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ロールプレイングハント  作者: 閃光 眩
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第3話:飛翔

リンカと別れてから、かれこれ数日が経った。別れてから何日かは、修行などありとあらゆることにやる気が起きなかった。

しかし、ある時思った。もし、こんな俺をリンカが見たらどう思うかと。自分の理想の兄がだらけていたら、確実に失望して離れていってしまうであろう。

これではいけないと思い、それ以来はいつも通りの生活を心がけ、今ではすっかり元どおりの生活に戻った。

そして、今日も狩りに行くために村を出た。

今日はブラツベラを狩ることにした。ブラツベラは個体数が多く繁殖速度も速いため、よく初心者の標的にされる。ブラツベラは顎がとても発達しており、万力のようになっており、小石なら難なく潰してしまう。また、足も意外と速いため、その2つを気をつければ良い。初心者の場合は慣れてなく、怪我をすることがあるので、初心者はブラツベラが噛みつきにくい大きめの盾を使って防ぎながら狩るのが一般的だ。楽に狩れる上に様々な薬剤や調味料などに使用できるので、かなり便利な昆虫でもある。

ブラツベラの生息地に着いたジャストロは、早速一体目を見つけた。助走をつけ、一気に間合いを詰める。ブラツベラがこちらに気づき、素早く寄ってきた。意外と早かったためうまく体制を立て直せず、一旦すれ違う形となった。そのあとまた向かい合い、近づいたところでジャストロが剣を振り下ろした…が、顎近くを狙ったために剣を挟まれてしまった。ギリギリと剣が火花を散らし今にも折れそうだ…

ジャストロは焦ったがすぐに心を落ち着かせ、顎の力が弱まったところ引き抜き、そのまま胴を切り捨てた。

ここまで早く倒すのにはそれなりの経験がいる。いくら相手が弱くとも、油断をすれば先程のようにミスをするうえ、ひどい時には怪我を負う。集中し、相手に確実にダメージを与えなければ、ここまで早くは倒せない。

この世界は弱肉強食といったが、油断大敵でもある。

その後、何匹かブラツベラを狩ってると、悲鳴にも似た声が聞こえた。急いで声の方に向かってみると、人影が見えた。相手に気づかれないように、草むらからこっそりそちらを見てみると、小柄な少年が尻餅をついていた。敵はジャストロと同じくブラツベラだった。初心者なのだろうかと思いながら、少年が襲われる前に助けようと草むらを飛び出した。

少年は驚いてこちらを見たため、ブラツベラからの意識は完全に消えてしまっている。一方のブラツベラは、自分から注意を背けた少年に対し、チャンスとばかりに接近する。

しかし、ジャストロのほうが少年に早くたどり着いた。少年を草むらに避難させると、迫り来るブラツベラを受け流し、無理やり体制を立て直した。体に多少の衝撃はあったが、気にせず斬りかかる。ブラツベラはいきなりのことに混乱したのか、じぶんも大きく体制を崩したにも関わらず、立て直そうともしない。そのため、ジャストロにより真っ二つになった。

ブラツベラが完全に力尽きたのを確認して、ジャストロは少年の方を向いた。少年は唖然としていたが、ジャストロと目が合った途端に怯えた様子を見せた。

「大丈夫か?」

一応声をかけてみる。少年は、ジャストロが声をかけた途端に、肩を震わせた。

「はいぃ!…だっ…大丈夫です…」

臆病な子なのだろうか…しかも今にも泣きそうだった。

「あの…助けてくれてありがとうございます…」

しかし、臆病ながら、ちゃんとお礼はいえる良い子だったため、ジャストロは安心した。

「ん、どういたしまして。ところで、こんなところで何してるんだ?」

ふとジャストロが少年に聞いてみる。

「はい…実は僕、狩猟経験が全くないんです…ずっと村の中のものを買って生活してました…でも、最近お金が少なくなってきて、やむ負えず、狩りにでないといけなくなったんです…それで、いざ出てみたら、すごく怖くて…それでさっきも尻餅をついてしまって…」

