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そのお嬢様、自称ライバルにつき・2

 俺はムラサメの頭の上で方向転換し、声のした方向を見た。

 そこにいたのは、緑色のショートヘアのボーイッシュな女の子と、長いツインテールの温和そうな女の子だった。ふたりともシエルと同じ制服を着ている。

 ふたりは手を振ってシエルを呼び止めると、こちらに小走りで近付いてきた。

「や、やぁ、リッシュにシルエッタ、久しぶりね。じゃあ私はこれで」

 と立ち去ろうとするシエルをふたりは呼び止め、ボーイッシュガールの女の子がシエルの腕を掴んだ。

「シエル、何右手と右足を同時に出して立ち去ろうとしているのよ」

「そうだよ、シエルちゃん。私たち心配したんだからね」

「し、心配してくれてありがとう。でも私は元気だから。リッシュ、その手を放して」

 とシエルが言うと、無言で見ていたムラサメが口を開いた。

「皆さま、シエルさんのお友達ですか?」

 そう尋ねると、そこでボーイッシュガール――リッシュとツインテールガール――シルエッタはムラサメがシエルの連れだと気付いたようで、

「はい。私たち、シエルと同期の卒業生なんです」

「六年間同じ班だったんですよ――あの、もしかしてシエルちゃんが召喚したボスモンスターの方ですか?」

 とシルエッタはムラサメを見上げて尋ねた。

 が――

「いいや、ボスモンスターは俺だ。俺――バス・タードがシエルに召喚されたボスモンスターだ。このムラサメは俺の配下の妖刀だ」

 とムラサメの上で飛び跳ねた。

 ふたりがどんな顔をするか楽しみだった。が、少し驚き固まった後、

「よかったぁぁ」

 と胸を撫でおろした。

「……え?」

 驚いたのはシエルだった。

「シエルちゃん、本当に心配したんだよ。シエルちゃん、不幸だから召喚したモンスターと契約できなくて泣いてるんじゃないかとか、もしくは召喚したモンスターに襲われたりしていないかって」

「その様子だとちゃんと契約できているみたいだしね。しかも人型になれる妖刀を配下にしてるんだ。ただのスライムじゃないんだろ?」

「わ、笑わないの?」

 シエルが恐る恐る尋ねると、ふたりは同じ動きで首を横に振り、

「「笑わない笑わない」」

 と言った。

「よかった。召喚したのがスライムだなんて知られたら絶対に笑われると思ってたわよ」

「むしろシエルちゃんらしいよ。ミャーちゃんも心配してたよ。シエルちゃんから連絡はこないのかって会うたびに聞いてくるんだから」

「そうそう、ミャーの奴本当にシエルのことが好きだからな」

 シルエッタとリッシュが俺のわからない会話をする。

 んー、つまらんな。てっきり散々笑われてシエルが泣いて逃げ出すかと思ったが。

 そのあと、シエルはふたりがどんなボスモンスターを召喚したのか聞いた。

 リッシュはリビングメイル、シルエッタは鳥の魔物を召喚し、今はボス部屋で留守番させているそうだ。

 その名前を聞いて、シエルが小さな声で「いいなぁ」と言ったのは絶対に忘れてやらない。

 そして、話が終わってからふたりは俺を見て言った。

「タードさん、ムラサメさん。どうかシエルちゃんをよろしくお願いします。シエルちゃんはとても努力家でいい子なんで」

「シエルの不幸も慣れたら面白いしね」

 ……いい友達を持ったんだな。

 はじめてシエルが羨ましいと思った。

 俺も記憶を失う前はこういう友達が――とふと変なものが脳裏をよぎった。


 なんだ? 三人の人間?

 ふたりが女で、ひとりは男だった――というのはわかるが、それが誰なのかは全く分からないし、もう顔も忘れてしまった。

 もしかして、俺の失われた記憶と関係あるのだろうか?


