第7話:金と銀の相棒
「ジャストロ君、今度この村に二人の女の子が引っ越してくるんだ。君の家の空いてる部屋を使わせてあげられないかな?」
ジャストロはジーク幻将軍に村役場に着いた途端にこんなことを言われた。
「はぁ…」
いきなりのことで、ジャストロは曖昧な返事を返した。
「無理かな…?君と同じ年代の女の子だから、気は会うと思うんだけど」
ジーク幻将軍に言われたが、ジャストロは眉間にしわを寄せて迷っていた。なにしろ、ジャストロは数十年、同年代の女の子と関わっていない。そのため、自分が普通に女の子と接することができるのかと迷っていた。
が、ふとフレードがいることを思い出した。彼なら女慣れしているから問題ないとジャストロは考えた。
「いいですよ。確かに部屋はかなり空いているので、使わせてあげても全く問題ないです」
「ありがとう。君には本当に頼りっぱなしですまないと思っているよ」
ジーク幻将軍は軽く頭を下げた。
「とんでもないです!俺は自分の出来る範囲でやってます。不自由もないですし」
ジャストロは自分に迷惑がかかってる自覚はなかったので、慌てて答えた。
そしてジーク幻将軍に一礼した後、家に帰った。フレードは狩りに出ているのか、家のどこにもいなかった。新しい住人の事は後で話そうと思い、とりあえず空き部屋の掃除を始めた。物は必要最低限の物しかなく、埃もあまり溜まってなかったため、掃除は比較的早く終わった。
そのため、狩りに行こうと思い、支度をして玄関の扉を開けた…ところに、2人の少女とジーク幻将軍が立っていた。いきなりのことに、ジャストロは目を何度か瞬いた。
「おおっ…!」
と、一人の金髪の女の子が目を輝かせて驚いていた。
「・・・・・・」
もう一人の銀髪の女の子は、表情を変えずに、無言でこちらを見ていた。
ジャストロは、何を言おうかと困惑していた…が、ジーク幻将軍が、それを断ち切った。
「いきなり驚かせてごめんよ。この二人が、さっき伝えた二人の女の子だよ。まだこの村については口でしか説明してないから、後で一緒に回ってくれると助かるよ」
「わかりました」
ジャストロは、そう言ってジーク幻将軍の頼みを承諾したが、正直言って自分にそんなことができるのかと思い、答えてしまった。
「ルナクですっ」
金髪の女の子がそういった。
「シルです…」
銀髪の女の子がそういった。
それを聞いて、ジャストロは驚いた。ルナクとシルといえば、あまり知られていないが、かなりの狩猟スキルを持っている。
単体でも強いが、コンビで狩りをすると、無類の強さを発揮するほどだと聞いている。
「ジャストロさんですよね!よろしくお願いしますよーっ」
二人のことをぼーっと考えていたら、いきなりルナクが握手をしてきた。しかも、手をかなりブンブン振られた。
「よろしく…」
続いてシルも握手をしてきた。こちらは普通の握手だった。
「ジャストロ君のことは、僕から伝えちゃったから、二人はすでに知ってるよ。じゃあ、後はよろしく頼むよ」
握手をし終えた3人を見て、ジーク幻将軍はその場を立ち去った。
「えっと、じゃあ、とりあえず上がって下さい」
ジャストロは、相手があのルナクとシルのコンビだと知ってからか、自然と口調が敬語になってしまった。
「あれー?私の聞いた話によると、ジャストロさんは普段はタメ口って話ですよー?」
と、ルナク。
「歳上にはタメ口だって…さっきジーク幻将軍が言ってた…」
と、シル。
ジーク幻将軍はそこまで観察してたのかと、少し関心?しながら、ジャストロは渋々と普段の口調に戻し、二人の部屋を案内した。
「こっちがルナクさんの部屋で、こっちがシルさんの部屋」
