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ロールプレイングハント  作者: 閃光 眩
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第2話:迷子の子猫

【ロールプレイングハントの常識】

狩人の年齢は10歳単位である。つまり、人間の1歳=狩人の10歳ということになる。また、人間の寿命が約90〜100歳なのに対し、狩人の寿命は280〜300歳で長生きでもある。

狩人の容姿については、狩人の300歳は人間の30歳と同じということで、狩人は死ぬまで若い。しかし、寿命が近づくと筋肉が著しく衰えてしまう。

「誰か…助けて…村に帰りたいよ…」

遠くから、村の門限を告げる鐘が微かに聞こえた。これで明日の狩りの時間が減ってしまった。

今にでも村に帰りたいところだが、ここは迷いの森。

そう、この少女「リンカ」は今、迷いの森で迷子になっている。既に迷ってから2時間は経っただろうか…

自分以外の狩人に一人も会わないため、助けを求めることすらできない。

「途中で…やめればよかった…」

リンカは夕方の狩りで、高値で売れるという「ビショップス」という獣に遭遇した。遭遇率は極めて低く、見つけたとしても、すぐに逃げてしまうため狩猟は困難だ。また、捕獲にすると一番良い値で売れる。

リンカはお金に困っていたため、どうしてもビショップスを捕まえなければならないと焦っていた。そのため、夢中になってビショップスを追いかけて、いつのまにか迷いの森に入ってしまった。結果、ビショップスは捕まえられず、帰ろうにも地図を持ってきていないことに気がつき、村の方向も曖昧で迷子になってしまったというわけだ。

しばらくその場をぶらぶらしていたが、特にやることもないため助けが来てくれることを祈り、その場にちょこんと座っていた。

座った途端にお腹がくぅ…と小さな音を立てて鳴った。食べ物を探そうにも、今ここから動いてしまっては助かる確率が減ってしまうため、食材探しは諦めた。

暇つぶしに地面に絵を描いていると、がさがさと草むらが揺れる音がした。助けが来たとリンカは思ったが、同時にモンスターではないかという疑問も持ち、短剣を構えて音のするほうに神経を集中させた…が…出てきたのはモンスターではなく、茶髪の青年だった。リンカより40歳年上だろう。



「君、リンカさんかな?」

知らない青年だったが、なぜ自分の名前を知っているのだろうと思いながらも、一応答える。

「は、はい…そうですけど…?」

「助けに来た。村のみんなが心配しているから帰ろう」

地獄に仏とはまさにこのことだ。助けが来てくれ安心したのかいきなり体の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

「大丈夫か…!?」

青年が慌ててリンカに近づき、声を掛ける。

「す、すみません…安心した途端力が抜けちゃって」

青年を安心させるため、笑顔を作る

「そうか。疲れてる証拠だ。さあ、早く帰ろう。みんな心配してる。立てるか?」

「はい、村まで歩く体力はまだあります」

そう言ってリンカは立ち上がった

「良かった。じゃあ帰ろう。はぐれないように、俺の後ろをついて来てくれ」

そう言い青年は地図を広げ、歩き始めた。いわれた通り、リンカは青年について行く。しばらく歩いた所で、青年の名前を聞いていないことに気づいた。

「あの…まだお名前を聞いてなかったんですけど…」

「そうだったな。俺の名前はジャストロ。君とは同じ村に住んでる。知らないかな?」

「名前はいつも村の門の札を見る時によく目にしますけど、姿は村で見かけたことがあったのかなかったのか曖昧なので分かりません…ごめんなさい…」

そういってリンカはその青年に頭を下げた。

「ん、そうか。まあ仕方ない。村の中とはいえ、それぞれ生活の仕方は違うわけだし知らない人も少しはいるからな」

相手は自分のことを知っているのに、自分が相手を知らない事に対し、リンカは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

その後は、お互い言葉をあまり交わさずに歩いた。

10分ほど歩いただろうか。迷いの森を抜け、やっとリンカの見慣れた風景が広がってきた。

後少し歩けば村に着く。

しかし、村には簡単に帰らせてくれないようだ。二人の前に、蜂に似たモンスターが一体現れた。名前は「グリムホーネット」前脚には、死神が持つような鋭い鎌がついていて、昼夜問わず出現する。

