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その冒険者たち、正体は魔物につき・6

 ウィッチ――その名よりも魔女という名の方が馴染みが深いだろう。

 その外見は人間のそれと近いが、類稀なる魔力と魔法に対する知識の深さ、そして二十歳を超えたころから変わらぬ姿――魔女は間違いなく魔物の一種である。

 五百年ほど前にひとりの魔女が魔物であることに気付かれてしまい、他にも人間に成りすました魔女がいるのではないかと多くの国を巻き込んだ大騒動が起きたことがある。世に言う魔女狩りだ。

 魔女狩りでは本物の魔女だけでなく女性の姿をした他の魔物や、全く魔物とは関係もない一般人が多く死んだと記録に残っている。死者の数は約七千人――しかもその数は裁判(と言っても百パーセント有罪になる形式だけのものだったが)によって裁かれた者の数であって、裁判にかけられずに現場で殺された女性の数はその十倍以上になるという。

 その事件があってから、魔女はひっそりと森の奥に過ごすようになったとか言われているが、


「まさか今でも町の中で堂々と暮らしているとは驚いた」

「あたいは――いえ、もう演技をする必要はありませんね。私としてはスライムが喋るほうが興味深いです。体を調べさせていただいてもよろしいですか?」


 さっきまでの乱暴な言葉遣いを改め、丁寧な物腰でその魔女は言った。


「断る――というより立場がわかってるのか? 調べられているのはお前のほうだ。なんで魔女がここにいる?」

「魔女なら大人しく森の中にいろと? 残念ですが、森の中にはもうほとんど魔女はいませんよ。だって、森の中で若い女性がひとりでいたら私は魔女ですと名乗っているようなものではありませんか」

「……それもそうだな」


 確かに魔女は森の中にいるというイメージが強い。それなのにわざわざ森の中に過ごすような真似はしないか。


「幸い、昔お世話になったくされ野郎に身分を偽造するための書類一式はいただいていますから人間として生活する分には不自由しませんし」

「くされ野郎って?」

「くされ野郎はくされ野郎です――彼について話すつもりはありません。それより、何故私がウィッチ――魔女だとお分かりになられたのですか?」

「それこそ答える義務はない……が、その胸を触らせてくれたら教えてやるぞ」

「…………ふぅ」


 魔女は何やら葛藤していたのだろう――少し黙りこみ、そして息を漏らした。

 後ろでシエルが、「タードはまたバカなことを……」と文句を言っているが無視だ無視。

 女の胸を触るのは俺の生きがいだからな。そこは譲れない。


「魔女として町の中で生きていく以上、魔女とばれるわけにはいきません。少しだけなら触っていただいても結構です――が先端はあまり触らないでくださいね」

「OK、先端を重点的にいじくってやるよ」


 と俺の体から触手を伸ばし、まずは溶解液で彼女を縛る縄を溶かしてやると、その先端を服の中に入れ――


《中略》


「…………まさかスライムの触手があんなことになっているだなんて」

「ふふふ、俺の触手レベルはいい具合に上がってるな。もっとレベルを上げればさらにいろいろできそうだ」

「スライムと思って侮っていました」


 泣きはしないまでも魔女は屈辱に耐えた表情を俺に見せる。

 それがまた俺の嗜虐心を煽るのだが、これ以上はまた次の機会に楽しませて貰おう。


「それで、どうして私が魔女だと?」

「簡単なことだ。お前はわざわざ瓶を割って魔法薬を撒いたように見せかけたが、実際のところあの瓶の中身はただの水で本当はお前が魔法を唱えたんだ。無詠唱の睡眠魔法をな。うちのシエルだって詠唱省略っていう芸当ができるんだ、魔法を極めれば詠唱がなくても魔法は使えるだろう。じゃあ、なんでわざわざ瓶を割って薬を充満させたふりをしたのか? 油断させて魔法を使うためという可能性も考えたが、魔法を使うことを知られたくなかったと考えれば自ずとお前の正体は見えてくる」