ところどころ涙を浮かべながら、少年は一生懸命事情を話してくれた。

「あぁ…なるほどな。そういうことか」

なぜ初心者に見えたのか、これで納得がいった。

「結局まだ一体も狩ることができなくて…このままじゃ生きていけない…」

ついにこらえられなくなったのか、少年は涙を流していた。

そんな少年を見て、ジャストロは助けてあげたいと思った。毎日お金を稼げるための知恵と技術だけは教えたいと思った。

「よし、一旦村に帰ろう。俺が君に狩猟のコツを教える」

その言葉を聞いた少年は、顔を上げた。

「いいんですか…?」

心配そうに聞いてくる。

「俺は困っている人は放っておけない性格なんだ」

少年はすくっと立ち上がると、小さな声でお礼をいった。

「ありがとう…ございます…」

おどおどしているが、とても優しい子だ。

「ん、それじゃ、村まで戻るか」

「はい…!」

そういって、二人は村に戻った。幸い、村に帰るまでにドラゴンなどとは全く遭遇しなかった。

村に戻り、自分の札をひっくり返す。少年も札をひっくり返した。その札には「ユーリア」と書いてあった。

「ユーリアって言うのか。そういえば、名前聞いてなかったな。俺はジャストロ。改めてよろしく」

そういって、ユーリアに手を差し出す。

「ジャストロ…さんですか。よろしくお願いします」

そういってユーリアは手を握り返してくれた。

そんな会話を交わした後、ジャストロは村のある場所へ向かった。

「あの…どこへ向かっているんですか…?」

ユーリアが心配そうに聞いてくる。

「もちろん、修行できるところだ」

そう言い、黙々も進む。着いたところは、巨大な建物の前だ。村の中では明らかに外装が違うため、ユーリアはためらって入ったことがなかった。

「ここって修練場ですか?来たことないので分からないですけど…」

ユーリアが不思議そうに言う。

「違う違う。そんなかたくない場所だ。でも、20分しか時間はないからな」

そういってジャストロは建物の中に入っていった。ユーリアも慌ててジャストロの後を追い、建物に入っていく。

建物の中は、別世界のようだった。大きな平行四辺形のカプセルのようなものが沢山並んでいた。金属でできているのだろうか…ユーリアにとっては初めて見るものだった。また、よく見ると、そのカプセルに人が出入りしている。中に人が入れる小部屋のような造りになっているらしい。不思議に思っていると、ジャストロが一つのカプセルに向かって歩き出した。ユーリアは慌ててジャストロを追う。

「じゃあ、この中に入ってもらっていいかな?」

カプセルに着き、カプセルの扉をあけたジャストロにいきなり言われ、ユーリアは戸惑った。

「あの…ここはどこなんですか…?このカプセルみたいなものは…?何が起こるんですか…?」

遠慮がちにジャストロに聞いてみた。

「あぁ、説明なしでいきなりは怖いか。この建物は、シュミレーショントレーニングセンター。通称『STC』この小部屋は、シミュレーションカプセル。ちょっと難しい話だけど、この中に入ると全身をスキャンされる。スキャンが終了すると、この小部屋にある画面にスキャンされた情報が映る。要するに、画面の中にもう一人の自分を作るってことだ。その後必要事項を入力したら、画面にOKボタンが出るから、それを押してもらえばいい」

ユーリアは、ジャストロの言ってることに真剣に耳を傾ける。

「その次に場所設定っていうのが出てくるから、場所は修練場Aっていうのを選んでくれ。選んだら、その場所にいる狩人の名前一覧が出てくるから、俺の名前を選んでくれ。その後は、音声の支持に従ってくれれば大丈夫だ」

ジャストロは嫌な顔一つせずに、詳しく教えてくれた。

「ありがとうございます。これで安心して中に入れます」

ユーリアはジャストロにお礼をいって、中に入った。

中は思っていたより広かった。とりあえず、設置してある椅子に座る。そうすると、小部屋の扉が自動的に閉まり、目の前に謎の画面が出てきた。ユーリアは、これらは別の世界から持ってきた機械ではないかと混乱していた。しかし、画面には先程ジャストロのいっていたことが書いてあり安心した。

まずは、体をスキャンするため、目をつぶり背もたれによりかかる。しばらくすると電子音が鳴り、終了を知らせてくれた。

目を開け画面を見ると、自分と全く同じ人間が画面内にポツンと立っていた。ジャストロに説明はされていたが、改めて体験してみると混乱しそうになる。しかし、そんなことをしている暇はない。ジャストロに言われた事を黙々とこなしていく。すると画面に「椅子を倒すので、倒したら椅子のそばにあるゴーグルをしてお待ちください」というメッセージが出た。メッセージの最後には「秒ごとに電子音が刻まれ、電子音が消えて10秒たったらゴーグルを外してください」と記してあった。