結局名前だけは呼び捨てする気にはなれず、二人をそれぞれの部屋に案内した。しかし、ルナクが一言。
「部屋は一つでいいですよ?」
「え?2人いるから一部屋ずつじゃないのか?」
ジャストロは不思議に思って訪ねた。すると、いきなりルナクがシルに抱きついた。
「私とシルはこーやっていつも2人でいますから、一部屋に2人で大丈夫ですよ!」
その様子を見て、コンビって狩り以外でもこんなに仲が良いのかとジャストロは思った。
そのあと、トイレ、お風呂、居間、ダイニングなどの、生活に必要な設備などを2人に一通り説明した。
「じゃあ、俺はこの後狩りに行くから、2人は好きなように家の設備を使ってもらっていいから」
ジャストロはそう言い残し、2人をもてなすための食材を狩りに出た。
残された二人は、早速お風呂を借りることにした。何を隠そう、この二人はかなりのお風呂好きだった。理由は疲れが取れるうえに、ゆったりとした時間が過ごせるからだ。
「やっと一息つけますね〜。じゃあ、私はシルの分の着替えとか持ってから行きますから、先入っちゃってて下さい!」
ルナクはそう言って、部屋までダッシュした。
残されたシルは、脱衣所で服を脱いだ。その身体は、密かに名の知れる狩人の体とは思えないほどに華奢であった。すらりと伸びた手足、さらにくびれたお腹、そして形の良い腰骨など、とても魅惑的であった。服を脱ぎ終わったシルは、とりあえずシャワーを浴びることにした。
「よっしゃ!今日も沢山狩れたぜ!」
フレードは、朝早くから狩りに出ていた。朝食を食べた後はすぐに狩りに出て、少し遠くの狩場まで足を運んでいた。
家に入ったフレードは、ひとまず風呂に入ることにした。汗も沢山かいたし、狩り後にひとっ風呂浴びるのが何より好きだった。
脱衣所で衣服を全て脱いで、いざお風呂の扉を開けた…が、そこにはすでに先客がいた。
そこには銀髪の小柄な少女が一糸まとわぬ姿で入浴していた。いきなりの来客に、少しびっくりしている様子だった。
「あ、えっとなぁ…あれ?家間違えたのか俺?あはは…」
フレードはそんな独り言を言って、苦笑いを浮かべた。
「不審者…変態…出てって…!」
そんな中、銀髪の少女はそう言って、フレードにお湯やら石鹸やらを投げつけてきた。
「だぁーっ!わぁったわぁった!すまねぇってば!!」
フレードは慌ててその場を飛び出し、脱衣所を出ようと扉を開けた…が、今度はそこには金髪の少女が立っていた。こっちも一糸まとわぬ姿で、手には着替えを持っていた。銀髪の少女よりもすこし胸が膨らんでいるのをフレードは確認してしまった。
「うおっ!?またかよ!あ…すんませぇ〜ん…」
と、またフレードは苦笑い。しかし、金髪の少女は顔を真っ赤にしはじめ…
「へっ、へんたぁ〜いっ!!!」
その声とともに、フレードのみぞおちに金髪少女のボディーブローが炸裂!いきなりの奇襲になすすべもなく、全裸のフレードは、そのまま仰向けに倒れて伸びてしまった。
フレードが動かないことを確認すると、ルナクは脱衣所に鍵をかけ、お風呂のドアを開けた。そこには、すこしムスッとした顔のシルがいた。さらに、周りは石鹸などが飛び散っていた。
「さっきの変態、シルになにかしたんですか!?」
ルナクは慌てて聞いた。
「ううん…いきなり入ってきたから、石鹸とか投げて撃退したの…」
しかし、そういうことらしい。
「そうですか!…はぁ〜よかったですっ!!」
そういって、ルナクはシルに抱きついた。
「ルナク…ありがと…!」
シルは裸で抱き合うことを嫌がらず、自分のことを第一に考えてくれるルナクに対し、軽く微笑んだ。二人はしばらく抱き合った後、仲良く風呂に入った。
