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その行方、所在不明につき・4

 哺乳瓶のような形の柔らかい容器の中に触手を押し込め、接着粘液を搾りだしていく。接着粘液は空気に触れることでその粘着性を生み出すため、こうすることで極力空気に触れさせないことで容器の中に保存することができるそうだ。

 シエルがこの容器を喜び勇んで買ってきて、これに接着粘液を詰めて売れば大儲けできるんじゃない? みたいなことを言ってきたことがあった――面倒くさいし、なによりそれで実際に儲けてシエルにドヤ顔をされるとうざいのでその案は却下し、シエルには容器代分コッペパン抜きを言いつけたのだが、こうしてみると売らないにしても時間のある時に接着粘液をためておけるのは便利だ。

 それほどまでに、俺たちは現在八方塞がりだった。

 行方不明のシエル――マギノ町にいる可能性が高いが、探しに行くことはできない。

 援軍として、今やある程度は命令できるアストゥートや、ニキティス、リッシュ、シルエッタたちのボスモンスターに助力を請おうにもシエルがいないと混沌の町に行くことができない。唯一できることとして、今現在、キラーアントたちに通路の一部を通り難くしてもらっている。完全に通路を塞いでしまうとダンジョン領域がそこで途切れてしまい、村の様子を見ることができない上、簡単に壊せないくらいに穴を塞げばダンジョン領域の再設定が必要になり莫大なポイントを損することになる。魔物で通路を塞ぐ分には問題ないので、ポイントを消費してクレイゴーレムスポーンに擬態能力を高める設定をし、通路を塞ぐようにした。だが、これもあのトール相手にどこまで通用するか。

 スクリーンを見ても、今もなお暗闇のドームは消える気配がない。ラズベリーとトールが何を話しているのか、中で何が起こっているのかさっぱりわからない。


「くそっ、こんなことなら情報を集める魔物を用意するべきだった」


 迂闊だった。

 情報を制する者は勝負を制する。

 そんなの常識どころではない、最弱であるスライムにとって情報こそが命綱のはずだったのに、そこを怠った。いや、もちろん情報を集めるための努力は欠かしていない。だからこそマギノ町に行ったのだから。

 それでも、ダンジョンの中で起こる出来事に関してはスクリーンでいつでも覗けるから大丈夫だと高を括っていた。油断していた。

 魔物の中には影に身を潜めたり、一キロメートル以上先の音を聞き分ける種族がいる。そういう種族を取り入れなかったのが今になって悔やまれる。

「ご主人様、私が直接行って――」

「だめだ。お前は妖刀、その禍々しいオーラは以前に比べればストレスも発散して幾分かマシになっているとはいえ簡単に消せるものではない。忘れたのか? 百メートル以上離れた茂みの中でもあの聖騎士――トールに簡単に見つかっただろ」

 ムラサメはトールがいる間、ダンジョンの中から出すのは愚策でしかない。トールが俺たちのダンジョンに用事があるとは限らないのだから。

 だが、カレイナの魔法は明らかにこちらの目を警戒している証拠でもある。

 こちらに悟られては困ることがあるということだ。


「……トール、カレイナ、ラズベリーの三人。カレイナの動きがわからない以上、俺たちの味方になってくれそうなのはラズベリーだけか」


 だが、どうやってラズベリーとコンタクトを取るか。

 トールは今夜、ラズベリーの家で厄介になると言っていた。

 とすると、ラズベリーはトールが村にいる間、ダンジョンに来る可能性は非常に低い。というか、村から出ない可能性が高い。

 となると、やはりこちらから誰かが出向かねばいかないわけだが、ベビースライムはたとえ知性を持たせてもラズベリーの元までたどり着けない。その前に村の誰かに捕まって食べられる。ペス、ゴブリン、リザードマン、ゴーレムたちは論外だ。人間を襲う魔物が村に入ったら村はパニックになるし、トールに殺される。

 となると――やはりあいつらしかいないか。


「ムラサメ、奴らのところに出向く」

 と言って、俺はムラサメの頭に触手を伸ばし、伸縮スキルを使ってその頭の上に飛び乗る。そして、ひどい表情でスクリーンに映る黒いドームを見つめているペスを見た。

『お前はこの森で待機してろ。お前は今日はダンジョンから出るな、今日はゴブリンの村に行くのも禁止だ――これは命令だ』

 とゴブリン語で伝えると、ペスは暫く黙り、

『……かしこまりました』

 と頷いた。

 よし、これで大丈夫だろう。ムラサメに、俺のゴブリン語のアクセントが間違えていないか確かめたが正しい発音だったようだ。

 そして、俺はダンジョンを入り口方向に進む。勿論、冒険者は警戒しているが、奴らの居住区の一部はダンジョンの休憩ポイントよりも奥にあり、冒険者はそこにはほとんどいない。

 その居住区とは、小さな穴だった。

「ムラサメはそこで待っていろ――ロリサメならともかく、今のお前だと入れないからな」

「はい、ご主人様」

 ムラサメが俺を優しく抱え上げ、その穴の前に置く。

 そして、俺は穴の中に入った。

 薄暗い通路があり、そこを抜けると――


 そこは黄色い鳥獣たちの巣窟――ヒヨコたちの住処だった。

 俺がもう少し前に出れば、そこからダンジョンの入り口にあるヒヨコ観察コーナーにいる冒険者に見られてしまうが、ここは死角のため冒険者たちに俺の存在が気付かれる恐れはない。

 俺がその住処に入ったことに一羽のヒヨコが気付いた。そのヒヨコが「ピヨ!」と泣き声をあげると、ヒヨコたちが一斉に俺の周りに集結し、右翼を上げて挨拶をした。


『ピヨっ!(最愛なる父上のご到着だ! 皆の者、敬礼っ!)』


 ヒヨコがピヨピヨ何か言っているが、全然わからないな。でもシエルが言うにはこっちが言っている言葉は大体理解できるそうだし――もうこいつらに頼るしか道はない。

現在の課題 (クエスト)

・ラズベリーと接触しよう(new)

・シエルを探そう

・勇者について調べよう

・10000ポイントを使ってタードを強化しよう

・エロいサキュバスを配下にしよう

・アドミラの胸を吸おう

・一年後の新人戦に備えよう

・冒険者を迎撃できるようになろう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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