その同盟、利害関係の一致につき・1
混沌の町にあるカフェのテラス席――カフェといいながらもランチなども提供しているので、俺とシエルはふたりでゆっくりしていた。
シエルはじっと俺の唐揚げランチを物干しそうに見ている。
「ねぇ、タード……その唐揚げひとつ、私のと交換しない?」
「交換って何と?」
「……氷と」
俺は無視して唐揚げ定食を食べ進めた。
「ねぇ、タード……お願い。水だけだとひもじいのよ」
「これは俺がアドミラに貢がせた物を売って俺が得た金で買ったんだ。お前も悔しかったら何か売ってこいよ」
「売るものなんてないわよ」
「そのダサい帽子とかは?」
と俺はいつもシエルが被っている獣耳のような突起がついている黒い帽子を見て言った。
「……やっぱりダサいかしら、これ。学校指定の制服なのに不人気すぎて入学式以外、私しか着けていなかったし……あ、でもこれみんな売るから買い取り価格がとても安いのよ」
「知らねぇよ――ほら、唐揚げについてたレモンやるから。これでレモン水にしろ」
「……ついでにそのキャベツもちょうだい?」
「やらん――プチトマトのへたならやるぞ」
「プチトマトのへたは細菌がいっぱいだし、あんまり美味しくないのよ」
「……食べたことあるのか?」
「うん、タードと同じことを言った男子生徒がいてね。本当に食べたら同情してトマトもくれたわ」
「……プチトマト食べていいぞ」
さすがにそこを真似されたら俺も引くからな。
「本当!? ありがとう、タード!」
シエルは俺の皿からプチトマトを奪うように取ると、へたを取って食べた。
「久しぶりに草以外の野菜を食べた気がするわ」
「というか、お前も働けよ。ムラサメだってゴブリンだって働いているのに、お前がしていることってただボス部屋の奥でのんびりスクリーンを見ているだけだろ?」
俺も鬼じゃないんだ。シエルが働けば給料は雀の涙ほどは出してやるつもりだ。
実際、シエルに豚肉を売りに行かせたときも一パーセントの手数料をやったしな。ステーキ代として徴収したけど。
「働けって言われても、私って魔物相手に戦うことはできないし――」
「そうだな……村ができたら治療院でも開いて働くってのはどうだ? お前、回復魔法が使えるんだろ?」
「ダンジョンフェアリーは拠点を迷宮の中にしないといけない決まりなのよ。少し出かける分にはいいんだけどね」
「決まりって、破るとどうなるんだ?」
「迷宮の機能が低下するのよ――あれ? タードには話していなかったかしら? 迷宮が迷宮として機能しなくなるには、ボス部屋を突破される、ダンジョンボスが死ぬ、ダンジョンフェアリーがダンジョンを捨てる、ダンジョンフェアリーが死ぬの四つもあるの。だから、タード。私にダンジョンを捨てられたくなかったらその唐揚げを――」
「シエルのくせに脅迫するな。むしろそんな大事なことを今まで黙っていてなんで唐揚げをやらなならんのだ。内職でもしてろよ」
「そうね……本気で考慮する必要があるわね」
シエルがそう呟くと、
「またバカなことを言っていますわね、シエル・フワンフワン・シャイン」
そいつが現れた。
「ミャーちゃん!?」
シエルが叫ぶと、そいつはシエルを睨みつけて無言で言い直しを要求した。
「ニキちゃん、どうしてここに?
