第5話:二つの事件
その日、ジャストロとフレードは、いつものように二人で狩りに出ていた。今日の狩りは、もう少しで頭の傷が完治するユーリアのために何か二人で料理を作ろうと二人で話し合って決めた狩りだった。頭の傷が早く完治するようにと、和解した日から毎日二人が病室に行くと、ユーリアは病院食ばかり食べさせられていた。病院食は栄養バランスを考えられていて体にもいい食べ物だが、同じ成長期であるジャストロとフレードからも見てわかるように、その食事は明らかに少なかった。
そういった面からも、今回の狩り計画は進められていた。
今回二人が相手にしているのは、小型の二足歩行ドラゴンだった。小型といっても、大きさは二人より少し小さめなだけである。そんな大きさの割りには動きが素早く、最初のうちは手こずるが、狩っているうちに慣れて簡単に狩ることができるドラゴンだ。その肉は脂が少ないが柔らかい肉質のため、上品な肉の部類にも入るほど食べやすい。また、繁殖力も高いため、沢山狩ってもいいドラゴンでもある。
そんなドラゴンに、一人前狩人歴12年の二人は手こずっていた。理由は簡単、二人とも「素手」で戦っていたからだ。しかも、上半身は裸だった。フレードの上半身は、腹筋ほどまではいかないが、それなりに鍛えられており、男なら憧れる体つきだった。一方のジャストロは、腹筋はうっすらと割れているだけで、筋肉もそこまでついていないが、かなり引き締まった体で、よくよく見るとかなり理想的な体つきである。
なぜ素手かというと、数日前にジャストロがフレードに、普通の片手剣での狩りの仕方をみっちり教えたため、お礼にとフレードが、武器を使わない素手での狩りを教えることにしたというわけだ。フレードは、自分よりひょろひょろのジャストロに、素手での狩りは厳しいだろうと内心思いながら、今日を迎えた。しかし、結局フレードの思惑は水の泡となった。
「お前っ…!なんでそんな強いんだよっ!」
ジャストロにそういいながら、フレードは迫ってきた小型ドラゴンを力で投げ飛ばす。
「さあな…!」
ジャストロは素っ気なく返し、同じく迫ってくる小型ドラゴンを、フレードより簡単に投げ飛ばした。なぜジャストロがこんなに強いのか。理由は、ジャストロが使っている技が、地球でいう柔道や護身術と一緒だからである。
これらの技は、村にある蔵書館でたまたま見つけた本に書いてあった。最初はあまり興味のなさそうな物だったが、どんどんのめり込み、最終的には狩りに使えそうな技は全部習得してしまった。そのため、素手での戦闘もあまり鍛えず、力を使わずに、たくさんの獲物を狩ることが可能だった。しかし、実戦で使うのは初めてであるため、多少手こずっている。
しかし、二人とも少しずつではあるが、確実に相手を追い詰めていた。
そして、相手を先に狩ったのはフレードだった。何度か相手を投げ飛ばし、相手がへばってきたところに、首をホールドし、息の根を止めての豪快な勝利だった。
一方のジャストロは、フレードのように豪快ではなかったが、相手を柔道の固め技で動けなくし、その後はフレードと同じように、首をホールドし、相手の息の根を止めた。
「っしゃあ!これで二品はそろったな!」
フレードがガッツポーズをし、立ち上がった。
その後、倒したドラゴンをひきずってジャストロの倒したドラゴンの上に積み上げた。
「でも、まだまだだ。これじゃあユーリアの成長には足りない」
ジャストロは近づくフレードにそう言い、立ち上がった。そして、続けてある考えを口にした。
「もう素手の狩りは楽しめたし、今度は二手に分かれよう。その方が効率いいし、同じ獲物ばっかりにならない」
その言葉に、フレードは苦笑しながら答えた。
「俺も賛成するぜ。まさかお前が素手の狩りがこんなにあっさりできるとは思ってなかったしよ!」
「じゃあ決まりだな」
「おぅ」
二人はそんな会話を交わし、フレードは迷いの森の方へ、ジャストロはフレードとは逆の方向へと向かっていった。
フレードは、無言で迷いの森に向かって歩みを進めていた。目的地は、ジャストロが教えてくれた、迷いの森の中でも特に美味しい獲物を狩ることができる滝だ。そこへ向かっている途中に、フレードは、謎の足跡を見つけた。それはドラゴンや獣ではなく、明らかに狩人の足跡だった。この辺を狩場にしている狩人は今まで見たことがなかったので、フレードは、会えるかもしれない狩人に少し緊張しながら滝へと歩みを進めた。
今日は迷いの森は生き物が全くいなかった。いつもは森の中を悠々と歩いていたり、草むらから飛び出してきたりするが、今日は不気味なほどいなかった。
謎の足跡と静まり返った迷いの森…目的地で何か起こると予想し、さらに歩みを進めた。