メッセージ通り、ゴーグルをした。ゴーグルは墨のように真っ黒で、かけてみると光が全て遮断された。すると、椅子の背もたれが、ゆっくり自動的に倒されていった。

周りが見えないのは怖かったが、泣くのを堪え、体を楽にする。

電子音がカウントをはじめた。視界はゴーグルによって既に真っ暗だが、恐怖を打ち消すために、ユーリアはあえて目を閉じた。電子音が規則正しく時を刻む。そして、しばらくすると電子音が途切れた。



画面に書いてあった通り、ユーリアは10秒ほど待った。10秒数え終えた時から、周りの感覚が和らいだように感じた。

ゴーグルを恐る恐る外してみて、絶句した。今まで小さなカプセルの中にいたのに、いつの間にか自分がいるのは外だった。しかも、村の中でも外でもない。大きな闘技場のような場所だった。見たことのない色々な武器や道具が並び、ユーリアの好奇心を刺激する。自分に何が起こっているのかも忘れて周りを見渡していると、人が一人だけいることに気づいた。警戒心が強くなるが、よく見ると服装から先程色々教えてくれたジャストロだということがわかり、安心する。

今自分の身に何が起こっているのかをまず聞こうと思い、ジャストロのところまで走り出した。思ったよりも距離があり、着いた時には息切れをしていた。

「無事着いたか」

ジャストロがユーリアに気づき顔を向ける。

「無事もなにもないですよ!一体ここはどこなんですか?」

手足をバタバタと動かし、ジャストロに答えを聞くべく質問を投げた。

ジャストロはユーリアとは正反対の落ち着いた雰囲気で、ユーリアの質問に対し口を開いた。

「ここはシュミレーションワールド。自分を鍛えるための仮想世界だ。まだ戦いに慣れてない狩人とか、自分をさらに鍛えたい狩人が、カプセルからこういうところに来る。さっきスキャンて自分の分身を作ったが、その分身が今ここにいる俺とユーリアってことだ」

ユーリアには、気の遠くなるような話だった。まさかあのカプセルから別世界に飛ばされ、しかも自分の肉体があの分身だということが考えられなかった。が、無理やり理解し、ジャストロの話をさらに聞く。

「ちなみに、ここで覚えた技や鍛えた筋力とかは、戻ってからも反映される。それに、万が一怪我をしても痛みはしびれる程度のものだから、我慢できない痛みっていうのはない。万が一ここで死んでも、本当の肉体はカプセルの中だから本当には死なない。ただ、死んだら最初にいた場所まで戻されるけどな。でも、そういうところを含めてこのシミュレーションワールドのいいところだ」

この話を聞いて、ユーリアは驚いた。まさかここで修行でき、しかも痛みはしびれる程度などという夢のような話があるのかと。しかし、現に今起こっているのだから、信じられないとは言えなくなる。

そんなことを思っていると、ジャストロが人差し指を立てながら、また話しはじめた。

「ただし、ここにいられるのは20分だけだ。そして、ここから村に戻ったら、最低2時間は村の外で狩りをしなきゃならない。獲物のノルマは3体だ。ここにいる時間は延長もできるが、10分延長するごとに狩り時間が1時間。獲物のノルマ数が3体プラスされる」

この話にユーリアには理解できない点があったので、遠慮がちに質問してみた。

「あの…なんで20分と短いんですか?それと、村に戻って狩りを必ずしなきゃいけないのには理由があるんですよね?」

質問を聞いたジャストロは、その質問を既に予想していたかのように、滑らかに喋りだした。

「20分しか時間がなくて、なおかつ狩りのノルマがあるのは、現実とシミュレーションワールドが昏倒しないようにするためらしい。シミュレーションワールドでは痛みも少ないし、死んでもまた復活できる。でも、現実では痛みはそのまま伝わるし、死んだらそこで終わりだ。もしシミュレーションワールドにずっといた人が現実の村に出て狩りをしたら、絶対に油断して怪我をするかもしれないし、もしくは命を落とすかもしれない」

