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そのダンジョンフェアリー、囚われの身につき

(ん……私は)


 シエルの意識が徐々にだが取り戻されていった。

 そして、重い目蓋を開いた時、シエルが最初に感じ取ったのは、酷い虚脱感だった。そのせいで、自分の身に何があったのかはっきりと思い出すのに時間がかかった。


(確か……美味しいスープを飲んでいて急に……)


 とそこで、シエルは目を擦ろうとしたとき、鎖の音とともに彼女は気付く。自分の両腕が壁から伸びる鎖に繋がれていることに。


「……これは」


 思わずつぶやきつつも、シエルは自分の腕の稼働領域を確保するために立ち上がった。鎖は長さに余裕があるので、彼女はようやく目を擦ることができた。

 不幸に身を晒され続けてきたシエルだったため、状況は意外とすんなり飲み込めた。自分はクロウリーに捕まったのだと想像できた。スープに眠り薬でも入っていたのだろうと。

 彼女は周囲を観察する。目の前にあるのは鉄格子の扉だけれども、鎖を信じているのか鍵はかかっておらず、扉は開かれたままになっている。

 苔の生えた壁はじめじめしていて、長年手入れされていないことは容易に想像できた。


(アドミラが見たら絶対に掃除をしているわね)


 とシエルは仲間の家事が万能のメイドを思い出して、こんな時だというのに苦笑した。


(それと、この空気は一体……)


 彼女は鼻で息を吸い込みながら、己の体の変調に気付く。何かいままでと空気が異なるような気がした。

 兎も角、ここを逃げ出さないといけないとシエルは思った。

 自分が眠らされてからどれだけの時間が経過したのかはわからなかったが、それでもこのまま捕まっているわけにはいかなかった。クロウリーの目的が分からない以上、ここにこのままいるのは得策とは言えなかったから。

「ん、やっぱり外せない」

 手首に固定されている枷は素手では外せそうにないし、抜けそうもない。

 ならば鎖を魔法で切るしかないとシエルは思った。それでもダメだった場合は魔法で手首を切り落としてでも脱出しようとシエルは思った。血止めくらいならば自分の回復魔法でもできるし、お金さえ払えばもっと高度な回復魔法で手を元通りにしてくれるはずだと思ったから。

 風魔法の「風の刃(ウィンドカッター)」でまずは試そうと、シエルは詠唱を試みた。


「風よ一陣の刃となりて――」


 とその時だった。シエルを強力な電撃が襲い掛かる。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」


 悲鳴を上げて膝から頽れるシエル。

 タードに遊び半分で流された電気鞭の威力の何倍もある電撃に対し、彼女の意識は辛うじて抗ってみせた。


「おや、お目覚めのようですね、シエル様」


 そう言って現れたのはシエルの部下になると言っていたダンジョンフェアリーのクロウリー。

 彼女の笑みは、これまでシエルに見せていた柔和な笑みとは異なり、まるで邪悪なものだった。


「クロウリー……さん」


 電撃でボロボロのシエルは辛うじてその名を告げることができた。


「言うのが遅れましたが、その鎖は魔力の流れを読み取り電撃を流すようにできています。くれぐれもご注意をください」

「本当に……遅いですね」


 それを先に言われていたとしてもシエルは自分が魔法の詠唱を試みていただろうと思ったが。


「……私を、どうするつもりです?」

「あなたに少し協力をしていただきたいのですよ。あなたは私の目的の鍵なんです」

「鍵?」

「転移魔法です。使えますよね?」


 と言われ、シエルは目を見開いた。


「ははは、正直な方だ。答えは結構、その反応で十分ですよ」

「どうしてその事をご存知なのですか?」


 転移魔法を覚えたのは、つい最近のことだ。そしてその情報はシエルの仲間しか知らないはずだった。


「空間魔法の一種である転移魔法、その魔法の余波はあなたが思っているよりも大きいのですよ。それを感じ取る術を私は知っている。これでも空間に関しては私もかなり勉強しましたからね」

「転移魔法をどうしようというのですか?」

「そうですね、転移魔法の仕組みについて知りたいと思っていたのです。鎖の電撃を一度解除しますから使ってみていただけませんか?」

「……無理です」


 とシエルは言った。


「断っているのではありません、不可能なんです。私の転移魔法は自分のダンジョン領域内でしか発動できません」

「いいから物は試しです。あぁ、もしも別の魔法を唱えようとすれば手動で電撃を流しますのでご容赦の程を」


 シエルは逆らわない。無理な物は無理なのだからと。それに、この魔法は見たからといって簡単に修得できるような魔法ではないから。


「我、かの地の支配者より権限を受けし者なり、我、異能の力により空間を操りし者なり。ここに転移の扉を開かんっ! 『転移扉ワープゲート』!」


 と魔法を唱えた時、信じられない現象が起きた。


「……嘘っ、なんで」


 目の前に転移扉が現れたのだ。

 その向こうにはシエルが何度も食事をとった食堂が見えている。


「お見事、流石はシエル様だ」


 とクロウリーは両手を天に掲げ、


「これで開くことができるっ!」


 ゆっくりと閉じていく転移扉を見て、高笑いをして叫んだ。


「冥界と現世を繋ぐ夢の扉をっ!」


 冥界と現世を繋ぐ扉――その意味が何を示すのかシエルにはわからなかった。


「さて、シエル様。準備には今しばらく時間がかかりますの。何か用事があれば、ここから逃げたいという要望以外でしたら彼らにお伝えください」


 と言ってクロウリーは鉄格子の扉から出て行き、代わりに骨の魔物――スケルトンが現れたのだった。

 クロウリーの言っている言葉の意味はほとんどわからないが、それでも大変なことに巻き込まれたのはシエルにもわかる。


 だから、彼女は今日も呪う。

 己の不幸を。

明日はちょっと書籍化作業の締め切りが重なっていて、更新できません。

今週は水・土・日の更新になります。

毎日更新と言っていたのですが、ご了承ください。

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