「ところで、シエルは何をしに来たの? 私たちは食料を買いに来たんだけど」

「ん? あぁ、そうだった。魔物を借りたいんだけど、人間を軽く殺せる強い魔物って借りようと思えばいくらくらい必要なんだ?」

「人間の強さにもよるけど。どんな魔物を希望してるの?」

「ミノタウロスくらいならいいが」

「レベルや大きさによるけどミノタウロスなら一日三万シールが相場だね。怪我をしなかったら九割返ってくるけど」

 とリッシュが言った。完全に予算オーバーだ。半額分すら用意していない。

 そうか、レンタルといっても魔物が死ぬことがあるから補償金の支払いも考えないといけないのか。

 かといって借りるランクを落としてもなぁ。

 そう思った時だった。

「おーほっほっほっほっほっ! お久しぶりですわね、シエル・フワンフワン・シャイン!」

 高らかな笑いとともに登場した白いドレスの女。センスを握り優雅に歩いてくる。

 金色のロール髪。

 間違いない、こいつはお嬢様だ。

「「「ミャーちゃんっ!」」」

 シエル、リッシュ、シルエッタが同時に声を上げた。

「ミャーちゃんって呼ばないでくださいますっ! 私はニキティス・ミャーミャー・フレイム! 呼ぶならニキちゃんにしなさいっ!」

 ニキちゃんでいいのかよ。

 シエルといい、ミドルネームは変な名前しかないのか? ダンジョンフェアリーは。

「えぇ、ミャーちゃんのほうが可愛いよ」

 シルエッタが文句を言うが、ミャーちゃん――もといニキティスは扇子を閉じるとその先をシルエッタに向け、

「お黙りなさいっ!」

 と声を上げて言った。

「ニキちゃん、久しぶりね」

「ええ。へぇ、この方があなたのボスモンスターですの? はじめまして、わたくし、ニキティス・ミャーミャー・フレイムと申します」

 とシルエッタは恭しく頭を下げた。

 そういえば忘れていたが、立場で言えばボスモンスターのほうがダンジョンフェアリーよりも上だった。ニキティスとシエルが同期なら、相手のボスモンスターに敬語を使うのは当然のことなのか。

「わたくしのボスモンスターも紹介いたしますわ」

 と言うや、彼女の背後にその女性は現れた。

 褐色肌、黒髪の線の細い女性。青色の鎧を着ていて、特徴はその耳。兜のデザインのため耳飾りのようにも見えるが、あれはヒレだ。

 竜人ドラゴニュート――その中でも海竜族の竜人ドラゴニュートだろう。

「某、マーレと申します。修行中の身ですが、なにとぞよろしくお願いいたします。さすがは我が主様が一目を置くシエル様が召喚されたボスモンスター。なかなかの達人のようですな」

「マーレ、余計なことは言わなくて結構よ」

「失礼いたしました」

 ……あれ? なんでこいつら主従入れ替わってるんだ?

 ボスモンスターが主君だろうに。

「先ほどから勘違いなさっているようですが、私はボスモンスターではありません。私は頭の上にいらっしゃるスライム――バス・タード様に仕える一介の魔物にすぎません」

 今度はムラサメが訂正した。

「へ? スライムがボスモンスター……ですの?」

 とニキティスが尋ねた。

「あぁ、その通りだ。俺がボスモンスター、バス・タードであり、このシエルの主君だ」

 今度こそ大笑いが起きる――そう思ったが、違った。

 ニキティスの表情がみるみる赤くなる。

「見損ないましたわ、シエル・フワンフワン・シャイン! わたくしを唯一負かしたあなたがスライムを召喚するなんて――」

「ニキちゃん、ボスモンスター召喚は運だから」

「お黙りなさいっ!」

 シエルに対して本気で怒るニキティス――俺はシルエッタの頭の上に乗って彼女に尋ねた。

「あのふたり、仲が悪いのか?」

「んー、どうなんだろ。ミャーちゃんは学園次席だから、首席であるシエルちゃんにいつもライバル心を燃やしていたの」

「なるほどな」

 つまり、ライバルと思っていた相手があまりにも不甲斐ないから怒っているというわけか。

 勝手な話だ。

「ライバルと思っていたあなたがスライムに仕えて、情けなくないのですの? わたくしが同じ立場だったらこのたかがスライムと契約などせず、十年休みますわよ」

「訂正していただこう。ご主人様への無礼な言動は許せません」

 そう言ってムラサメはカタナを抜き、ニキティスに向けた。

 だが、即座にふたりの間にマーレが割って入る。

「主君を想うそなたの気持ち、某も共感できる。だが、我が主君に刃を向けることはまかりならん。刃を下げられよ」

「カタナを下げる前に先の言葉を訂正してもらおう」

「いいえ、訂正などいたしませんわ。タードと言いましたわね。私の言葉を訂正してほしくば、わたくしと決闘をなさい」

 とニキティスは俺に手袋を投げてきた。決闘の挑戦状のようなものだ。

「ちょっと、ニキちゃん! 私はそんなことをしている場合じゃないの。私は――」

「いいぜ、受けてやるよ――その決闘をよ」

 そして、俺は覚えたばかりの言葉を彼女に告げる。

「ただし、勝負方法はダンジョンバトルだ」

現在の課題 (クエスト)

・ダンジョンバトルの約束を取り付けよう(new)

・取引所へ行こう

・武器屋へ行こう

・盗賊の対処をしよう

・盗賊を四日以内に皆殺しにしよう

・100ポイントを使ってタードを強化しよう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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