その冒険者たち、正体は魔物につき・1
キラーアント(♂)の頑張りにより地下通路が隣町の近くにまで開通したため、侵入者がダンジョン内の出入り口付近より奥にいないことを確認すると、その隣町まで移動した。
地図によると、マギノ町という名前の町らしいが――
「これが本当に村じゃなくて町なの?」
転移魔法で出口まで移動したシエルが呟いたのは、まぁ仕方のないことだ。
なぜならそこにあったのは一面黄金色の小麦畑だったから。
「言っただろ、国民の九割が農民、畑もそりゃ大きくなるさ。あ、農作物は間違っても盗むなよ――マレイル国の法律で畑泥棒はよくて強制労働、最悪強制労働だからな」
「生の小麦はさすがにそのまま盗んでまで食べないわよ……ところで刑罰って強制労働しかないの?」
「勿論罰金刑はあるが、それは富裕層向けのある意味免罪符のようなもんだ。良くて強制労働は期限付きの強制労働、最悪の強制労働は動けなくなるまで働かされて、動けなくなったら殺すという意味――この国では連続殺人犯でも捕まれば最悪の強制労働が待っているらしいぞ?」
「……それは随分無駄のない刑罰ね」
シエルが感心半分、呆れ半分といった感じで言った。
小麦畑の奥には大きな風車があり、あそこで小麦を製粉しているのだろう。
とすると、あのあたりに町があるのだろうが、ここからだと良く見えないな。
「立派な風車ですね――私の故国では製粉に使われているのは主に水車でしたからあれだけ大きな物を動かす風の力を感じるのは初めてです」
「風車は昔はこのあたりにはなかったんだよ。製粉作業は奴隷が農作業のない日や普通の農民が休んでいる時間にするものだって思われていたからな。でも教会の影響が強くなって奴隷が解放されるようになってから、風車による製粉が行われるようになったんだ」
「へぇ、いい話ね」
「建設には教会御用達の組合の人間が通常価格の数割増しで引き受けていたとかそういうきな臭い話さえ知らなければな。ついでに言うと、奴隷を解放したことで農園の経営が成り立たなくなって夜逃げしたり首を吊った農民もかなりいたらしい――」
「それは……理想の押し付けは現実を圧迫するってこと?」
「時代の変革には犠牲がつきものだってことだし、昔のことだ」
俺のせいなのだが、空気が少し暗くなったのでこれでおしまいと俺が触手二本でパンパンッと叩いた。
「じゃあ、俺は前みたいにムラサメの中に入るから、ふたりであの町にあるはずの冒険者ギルドに向かってくれ。調べることは主に二つ。俺たちのダンジョンにちょっかいを出している依頼主について。それとこれまで漏れているダンジョンの情報について。他にも町の警備状況と、冒険者の数を調べてくれ。あとシエルは男に声をかけられてもほいほいついていくなよ?」
「ついていかないわよっ!」
「『ご飯を奢るから一緒にそのレストランに一緒に行かない?』って誘われたら」
「……うん、ついていかない……と思う」
心配だ。
まぁ、俺が中に入ったムラサメが一緒にいるから大丈夫だとは思うし、なによりこんな幼児体形の女をわざわざナンパする物好きはいないと思うが、世の中には俺が想像もつかないような――例えば幼女趣味のアストゥートのような変態もいるからなぁ。シエルのことが理想の女の子という男がいる可能性もある。
「命令だ。男にご飯を誘われても断れ」
「わ……わかったわよ」
シエルが頷いた。ダンジョンボスの命令に配下の魔物は逆らえない。
これで大丈夫だ。
「じゃあ、ムラサメ、口を開けてくれ」
「御意」
とムラサメは俺の体を持ち上げ口の前に持っていくと大きく口を開けた。
「そうして見ると、ムラサメがタードを食べようとしているようにしか見えないわね。実際飲み込むんだけど」
まぁ、そう見えるだろうが、ベビースライムと違いスライムはかなりの大きさがあるから普通の人間は飲み込む前に窒息してしまうし、喉に入りきらない。口の奥が空洞になっているムラサメだから入れる芸当だ。
俺が中に入ったのを確認すると、ムラサメはシエルに背を向けて俯いた。
「どうしたの? ムラサメ!? 変なもの食べてお腹壊したの?」
と俺に対して失礼なことを言ってきた。食べられたわけじゃない。
「いえ、あまり見せるべきではないと判断したので」
「見せるべきではないって何を?」
「眼球を外す行為です」
「……うん、見たくない」
シエルが正直に言った。
ムラサメが眼球を外し、内側からは外側には透けて見える眼帯を装着。これで俺もムラサメの中から外の様子が確認できるようになった。
さて、行くとするか。
マギノ町に。
現在の課題 (クエスト)
・マギノ町で情報を集めよう(new)
・勇者について調べよう
・10000ポイントを使ってタードを強化しよう
・エロいサキュバスを配下にしよう
・アドミラの胸を吸おう
・一年後の新人戦に備えよう
・冒険者を迎撃できるようになろう
・妖刀ムラサメの解呪をしよう