そして、滝が見えてきたところでその何かは起こった。滝の前に一人の少女が立っていた。ジャストロが、ここを狩場にしている狩人は、多分俺以外はいないと言っていたが、まさか、狩人がいたとは、と思いながら、フレードは少女に近づいた。しかし、少女警戒し、さらに衝撃的な一言を放った。
「来ないでっ!それ以上近づいたら、ここで自殺しますよ!」
フレードはその言葉に歩みを止め、急いで少女を助ける事へと思考を切り替え、作戦を練った。
ジャストロは、あてもなく草原を歩いていた。目的は特になく、行き当たりバッタリで獲物を狩ることができればそれでいいとおもいながらいた。
しばらく歩いていたが、すぐ近くで、女性の悲鳴が上がった。特にやることもなかったので、悲鳴のする方へと走った。
そして、見たものは…男が一人、食人植物に喰われかけている。そして、その近くに、女性がへたり込んでいた。顔はかなり青ざめている。
女性はジャストロの存在に気づき、こちらを振り返って叫んだ。
「たっ…助けてくださいっ…!私の彼が…お願いします!」
女性の声は、所々声が裏返って、さらに震えて聞こえたため、かなり焦っていることがわかった。
ジャストロは、素早く食人植物へと剣を抜きながら近寄り、一気に切り裂こうとした…が、僅かに食人植物のほうがはやく、男を飲み込んだ。
実は、この食人植物は、獲物を飲み込むと硬化してしまう性質がある。そのため、こうなってしまっては、神器でない限り、相手を切り裂くことはできない。ジャストロはここにいるのがフレードだったら助けられたのにと、自分の不甲斐なさを噛み締めながら、無理だとわかっていながら、食人植物に何度も剣を叩きつけた。絶対に助ける。そう思いながら、ジャストロは奮闘を続けた。
「さぁて…どうすっかな…」
と、呟きながら、フレードは必死に考えた。一応、案は2つ考えた。一つ目は、いきなり駆け寄り、そのまま強引に捕まえる。しかし、これには相手が動くより先に駆け寄らなければならない。当然、追いつけなければ少女を見殺しにしてしまう。
二つ目は、相手を口説き、こちらに近づけさせる。フレードは口説きに自信はあったが、こんな雰囲気の中、口説いて成功する確率は、五分五分だと思った。他の策はないかと考えていたところ、不意に、少女が口を開いた。
「あなた、私を助けにここにきたんですか?なら、やめたほうがいいですよ」
「なんでだよ?あんた助けるなんて楽勝だぜ?」
フレードは、調子こいてそう言った。が、少女は聞く耳を持たず、話を続ける。
「あなたは知りませんよね?この滝の裏の洞窟に、怪物がいるのは」
「知らねぇな」
「その怪物は、とても強いので、そのためにこの辺は誰も近づかないと聞きました。だから、私は洞窟の裏に行き、命を断ちます。邪魔をしたらすぐに水の中に身を投げるか、このナイフで心臓を指しますから」
フレードはこの話を聞き、少女の背後の滝を目を細めて観察した。確かに滝の裏に洞窟がある。滝の水は透き通り、洞窟を光らせていた。それを見て、フレードは少女を助ける方法を思いついた。フレードは、セリフを間違えないように、何度も頭の中で繰り返しはじめた。
ジャストロは、未だに食人植物と戦っていた。剣の角度を何度も変えたり、力を調節したりしたが、食人植物は微動だにせずに悠々と食事を楽しんでいる。この状況から男を救い出すことは不可能といっても過言ではなかった。しかし、ジャストロは無いはずの希望を捨てずに、飛び散る汗も腕の痛みも気にせず、一心不乱に戦った。
そして、ついに腕が動かなくなってしまった。が、その腕をどうにかあげて、最後の一発を相手に叩き込もうとした…が…その腕を何者かが掴んだ。驚いて振り返ると、そこに立っていたのは、この男の彼女だった。
「…もう…いいです…あなたの腕が…ちぎれちゃいます…」
「何言ってるんですか⁉︎あなたの彼氏さんじゃないですか!」
ジャストロは、彼氏より自分を優先する女に驚き、そう言った。しかし、女はジャストロの腕を離さない。無理やり手を解こうと思ったが、その思考は女の言葉によってかき消された。
「彼は…過度のアルコール中毒者だったんです…わたしが何度止めても全く聞く耳を持たなくて…」
そう話す女の顔は、悲しみよりも諦めの方が強い感じがした。
「今日もこうなってしまったのは、彼がお酒を飲んでから狩りに出かけてしまったので、まともに戦えなくて…彼が食べられてしまった時はびっくりしたんですけど、貴方が戦ってくれている時によくよく考えてみたら、彼の自業自得でもあるなって思いまして…」
ジャストロは、いつの間にか無言で女の話に耳を傾けていた。
「おい、あんた!その滝の裏に、怪物なんていないぜ!」
少女はビックリしてフレードに言い返した。
「あなた、根拠はあるんですか!行ったことあるんですか!」
「ある。洞窟をよく見てみな。滝で洞窟の部分が光ってるだろ?ありゃ多分宝石かなんかがあんだよ。よくみてみな!」
