ケース3
ゲホッ、ゲホ、あ、はいそうです。このまま南下した先が目的の家みたいです。
でもトナカイさん、本当にすみません。本当は橇を曳くのが仕事でしょうに、こんな……ベッドなんて曳かせてしまって。
でも、人手が足りないんでしょうか。わざわざ私みたいな死にかけの人間にまで声を掛けるだなんて……ふふ、いいんですよ気休めなんて。自分の体は、自分が一番良く分かってますから。
多分、これが私の最後の仕事になるでしょうから……悔いの残らない仕事に、したいですね。
……ええ、頑張りましょうトナカイさん。一緒に力を合わせて、ね。
ケホッ、ゴホ、はい、もう少しです。そろそろ見えてくるかと…………ッ、〜〜〜〜!?
グふッ、ゲッ! カハっ、がァッ……だッ、だいじょうぶ、です。むせただ、だけです、から。
休む、だなんて……そんなの、駄目ですよ。
子供達が……待ってますから……。笑顔を、失うわけにはいかないでしょう?
……なんで、って……それがサンタのお仕事でしょう?
……それじゃ、行ってきますね。少しそこで待っていて下さい。
双子の兄弟……3年生くらいかしら。これくらいの頃から、私たちの事を信じてくれなくなるのよね。
それが成長するってことなんでしょうけど、少し悲しいかしら……
……っつ、本当、困った体。そんなに急かさなくても……少しくらい物思いに耽らせてくれても、いいじゃないの。
仕方ないわね……それじゃ坊や、あなたの『夢』を少し見せて頂戴。
…………。あら、困ったわね。ピアノが欲しいだなんて。今の私じゃちょっと取り出せそうにないわ。
でも、他に欲しい物が見付からないし……小さなものならなんとかなるかしら。
それじゃ、物は試しと……うんっ……!
…………ッ! くぅっ。は、ぁ……なんとか、なったかしらね。
何だかチューブが付いてるけど、鍵盤もちゃんとあるし、大丈夫……よね? 多分。
さて、残りの子は、と。
…………。松井秀喜のサイン? 誰かしら、マツイヒデキって。芸能人か何かかしら。
あまりメジャーな人だと大変だけど、どうかしら……えぃっ!
…………う、あぁっ!? こ、れは、ちょっと……!
……っぐ! ゲホッ! ゲホッ! ぐぷ……んぐっ、くっ……! がはッ!
危ない、あぶ、ない……血で汚したら、大変だもの、ね……
ところで、サインはちゃんと取り出せたかしら……?
ふぅん……これは色紙みたいね。ぐちゃぐちゃで読みにくいけど……M、A、T……大丈夫そうね。
しかし、この最後の25って何かしら。好きな数字? 年齢? 意味があるんでしょうけど……思い付かないわね。
さて、そろそろ次の家に行かなくちゃ。それじゃ二人とも、またね。
……メリー・クリスマス
トナカイさん、お待たせしました。それじゃ次に行きましょう。
……あら、失礼。ちゃんと拭いた筈だったんですが、垂れちゃってました?
ふふ、血を吐いたくらいで慌てないで下さいって。まだ意識もありますし全然平気ですよ。
それに、この苦しみの分だけ幸せが生まれているのだと思えば、こんなの……へっちゃら、です。
さ、行きましょう。次は……あら、さっきの家のすぐ隣でした。ごめんなさい。戻ってもらっていいですか?
〈ケース3 病弱+天然サンタ〉
なんだか萌えとは別の方向に行った感じが否めません。
次話で軌道修正を試みます。