その森、ダンジョン内の施設につき
ペスの話の途中ですが、ちょっと間にこれをねじ込みます。
「タード、これは一体なんなのっ!?」
いつものことながら、スクリーンに映っている景色を見て、シエルが突如としてそんな質問をしてきた。
見てわかるものを何かと尋ねるのがシエルの中のブームなのだろうか? そのうち私は一体誰なの? と言い出さないか心配だ。
まぁ、俺は心優しいスライムだから、それが何なのか答えてやることにする。
「見ればわかるだろ、森だよ」
「見ればわかるわよっ! なんでダンジョンの中に森があるのかって聞いてるのよっ!」
そう、スクリーンに映っている景色――それは森であり、そしてダンジョンの中だった。
「ダンジョンに森を作るのは結構大変だったんだぞ。休憩所より先のフロアを森に作り替えた。植物に必要なのは光、水、空気だからな。水源と光、あと育った森はダンジョンポイントを使って用意した。五本に一本はファイヤーファイトツリーという名前の木でな、中に大量の水分を蓄えていて火事になるとその水で消火するんだ」
「私は森について聞いているんじゃないの。なんで森をわざわざダンジョンの中に作ったの? それと、どれくらいダンジョンポイントを消費したの?」
「まず、ポイントに関していうと、ほぼ全部だな」
「ぜん……っ……うそっ、なんでそんなバカなことを……」
「仕方ないだろ。水源地を用意するのに莫大なポイントが必要だったんだから」
「そうじゃなくて、なんでわざわざ地下に森を作ったのかって聞いてるのよ」
「よし、問題だ。どうして俺は地下に森を作ったと思う?」
俺の問いに、シエルは急に黙り、額に手を当てた。
「うちの戦闘のメインは現在、リザードマンエース。でもリザードマン種って本来は洞窟じゃなくて森に生息する種族で、本当ならばダンジョンの外の森に棲みたいはずだけれども、リザードマンエースみたいな凶暴な魔物をダンジョンから出せば間違いなく冒険者ギルドに危険なダンジョンと位置付けられる。かといっていつまでも今までのダンジョンの中だけで生活させたらストレスが溜まって大変。それならいっそのことリザードマンとリザードマンエースが増えることを見越してダンジョンの中に彼らが生活しやすい環境を作るのもいい。森ならば冒険者を不意打ちするための環境にもなるし、ゴブリンやコボルトだって森の中で自分たちの巣を作ったほうが落ち着けるから。それにファイヤーファイトツリーって確か美味しい木の実ができるから、魔物たちの自給自足にも繋がるわね。今のところ不満は表面化していないけど、ベビースライムのみの食事はストレスに繋がる可能性もあるし。それに今後ファーストチキン以外の鳥の魔物や森に棲む魔物を仲間にする時に森は絶対に役に立つ……いわば先行投資……なのかしら」
「正解だ。なんだ、わかってるじゃないか」
と俺は触手二本を叩いて拍手をした。
「ちなみに、この森を作るためにキラーアントスポーンも設置した」
何しろ、森を作るのにはある程度の高い天井が必要になるからな。
「キラーアントは一階層を巡回させるからな。スポーンから生まれたゴブリンも森の中に巣を作ることを許可する」
「で、タード。森を作った目的は本当にそれだけなの?」
「いや、別の目的があってな――シエル、そろそろ時間だぞ」
「あ、そうね」
シエルは混沌迷宮に通じる転移扉を開いた。
すると、その扉からふたつの影が入ってくる。
「ミミコだよっ♪」
相変わらずテンションの高い、背中に宝箱を背負ったミミック娘のミミコと、
「タード、今帰ったよ」
メイド服なのに言葉遣いが荒く、そして最早畑仕事関係なく普段から武器としてクワを携帯しているクワメイドのアドミラが帰ってきた。
「あ、タードちゃん! これがタードちゃんの言ってた森?」
「これは森というよりは原生林だな。冒険者を惑わすにはちょうどいいと思うよ」
とミミコとアドミラがスクリーンに映っている森を見て考えるように言った。
「え? もしかして森のこと知らなかったの私だけ?」
「勿論だ。アドミラはもともと大地と水を司るニンフだからな、相談するのは当然だ」
「もともとって、現役でニンフのつもりなんだけどな」
アドミラが複雑そうな表情を浮かべるが、俺の中で現在のアドミラはクワメイドだ。
「それに、今回の森の計画にはミミコも関わっている」
「ミミコが?」
「そうだ。現状、ミミコの合成は魔物限定で行っていたけれど、それを植物で行えないかって思ってな」
「植物って……ミミコが合成できるのは魔物とか動物とか生きているものだけじゃないの?」
「そうだよっ! ミミコは合成される子が強くなりたいって思う気持ちがないと合成できないから」
「だったら――」
とシエルは言いかけて、そして気付いた。
「だから植物が育つ環境を作ったのね」
「そうだ。植物は意志がないなんて馬鹿なことを言っている奴もいるが、植物と動物にそんな明確な差なんてないよ。中には食虫植物のように他の動物を食う植物もいるし、植物型の魔物だっている。植物も合成できるだろうが、できることなら誰に目にも見られず、秘密裏に行いたいんだよ。早速試しにちょっと合成してみるか」
と俺たちはシエルの転移魔法を使い、森のエリアにやってきた。
森のエリアはダンジョンの中とは思えないくらいに空気が澄んでいて自然の香りが充満していた。木漏れ日(正確には太陽ではないのだが)が心地よい。
そして、少し歩いた先にあったのが、黄色く小さな花の咲いた草だった。
「あ、これ血止め草ね」
「さすがは草マイスターだな。まぁ、冒険者の間で薬草と言われている植物だよ。確かムラサメの故郷じゃ弟切草って呼ぶんだってさ」
「弟切草? 随分と物騒な名前ね」
「東国では昔、この草を使って作った薬は秘薬とされていて、その秘密を知れば弟でも殺す。って意味らしい。本当かどうかは知らないがな」
俺はムラサメから聞いた雑学を言いながら、アドミラに薬草を二本採取させる。
「ここで合成用のメダルを使うのは勿体ない気もするが、何事も実験が大事だからな。ミミコ、合成できるか?」
「うん、できるよっ!」
とミミコは薬草二本を両手に持つと、一瞬にして宝箱形態になった。
そして――
「合成完了したよっ♪ はい、タードちゃん」
と彼女が俺に渡したのは――
瓶に入った薬――というかこの色は間違いなくポーションだった。
「なんで、植物合成して薬になってるんだよっ!」
「薬草ちゃんたちが立派な薬になりたいって――」
「んなこと願うわけねぇだろっ!」
「この瓶はどこから生まれたのかしら」
……シエルの疑問に答えられる人間はおそらくどこにもいないだろう。
まるで常識が通用しない。
ミミコは相変わらず俺の頭を悩ませる天才だったようだ。
現在の課題 (クエスト)
・ペスを育てよう
・勇者について調べよう
・10000ポイントを使ってタードを強化しよう
・エロいサキュバスを配下にしよう
・アドミラの胸を吸おう
・一年後の新人戦に備えよう
・冒険者を迎撃できるようになろう
・妖刀ムラサメの解呪をしよう