そんなことが起こってることも知らず、ジャストロは今、狩りの真っ最中だった。相手は、あの希少動物のヘヴァントスだった。ルナクとシルという大物に満足してもらえる料理を作るには、ヘヴァントスを狩るのが一番だと思い、迷いの森を数時間探索していたのだ。
今、ヘヴァントスはボロボロになって足を引きずっているため、逃げることは不可能だ。その状態で、ジャストロは華麗な剣さばきで、ヘヴァントスの急所を切りはらった。ヘヴァントスは音もなくその場に崩れ去った。
やっと狩猟したヘヴァントスを肩に担いで持ち帰ろうとしたが、ふと狩気を感じ、ジャストロはヘヴァントスを担いだまま草むらに身をひそめた。現れたのは、ドラゴンスタンプだった。何かを狙っているように見え、ジャストロがふと、視線の先を見ると、そこにはなにやら虫がいるようだった。ドラゴンスタンプが近づき、その虫に食いつこうとした矢先…いきなり、その背後の「丘」が動いた!正体を現したのは、大きなドラゴンだった。確か名前は、アンガロスだった。詳しくは知らないドラゴンだったので、擬態することも知らずジャストロは驚いた。しかし、もっと驚いたのはドラゴンスタンプだろう。逃げることも立ち向かうこともせず、只々唖然としてた。そして、そんなドラゴンスタンプに容赦なく、アンガロスはその鋭い牙で噛み付いた。ドラゴンスタンプの緑の鱗が破壊され、大量の鮮血が滴り落ちた。もう一度アンガロスが噛み砕くと、今度は内蔵らしきものが鱗の間から押し出された。
そんな様子を見ているうちに、アンガロスはペロリとドラゴンスタンプを食べてしまい、そのまま進んで行ってしまった。
捕食などはよくある光景だが、あれほど大きなドラゴンの捕食をジャストロは初めて見た。そのため、今自分が何をしているのかも忘れて、アンガロスの捕食シーンに釘付けになってしまった。数分経ってから我に返り、村へと帰った。
帰宅したジャストロが最初に見た光景は、全裸で倒れているフレードだった。正直、何が起きてるのかを理解するまでに少しかかった…が、結局こうなった経緯は分からず終いだった。とりあえずリビングに行ってみると、ルナクとシルがいた。こっちを見たかと思うと、二人ともものすごい勢いで寄ってきた。
「げっ…玄関に倒れてた変態見ましたかっ!?」
「いきなり入ってきた…早く外に移動させないと起きちゃう…」
変態とは、多分フレードの事だろうと思った。と同時に、二人にフレードの説明をするのをすっかり忘れていた事を思い出した。
「あぁ…あいつはフレードっていって、俺の狩り仲間なんだ。俺が出て行く前に紹介するのを忘れてて…怖い思いさせちゃったな…」
そういうと、二人はお互いの顔を見合わせて、驚きの表情を浮かべた。
「えぇっ!?そうなんですかぁ〜っ!?」
「どうしよ…ジャストロ…ごめん…」
二人はかなり取り乱していた。
「まぁまぁ、これは二人に伝えて置かなかった俺の責任だから、二人が気にする事じゃない」
そういうと、二人はやっと落ち着いた顔になった。
「まあ、五分五分ですねっ!あ〜あ〜、そのフレードさんに私たち裸を見られちゃったんですよね〜。お風呂にいろうと思ったらいきなり来ましてね」
リラックスしたルナクはそんな事を言った。シルは無言で軽くうなづいていた。
「それは申し訳ない事をした。すまない…」
そういってジャストロは頭を下げた。ジャストロにとって女性の入浴を阻害する事は、なによりしてはいけない事であり、さらに女性の裸体を見てしまうなどという事は、男性にとっては憧れかもしれないが、女性にとってはすごく傷つく事だろうと思っていた。
「ちょっ!?そんなそんな!そこまでしなくても大丈夫ですって!」
「うん…ジャストロは悪くない…自分を責めちゃだめ…」
