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そのダンジョン、冥界の狭間につき・1

 空を見上げると、太陽が沈んだ直後のような紫色の空が広がっていた。先ほどまでの青い空は見えない。

「ここが冥界との狭間か。随分陰気臭い場所だな。ここがクロウリーのダンジョンなのか」

 と俺は草一本生えていない荒野を見た。建物らしき陰は見えない。

 俺の予想だと、町があると思ったんだがな。

「いいや、ここは私が見つけた狭間の空間じゃないよ」

「は? どういうことだ?」

「直接乗り込むことができなかったのでね。別の空間を作らせてもらったのさ。この道を真っ直ぐいけば、目的の場所に着くよ」

 とババアの指差す先には人ひとりがぎりぎり通れるような道がある。その両脇は奈落の底――落ちた先に何が待っているのか、想像するのはバカらしくなる。

 たとえ何が待っていようとも落ちたら死ぬことくらい簡単にわかるのだから。

「さっきも言ったが、補助魔法、『冥界王の護符(ハデスタリスマン)』の効果は二十四時間だよ。それまでにここから脱出しないと大変なことになるよ」

「効果が切れたらどうなるんだ?」

「そうだね。徐々に魂が肉体から解き放たれていき、下手すれば二度と地上に戻れなくなるよ。体が青く光れば危険だから――」

 とババアが言った時だった。

「ご主人様っ!」「タードっ!」「タード様っ!」

 ムラサメ、アドミラ、ペスの三人が一斉に声をあげた。

 そして、三人とも俺を指差している。

「ん……」

 と俺は触手を伸ばしてみると、触手が光っていることに気付いた。

「タード様は魔法無効のスキルをお持ちですから、『冥界王の護符(ハデスタリスマン)』の効果がないのでしょう」

 モルモルが淡々と事実を告げる。

「あぁ、それで光ってるのか」

 と俺は触手を見詰めている。

 まぁ、冥界王の護符(ハデスタリスマン)の効果がない事は最初からわかっていたんだが。暫くすると、青い光が徐々に弱まっていき、元通りになった。

 触手をねじってみるが、光る気配はない。

「よし、大丈夫そうだな」

 触手をひっこめて俺は快活に笑った。

「大丈夫って、そんなわけなかろう。一体なにをした!」

「何をって言われてもなぁ。何故か大丈夫だと思ったら大丈夫だったんだよ」

 細かい理由は本当にわからない。

 一番可能性が高いのは、魔法無効のスキルによって冥界の狭間の空間に耐性ができていることなのだが、それは違うと思う。

 こういう”なんとなく”は俺の失われた記憶に関係あると思うんだが、その肝心の記憶が失われているため、推理のしようがない。

「まぁ、なんともないのなら別にいいんだよ。じゃあワシは帰るからね」

 と不敵な笑みを浮かべて去ろうとするババアに、

「あぁ、一応言っておくけど、俺の迷宮は現在ダンジョン戦管理委員の監視下にあるからな。俺たちがここにいるのをいいことに、変なちょっかいを出すんじゃないぞ」

 と釘をさしておく。このババアは元々シエルがいないうちに俺の迷宮を乗っ取りに来た奴だからな。

「ちっ、わかってるよ。ダンジョンを壊すのなら兎も角、乗っ取るにはあんたをなんとかしないといけないから。あと、元の世界に戻りたければ、ここで私を呼んでおくれ。あの妙な空間、クロウリーのダンジョン領域だっけ? そこにはワシは入れないからね」

 そう言うと、ババアは虚空へと消え去った。

 そして、残された俺たちは目的の場所を目指して歩き始める。


「……ったく、あのババアももっと広い道を確保しろよな」

 と俺は触手を伸ばし、接着粘液を使って全員の体をくっつけた。もしもの時のための命綱になる。

「みんな気をつけろよ。特にミミコって言ってる傍から」

 後ろから二番目、ペスの前を歩くミミコが座り込んで下を覗き込んでいる。

「タードちゃん、凄いよ! 底が見えないよ!」

 とミミコが穴の底を覗き込むと、背中の宝箱から藁と小麦粉の入った袋が落ちていった。

「ほら、何やってるんだ!」

「ごめんなさい。シエルちゃんの藁餅のもと落としちゃった」

「あぁ、そうか。うん。もう何も落とすんじゃないぞ」

 と俺は言って、再び俺を先頭に道を進む。飛び跳ねるように。

 すると、まるで靄の中を進んでいるように何も見えなくなる。

 そして、その靄のような場所から抜けたと思ったら、俺たちは桟橋の上に立っていた。

 恐らく港だったであろう桟橋に。

 そして、眼前に広がるのは、町だった。

 ここがクロウリーのダンジョン――そして、シエルがいる場所に違いない。


「さて、クロウリー。ルール無用のダンジョンバトルの開幕だ。うちのバカを返してもらうぞ!」

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