「タード、今の説明だけど魔法薬ではなくて魔法だって思った理由はそれだけなの? 解毒剤を飲んで薬を散布した可能性は?」

「それだと俺に睡眠ガスが通じない理由がわからない。魔法薬は魔法と銘打っているが、あれは魔力の籠った薬品を使っているだけだからな――俺のスキルである魔法無効の対象にはならないだろ」

「じゃあ実力を隠したい冒険者って可能性は? タードは彼女が魔物だって確信を持ったからムラサメから出て来たんでしょ?」

「それは気配を読めばなんとなくな。ラズベリーが言っていただろ? あれを真似たらできたんだ」


 と俺はラズベリーから聞いた魔物と人間とを区別する方法を魔女に説明した。


「驚きました――そんな方法でも魔物だと気付かれるなんて……落ち着いて外出もできなくなりますね」

「あんまり気にするもんじゃないぞ。たぶん素人が真似しようと思ってもそう簡単にできるもんじゃない。俺は天才だからできただけだ」


 実際のところ、俺がその魔物の気配を読むことができた理由はいまいちわからない。ただこの女を見て、何か空気に違和感を覚えただけだが。


「そう願いたいですね。改めまして私の名前はカレイナ。ご推察の通り種族はウィッチ。五年前に見習いが取れましたので正真正銘のウィッチです」

「やはりな。仲間はこの町にいるのか?」

「仮に仲間がいたら絶対に答えたりしませんが、この町には私しかウィッチはいません。ウィッチは五百年昔より、集団で行動することはありませんし、一カ所に留まることもありません。周囲に溶け込み、単体で生活し、人間との間に授かったら別の町に行きます」


 ウィッチは女性しかいない――その種を残すには人間の男性の精が必要になる。また不老のため長い間同じ場所にいたらその存在が明るみになる……か。


「そういえば、さっき、そんな方法()()魔物だと気付かれるって言ったよな。お前、魔物だと気付かれるのははじめてじゃないのか?」

「答えたくありません」

「さっき言った腐れ野郎と関係が?」

「答えたくありません」


 そこまで強情に答えないとは。


「さては、魔物だとばらされたくなかったら一発やらせろとか言われたんだな。確かに腐れ野郎だとは思うが」

「やってることタードと一緒じゃない」


 シエルがさらりと的確な意見を述べた。確かにその通りだ。


「そんなもん野良スライムにおっぱい揉まれたと思って忘れちまえ」

「……………………」

「でだ。勝負の方法は相手を動けなくしたら勝ち、触手で縛り上げた俺の勝ちだから俺の命令を聞け」

「どんな命令をなさるのですか?」

「単刀直入に言う。俺はダンジョンボスだからな。配下になれ」

「……それはできません」

「は? 命令には従うって言っただろ」

「しないのではなくできません。私は既にテイムされている魔物ですから」


 ……ん?

 俺は言っている意味がわかるが、そういう場合はどうなるんだ? とシエルにアイコンタクトを送った。


「タードには言っていなかったし、こういうのって滅多にないんだけど。テイムされている魔物は配下にすることはできないわよ。魔物を配下にするのはボスモンスターが直接交渉をしなくてはいけないって最初に説明したでしょ? テイムされている魔物を配下に加えることができるのなら、魔物使いを雇って魔物を捕まえさせて、魔物使い経由で配下にすることも可能になっちゃうからその予防だと思うけど」

「……なんとなくわかった。腐れ野郎が思った以上に腐れ野郎だったのか。つまり、お前が魔物だっていうことをバラされたくなかったら、テイムされろって命じたわけか」

「…………」


 カレイナは何も答えない。だが、それが無言の肯定であることは直ぐにわかる。


「卑怯な方法で勝って配下になれって命令するのと何も変わらないと思うけど」


 今日のシエルの言葉はいつも以上に的確でいつも以上に辛辣だな。シエルの目の前でカレイナの胸を揉んだことを怒っているのだろうか?


