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そのお嬢様、自称ライバルにつき・3

「ダンジョンバトル? 本気で言ってますの?」

「当然本気だ。といっても練習試合だからな。いろいろとルールを決めさせてもらう」

「ちょっと、タードっ! 私たちはそんなことしてる場合じゃ――」

「少し黙れ、シエル。命令だ」

 俺の命令でシエルが口を閉ざす。が足をドタバタして文句を伝えようとしている。

「ルールはいたって単純だ。俺の迷宮にあんたたちが攻め込む。ボス部屋まで到達できたらあんたたちの勝ち、到達できなかったら俺たちの勝ちだ。そうだな、制限時間は一時間でどうだ?」

「短すぎるのでは?」

「俺の迷宮の地図を送ってやる。直線距離だと一キロもない。歩いても十五分あったらゴールに着く」

「それだと逆に私たちに有利すぎますわ」

「じゃあ制限時間四十分だ。賞品は名誉のみ。ダンジョンバトルの予行演習のようなものだ。どうする? 決闘の申し出をしたお前に聞くのはどうかと思うが、逃げるなら今のうちだぞ」

「……いいですわ、その勝負受けて立ちます」

 よし、話は纏まったな。

 そして、俺たちはダンジョンバトル申請所に行き、詳しいルールを取り決めた。


・勝負は三日後の夜零時。

・モンスターの数は無制限。ただし傭兵の利用は禁止。

・ボスモンスターへの直接攻撃は禁止。

・ボスモンスターには頭の上に紙風船を乗せる。

・ボスモンスターの紙風船が割れた時点で割られたチームの負け。

・攻撃側のスタート地点はダンジョンの入り口付近。

・ダンジョンの外の罠の設置は禁止。

・入り口及び通路の扉の施錠は禁止。

・攻撃側は四十分以内にボス部屋に到着――もしくは敵ボスの紙風船を割れば勝利。

・防御側は敵が上記の条件を満たせなかった場合、もしくは敵ボスの紙風船を割れば勝利。

・防御側は一日以内に迷宮の地図を攻撃側に提供する。


 そのルールを確認し、俺とマーレはそれぞれサインを書いた。

 それにより、このルールは絶対のものとなるそうだ。

 こうして、ダンジョンバトルの申請は終わった。

「せいぜい首を洗ってまっておくことね、スライム」

「洗う首なんて持ってないけどな」

「うっ、そうでしたわね――では、失礼しますわ。さっそく攻める魔物を選別いたしませんと。そして、ダンジョンバトルが終わった暁には私が真の首席となるのですわ。おーほっほっほっほ」

 とニキティスはマーレと一緒に高笑いとともに去っていった。

「にぎやかな方ですね」

 ムラサメはニキティスを睨みつけるように言った。

「……だな。俺はあんまり嫌いじゃないけどな、ああいう奴。で、シエル、いつまで黙ってるんだ?」

 俺が尋ねると、シエルは口をぱくぱくさせて抗議してきた。

 俺はその唇の動きをよく見て、

「何言ってるかわからない、帰るか」

 というとさらに顔を真っ赤にさせて抗議してきた。冗談のわからない奴だ。

「喋っていいぞ」

「タードっ! 何してるのよっ! 今がどういう状態かわかってるの!? 私たちは一日でも早く盗賊を退治しないといけないのに、ダンジョンバトルなんてしている暇は――」

「は? 対処しただろ」

「え?」

「だから、ダンジョンバトルという名目で、ニキティスの魔物たちに盗賊を襲わせるんだ。曲がりなりにもドラゴニュートをボスモンスターにしている奴らだ。俺たちがあれこれ策を練って戦うよりも楽に事が運ぶよ」

「あぁ、そういうことなの――でも勝負はどうするのよ」

「負けてもいいだろ、んなもん。得られるのは名誉だけって言った。何も賭けてないから、盗賊を退治してもらったらとっとと負けて帰って貰えばいいさ」

「そう……そうよね」

 とシエルは何か少し残念そうに言った。

 もしかして、こいつ――やるからには本気でダンジョンバトルをしたかったのか?

「まぁ、でも最低こっちも準備くらいはしないとな。とりあえず、こっちにはムラサメもいることだし、ゴブリンくらいは勧誘して、あと俺たちの強化を図らないと。負けてもいい試合とはいえ、勝ったらいけないってわけでもないんだし。隙を見て勝つのも悪くないか」

「――うん、そうね!」

 シエルが笑顔で頷いた。

「じゃあ、とりあえず飯でも食って帰ろうぜ。シエルはコッペパン一個な」

「え? コッペパンを貰えるのっ!? 本当に――!?」

「……いや、コッペパン一個で喜ぶなよ。普通に飯食べに行くつもりなんだから」

「普通にご飯って草のこと? あ、リッシュ、シルエッタ、また今度ゆっくり水でも飲みましょ」

「普通のご飯が草って……ムラサメは何を食べたい?」

「私はカタナなので食べるものは特に必要ございません」

「うちのパーティは本当に食に無頓着だな。まぁ、俺も土でも食ってれば栄養的には問題ないんだが――とりあえず定食屋で日替わりランチ食べようぜ。ここに来るまでに一軒あったから」

「本当!? 本当に日替わりランチ食べていいの? 私が? 私がランチなんて食べていいの? ……生きててよかった」

「あぁ、食べていいから涙を流すなっ! かっこ悪い」

「ご主人様、武器屋もあとで行きましょうね」

「あぁ、わかってるよ。見るだけだからな」

 と俺たちは大きな声でバカな会話をしながら、大通りを歩いて行った。


   ※※※

 

 残されたリッシュとシルエッタはシエルたちを見て笑った。

「シエルちゃん、幸せそうだね」

「スライムに餌付けされるってさすがはシエルって感じね」

「うん。そんなシエルちゃん……やっぱり萌えるよね」

「萌えるね。あぁ、シエルをお嫁にしたいよ」

 シルエッタとリッシュ。シエルの友人である彼女たちは、同時にシエルちゃんファンクラブの会員であることを、シエル本人は知らない。そしてその隠れ会員にニキティスが入っていることも当然知らない。

 ちなみに、ファンクラブの活動はただひとつ。

 シエルの不幸っぷりを愛でること、それだけだった。

現在の課題 (クエスト)

・ダンジョンバトルの約束を取り付けよう(complete)

・盗賊の対処をしよう(complete)

・取引所へ行こう(failure)

・武器屋へ行こう(complete)

・ダンジョンバトルの準備をしよう(new)

・今度こそゴブリンを勧誘しよう(new)

・100ポイントを使ってタードを強化しよう

・盗賊を四日以内に皆殺しにしよう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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