フレードはとりあえず言ってみた。
少女は、怪訝そうな顔で、洞窟の方へと体を向けた。そして、目を細め、滝を凝視した…が、全くわからない。
「ここからじゃあわからないですよ!なんであなたには見えるんですか!」
少女がそう言い、フレードの方を向いた。途端に、今まで遠くにいたフレードが、自分の真正面にいた。
「ちょっ…来ないでって言ったでしょ!私を騙したんですね!」
少女は怒って、ナイフを取り出したが、あっさりフレードに取られてしまった。そして、少女は、フレードによって抱きしめられた。
「ちょ…ちょっと!こんなことしてタダで済むと思ってるんですか!?」
少女は顔を真っ赤にして暴れようとしたが、フレードは、少女を離すまいと、しっかり抱きしめた。
そのため、フレードの厚い胸板が、少女の顔に押し付けられ、少女は恥ずかしさのあまり気絶してしまった。
「しまったなぁ…でもまあ、一件落着ってやつか!しょうがねぇ、このまま帰るか」
そう呟き、フレードは少女をお姫様抱っこし、村に向かって歩いた。
女の話を聞いたところ、今回の狩りは、もう彼女自身、止めることができなかったらしい。女が近づこうとすると、男は剣を振り回したという。目の前の女が彼女であることすらもわからなくなるほどに酔っていたそうだ。
「それで…もうどうしようもなくて…守りたいのに彼が拒んでるような気がしてならなくて…そしたら彼があの植物に食べられてしまって…」
ジャストロはその話を腕組みして聞いた。
「でも、もういいんです…!今日の狩りは、私の賭けでもありましたから…彼と私の鎖が切れるか切れないかのです…」
少女はうつむきながらそう言った。
ジャストロは、女にかけるべき言葉がみつからなかった。変に話しかけて、女を傷つけてしまってはという気持ちがあり、ただ無言だった。
そんな中、女がおもむろに口を開いた。
「あの…実は、ここまで彼を追いかけるのに精一杯だったので、全く道がわからなくて…」
「それじゃあ、俺の村に来てください。ここから近いですから」
ジャストロは微笑みながらそう答えた。
「お願い…します…」
ジャストロの顔を見た女は、なぜかほおを赤くしながらぎこちなく答えた。
そして、二人は村を目指して歩いた。
フレードは、とりあえず気を失った少女を抱えて、村の役場へ来ていた。この村の狩人ではないので、起きたらジーク幻将軍に送ってもらおうと考えていた。
「まさか自殺を試みていたとはね…よく助けてくれたよ。尊い狩人の命が犠牲にならずに済んだよ。ありがとう」
ジーク幻将軍は、改めてフレードにお礼を言った。
「いやぁ〜そんなに褒められることでもないと思いますぜ」
フレードは、敬語慣れしていない上に照れ臭いため、目を泳がせていた。
と、そんなところに、ジャストロが入ってきた。一人の女を連れている。
「この女の人、色々とあって、迷ったそうです。よろしくお願いします」
ジャストロがそう言ってジーク幻将軍を見たが、それより先にフレードがいることに驚いた。
フレードは右手を上げてジャストロに挨拶をし、今までのことを短くまとめて話してくれた。
ジャストロは、話を聞きながら、女をジーク幻将軍の所へ案内した。
フレードの話が終わったところで、今度はジャストロがジーク幻将軍に、あったことを話した。
「うん、二人とも今日は大変だったね。それと、よく連れてきてくれたね。あとは僕たちがなんとかするから、君たちは帰っていいよ。お疲れ様」
話を聞き終わると、ジーク幻将軍は優しくそういい、すぐに女に、住んでいる村についてなど色々と聞き始めた。
ジャストロとフレードは、そんなジーク幻将軍の寛大さに感謝し、役場を出た。
その後はジャストロの家に行き、今朝とった食材でユーリアのための料理作りに取り掛かった。その際、今日あったことをお互い話しながら料理を完成させた。
「しっかし、すげぇよな。二人が二人とも事件に巻き込まれるなんてよぉ」
「全くだな」
2人はそういい、顔を見合わせて苦笑した。
その後、2人は完成した料理をユーリアに届け、さらに今日あったことを話した。ユーリアは、どちらの話にも目を丸くしたり感心したりと、いろいろな反応を示してくれたため、会話は大いに盛り上がった。
あけましておめでとうございます。閃光眩です。今年もよろしくお願いいたします。
今回の話は、共闘と個別行動と、二つに分けてみました。その二つにおいて、二人がどのような行動をするのかなど、そういったところをかいてみたくなったので、このような話にしました!
今年もロールプレイングハントをよろしくお願いします。
※追記ロールプレイングハントのキャラデザは、Twitterにて公開中です。Twitter検索で、「ロールプレイングハント」と検索していただければ、出てくるかと思います。
では、次の話でまた会いましょう。次は神話についてです。