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その依頼主、裏の住人につき・3

 シエルのシエルらしい発言を聞き、俺の心にある思いが芽生えた――その瞬間だった。


『ありがとう、おじさん』


 脳内に謎の童女が笑顔を浮かべる映像がフラッシュバックした。

 なんだ、この光景は――童女に礼を言われている?

 映像に靄のようなものがかかっていて童女の顔もよく見えない。


 それと俺は今、何を思ったんだ?

 いつも通りのシエルの行動を見て、本来の俺は呆れて物も言えないはず。何に、何故俺の中に期待の感情が芽生えたんだ?

 やばい、意味がわからない。

 俺に今、一体何が起きたんだ?


 次の瞬間、さらに別の画像がフラッシュバックしてきた。

 薄暗い城――そこで俺が――かつての俺が見ていたのは――


「…………っ!?」


 俺は叫びそうになり、思わず己の口に触手を巻き付けた。

 なんだ、この悲しみと憎しみは。

 今までの俺にない感情――そうだ、殺されたんだ。

 俺にとっておそらくもっとも大事だった誰かが。でも一体誰が? そして誰に?

 わからない、触手で口を閉じた時に口だけではなく記憶の扉も閉じてしまった。


「(大丈夫ですか?)」


 俺の異変に気付いたのだろう、ムラサメが最低限の小声で話しかける。

 俺は無言で、あらかじめ決めていた合図をムラサメに出す。

 触手で二回、彼女の胸のある場所を叩く。

 大丈夫という合図だ。


 そうだ、いまはしっかりしないといけない。

 暗殺者ギルドのトップとの会談をしている。気を抜けばどうなるかわからない。


 だが、俺の気持ちとは裏腹にデミックの表情はとても落ち着いたものとなり、


「確かに、ここは暗殺の依頼を受ける場でもなければ暗殺者ギルドの中でもない。私はシエルさんとお話に来たのでした。大変失礼しました」


 と口元を隠して笑う。

 どうにか修羅場は避けられたようだ。


「……あの、ところで私が一と言ったから指を一本切り落としたんですよね?」

「はい、そうですよ。あ、もしも大きな数を言っていたらどうなったのか知りたいのですか?」

「いえ、それよりもさっきの血のせいでカーペットが汚れっちゃったんですけど、高そうなカーペットだし、私、クリーニング代を払えるかどうかわからなくて」


 とさっきまでの威勢はどこへやら、本気でうろたえるシエルにデミックはぷっと吹き出して、


「大丈夫です。私が勝手に切り落としたんですから、こちらが支払いますよ。シエルさんはお気遣いなく」

「よかった」


 と無い胸を撫でおろすシエルに、デミックはさらに笑った。

 ここは好機と、ムラサメが話を切り出す。


「あの、ダンジョンの調査依頼についてお伺いしたいのですが、依頼はデミックさんがなさっていると聞きました。本来、ダンジョンの調査は国、もしくは冒険者ギルドが主体となって行うものであり、暗殺者ギルドとは無関係だと思うのですが、その目的は一体――」

「そのことですか。残念ながら、暗殺者ギルドである以上依頼主について明かすことはできません。相手が重要な相手だとなおさらです」

「……そうですか、ありがとうございます」


 ムラサメがその意味を噛み締めるように頭を下げて礼を言った。

 それはデミックからのシエルに対するプレゼントだったのかもしれないな。

 つまり、暗殺者ギルドも誰かの依頼で動いていて、それは重要な人間ということだ。

 わざわざ暗殺者ギルド経由で依頼を出すとなると――国か?


「そういえば、私の依頼とも無関係とはいえないのですが、国からのダンジョンの調査依頼はもう打ち切ったそうですね」


 と俺の予想を覆すヒントまでおまけで用意してくれた。


「私たちもその依頼を受けたいと思うのですが――」

「そうですか。依頼の内容は国が用意していたものとほとんど同じです。ダンジョンの一階層の調査です。調査の内容はお任せいたします。たとえばヒヨコの生態について報告書を二十枚も用意してくださった冒険者もいらっしゃいました」


 ……あぁ、一日中ヒヨコを見て帰った冒険者がいたが、やっぱりここで依頼を受けていたのか。

 報告書二十枚って、どういう気持ちでその報告書を受け取ったんだろうか?


 その後は大した成果も得られないまま、話し合いは進み、何事もなく会談を終えた……かに思えた。


「それでは三人とも、依頼の報告をお待ちしています」


 と言われるまでは。

 俺の存在が気付かれていた――そして見逃された。

 侮っていたな。


「ねぇ、ムラサメ――ダンジョンにもど――行く前にご飯食べて行かない? 実は私、昨日から草も食べていなくて。ほら、お金も戻ってきたし」


 とシエルは震える手で握られている、革袋に入った昨日儲けた金、約十万シールを俺たちに見せた。

 かなり頑張って治療したんだろうが。


「すみません、シエルさん。いろいろと訳があって私たちはこの町を早く離れないといけないのです」


 ムラサメの言う通り、俺たちは本来ならばすぐにでもこの町を去らねばいけなかった。

 ペスを待たせているというのもあるが、何よりも聖騎士が恐ろしいからな。


   ※※※


「面白い人たちでしたね」


 シエルとムラサメ、そしてタードがいなくなった部屋でデミックはマカラに声をかけた。


「そうですね、デミック様」

「いつまで続けるおつもりですか?」

「いけませんか?」

「はい、私の好みではありません」


 とデミックが言うと、マカラは苦笑し、そして己の首に爪をひっかけると、その顔の皮を剥いだ。

 すると、下に別の顔が現れる。

 先ほどまでの二十歳前後の男と違い、四十歳くらいの貫禄のある顔立ちをした男になる。


「相変わらずお見事な変装ですね。あ、指は大丈夫でしたか?」

「大丈夫だ。あの女の回復魔法はなかなかのものだったからな、自分で縫った時よりも綺麗に治ってるよ。それに斬った者の腕がいい」

「それは自画自賛ですか?」


 とデミックは苦笑した。

 そう、マカラ――いや、マカラに変装した男の指を切り落としたのは男自身だった。デミックはただ血糊のついたナイフを取り出して握っただけ。


「それで、どうでしたか? 彼女たちの様子は」

「あぁ、ラズベリーからの手紙の通りだ。まず間違いない……だからこそここで聖騎士のぼっちゃんに殺させるわけにはいかなくなった」


 彼はそう言い、ニヒルな笑みを浮かべた。


「そういえば、もしもシエルさんが大きな数字を言ったらどうなさるつもりだったのですか?」

「その時はその時考えるさ。そうだな、足りない分の指はお前の指も切り落としてたさ」

「――冗談に聞こえませんよ。それと、本部で預かっている本物のマカラはどうしましょう?」

「あのシエルの嬢ちゃんにあそこまで言われたんだ。反省文十枚でいいだろ」

「お優しいのですね、ギーニッシュ師匠は」


 とデミックはそう言い、「そういうところが大好きです」と告白としか取れないことを言ったが、ギーニッシュはデミックの頭を小突いて話を切り上げさせた。

 そして、ひとりごちるように、彼は呟く。


「にしても、厄介な仕事を押し付けてくれたものだよ――魔王の奴め」

現在の課題 (クエスト)

・デミックから情報を得よう(complete)

・マギノ町で情報を集めよう(complete)

・勇者について調べよう

・10000ポイントを使ってタードを強化しよう

・エロいサキュバスを配下にしよう

・アドミラの胸を吸おう

・一年後の新人戦に備えよう

・冒険者を迎撃できるようになろう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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