そこまで強いモンスターではないうえ、今回のは小さい個体だったが、空腹と疲労を感じているリンカにとっては、少し手こずるであろう敵だ。

しかし、そんな考えはいらなかった。

「危ないから下がって。それに、今の君は疲れているから、そこでしっかり休んでてくれ」

ジャストロがリンカのことを一番に考えてくれたのだ。リンカは、お言葉に甘えて、少し離れた所に座った。

少し寝たかったが、ジャストロの狩猟がどれほどのものか見たかったため、ジャストロを見守った。

ジャストロが背中から片手剣を抜き、構える。グリムホーネットは、大きな顎でカチカチと音を立て、ジャストロを威嚇する。

最初に攻撃を仕掛けたのは、グリムホーネットだった。両脚の鎌を交互に繰り出す。しかし、ジャストロはそれを片手剣で器用に弾き返しす。しばらく打ち合っていると、ジャストロが大きく剣をなぎ払った。それを鎌で受け止めたグリムホーネットは、大きく体勢を崩した。その隙を利用し、ジャストロは大きく一歩踏み出し、なぎ払った剣を右下から左上へと斬り上げた。グリムホーネットは真っ二つになり、草むらに落ちて行った。リンカがジャストロの狩り方を見ていて分かったことは、この人は狩りにとても慣ているということだった。リンカが今まで見てきた狩人(ジーク幻将軍とキュリア麗剣士は別格だが)たちとは、違う雰囲気を感じた。

「さ、帰ろうか。村はすぐそこだ」

そう言ってジャストロは、リンカに顔を向けた。

「はいっ」

リンカは勢いよく立ち上がり、ジャストロと一緒に村を目指した。




村に着くと、大勢の人が二人の帰りを心配して待っていた。喜ぶもの、安心する者、しまいには泣き出す者まで表れた。どうしたらいいものかと戸惑っていたら、いきなり人の波が二つに割れた。

