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プロローグ

今回から4.5章です。

やっていることは普段と変わらない気もしますが、4.5章です。

 ダンジョン。魔物と冒険者が命を懸けて戦う場所であるのだが、いまのところはそれほど大きな変化はない。冒険者が時折訪れてはベビースライムを捕獲したり、リザードマンを倒してはその皮を剥いでいったりする。

 そんなダンジョンの奥にあるボス部屋のさらに向こうのプライベートエリア。

 その日、ダンジョンの幹部が集まって食事をしていた。ただし、ムラサメだけは食事の必要がないので狩りを行っているが。

 

「タード、なんで私のスープだけ具が入ってないのぉぉぉぉっ!」

「……誰のせいで借金塗れになったと思ってるんだ? そのくらい我慢しろ。カロリーとして藁を用意している」


 と俺はシエルの前に藁を大量に置いた。


「牛じゃないんだから藁なんて食べな――これ食べたら牛みたいに胸が大きくなるかしら?」

「シエル、もしよかったら藁を調理しようか?」


 とアドミラが藁を見て尋ねた。


「できるの? 藁から料理が?」

「前にムラサメから藁餅っていう料理の作り方を聞いたんだよ。米粉はないけど小麦粉を代用したら食べられるようにはなると思うよ」


 アドミラがどこからともなく小麦粉の入った袋を取り出して言った。

 どうやらアドミラはシエルのためというよりかは、新作料理を作ってシエルを実験台にしたいらしい。だが、残念ながら、シエルの舌はあてにならないと思うぞ。

 なんて思いながら、いつも通りの食卓が進んでいた。

 ペスに塩を取ってもらっていると、ミミコが何も考えずに俺の料理を食べようとし、俺が止めるそんな光景の中、ポツリとシエルが呟いた。


「アドミラが天使に見えるわ。あ、アドミラが天使ならタードは悪魔ね」


 その台詞がきっかけだったと、俺は後にして思うことになる。


「俺が悪魔ならシエルは疫病神か? ったく、借金ばかり作りやがって。少しはダンジョンのために働けっていうんだ」

「何よ、それだと私が何もしていないみたいじゃない! 私だって毎日光魔法による照明や罠の点検をしているし、ファーストチキンやゴブリン、リザードマンたちとの仲立ちだって私がしてるのよっ! 何もしていないのはタードの方じゃない」

「俺が何もしていないだと? 俺だって毎日周囲の監視はしているし、お前と違って不幸を撒き散らかしていないよ」

「……好きで不幸を撒き散らかしているわけじゃないわよ……アドミラ、藁はまた今度でいいわ。私は草を食べてくるから」


 シエルはそう呟くと、スクリーンで目的の森エリアに誰もいないことを確認し、転移扉を開き、部屋を出ていった。


「タード、ちょっと言いすぎなんじゃないか?」


 アドミラが藁を見て小さく息を漏らした。


「……いいんだよ、別に」

「タードちゃん、シエルちゃんと喧嘩したの?」


 とミミコがシエルが置いていった藁とアドミラが置いた小麦粉を背中の宝箱に入れながら尋ねた。ちなみに、ミミコの今の行動の意味は俺たちにもわからない。


「別に喧嘩なんてしてねぇ。それより、アドミラ、スープおかわり頼んでいいか?」

 と俺は空になったスープ皿をアドミラに渡すと、

「悪い、タード。スープはもう全部よそっちまって。あたしのでよかったら半分飲む会? 別にタードのためってわけじゃなくてだな、あたしもダイエットでもしようかって思ってさ」

「いや、ないのならいいんだ――あとアドミラ、絶食ダイエットは胸が縮むからやめておけ」

 と俺は言って、スープを掬っていた匙をテーブルの上に起き、椅子から飛び降りた。

 空気がギスギスしている。

 原因は俺にはわかっている。無性に腹が立つんだよな。シエルがイディオってやつに気をかけていることに。

 俺は嫉妬しているんだ。

「飼い犬がよその主人に懐く気分ってこんな感じなんだな」

「タード様、僕のこと呼びましたか?」


 とペスが俺の顔を覗き込むように見てきた。どんぐり眼の瞳が俺の姿を映し出す。


「いや、そろそろ魔物を増やそうと思ってな。ペスはどんな魔物を仲間にしたいんだ?」

「スケルトンという魔物に興味があります」


 ペスが尻尾を振って答えた。


「一応言っておくと、魔物は食べ物じゃないからな? ダンジョンの魔物の主食の大半がベビースライムであるから説得力はないが」


 飼い犬という言葉に反応したり、骨が好きだと言ったり、ペスは本当にコボルトとしての本能を残しすぎだろ……いや、むしろコボルトの時のほうがいろいろと自制できていた気もするぞ? あの時は復讐で頭がいっぱいだっただけかもしれないが。


「いえ、骨が食べたいとかそういう理由ではなく。勿論骨も好きですけど。ただ、聖騎士をおびき寄せるには不死生物アンデッド系の魔物を配置すればいいんじゃないかとシエル様から伺ったもので」

「……あぁ、なるほどな。でも言っておくがお前でもあのトールには敵わないぞ。少なくともムラサメから一本取れるようになっておけ」

「はい、かしこまりました」


 あの戦いの後、ペスとムラサメの修行は毎日のようにボス部屋で行われていた。ムラサメのほうが圧倒的に力があり、ペスの連敗が続いている。

 五十万ポイント――正確には四十五万ポイントを使ったコボルトよりも、その十分の一もポイントを使っていないムラサメのほうが強いというのは、コボルトの本来の弱さを嘆くべきか、それともムラサメが最初から強かったのか、という感じだ。

 ただ、ペスが連敗を続けるのはまだまだ自分の肉体の能力を限界まで引き出せていないかららしく、もう少し修行を続けたらいい勝負ができるのではないかとムラサメが言っていた。

「勿論、負けるつもりはありませんが」

 と言ったムラサメは女ながらに男らしいと思ったものだ。


「はぁー、お腹いっぱい。ご馳走様」

 ミミコが満足そうに、食べかすのついている口を緩めた。

 本当にミミコはいつでも幸せそうだ。

「シエルちゃんもお腹いっぱいになったら幸せになれるのかな?」


 あいつが幸せになったら、不幸に愛されし者の称号のせいで大きな不幸を呼び寄せそうだが。

 俺はポイントを確認し、コッペパンを購入。


「アドミラ、シエルが帰ってきたらこれをわけてやれ」

「タードから渡せばいいんじゃない?」

「いいんだよ――ほら」


 俺がコッペパンをアドミラに投げたとき、ムラサメから連絡があった。


『ご主人様、近くの廃坑でスケルトンの一団を発見しました。とりあえず全員気絶させて縄で縛っていますが、どうなさいますか?』


 おいおい、タイミング良すぎるだろ。

 でも、スケルトンなんて仲間にできるのか?

閑章なのでクエスト関係は一度放置です。

ところで、閑章ってよく小説等で使われますが、これって本来は遊印(姓名や雅号、商号や屋号など特定の個人や法人に帰属しない文字 を印文にした印章のことである)って意味なんですよねー

いやぁ、間違えた間違えた。


ところで、4.5章ですが、裏連載の2.5章みたいなぐだぐだ短編集ではなく、まともな話になります。シエルがヒロインって時点でまともとは言い難いですが。

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