金髪縦髪ロールの女、ニキティス・ミャーミャー・フレイムがいた。
彼女が契約しているダンジョンボス、竜人の褐色美人剣士のマーレも一緒だ。
「どうしてって、あなたたちが約束の時間になっても部屋に来ないから迎えに来ましたのよ。まったく、わたくしを待たせるとは何様のつもりですの?」
「俺に負けたくせに、何様もくそもねぇだろ」
「あれは変則ルールですし、こちらも全力ではありませんでした」
「主様、それでも負けは負けです」
「お黙りなさい、マーレ! あなたはどっちの味方ですの?」
「はっ、失礼しました」
相変わらずこいつらはこんなんだな。
「じゃあ、残りのふたりはもう来てるんだな?」
「ええ、奥の個室にいますわ」
「ちょっと、タード! ふたりって何のこと? 私何も聞いてないんだけど!」
「あぁ、あとでゆっくり話すから、とりあえずついてこい――話の間にどさくさに紛れて食べた唐揚げに関してはあとでゆっくり文句を言ってやるからな」
意外と油断も隙もないやつだ。
そして、そのカフェの奥の個室に行くと、ニキティスの言った通りふたりが待っていた。
「遅いぞ、シエル。何してたんだい?」
「もう待ちくたびれちゃったよ」
まずふたり――シエルの同級生のリッシュとシルエッタだ。
そのふたりの横には、それぞれ初めて見る魔物がいる。
リッシュの横にいるのは全身鎧の性別不明の魔物。
そして、シルエッタの横――というか肩に乗っているのは極彩色の鳥だ。
「あぁ、ふたりには紹介がまだだったね。横にいるのが私の主人であるリビングメイルのアレキサンダー」
《……うむ》
アレキサンダーが短い言葉とともに頷いた。全身鎧を着ているんじゃなくて、鎧の魔物だったのか。
「言葉は『うむ』と『いな』しか言わないけど気さくな奴だからよろしく頼むよ」
とリッシュがアレキサンダーの肩をバンバンと叩いて言った。
言葉数ふたつしかないのに気さくって……。
「私のボスモンスターは虹色バードのレイちゃんだよ。レイちゃんは人間の言葉は話せないから私が同時通訳するね。『こんにちは』だって」
レイはくぇくぇ鳴いているだけにしか聞こえないが、シエルを見ると黙って頷いた。魔物の言葉を全て覚えているこいつが言うんだ、本当なのだろう。
「あぁ、俺が今回の発起人のバス・タードだ。ちなみにバスタードっていう言葉の意味は――」
「タード、そういうのはいいでしょ! それより、なんで私に黙って友達集めてるのよ」
「お前を驚かそうと思って」
「それだけが目的なら見事に達成しているから、何のためにみんなを集めたのか教えて」
シエルが本気で怒っている。
仲間はずれにされたのが寂しかったのだろうか?
「いや、こいつら三人には実験に協力してもらっていたんだよ。で、どうだった?」
俺が尋ねると、三人は複雑そうな顔をして、
「ええ、そのスライムの言う通りにして間違いありませんでしたわ」
「私もだよ。私のところはアレキサンダーは何も食べないし、スポーンモンスターも物質系の魔物が多いから食料は必要ないけれど」
「うん、私のところは助かっちゃった。食糧問題一気に解決したよぉ。ありがとうね、タードくん」
「そうか。じゃあ、契約は守れよ」
「うん、もうちゃんと振り込んだから」
「ちょっと! タード、いい加減何の話をしているのか教えてよっ!」
話についていけないシエルが怒る。今の会話でわからないのか、学年首席のくせに。
「だから、この三人にベビースライムを渡して増やす実験だよ」
「ベビースライムを?」
「あぁ。ベビースライムっていう奴は基本バカだからテイムできないんだよ。それは知ってるよな?」
「え……えぇ。主人とかそういう考えもないし、捕まえてきても食べるくらいしか使い道がないんでしょ?」
「それに、その状態だと命令もできないからな。だから、前のダンジョンバトルで俺の偽物を作るとき、最低限の命令が聞けるように強化したんだ」
ベビースライムを合体させて見た目はスライムにしてボス部屋に待機させた。
「それで、そのベビースライムを三人に譲ったんだ。そこでベビースライムを増やしてみろってな。ベビースライムは分裂で増えるから、餌を与えれば勝手に分裂して増えるだろ?」
「増やしてどうするの?」
シエルが尋ねると、
「スポーンを設置できるようになりますの」
気にくわないと言ったように、ニキティスが言った。
「他のダンジョンフェアリーやダンジョンボスの魔物を譲り受けても、スポーンを設置するための数には含まれません。ですが、分裂で増えた魔物は別――五十匹分裂。合計五十一匹になったところでスポーン設置できるようになりましたわ」
そういうこと。ベビースライムはそこそこ栄養価もあり、ゴブリンやリザードマン等の餌にはもってこい。しかもスポーンを一度設置すれば毎日無料で手に入る。
「もちろん、スポーンを設置するなら俺に使用料として二百ポイント支払うこと、さらに他のダンジョンフェアリーにベビースライムを譲らないことを契約したうえでな」
既にシルエッタは二カ所、ニキティスとリッシュは一カ所のスポーンを設置しているので、混沌の町に開設している俺の口座には八百ポイント入っている。
「じゃあ、今回の会合はその報告会?」
「それもあるが主題じゃない――俺たち四体のダンジョンボス、そして四人のダンジョンフェアリーで同盟を結ばないかって提案だ」
現在の課題 (クエスト)
・ニキティスたちと同盟を結ぼう(new)
・十五万ポイントを用意しよう
・1500ポイントを使ってタードを強化しよう
・キラーアント対策を練ろう
・リザードマンスポーンを設置できるようになろう
・村を作ろう
・冒険者をおびき寄せる餌を用意しよう
・ムラサメを強化しよう
・一年後の新人戦に備えよう
・冒険者を迎撃できるようになろう
・妖刀ムラサメの解呪をしよう
タードが同盟を一番最初に裏切りそうとか言ったらダメ




