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そのスライム、元人間につき・2

 ダンジョンのボスになる契約を終えた俺は自分の体を確認した。

「んー、体に異常はないな」

「ふぅ、これで契約は終わったわよ。次にこれからダンジョンについて説明をするわね」

「え? ダンジョンボスってただボスの部屋で寝てればいいだけじゃないのか?」

 俺の中の知識だと、ダンジョンボスって迷宮の一番奥のボス部屋でただぼーっと待っているだけというイメージだった。ダンジョンボスを倒したらその奥のお宝が手に入り、数時間後に迷宮が崩れ落ちる。

「そんなわけないでしょ。ダンジョンボスの仕事は主に三つよ。勧誘、拡張、防衛ね」

 三つも仕事があるのか。それってひとりですることじゃないだろ。

「面倒だな、全部お前がしろよ」

「命令なら拡張と防衛に関しては従うけど、勧誘はダンジョンボスが自らしないといけないのよ」

 シエルは少し疲れたようだが、一応俺をボスモンスターとして立てつつ、そう説明した。

「勧誘って誰を勧誘するんだ?」 

「迷宮の魔物たちよ。混沌の世界に行って魔物を説得し、従えて迷宮を守らせるの。それがダンジョンボスにとってボス部屋の防衛の次に重要な仕事だから」

「迷宮の魔物は勝手に湧いたり、外から入ってきて棲みつくんじゃないのか?」

「あぁ、そこから説明しないといけないのね。勝手に湧くのはスポーンポイントを設置した場合に限るの。でもスポーンポイントを設置できる魔物には条件があるわ。例えばゴブリンが生み出されるスポーンポイントを設置しようと思ったら、ゴブリン五十匹をスカウトしないといけないわけ。あと、外から入ってきて棲みつく魔物もいるけど、これは基本ダンジョンボスには従わない。ただの侵入者と同じよ」

「へぇ、面倒なんだな。じゃあ、今はスポーンポイントは設置できないわけか」

「えっと、ダンジョンボスに応じて最初から設置できる魔物がいるはずなんだけど」

 とシエルは指で虚空をなぞるような仕草をした。

「……ベビースライムだけね。一カ所の設置は無料。二カ所目からは100ポイントが必要になる。一カ所につき一日二十匹のベビースライムが生まれるみたい」

「ベビースライムって、子供でも倒せる世界一雑魚な魔物じゃないかっ!」

「仕方ないでしょ! ダンジョンボスがスライム(あなた)なんだからっ!」 

 それを言われたらその通りなのだが、でもそのスライムを召喚したのはお前だろうが。

「……そういえば、さっき100ポイントとか言っていたけど、それは?」

「ダンジョンを拡張したり、ダンジョンフェアリー同士が取引をしたり、ダンジョンボスを成長させるのに使用するポイントよ。最初は0ポイント、ダンジョンの侵入者に応じてポイントが手に入るわ。たとえばゴブリンなら一匹一日一ポイントくらいかしら。ダンジョンの中で殺したらその十倍のポイントが貰えるわよ」

「魔物の召喚はできないのか?」

「ポイントでの召喚はないわ。私ができるのはボスモンスターの召喚だけ。他のダンジョンフェアリーから借りたり、譲ってもらうことは可能だけど、そうした場合はスカウトの人数にはカウントされないわよ」

 それはそうだ。

 他のダンジョンフェアリーから借りたり譲ってもらった魔物がスポーンポイント設置のカウントに含まれるのなら、いくらでも抜け道が生まれる。

 例えばゴブリン五十匹を持っているダンジョンフェアリーから五十匹のゴブリンを一日だけ借りて、スポーンを設置してから返すみたいなことが。

 つまり、野生の魔物をスカウトするしかないってことか。

「相手は魔物だから、直接倒して力を見せつけ、勧誘するのが一般的ね」

「でも、俺ってスライムだろ? ただのスライムが倒せる魔物っているのか?」

「もうただのスライムじゃないでしょ? ダンジョンボスになったんだから、特別な力を手に入れているはずよ。それに私は直接手助けをすることはできないけど、補助魔法を使ってタードを強化することはできるわ。オークくらいなら倒せると思うわよ」