「ご主人様、そういう理由でしたら配下にするのは諦めて当初の予定通りEランクになるための推薦を書いていただくのはどうでしょう?」

「……それしかないか。あと冒険者としての情報もいくつか貰うのと、ついでにパンツも貰っておくか」

「パンツは無しよ。推薦状と情報だけで十分でしょ」


 とシエルが流石に俺にそう言ったのだった。

 そして、俺は推薦状といくつかの情報を貰い、お互いの情報は秘密にすると誓いあった。カレイナの主人に情報が洩れる恐れはないかと尋ねたが、カレイナはもうその主人とはほとんど会っていないらしく、命令らしい命令ももう何年も受けていないそうなので、情報が漏れることはないだろうとのこと。

 ただ、テイムされていることは自分でわかるらしく、主人はまだ生きているらしい。

 まぁ、ウィッチってどこかシエルとキャラがかぶるところもあるし、事情が事情なだけに今のところ配下にするのは諦めるか。確か契約を一方的に打ち切る契約御免状という魔道具が世界のどこかにあるらしいから、それを入手できたらその時にカレイナを配下にしよう。


 そう思いつつ、最終的にやはり貰ったカレイナのパンツを頭に被ってムラサメの頭の中に戻り、冒険者ギルドへと戻っていった。

 ちなみに、部屋を出る前――


「あぁぁぁっ! さっきの戦いで私の飲みかけのジュースが入っていた木のカップが倒れて中身が零れちゃってるっ!」


 とシエルがどこか説明口調で叫んでいた。

 幸いカップは割れていなかったので弁償だけは免れたようだ。


   ※※※


「おかしな人たちでしたね」


 とカレイナは股のあたりをスースーさせながら、とりあえずいまだに眠る大男のデボンをなんとかしないといけないなと思っていた。

 彼とはこの町に来た時からの付き合いで、冒険者ギルドで絡まれたときにコテンパンに倒してから姉御姉御と慕われている。彼はカレイナが魔女であることを知らないし、きっと知れば今まで通り接してくれないだろうと思っていた。

 そういう意味では、自分はやはり町の中にいるよりも彼らのような魔物のコミュニティに入ったほうがいいのではないかと思う時もある。

 それでも、彼女にはそれはできない。


「ほら、起きな。そんなところで寝たら風邪をひくよ」


 と言って起きるほど軟な睡眠魔法は使っていなかった。

 仕方がないからそのまま寝かしておこうかと思った時だった。


「もしよろしければ運ぶのを手伝いましょうか?」


 と言って若い男が入ってきた。

 と同時にカレイナの背筋に悪寒が走り抜けた。


 金色の髪の若い美形の男。特に注目するべきはその鎧に描かれた模様――教会の聖騎士だけが着ることを許される鎧だった。

 そして、教会はたとえ無害でも魔物という存在を決して許さない。カレイナは生唾を飲みながら、それでも――


「へぇ、教会のお偉いさんがこんな寂れた倉庫になんのようだい? 寄付してほしいならここよりもいい場所があるんだけど紹介しようかい?」


 と虚勢を張って言う。


「いえいえ、私はただ手紙を届けに来ただけです――あなたにとって大事な人からの」


 と彼は手紙をカレイナに渡すと、


「それに、弱い相手には興味がないので」


 と笑顔で帰って行った。


(弱い……ですか。そうですね、確かに私は弱いですね。自分を偽ってこうして生きていくしか道がないわけですから)


 と彼女はそれでも命が助かったことに安堵しながらも、全く心当たりのない手紙の入った封書を見る。

 そしてその裏の差出人を見て、今度こそ言葉を失った。


(うそっ……なんで今更)


 彼女はその名を見ると、ペーパーナイフも使わずに封を切った。

 ウィッチを仲間にするという案は最初から、それこそタード、シエルのキャラの原案が纏まってからありました。が、シエルと立ち位置がかぶるということで没になりました。

 ウィッチと言っても物理で殴るウィッチですけど。


現在の課題 (クエスト)

・シエルとムラサメをEランクの冒険者にしよう

・マギノ町で情報を集めよう

・勇者について調べよう

・10000ポイントを使ってタードを強化しよう

・エロいサキュバスを配下にしよう

・アドミラの胸を吸おう

・一年後の新人戦に備えよう

・冒険者を迎撃できるようになろう

・妖刀ムラサメの解呪をしよう

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