その代理、無機質につき・2
混沌の町で俺、ミミコ、モルモルの三人は混沌の町に入った。
俺もミミコももう門番のゴーレムとは顔なじみの為、簡単な受け答えで町の中に入ることができ、モルモルに関しては完全なフリーパスだった。どうやら狐の仮面が特別な意味を持っているらしく、顔パスと言ってもいいだろう。
素顔の見えない人間が顔パスできるというのも妙な話であるが。
「あ、ミミコちゃんだ!」
「ホントだ、アイドルのミミコだ」
「あれがあのミミコか。俺、はじめて見たけど可愛いな」
ミミコに視線が集まる。もうこの町ではかなりの有名人になっているようだ。当然、頭の上のスライムである俺は彼らの視界に入っているだろうがマスコットキャラくらいにしか見ていないかもしれない。
「モルモル、ミミコのための変装の道具を用意してくれ。これじゃ町の中も歩けない」
「かしこまりました」
モルモルはそう言うと走ってどこかに去り、五分もしないうちに戻ってきた。
持ってきたものは、替えの服にそして背中の宝箱を隠すための布か。無難だな。
「まぁいいだろ。ミミコ、それをつけろ!」
「うん♪」
ミミコは俺を降ろすと、近くの服屋に行って試着室を借りて着替えて戻ってきた。
白のワンピースか。
普段のミミコが絶対に着ないような清楚の服だが、このギャップは悪くないな。ミミコの別の一面を見た感じがする。
「いかがでしょう? お気に召さないようでしたら返品交換してきますが」
「袖を通してるのに交換できるのか?」
「袖を通して交換できないのでしたら、試着という制度そのものがございません」
モルモルの言っていることは正しいな。
「それにしても、よくミミコに合う服があったな。背中に宝箱を背負っているせいで、ライブの時の衣装や普段着は全部アドミラの手作りだというのに」
「ここは魔物の町ですから、人に近い姿の魔物でも様々います。例えば悪魔ならば背中の翼を出すための穴が必要になりますし、ミミコさんのように亀の甲羅を背負っている魔物もいますから、そういう魔物のためのブティックに行けば造作もありません」
なるほど――専門店に行ったわけか。
前にシエルと言ったのは古着屋だったから、逆にそういう専門的な服は扱っていなかったわけか。
「ねぇ、タードちゃん、似合う? 似合う?」
ミミコがワンピースのスカートをひらひらさせながら俺に尋ねた。
「あぁ、黙ってたら似合うぞ」
「じゃあ、黙ってるね♪」
ミミコは口を噤み、俺をじっと見つめる。
十秒後。
「ねぇ、いつまで黙ってたらいいの?」
「……ミミコはやっぱりミミコだな」
「うん、ミミコだよ♪」
それでもまぁ、ミミコが着替えて戻って来たから周囲からの視線は無くなった気がする。
背中の宝箱を布に包んで背負っているように見えるため、かなりの大荷物を持っているように見えるが。
「ねぇ、タードちゃん。ミャーちゃんにお金を返しに行くの?」
「返さねぇよ。無利子で借りてるんだからな。まぁ、来月くらいから分割して返していくさ」
ニキティスも最初から俺が即返金するとは思っていないだろう。
「そうだな、お前たちはふたりで食事でもしてもらって、その間に俺は娼館にでもいくか」
「タード様。この町の娼館は二カ所。プリンセスサキュバスは本日は改装のため臨時休業。フェアリーの休息所のみ開いています。そのため、フェアリーの休息所に客が集まり大変混雑。タード様のお気に召す方が空いているとは思えません」
「……お前、なんでそんなことまで知ってるんだ?」
「主人の望むことを調べるのが、ダンジョンフェアリーの務めです故」
優秀だな。でも、表向きだけだ。
「甘いな、モルモル。お前は確かに優秀だが――」
「裏娼館の天使のスナイパーでしたら、今頃、風鬼委員によって摘発されています。あそこの経営者は人間の女性を拉致して働かせていましたので」
「――っ!?」
確かに裏娼館に俺は行こうとした。その店が裏で人間の拉致なんてしていることは知らなかった。
だが、このタイミングでまさかの裏娼館摘発、偶然とは思えないんだが。
「もしかして、お前の仕業か?」
「はい。ダンジョンボスが違法店に通っていることを知られたら、ダンジョンに悪影響を及ぼします故、手を打たせていただきました」
「俺はそんなことを望んでいないが?」
「ダンジョンフェアリーはダンジョンボスに仕える。それ以前に、ダンジョンを守るのが仕事です故」
モルモルは淡々と受け答えをした。
「もしもお暇でしたら、ミミコ様の仕事ぶりをご覧になさってはいかがでしょうか? タード様が直接指揮をなされば合成メダルの補給もできますし、私も客の整理を致しますから」
なんだ、この理詰め。
断る理由が見つからない。このままだと、俺の悠々自適のダンジョンボス生活に、仕事を放り込まれてしまうことになるぞ!