二人はやはり心が広く、ジャストロを許そうとした。
「いや、これは俺のけじめなんだ。だから、ここまでしないと俺は自分自身を許せないんだ」
そういってジャストロは頭を上げた。ルナクとシルは納得してくれたのか、笑顔だった。
「なんか、ジャストロさんって本当にかっこいいですね!ジーク幻将軍の言ってたそれ以上にかっこいいです!」
「うん…ジャストロってもてそう…」
二人はそんな事を言ってくれた。
「ありがとう。でも、女性とはまだ付き合った事なんてないんだ…」
やはりこの顔だからか、ジャストロの元には、怖がって女性があまり近づかないのだ。それに、ある女性を失った過去もある。
「ほえぇ!それじゃあ、私たちと付き合いますか?」
と、ルナク。
シルはいつものポーカーフェイスだった。
「は…?」
いきなりの事にジャストロは固まってしまった…一瞬の沈黙…の後、ルナクが突然吹き出した。
「なぁ〜んてっ!冗談ですってば冗談っ!あはは、本気にしちゃいましたぁ〜?」
そういってルナクはジャストロの背中をバシバシ叩いてきた。シルは、そんな様子に少しため息をついていた。
ジャストロは訳が分からずまだ固まっていた。
「あ〜っ…ってーなぁ…!ったく散々な目にあったぜ」
そんな中、ジャストロを助けるかのように、リビングの扉を開けて全裸のフレードが入ってきた。
「いやあぁぁぁぁっ!」
まず真っ先にルナクが悲鳴をあげ、フレードに、向かってタオルを投げた。
「ちょっと!乙女の前なんだからそのぶら下がってるものぐらい隠してくださいっ!!」
「なんだよ!こりゃぁ男の象徴なんだぜ?隠してたら意味ねぇんだよ!」
そういってフレードはヅカヅカとルナクに歩み寄った
「うるさいですっ!!あなたの象徴なんて見たくもないですっ!」
「なんだとぉ〜っ!」
どうやら、言い争いが勃発してしまったようだ。止めようにも手をつけられないほどに、二人はバチバチと火花を散らしてにらみ合っていた。
焦るジャストロであったが、いきなり服を引っ張られた。どうやら、シルがなにやら言いたい事があるようだった。とりあえず目の前の喧嘩からは目を背け、シルと一緒にリビングから出た。
「ルナクがなんであんな冗談言ったのかっていうと、ルナクはいたずらとか冗談とか、人をいじるのが好きなの…特に、ジャストロみたいな落ち着いた人とか物静かな人がターゲットになるの…」
と、シルは意外にも詳しく説明してくれた。あまり喋らないが、必要な時にはちゃんと説明してくれるようだ。
「そうだったのか…驚いた…」
ジャストロは、真実を知って安堵した。
「だから、あんまり気にしなくていいの…最初は慣れないと思うけど、徐々に慣れるはずだから…」
シルはそういって、すぐにリビングに戻った。ジャストロも慌ててシルを追って、リビングに戻った。
リビングでは、頬を赤らめたルナクと、全裸のフレードがまだ言い争いをしていた。ジャストロは、この2人は人をいじる事や、冗談が好きな性格が似ているから、気は合うんじゃないかと思ったが、やはり対面の仕方が最悪だったため、ダメなのだろうと思っていた。どうやって止めようかと考えていたところ、自分より先にシルが動き出した。そして、言い争っている2人の間に、音も無く割り込んだ。言い争いに夢中だった2人は、いきなり割り込んできたシルに、怒るどころか呆然と見つめていた。
「もう言い争いは終わり…みんなで狩りに出て仲直りしよ…仲間割れは良くないっ…!」
数十秒の沈黙の後、フレードとルナクは頬を緩めた。
「ったく…集中力削がれちまったぜ。言い争いしてんのバカバカしくなっちまったぜ」
と、フレード
