1 危機を知らぬ少年
「ま、まずい・・・」
俺は今、人生で最大の困難に直撃しているだろう。化け物に追われているだとか、病気になって死にそうだとか、そんなものではない。
「どうして、あの時入れてしまったんだ!」
つい何気無く寄ったコンビニ。特に用事はないのだが、「ちょっとコンビニ寄っていくか」感覚で寄ってしまうのが学生の性だ。飲み物を買い、レジでふと横を見た。震災復興の募金箱だ。買った飲み物は108円、俺が出したのが110円、まあ2円くらいは良いだろう。そんな思いで募金した。
「まさか、こんなこと予想しないだろ?」
今日は、ラノベの新刊の発売日だった。本屋の前を通り思い出したので、買おうと思ったのだ。
「一体、どうすれば・・・」
ラノベの値段630円!
俺の財布の残高、628円!
「はぁ・・・」
結局俺は買えなかった。
値段が足りなかったし、見知らぬ人に「2円ください!」と言っても、「あぁ、可哀想な子だな」という顔で見られるのがオチだろう。もしくは、即座に国家のペット行きかも知れない。おのれ警察。
「あのラノベ、楽しみにしてたんだけどな」
過ぎたこと仕方ないが、目の前であの新作買っていった少年は許すまじ。
「・・・帰るか」
独り言を言っていたことに虚しさを感じ、足取り重く踏み始めた俺を足は、2歩目にして転んだ。
一応、自己紹介をしておこう。俺の名前は「白河 誠」。特殊能力なんて持ってないし、課せられた使命もないし、神々の生まれ変わりとかでもなく、ただの一般的な高校生だ。最近の趣味はアニメ鑑賞。
過去の黒歴史は、小学5年生の時、好きな子に告白したところを他のクラスの奴に見られ、次の日学校に行ったら、学年のみならず学校全体に伝わっていた事、好きな子には「キモい」と泣かれ。クラスの女には「泣かしたー」と言われ、男には「最低だな」と言われ、先生には「終わったな」と悲しい目で見られた。そんなしがない一般人だ!。ちなみに、泣いてなんかいないぞ。あれ?目から汗が・・・。
「ただいま」
誰も家に居ないのに、ただいまと言ってしまうのはよくある事だろう。両親は夜遅くまで社畜なので、大体一人だ。
俺は自分の部屋に戻り、貯金箱を見る。勿論、足りない2円を補充するためだ。
「あっ」
空だった。
「ふう・・・」
夕食を食べ、暇な時間だ。一人というのは退屈で、特にやることが無い。いや、正確にはあるのだが、課題なんてやる気が起きない。
「そうだ!」
俺は時計を見る。午後7時半。大丈夫だ、まだ間に合う。
「今日は「俺の双子の弟の友達の祖父の幼馴染の孫の娘の彼氏の母の兄のペットが勇者だった件。」の放送日だったな」
こんなふざけた名前のアニメだが、ネットでも人気が良い。「俺の双子の弟の友達の祖父の幼馴染の孫の娘の彼氏の母の兄のペット」が勇者だった事が発覚し、主人公に「絶剣ゼクオラル改」を継承し、日々魔物と戦うという王道ストーリーだ。
ちなみに、縮めて「俺ペット」という主人公がペットになっているかのような名前で親しまれている。
「録画しておかなきゃな」
俺はリアルタイムでも見て、録画した物でもう一回見なければ気が済まないタイプのの人間だ。それ故、HDDにはかなりのアニメが溜まっている。
「これ懐かしいなあ「アブラゼミがなく頃に」これは泣けたな。「ばくおん!」もあるじゃないか、こんなのもあったなあ」
どれもこれも名作ばっかりで、またもう一度見返したくなる作品だ。
「「優等生たちが異世界に来るそうですよ?」もあるなあ」
異世界。転生。一度は憧れてしまうものだ。俺ツエーしたり、ハーレムしたり、魔物達と死闘を繰り広げたり、そんな事が出来たら俺は死んでも良い。
「こんな退屈な世界より、絶対異世界行った方が楽しいよな!」
『じゃあ、一回来てみるかい?』
「・・・え?」
不意に聞こえた声に、辺りを見回すが、何も居ない。誰かがいた形跡も無いし、そもそも鍵は閉めてある。
でも、なんというか、聞こえた、というよりも、響いたという表現の方が正しい気がする。
「まあ、気のせい・・・だよな?」
もう一回辺りを見渡すが、誰もいない。ただの気のせいだろう。
「おっ、始まった」
高らかなBGMと共に「俺ペット」が始まった。
俺はそれを、お茶を啜りながら優雅に見入っていたーーー
「まさか、あんな展開になるなんてな・・・」
第27話「幸太郎、死す!」では主人公のライバルであった幸太郎のと、悪の組織「プレジデンド」の幹部である、カルシファーとの闘いから始まった。幸太郎の剣である天叢雲剣の特殊能力、「未来想像」で、未来を予知できる幸太郎が若干優勢であった。
しかし、カルシファーの必殺技「絶対凍結」が回避不能であった為、幸太郎はそれが避けられず、完全に凍ってしまった・・・。
「まあ、予告の時点でネタバレだったよな」
正直、あの予告はないと思う。
「幸太郎、死す!」とかもはやネタバレ意外なんでもない。
「もう寝るか」
風呂にも入り、時刻は午後10時。
俺は早寝早起きがモットーなので、大体この時間にいつも寝るようにしている。
「ふわあ・・・」
部屋のベッドに身を任せ、多少の倦怠感と共に、意識が遠のいていく気持ち良さを感じた。
「まあ・・・あの子で良いかも」
薄暗い小屋の中、先の折れたとんがり帽子を被り、紫を基調としたいかにもファンタジックな服を来た女性が、西洋風の鏡に手をかざしていた。
鏡に映っていたのは、紛れもなく「白河 誠」であった。
「問題はタイミングだけど・・・丁度良いか」
女性の顔には、不敵な笑みが浮かんでいたーーーーー
どうも、フウゴ(次世代)です。新作です。
あんまりチートとか使いたくねえな、と思っていたらこんなんできました。
ご閲覧ありがとうございました