「オークを倒せるのか。それは助かるな。で、特別な力って?」

 契約はしたけれども、何か変わった力が備わったとは思えない。

 触手は五メートルほどしか伸びないし。

「どうやって自分の力を知るんだ?」

「鑑定魔法を使えば簡単よ。詠唱は少し省略するわね。《汝、その姿を我に見せよ。鑑定サーチアイ》」

 シエルがそんな魔法を唱えた。最低でも五秒ほど唱えないといけない魔法の詠唱を僅か一秒ほどに省略したのか。

「ってあれ? 見えないわね。ちょっと待って、今度はちゃんと唱えるから」

 どうやら失敗したらしい。今度はシエルは早口で何を言っているのかわからない言葉で魔法を紡いだ。今度は高速詠唱か。ここまでくると達人というより芸達者に思えてくる。

「あれ? やっぱり見えない――」

「お前、本当は魔法を使えないんじゃないのか?」

「そんなことないわよ。えっと、そうよ! ダンジョン作成メニューから見ましょ! タード、どこでもいいからこの部屋の壁に手を触れてみて」

「壁に? シエルの胸の絶壁でもいいのか?」

「そんなわけないでしょ! それに絶壁じゃないわ、そこまで小さくないわよ」

「うん、さっき十分見たからそれは知っている」

 Bカップくらいはあるだろうか? 大きいとは言えないけれども絶壁ではない。

 これ以上シエル怒らせるのも楽しそうだが、自分の力が気になるので俺は触手を伸ばし壁を触った。当然、何もおきない。壁のひんやりした感触が触手に伝わってくる。

 ちなみに、俺の触手は最高五メートルほど、太さも人間の親指サイズまでしか細くならないらしいし、一本しか出すことができない。

「触ったら、起動スタートって言ってみて」

起動スタート

 と今度は言われた通りに言った。すると、俺が触っている壁が突然、白く平らになった。

「これはスクリーンと言って、メニューを映し出す魔法画面なの」

「スクリーンね、っと、何か文字が浮かび上がって来たな」

 なになに、ダンジョン拡張、アイテム生成、スポーン作成、侵入者情報、魔物管理か。

 全部人間の言葉で書かれているな。

 俺が人間の言葉で起動させたからだろうか? といっても、文字言語があるのは人間を覗けば、悪魔や竜などごく一部に限られるので、そうではないのかもしれない。

「初期起動には時間がかかるって教科書に書いてあったけど、それほどの時間じゃないわね。魔物管理を触ってみて」

「魔物管理っと」

 俺はそれを触ると、画面が切り替わった。

 一番上に俺の名前「バス・タード」、二番目に「シエル・フワンフワン・シャイン」という名前があった。

「なぁ、フワンフワン」

「絶対言うと思ったわ。何? タード」

「いや、呼んでみただけ」

「……もう二度とその名前で呼ばないでね。それで、バス・タードって文字を触れてみて。触手、届く?」

 高い位置にある文字だが、ぎりぎり届くな。

 これを触ったら情報がわかるということか。

 俺はためらうことなく、その名前を触った。

…………………………………………

名前:シエル・フワンフワン・シャイン

種族:ダンジョンフェアリー

年齢:十八

状態:契約(パートナー:バス・タード)

スキル:補助魔法MAX・回復魔法MAX・生活魔法5・攻撃魔法3

特殊スキル:ボスモンスター召喚(十年に一度)・混沌迷宮転移魔法

称号:不運に愛されしもの・通訳者・ダンジョン学園首席卒業者

備考:無し

…………………………………………

「なんで私の情報を見ているのよ! ……どうかしら?」

 怒って言ったシエルだが、思い直して俺に感想を求めて来た。

「……不運に愛されしものって」

「そこ以外の感想を求めているのよ……もういいわ」

 とシエルが怒ったが、想像以上だった。

 ダンジョン学園なるものがあるのは気になるけれど、そこの首席卒業者で、しかも魔法もかなり使える。俺ってもしかしていいパートナーに召喚されたのかもしれない。

「次は俺の情報を見るか」

 触手を伸ばし、俺は自分の名前を触った。

 期待半分、不安半分だな。

…………………………………………

名前:バス・タード

種族:スライム

年齢:一日

状態:契約(パートナー:シエル・フワンフワン・シャイン)

スキル:触手1 溶解液1 自己再生1

特殊スキル:魔法無効

称号:元人間・ボスモンスター

備考:前世の知識と記憶一部有

…………………………………………

「……ほぉ、魔法無効か。なかなかだな」

 つまり、俺は魔法に対して無敵の性質を持つということだ。

 スライムは魔法が苦手な魔物なので、このスキルはかなり有用だ。

「でも年齢が一日って、俺って生まれたばかりなのか……ってシエル? どうして涙を滝のように流してるんだ?」

「やっぱり私は不幸なのよ」

「は? なんでだよ」

「魔法無効」

 とシエルは右手人差し指をスクリーンのその文字に向けた。

便利な力だと思うが、どうして?

「って、もしかして、魔法無効って敵の攻撃魔法だけじゃなくて――」

「補助魔法や回復魔法も無効になるわ。鑑定サーチアイを使ってもタードの情報を読み取れなかったのはそのためよ。補助魔法が使えない以上、タードはただの魔法の効かないスライムってことなの」

 泣きながら、シエルは「やっぱり私って不幸」と嘆き出した。

現在の課題 (クエスト)

・ダンジョンの経営方法について学ぼう(complete)

・自分の能力について知ろう(complete)

・ゴブリンを勧誘してみよう(new)

・ダンジョンを拡張しよう(new)

・ポイントを100ポイント貯めよう(new)

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