その依頼主、裏の住人につき・1
小コボルトに案内されて彼の族長が普段使っているという巣穴に辿り着いた俺たちはそこで寝ることにした。
勿論、小コボルトを配下として正式に認めたため、俺の命令には絶対服従となった。
そのため、こいつが俺の寝首をかくことはほぼない。元々首はないわけだが。
「木の下の洞穴に寝るなんて、蟻になった気分だな」
腐葉土が敷き詰められているため地面がふわふわしているが、居心地は悪くない。これが人間だったら気持ち悪いと思うだろうが、スライムだから感覚が人間と違うのかもしれないな。
「ムラサメも休んでおけよ。明日の朝一に小コボルトを秘密の抜け穴に送ったらシエルを迎えに行くからな」
早朝の時間は教会でミサが行われる。
聖騎士という立場があっても――いや、聖騎士だからこそミサには参加させられるに違いない。
その間にシエルと合流して町を出るつもりだ。
『そういや、小コボルト。お前、名前は? 小コボルトって呼びにくいんだよ』
勝手にあだ名をつけておいて呼びにくいっていうのも失礼な気もするが、配下相手に気遣いは無用だ。
『名前ですか? いいえ、ありません』
『そうか――じゃあ名付けないといけないな』
『名前をいただけるのですかっ!?』
『そんな深い意味はないから前のめりに顔を近づけるな』
そういえば魔物に名前を付ける行為は、ダンジョンボスにとっては寵愛を意味する行為だって聞いたことがあるが、んなこと知ったこっちゃない。ただ呼びにくいから名前を付けるだけだ。
『ムラサメ、こいつの名前は何がいいと思う?』
『そうですね……コタロウなどはいかがでしょうか?』
『聞いておいてなんだが東国の名前は違和感があるな……よし、もうペスでいいだろ』
『ありがとうございます。ちなみにどういった意味のある名前なのですか?』
と小コボルト改めペスは前のめりに尋ねた。
……意味を聞かれても、犬の名前のイメージで考えただけだよ。
『意味はお前が一人前になったら教えてやるよ。その言葉の意味を知ったら重圧で押しつぶされるかもしれんだろ』
『――そんなに深い意味があるのですか。わかりました。その名前に恥じない一人前のコボルトになってから再度お伺いします』
『おう、頑張れ』
まぁ、こいつが本当に一人前になったらその時は適当なことを言って誤魔化すか。
そのころの俺ならきっといい言い訳を思いついているだろう。
嫌なことは全部未来に丸投げして、ペスに見張りをさせて俺は寝ることにした。
腐葉土の上で虫として生きる夢を見た。
※※※
夜明け前に俺たちは起きて木の根の下にある洞穴から出た。
俺はムラサメの中に入り、ムラサメにペスを秘密の抜け穴へと案内させる。
『お前はここで待ってろ。仲間を連れてくるからな』
『わかりました』
どうやら俺のゴブリン語もなかなかのようだな。
ここまで何の問題もなく会話できているな。
そろそろ本格的にスラングを覚え、村のゴブリンに何を言われても反論できるようになろう。
そして、俺たちは予定通りシエルを迎えに行くことに。
おそらく冒険者ギルドの宿舎で寝ているだろう。いくら不幸の塊とはいえ、回復魔法をかけるだけという簡単な仕事でミスをするとは思えないし、むしろお金を稼いで昨日は豪遊していそうだな。
そろそろシエルをいろいろと不幸な目にあわさないととんでもないことが起きるかもしれない。とりあえずダンジョンに帰ったら軽く触手攻めでもするか――なんて思いながら俺たちは町に入る。
見張りをしていた男には冒険者のギルドカードと依頼表を見せたらすんなり通してくれた。
そして、ムラサメが冒険者ギルドに向かい中に入ったところ――シエルが床に座っていた。ちょうど俺たちに背を向けている状態だ。
問題はそれだけではない。冒険者ギルドの中はやけに散らかっていて、ところどころ焦げ跡のようなものも見える。
「シエルさん、そこで何を――」
「ムラサメ!? 一体いままでどこにいたのよっ! 大変なのよっ!」
「大変? どうしたんですか?」
まさか聖騎士に正体がばれたのか?