「まったく…シルは優秀ですよ!そうですね!狩りに行きましょう!!」
と、ルナク。
どうやら、シルのおかげで喧嘩に終止符が打たれたようだ。
その後、それぞれ狩りの支度をし、四人で狩りに出た。今日の狩りは大型でも良いだろうと思い、みんなで大型のドラゴンを探した。
が、ドラゴンも獣も全くといっていいほど見つからなかった。そのため、歩いても仕方がないので休憩を取る事にした。日差しが心地よく、吹く風もちょうど良かった。そんな中、フレードがなにやら見つけたそうだ。
「おい、こんなとこに虫がいるぜ!こいつでなんかおびき出しちまおうぜ!!」
そこには、なにやらジャストロにとって見覚えのある虫がいた。
「おぉーっ!いいですね!そうしましょうよ!!」
ルナクも乗り気だ。だがしかし、ジャストロは変に落ち着かなかった。シルはいつものように無言だった。
「おし!やるか!」
そういってフレードが虫に手をかけたのと同時に、ジャストロは思い出し、叫んだ。
「待て!そいつは肉食の大型ドラゴン、アンガロスの尻尾だ!!」
だが、遅かった。フレードが虫をつかんだのとほぼ同時に、「丘」が動いた。虫型の尻尾を引っ張られたからだろう、少し怒っているようだった。さらに空腹なのか、かなりのヨダレを垂らし、今にも襲い掛かってきそうだった。
「しょうがないな。今日の獲物はアンガロスだ。行くぞ!」
そういってジャストロが剣を抜いた。
それに続くように、三人がそれぞれ合図し、剣を抜き、アンガロスを取り囲む形で、位置についた。
まず、アンガロスは目の前のジャストロを狙って、大きな腕を振り下ろしてきた。その動きは巨体とは思えないスピードであり、複雑骨折で済めばいいほどの威力がある。爪も鋭いため、避けきれないと肉を裂かれることとなる。
しかし、そんなアンガロスの攻撃にも、いつもと同じようにジャストロは冷静に避けた。空を切ったアンガロスの腕は、地面を深々とえぐった…と同時に大きな地震が起きた。この地震も、アンガロスの攻撃の一つなのだろう。
「ふわっ!?」
この地震によって、ルナクが倒れてしまった。流石にここまでの地響きが起こるとは予想していなかったのだろう。陣取っているのはアンガロスの真後ろだが、アンガロスは自慢の尻尾で薙ぎ払いを仕掛けた。しかし、ルナクは地面にぐでっと寝そべり、ギリギリで薙ぎ払いを避け切った。もし当たっていたら、骨は粉々になっていただろう。
「ふぅ〜っ…危ない危ないっ!ルナクちゃん間一髪でした!」
そんな呑気なことを言いながら、ルナクは立ち上がり、レイピアをしっかりと握った。
「おっし!んじゃ、次は俺たちの番だぜっ!!」
アンガロスの隙ができたところで、今度はアンガロスの右と左の胴体に陣取っていた、フレードとシルがそれぞれ攻撃態勢に入った。
「いょっこらせっとぉ!」
フレードは、その自慢の神器で、アンガロスの胴体を切り裂こうとした…が、はが全く通らず、弾かれてしまった。
「マジかよ…こいつ硬すぎんだろ…!」
と、フレードが呆然としている間に、アンガロスはフレードに体当たり攻撃を仕掛けた。
「やっべ…」
フレードにアンガロスが迫ってきた…が、ふいに、その巨体がぐらついた。フレードが驚いて目をやると、腹から出血していた。その攻撃主はもちろん、シルだった。
「このドラゴンは硬いから…一箇所をずっと攻撃してみたの…そしたら、ヒビが入って、柔らかい部分が露出した…」
やはり鋭い洞察力というべきか、シルのおかげで、完全に戦況はこちらに向いた。
「みんな…攻撃するなら今…!」
シルのその声とともに、みんな一斉に、それぞれ、アンガロスの甲殻を集中攻撃した。すると、シルの言った通り、ヒビが入り、柔らかい部分が露出した。