ユーリアが感心する中、ジャストロはさらに話を続ける。

「先日ジーク幻将軍と話す機会があって、STCについてこんな話をしてくれた。STCはジーク幻将軍がちょうど俺の歳くらい…つまり180歳だな。その時に出来たらしい。STCが出来た当時は制限時間なんてなかったからそういった昏倒が起きて、負傷者や死亡者が急激に増えた。これでは狩人の人口が減ってしまうと考えて、この掟が作られ、人口の減少は抑えられたんだ。」

ユーリアは、ジャストロがここまで自分のために丁寧に話してくれたことが嬉しかった。

「丁寧にありがとうございます。とても分かりやすかったです」

素直にジャストロにお礼を言う。しかし、また新たな疑問が湧いてきてしまった。だが、ここでの制限時間は20分のため、STCに戻ってから話そうとユーリアは心の中で決めた。

話がひと段落したところで、ジャストロがいきなりユーリアの後ろを指差した。そちらを見ると、細長い棒が立っていた。

「その棒がユーリアの今日の相手だ。その棒が獲物だと思って思い切り斬るんだ」

いきなり言われたが、戸惑っている暇はない。ジャストロは自分の修行のために時間を割いてくれている。

腰から剣を抜き、右手に構える。神経集中させる。そして、力を込めて一歩踏み込み、同時に棒めがけて横一直線になぎ払う。

棒は綺麗な弧をえがき、地面に落ちて粒子状に砕け散った。

「いいじゃないか。綺麗な剣さばきだ」

ジャストロが拍手をしながらユーリアに歩み寄る。

「えへへ、ありがとうございます」

褒められて、恥ずかしさと嬉しさの入り混じった気持ちでユーリアは答えた。しかし、真剣な表情で一つだけジャストロに言った。

「でも、今の剣さばきができたのは、相手が木だったからです。もしモンスターだったら、かなりひけ腰になっちゃうかもしれません」

ジャストロはその言葉を聞いいたところで何かを考え、そしてユーリアに向き直って言った。

「じゃあ、相手をモンスターにしてみるか。ここなら本当には死なないから、いい訓練になる」

ユーリアはこの答えに迷ったが、モンスターを相手にすることを決意した。

「お願いします!自分なりに頑張ってみます」

ジャストロは頷いて、またユーリアの背後を指差した。ユーリアが振り向くと、いつの間にかそこには檻が設置してあり、中にはイノシシのような獣がいた。毛は燃えるような赤で、檻を突き破って突進してきそうな迫力でこちらを威嚇する。

自信満々だったユーリアは、イノシシの迫力に怖気付き、既に涙目である。

「え…このイノシシを倒すんですか…?」

一応ジャストロに聞いてみる…が、ジャストロは、無言で頷いた。

ユーリアは不安な気持ちのまま、イノシシの前に立った。この檻が開かれた時が、自分の修行のはじまりなのだと心に言い聞かせ、腰から剣を抜く。

そんなユーリアの背後から、ジャストロの声が聞こえてきた。

「そのイノシシは、一度走り出したら一直線にしか走ることができないから、こっちに向かってきたらイノシシだけに神経を集中させれば大丈夫だ。さっきの払いの剣技で反撃すればどうにかなる。もし怖かったら左右に避ければいいからな」

「はい、わかりました…」

ジャストロのアドバイスをしっかり聞いて、ユーリアは正面のイノシシに神経を集中させた。

檻が開き、イノシシがユーリアに向かって一直線に飛び出してきた。

土煙を上げながらぐんぐんユーリアに迫ってくる。その迫力に圧倒され、逃げたいと思ったが、その気持ちを気合いで押し切り集中した。

イノシシが目前まで迫ったところで剣を構え、先程と同じ水平斬りを放つ。ユーリアのなぎ払った剣は、見事にイノシシの顔に傷を刻んだ。イノシシはユーリアの脇を通り抜け、痛みによるものかバランスを崩して転倒し、粒子状になって消えた。

そこで集中力が切れ、ユーリアは剣を支えに崩れ落ちた。いつの間にか大量に汗をかき、息切れをしていた。さっきと同じことをしただけなのに、相手が動くだけでここまで神経をつかうのかとユーリアは思った。しかし、はじめて動く相手を倒せたこともあって、嬉しい気持ちもあった。

呼吸が落ち着いたところで、ユーリアはジャストロに話しかけようとしたが、ふと目の前に文字らしきものが現れたので、驚いた。しかも、その文字は空中に浮いているのでさらに驚いた。

