第一話
「楓~?起きてる~?」
ノックと共に無邪気な声が聞こえてくる。
「起きてる。今から支度するね。」
彼女は小鳥遊 瑞穂。
昨年から付き合いのある、友人の一人だ。
一緒にいることが多いので、これはもう
親友といっても過言はないのではないか、
などと益体もないことを考えながら返事をする。
今日は瑞穂とショッピングに行く予定だった。
そうとなれば急いで支度しなくては。
およそ1時間掛けてゆっくり支度する。自慢ではないが、朝は弱いほうだ。
支度が終わると瑞穂に連絡をとり、玄関で待ち合わせてから私たちの住まい
---水狐寮---を出る。
目的地は隣町の大きなショッピングモール。あまり立ち寄らないので
周辺の地理には疎いし、一度か二度ほどしか立ち寄ったことがない、
と話した時の瑞穂の顔は傑作だった。
まるでポカーン、という効果音が聞こえて来そうなほど口を開けて、
全力で”私今驚いてますよ”と知らせてくれた。
そこからしばらくして我に返った彼女は、凄まじい剣幕で説教をしてきた。
曰く、あそこの地理を多少なりとも把握していない女子はいない、とのこと。
その流れからわかるように、今日のショッピングは主に瑞穂。
ではなく私がメイン、らしい。
といっても特に今買う必要のあるものはないのだが。
まぁ細かいことには目を瞑って友人との休日を楽しもう。
そう前向きに捉え、二人で電車に乗る。
見上げると空は青く澄んでいて、絶好のショッピング日和だった。