その波の間を二人の剣士が歩いて来る。もちろん、ジーク幻将軍とキュリア麗剣士だ。

二人ともこちらを見ると、安堵の表情を浮かべた。

「無事戻って来られたんだね。これで一安心だよ」

と、ジーク幻将軍が口元に笑みを浮かべて言った。

「ずっと心配していたわ。二人とも帰って来なかったらって…」

そして、キュリア麗剣士が瞳を潤ませて言った。

「自分もリンカさんも無傷で帰って来られました。心配をおかけしました。そして、自分のワガママを聞いてくれてありがとうございました」

もともとは二人の仕事で、それを自分がやりたいといってやらせてもらったことだから、感謝するのはこちらだと思い、深々と頭を下げる。

「いやいや、君が引き受けてくれたおかげで、こちらの仕事が捗ったよ」

「そうね。今日の仕事はいつもより多かったから、引き受けてくれて助かったわ」

二人とも全く否定をしなかった。これが皆からの人望の厚い理由だとジャストロは思った。

そしてジャストロは二人にもう一度頭を下げ、家に戻った。リンカは二人から今日あったことを話してほしいと頼まれ、ついていった。

家に戻ったら、いつも通り風呂にはいった。狩りから帰ったら必ず入るようにしている。

出掛ける前に食事はとったので、腹は良かった。

やることもないので寝ようとしたが、何者かがドアをノックした。ジャストロは、ジーク幻将軍かキュリア麗剣士だと思い扉を開けた。

しかし、そこに立っていたのは意外な人物だった。

「夜遅くにすみませんっ…」

そう、先程別れたばかりのリンカだった。服装は、狩猟の服から可愛らしいパジャマに変わっている。なにか言いたいようだが、もじもじしてなかなか言い出せないようだ。

「どうした、なにかあったか?」

ジャストロは、話しやすいように優しく言葉をかけてみた。

「あ、あの…一人で寝るのが怖くて…そ、その…ひ、一晩だけ泊まらせてもらえませんかっ!」

それを聞いた瞬間、ジャストロは自分の耳を疑った。

しかし、彼女は確かに自分の家に泊まりたいと言った。

「と、とりあえず上がって」

パニック状態の頭をどうにか回転させ、リンカを家に上げさせた。

リビングへ案内し、ソファに座らせたところで、パニック状態の頭を整理した。

要するに、リンカは一人で寝ると、迷いの森にいた時の恐怖感が蘇り寝付けない。そのため、自分の家で一晩だけ寝たいということになる。

整理しても、それが現実だとなかなか受け入れられなかった…ジャストロはここ数十年、女性とここまで親しくしていなかったため、かなり焦っていた。

しかし、現に自分はここにいて、リンカがソファの上に座っている。念のため腕をつねってみたが、痛い。

これが現実だとどうにか認識したところで、思考が落ち着いた。

とりあえず、寝る支度をするためにリンカに話しかけた。

「と、とりあえずそこのベッドで寝てもらおうかな。俺はソファで寝るから」

しかし、リンカは慌てて手を振った。

「そ、そんなことできませんっ!私がソファで寝ますっ!」

だが、自分がベッドで寝て、リンカがソファで寝るというのは、あまりにもふてぶてしすぎる。

「いや、ただでさえ疲れてるんだから、ぐっすり寝てほしい。それに、ベッドのほうが安眠できるから、ベッドで寝てくれないか?」

実際、リンカはジャストロから見て大分やつれていたし、目は半開きで、いつ寝てもいいような状態だった。

「分かりまひた…ふわぁ…」

可愛いあくびを一つして、リンカはベッドに潜り込んだ。そして、すぐにぐっすり眠ってしまった。

そんな様子を見て、ジャストロは微笑んだ。そして、自分も寝ようと部屋の明かりを消し、ソファに寝転んだ。途端に睡魔が襲ってきた。自分もいつも以上に疲れていたんだなとそこで初めて知った。

薄れゆく意識の中で、リンカの寝言が聞こえた。



「……ジャストロ………お兄ちゃん………」









香ばしい朝食の匂いがし、リンカは目を開いた。いつもと違う環境の中目覚めたことに疑問を抱いたが、すぐに昨日あったことを思い出し、安心してベッドを出た。

「おはようございます…」

「起きたか、おはよう。よく眠れたか?」

「はい…まだ頭がはっきりしませんが、ぐっすり眠れました…」

そういいながらリンカは目をこする。視界はまだ少しぼやけている。

「朝食の前に、顔を洗ってきたらどうだ?眠気が覚めると思う」

「ん…分かりました…」

リンカも、いつまでもこんな眠そうな顔をジャストロに見られるのは恥ずかしいので、すぐに洗面所へ向かった。

やはり冷たい水で顔を洗うと、眠気がが吹っ飛び、気も引き締まる。

スッキリしたところでリビングに向かうと、既に朝食が並べられていた。肉、野菜、卵などがバランスよく使われており、盛り付けも見栄えもとても綺麗だった。

「わぁ…!とっても美味しそうです!」

リンカが感嘆の声を漏らし、席に着く。

「初めてのお客さんだから、いつもよりはりきってみた」

ジャストロは、少し恥ずかしそうに微笑んだ。リンカは笑って返したが、ふとジャストロの左腕に目がいった。手首から肘にかけて包帯を巻いてある。昨日はなかったものだ。

「あの…その左腕、何かあったんですか…?」

遠慮がちに聞いてみる。

「あぁ、これか。初めてのお客さんだから、ちょっと料理作るのはりきっちゃってな」

そういってジャストロは困り顔でまた微笑んだ。しかし、リンカにはその傷が狩りによるものだと分かった。包丁で切ったのには不自然すぎるし、火傷ならもっと違う処置をするだろう。多分、リンカが寝ている間に狩りをしてきたのであろう。