そう思ったら――
「ムラサメさんですね」
と昨日の冒険者ギルドの受付の男が。
「実は昨日、シエルさんが仕事を終えてひとりで食事をしようとしていたところ、彼女の回復魔法の腕に惚れた国の有力者がシエルさんを食事に誘ったんですよ」
「それでついていったのですか?」
「いいえ、ついて行ってもらえたら問題なかったのですが、一緒に食事に行くどころか店の外で待っている有力者に会うことも拒みまして。でも直接断るならまだしも会うことも拒絶となるとその有力者の面目が潰れるわけで、彼の付き人が無理やり彼女を店の外に連れ出そうとして――シエルさんは炎の魔法で威嚇をしたり土の魔法でバリケードを作ったり店の中は大変な大騒ぎだったんです。相手にも否があったのは確かですが、さすがにやりすぎのため、壊れた床や備品の修理費は昨日の依頼料で補填させていただき、さらに朝まで店の掃除をしていただきました」
シエルの奴、なんでそんなバカなことをしたんだ?
と思ったら、シエルが無言でムラサメを――いや、ムラサメの眼帯の奥にいる俺を睨みつけてきた。
あぁ、そうか、思い出した。昨日、男に飯を奢るからついてこいって言われても断るように命令したんだったな。
そしてシエルはその命令に従ったわけか。
「……それで――シエルさんの処遇はどうなるのですか?」
「先程も申しましたが、相手に否があるのは確かですし怪我もさせていません。ただ、冒険者ギルドといたしましてはその有力者である人物に直接謝罪していただきたいと思っています。その有力者の方はますますシエルさんに興味を持たれた様子で、なんなら自分の方から冒険者ギルドに行ってお話をしたいと伺っています。それにおふたりもその方に用があるのでしょう?」
「といいますと?」
ムラサメが尋ね返す。
そんなわけもわからない有力者に用事なんてあるわけない。俺としてはとっととこの町から離れたかった。
「おふたりが昨日受けようとしていたダンジョンの調査依頼は、その方が出しているのです」
……これはそのまま帰るわけにはいかないかもしれないな。
仕方がない……か。
俺はムラサメにあることを言わせた。
「ふたつ条件があります。まず、会談場所としてギルドの応接間を使わせていただきたいです」
「それはこちらもそう考えていました。警備の問題を考えてもそれが重要だろう」
「それと、その有力者について知っていることをここで教えてください。その話を聞いてから会談を受けるかどうか決めます」
もしも聖騎士絡みだったらそのままとんずらするつもりだ。
「……ええ、そうですね。あまり大きな声では言えないのですが、ここにはおふたりしかいないから問題ないでしょう。依頼人はあの有名な暗殺者、ギーニッシュ――」
ギーニッシュ!?
それってラズベリーに聞いた勇者の仲間じゃないか。まさかここでそんな大物の名前が出てくるとは……と思ったら、
「――の弟子のデミックという男で、暗殺ギルドの元締めの男です」
俺は少し胸を撫でおろした。だが、それでも暗殺ギルドの元締めか。少々厄介だが、会う価値はありそうだ。
ていうか、そんな暗殺者の元締めに目を付けられるって、シエルの運の悪さは相当なものだな。
現在の課題 (クエスト)
・デミックから情報を得よう(new)
・マギノ町で情報を集めよう
・勇者について調べよう
・10000ポイントを使ってタードを強化しよう
・エロいサキュバスを配下にしよう
・アドミラの胸を吸おう
・一年後の新人戦に備えよう
・冒険者を迎撃できるようになろう
・妖刀ムラサメの解呪をしよう