空腹と出血でふらふらしていたアンガロスは、四人の集中砲火により、その巨体を傾けて絶命した。
「やっぱりシルは凄いですよ!!私よりも何倍も頭いいですっ!」
狩りが終わってすぐに、上機嫌なルナクが、シルに駆け寄り抱きついた。
「ううん…これはみんなのおかげ…ジャストロとルナクが攻撃を避けて隙を作ってくれたし、フレードが剣を弾いてくれたおかげ…」
そういってシルは優しく微笑んだ。
そんな様子を見ていたジャストロとフレード二人は、初めて見たシルの笑顔によってハートを狩られそうだった。
「さっ!このアンガロスちゃんを村まで運びましょう!!おっきいので、協力して運びましょうか!」
そういって、ルナクはアンガロスを丁寧に切り分け始めた。その剣さばきは迷いがなく、次々と解体していった。
「やっぱりルナクとシルの名は伊達じゃないみたいだな」
と、ジャストロ。
「そうだなぁ!最初はえらい目に合わせちまったぜ」
と、フレード。
「なに見てるんですかーっ?はやく運びますよ〜っ!!」
そんな二人を、ルナクは両手を大きく振って呼んでいる。シルも、手招きをして待っている。
「よし、行くか」
「っしゃあ!運ぶぜ!!」
そういって二人は手招きしているルナクとシルの元へと駆け寄った。
その後、アンガロスのは手際よく村まで運ばれた。甲殻や鱗、目などは武器屋や防具屋、薬屋に売り、肉だけをもらって四人は家へと帰った。
「いやぁ〜つっかれましたねー!」
ルナクがソファにどかっと座った。
シルもその横にちょこんと座った。
フレードに至っては、リビングのジャストロのベッドでイビキをかいていた。
そんな三人に苦笑しながら、ジャストロは、ルナクとシルをもてなす料理を作り始めた。作るのは、ヘヴァントスから取れるレバーの刺身、肉のステーキ、アンガロスの肉と野菜のポトフ、ヒレ肉焼きなど…肉料理が多いが、そこは野菜屋で買ってきた野菜の盛り合わせで補うことにした。
すべての食事が出来た頃には、外は真っ暗だった。リビングに目をやると、ルナクとシルも、お互い寄り添いながら寝ていた。狩りと新たな生活に疲れたのだろう。一方のフレードは、まだイビキをかいて寝ていた。
そんな三人を起こし、ジャストロは料理をテーブルに運び始めた。
「えぇ〜っ!?これ、ジャストロさんが全部作ったんですかぁ!?」
「すごい…!ジャストロかっこいい…!!」
この料理の多さに、ルナクとシルはかなりビックリしていた。
「おいおい頑張ったなぁ…!なんか寝ちまって悪ぃな」
と、少し申し訳なさそうな顔のフレード。
「まあいい。とりあえず、料理が冷めないうちに食べよう」
そういって、全員を席に着かせた。すべての料理を運び、ジャストロも席に着いたところで、四人が一斉に手を合わせた。
「「「「いただきます!」」」」
ジャストロのために命をくれたヘヴァントス、我々と死闘を繰り広げ、命をくれたアンガロス、そして野菜たちに感謝の意を込めて言葉を発した。
なんどもいうが、ライアスでは命を授けてくれた生き物には、必ず心から感謝の意を示すのが常識である。
そして、楽しい夕食が始まった。その日の夕食はジャストロにとって、今までで一番賑やかで楽しかった。やはり仲間はたくさんいたほうがいいんだと、ジャストロは昔の自分に言い聞かせ、食事をとった。
次はどこかに遠出をしたいな…と、一人考えていた。
お久しぶりです!閃光眩です!今回は、また新たな展開となり、賑やかになっております!さらに、狩猟シーンや、メニューの紹介など、狩りについて詳しくなっている回なので、ぜひ楽しんで読んでみてください!次は遠くへ行きますが、どこへ行くんでしょうか…お楽しみに!!ではまた会いましょう。