驚きながらも文を読んでみると「20分経ったので、カプセルに戻る場合はYESを、延長する場合はNOを」という内容だった。

それについてジャストロに聞こうと思ったが、ジャストロの方が先に口を開いた。

「今日の体験はユーリアは初めてだっただろうし、疲れたんじゃないか?YESを押して戻ろう」

ユーリアはその言葉に従って、YESボタンを押した。

「来る時にかけたゴーグルをして、ここに仰向けに寝てれば戻れるからな。その時に、さっきここに来る前にカプセルの中で聞いた電子音が聞こえる。それが聞こえた5秒後にゴーグルをはずせば、何事もなく戻れる」

そういってジャストロはゴーグルをしてその場に寝そべる。ユーリアもその隣に同じようにゴーグルをして寝そべった。そのまましばらく待っていると、いきなり電子音がリズムを刻みはじめた。それにびっくりしているうちに5秒間たったので、ユーリアは恐る恐るゴーグルを外した。そこは来る時と同じままのカプセルの中だった。

異常がないことに安心し、ユーリアは来た時と同じようにカプセルの中を片付けはじめた。

カプセル内を全て片付けて、カプセルから出ようと椅子から立ち上がったところ、いきなり画面が発光し、薄い札のような物が、画面下の口から出てきた。驚いて画面を見てみると「これはシミュレーションカプセルで作られたあなたの情報が書き込まれたカードです。ここで訓練する場合に必要なので発行させていただきました。またここで訓練する場合は、このカードを必ず持ってきて、ここに入れてください。次からはこのカードを入れて、ゴーグルをして椅子で寝ていれば、シミュレーションワールドに自動転送します」と書いてあった。ユーリアは長文で、しかも知らない単語ばかりの文を読み終えるのに苦労した。カードとはこの薄い札のことなのだろうと思い、その札をとった。すると、画面の発光が消え、扉の鍵があいて自動で扉が開いた。扉の先には既にジャストロが待っていた。ユーリアの顔を見ると、真っ先に口を開いた。

「カードの説明はわかったか?あれがないとまた色々面倒だ。ここに来る時には絶対持ってくることだ。説明し忘れて悪い」

その言葉に対し、ユーリアは慌てて言葉を返す。

「謝らなくてもいいです!ちゃんと説明読んだらわかりましたし、こんな楽しいことを教えてくれたのはジャストロさんなんですし」

ユーリアがそういうと、ジャストロは軽く微笑み

「じゃあ、これでおあいこだな」

こう返した。

「そうですね」

ユーリアも笑って返す。

そんなやりとりが終わってから、二人はSTCを出た。

その後、ノルマの2時間と獲物3体を狩りに村を出た。

やはりシミュレーションワールドと現実は少し違うなと思い、ふと聞きたかったことをジャストロに聞いてみた。

「あの…シミュレーションワールドって現実じゃないんですよね?じゃあ、何でできているんですか?」

今まで色々と丁寧に答えてくれたジャストロだったが、この質問を聞いた途端に考え込み、やがて首を捻った。

「やっぱり難しい質問でしたね。すみません。どうしても気になってしまって」

ユーリアは謝ったが、ジャストロは新たな答えを導き出したらしい。そして、こういった。

「多分ジーク幻将軍なら知ってるかもしれないな。ノルマ達成できたら二人で聞きに行ってみよう」

ユーリアはかなり驚いた。ジーク幻将軍は、村で一番偉くて強い人だ。ジャストロがジーク幻将軍と知り合いであるということを知った驚きと、自分もジーク幻将軍に会えるのかという驚きが混ざり合った。そして、ジャストロに会ってからユーリアは驚きっぱなしであることを今更ながら感じた。

ユーリアがそう思ってることを知ってか知らずか、ジャストロはまた歩き始めた。ユーリアも慌てて後を追った。

着いた場所は最初と同じ、ユーリアがジャストロと会った場所だった。前方にはブラツベラが一体いる。

ジャストロはユーリアの肩に手を置いた。

「今のユーリアは修行で成長したから、勝てるはず。全力で頑張れ!ピンチの時は俺が助けに入る」

ユーリアは、ジャストロの言葉と触れられた手からエネルギーを感じたような気がした。そのエネルギーにより、自然と気持ちが引き締まる。ブラツベラに正面から向かって行く。大きく跳躍し、しっかり相手を見て剣を振り下ろす。剣を振り下ろした頃にようやくブラツベラが気がつき、突進してきた。しかし、ユーリアのほうが素早く、剣がしっかりとブラツベラに当たった。幸運なことに剣が斬ったのは急所だったので、ブラツベラは仰向けに倒れ、動かなくなった。

