表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/172

その護衛、教会の聖騎士につき

「ムラサメ、もっと奥まで入れるぞ」

「待ってください、ご主人様、そんな一度に入れたら――」

「途中でやめるのはこっちも辛いんだ、我慢しろ」

「はい――あ、入ってきます! ご主人様の暖かいのが入ってきます!」

「あ、ムラサメの中って結構あったかいんだな。もっと冷たいと思ってた」

「ご主人様、ちょっと恥ずかしいです」

「それは承知の上だろ」


「あんたたち昼間からこんなところで何やってるのよっ!」

 そう怒鳴りこみながら、解体部屋に乱入してきたシエルが見たのは、ムラサメひとりだった。

 シエルは周囲を見回し、

「あれ? タードは?」

 と俺の姿が見えないことを不思議に思っている様子だった。

「それに、ムラサメ、その眼帯――」

 シエルはムラサメが着けている眼帯に気付いた。黒い眼帯だ。

「ご主人様に買ってもらいました」

「で、そのタードはどこなの? 声は聞こえたんだけど――」

 と周囲を探る。

 どうやら本当に俺がどこにいるかわからないらしい。

「ここにいるぞ」

 と問いかけると、シエルはびっくりしたような表情を取り、さらに周囲を探し始めた。

「タード、一体どこに隠れているのよっ!」

「お前の目は節穴か?」

「ご主人様、どちらかといえば目が節穴なのはシエルさんではなく私のほうですよ」

「確かに、それはそうだな。シエル、ここだ、ここ」

「だから、どこよ――」

「もしかして、服の中に入っているんじゃないでしょうね?」

「惜しい、服の中じゃない」

 と俺が言うと、ムラサメはシエルの方を向き、そしてその眼帯を外した。

 シエルの顔が青ざめる。

 なぜなら、その眼帯の向こうにあるはずのムラサメの眼球がそこにはなく、その穴から俺の姿が見えたのだから。

「よっ!」

 俺はムラサメの目を通してシエルを見て言った。

「なんでタードがムラサメの顔の中に入ってるのよっ!」

「いや、ムラサメの体の中って空洞になってるんだよ――前にマーレに腕を斬り落とされたときにわかったんだが。なら、俺が中に入れるんじゃないか? って思って。マヤカシだから目玉を入り口にすることもできるんだよ。やろうと思えば、ムラサメのおっぱいから溶解液を出すこともできるぞ」

「しなくていいわよ――ていうか絶対にしないで。そんなことしたら当分口利いてあげないわよ」

 シエルの本気の拒絶――喧嘩の最終手段が無視って、子供かお前は。

 あと、ムラサメがつけている眼帯、実は内側からは外が見えるようになっている。

「で、なんでそんなことしてるの?」

「もうすぐ教会の公金護送の馬車が通るからな。ちょっとムラサメと様子を見に行こうと思って」

「あぁ、タードが化け物って言っていた人よね――」

「まぁな。任務は絶対に遂行する奴らだから、護衛任務中に遠くから眺める分には問題ないと思う」

「遊んでいたわけじゃなかったのね?」

「遊んでいるのはお前だ。ゴブリンを村に案内しろって言っておいただろ?」

「わ、わかってるわよ。ただ、タードが――」

「俺がムラサメ相手にエッチなことをしていると勘違いしたんだろ?」

「し、仕方ないでしょ! あんな言い方したら勘違いくらいするわよ」

「うん、お前がこっそり聞き耳立てているのには気付いていたから、ムラサメと打ち合わせして言った」

 俺が正直に打ち明けたら、シエルが駄々っ子のように暴れだしたので、ムラサメとともに退散した。

 ちなみに、ムラサメの中に入り心地は上半身ならそこそこいい。体の運び方がうまく、重心がとても安定しているから、操縦の下手な馬車に乗るよりも快適だと思う。逆に足に入ったときは最悪だ。揺れる揺れる。

「ご主人様、乗り心地はいかがですか?」

「あぁ、いいぞ。ところで、ムラサメの声ってどこから聞こえているんだ? 外から聞こえているように思えるんだが」

「声は刀の本体から出ていますので、外から聞こえるというご主人様の感覚は間違っていませんね――一応、マヤカシの構造を工夫すれば喋ることができるのですが、そうするとご主人様が中にはいるスペースを確保できないので」

「なるほどな――そう言えば最初に会ったときは本体から少し離れたところにいたけど普通に会話できていたもんな」

 あの時、本体から話しているとしたら言葉の方向と距離の違いで彼女がマヤカシであることにもっと早く気付いたはずだ。

 しばらく走り、目的の観察ポイントにたどり着く。

 街道までの距離は約七百メートル。木の隙間からかろうじて見える場所の岩陰だ。

 盗賊たちの話によると、そろそろここを通るらしい。

「ムラサメ、今からお前に命令を下す。俺がいいと言うまで、俺が出した命令はその意図を考える前に実行しろ――いいな」

「はい、かしこまりました」

「本体の妖刀は下に置いておけ」

「はい」

 ムラサメは腰の鞘を外し、地面の上に置いた。

 さて、ひとつ気になることがある。

 どうして盗賊たちは教会の公金の護送が今日、この時間行われることを知っていたのか? おそらく、公金の護送が行われるのは真実だろう――が、その情報を意図的に流したやつがいる。たぶん、教会の関係者の中に。

