

・ダンジョンを拡張しよう

・ポイントを100ポイント貯めよう

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