「お疲れ様。いい動きしてたぞ。この調子で狩りをすすめるか」

ユーリアはジャストロが褒めてくれたのを糧に、その後きっちり2時間奮闘した。狩った獲物は5体だった。

ジャストロに褒められまくりだったユーリアは上機嫌だった。さらに、今まであった狩りに対する恐怖心も、ジャストロと会ってから全く無くなっていた。

村に帰り、狩った獲物を加工場で加工してもらい、それらを店に売ったところで、二人はジーク幻将軍に会いに村役場へ向かった。

ジーク将軍は嫌な顔一つせずに、ジャストロとユーリアを迎え入れてくれ、来客室へ案内された。丁度休み時間だというので、貴重な休み時間を削ってしまうことに申し訳ないと思いながら、二人は来客室のソファにジーク幻将軍と向かい合わせで座った。

「それで、話したいことってなにかな?」

ジャストロは隣にいるユーリアに目を向けた。ユーリアはさっきの戦いで度胸はついたが、さすがにジーク幻将軍の前ではビクビクしていた。しかし、ジャストロが話しやすいようにユーリアの肩に手を回してくれたので、気持ちが和らぎ話し出すことができた。

「あの…シミュレーションワールドって別の世界っていいますけど、今いち納得出来ないんです。現実じゃないのに別の世界だし、痛みも少ないって言うのもよくわかりませんし…それで、長く生きているジーク幻将軍様なら何か知ってると思って聞きに来たんです…」

ユーリアはなんとか長い質問をジーク幻将軍にすることができた。

ジーク幻将軍はユーリアが緊張しないように、微笑みながらユーリアの質問を聞き、少し考えてから、おもむろに口を開いた。

「実は僕もよくわからないんだ。あのシステムを作ったのは僕よりも偉い、この世界を管理している上層部の方々だからね」

ジーク幻将軍は真面目な顔になり、さらに話を続けた。

「以前上層部の方々がこの村の偵察に来た時に、そのことについて僕も気になっていたから聞いてみたんだ。でも、上層部は一切そのことを話してくれなかったよ。もう少し探って見てもよかったけど、相手はこっちが見たこともない武器を持っているからね。そんなことしたら一瞬でお陀仏だよ」

ジーク幻将軍は苦笑し、さらに話を続ける。

「結局、上はなにも教えてくれないから僕も全くわからないんだ。せっかく頼って来てくれたのに、満足いく答えが出せなくて申し訳ない気持ちだよ。僕から話せることは以上かな」

ジーク幻将軍は一息つき、二人を見た。

「貴重なお話ありがとうございました。僕の知らないことをたくさん知ることができたので満足です」

ユーリアは本心でそうお礼を言って席を立った。ジャストロもお礼をいい席を立ち、来客室を出た。そして、対応してくれた人たちに頭を下げながら村役場を出た。外はすでに日が落ちかけていた。

結局シミュレーションワールドのことは分からず終いだったが、上層部という人たちは悪意があってシミュレーションワールドを作ったわけではなさそうだし、自分の力を試せる場所なので、これからも安心して使えることはありがたいと思った。

「今日は本当に色々ありがとうございました。戦いに対する怖さも消えましたし、自信もつきました」

ユーリアはその気分のままジャストロにお礼を言った。

「いや、ユーリアの心が強かったからだ。これで安心だな」

ジャストロはそういい、ユーリアの頭を撫でた。その手は細いが、力強かった。

「明日からはまたお互いの生活に戻らなきゃだな。お互い頑張ろう」

ジャストロが撫でながらユーリアに言った。

「はい!」

ユーリアは笑って元気に答えた。

今までの暗い性格はすっかり消えてしまったようだ。

初の後書きになってしまいごめんなさい!執筆が遅いことが最近の悩みの閃光眩ですが、なるべく時間を見つけて早め早めに書きたいと思います

今回は気の弱い男の子が、偶然ジャストロと出会い成長していく話になっています。なかなか人の成長を書くのは難しかったです。

次回はいよいよ、二人目の主要キャラが登場しますので、乞うご期待を!!では、次話でまた会いましょう。

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