 この近くに村を作る以上、教会関係の馬車が定期的に通るのは必至。せめてどういう奴が護衛として通るのかは見定めないといけない。

 とその時、ひとりの若い男が通るのが見えた。

 頭に被っている兜は聖騎士の証である――おそらく見習い聖騎士だろう。

 その後を馬が、さらに馬が曳く馬車が見えた。

 そして、最後に、金髪糸目の二十歳くらいの男が通った時だった。

「…………っ!」

 その男は明らかにこっちに気付いているように、こっちを凝視していた。そして、落ちていた石を拾い上げると、一度上に軽く投げ――


「ムラサメ、マヤカシを解除しろっ!」


 俺の命令がムラサメに届くと同時に、糸目の男が石を投げていた。

 石が届く直前にムラサメのマヤカシが解除され、俺の体が宙に浮く――

(ぶつかるっ!)

 次の瞬間、俺の頭がはじけ飛び、激しい痛みを伴って体が後方へと吹き飛んだのだった。


   ※※※


(スライム?)

 聖騎士の男は女が突如スライムになったのを見て、眉を顰めた。

 突然変異のスライムなのか、それとも魔物がスライムに変身したのかはわからない。

 が、それよりも気になったのは――

(確かに当たった。が――殺し損ねた。ふふ、バカな盗賊をおびき出すために流した情報エサにもしかしたら想像以上の獲物が食いついたのかもしれませんね)

 と岩の向こうに見えなくなったスライムを想い、彼は再度投げられる石がないかと思ったが、

「トール様、どうかなさいましたか?」

 御者の男が、聖騎士のひとりがついてきていないことに気付いて馬車を止めた。

 トールと呼ばれたその男は微笑を浮かべ、

「ちょっと珍しい鳥がいましてね。申し訳ありません」

 と平然とした顔で嘘を言った。

「そうですか――このあたりはファーストチキンが生息しているそうですから、その亜種かもしれませんね。新種ならギルドに報告しないといけませんが」

「いえ私の見間違いでしょう。では参りましょうか」

 男がそう言うと、御者はもう何も言えない。

 馬車はゆっくりと動き出した。


   ※※※


「ご主人様、ご無事ですか!?」

 ムラサメが再びマヤカシを作り、倒れた俺を抱え上げた。

「大丈夫だ――って言っても全然大丈夫じゃねぇがな。超硬化がなかったらやばかった」

「頭部の一部が抉れています――」

「これはわざとだ。こうでもしないととてもじゃないがあの石を受け流せなかった」

 俺の超硬化はとても硬くなる――が魔法無効と違い、物理攻撃が完全に効かなくなるわけじゃない。その衝撃は俺の体に直に伝わるし、体も吹き飛ばされる。そして、その強度も絶対とは限らない。

 そのため、俺は超硬化を体の内側に作り、外側の粘体部分を吹き飛ばさせて衝撃を一度殺してから、超硬化で石を受け流した。

「……まぁ、思ったよりは余裕だった。今度からは直接超硬化でガードしても大丈夫だろう」

「余裕そうには見えません……申し訳ありません、ご主人様。本来は私がご主人様をお守りしないといけないのに」

 ムラサメが頭を下げた。

 本来なら、ここで「お前は俺の命令に従っただけだ、気にするな」って言うのがセオリーなのだろうが、

「本当だな。あとでお仕置きをしないといけないから覚悟してろよ」

「はい、いかなる罰も受ける所存です」

「よし、帰ってからの楽しみゲットだ! じゃあダンジョンに戻ろうぜ!」

 と言って、俺はムラサメの頭の上に飛び乗った。なんでも命令を聞くムラサメであるが、罰として与える楽しみはやはり別腹だからな。

「あの、ご主人様、その傷は――」

 ムラサメは俺の抉れた体を心配そうに見る。

「自己再生スキルがあるからそのうちに治るだろ――」

「ご主人様……私は強くなりたいです」

「あぁ、自分で稼いだポイントで勝手に強くなれ」

「はい、必ずご主人様を守れるくらいに――」

「おう、守ってもらわないと困るぞ。なんたって俺は最弱のスライムなんだから」

 俺はそう言って自慢げに笑った。

 ムラサメも笑った。


「ところで、ムラサメ。お前のマヤカシって衣装とか自由に変えられるのか?」

「はい、可能ですが」

「よし、じゃあメイドプレイで遊ぶぞ。今からシナリオを考えないとな。シエルが帰ってくる前に」

「はい、望むところです」

「……望まれたら罰にならないぞ?」

 とそんな会話をしながら、俺たちはダンジョンへと帰っていった。

現在の課題 (クエスト)

・他の魔物の勧誘をしよう

・村を作ろう

・冒険者をおびき寄せる餌を用意しよう

・ムラサメを強化しよう

・一年後の新人戦に備えよう

・冒険者を迎撃できるようになろう

・1000ポイントを使ってタードを強化しよう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