「さあ、料理が冷めないうちに食べるか」

ジャストロは、リンカの思っていることを見透かしているのかいないのかという顔で席に着く。

「そうですね!では遠慮なく、いただいまーすっ」

色々考えていたが、料理の匂いに負けたため、リンカは考えるのをやめて料理を味わった。

まずはスクランブルエッグを口に運ぶ。そして驚いた。見た目は普通のスクランブルエッグなのに、いつも自分が作るものより濃厚で、甘みがある。

「こっ、このスクランブルエッグ美味しすぎます!」

思わず叫んでしまい、顔が真っ赤になり、慌てて顔を伏せる。

そんなリンカの様子を見て、ジャストロは微笑んだ。

「そうか。よかった。隠し味にミルクを入れて作ってみた。こうすると、濃厚で甘みのあるスクランブルエッグになるんだ」

「そっ、そうなんですか。ミルクですか」

自分でも作りたいと思い、思わずメモをとった。

その後の食事もところどころ一工夫添えられていて、リンカは大いに感動した。

こんなに楽しい朝食は、生まれて以来だった。

「はぁ…ごちそうさまでした」

満足そうな顔でお腹をさするリンカ。

「満足してもらえてよかった」

その様子を見てジャストロは満足そうだった。

「ところで今って何時ですか?」

起きてから何時か確認していなかったので、ジャストロに時間を聞いた。

「えーっと、今は10時少し前だな」

それを聞いてリンカはびっくりした。村の狩り開始時間は7時からで、普通は7時にみんな出るはずだ。しかし、ジャストロはリンカのことを気遣ったのだろう。自分の狩りの時間を3時間も削り、疲れているリンカをしっかり寝かせてくれ、おまけにリンカに何も手伝わせずに朝食を食べさせてくれた。

「自分のせいでジャストロさんの狩りの時間を削ってしまってごめんなさいっ」

リンカ自身の狩りの時間はどうでもよかったが、他人の狩りの時間を削ってしまったことに罪悪感を覚えるリンカ。

しかし、ジャストロはどこまでもリンカに優しかった。

「大丈夫だ。この後一緒に狩りに出かけるつもりだし、何も気にしなくていい。今はとにかく、心のケアが大事だ」

リンカはこの人が兄だったらどれだけいいかと恥ずかしながら思った。

「は、はいっ!では、狩りにいく支度をします!」

どうにか恥ずかしいのをごまかし、脱衣所へ逃げ込み服を着替えた。

着替え終わり脱衣所から出ると、ジャストロは既に玄関に立っていた。

慌てて玄関に向かって走り、靴を履く。

「お、お待たせしましたっ」

「待ってないから大丈夫だ。さあ、行こう」

いつも通りフォローを入れてくれるジャストロに感謝し、リンカは家を出て、村の門へと向かった。

門の前に行き、札を裏返す。

と、門番が二人に向かって話しかけてきた。

「昨日はお疲れ様でした。お二人ともご無事で本当によかったです」

「ありがとう。あんたが昨日のことを不審に思っていなかったら、この娘は助からなかった。おかげだ」

同じようにお礼を言おうと思ったが、いい言葉が全く浮かばないリンカは、ジャストロの隣でもじもじしていた。

「そ、そうですかぁ?そんなこと言われちゃぁ照れますよ〜」

門番はかなり嬉しいのか、落ち着かない様子だ。

「これからお二人で狩猟ですか?」

「あぁ、そうだが?それがどうかしたか?」

そうすると、いきなり門番の声が小声になった。

「お礼とはいったらなんですが、お二人だけ門限を10分遅らせてもらうように、幻将軍と麗剣士に頼んでおきますよ」

「だ、だけど、さすがにそれは…」

戸惑うジャストロ。しかし、門番は口がうまい。

「お二人ともあなたのことを信用していますし、あなたはお二人の仕事を代わりに引き受けました。仕事をしたということは、それに見あった報酬がなければいけませんよね?ということでどうでしょう?」

さすがのジャストロも、こう言われては引き下がれない。

「わかった。お言葉に甘えさせていただくとするか。じゃあ、行ってくる」

そういってジャストロは村のもんをくぐった。リンカは門番に会釈し、慌ててジャストロについて行く。

「お気をつけて〜!」

門番に見送られ、ジャストロとリンカは、村を出た。





二人はしばらく歩いていたが、やがてジャストロは足を止めた。

「よし、今日の狩場はここにしよう」

「こ…ここですか…?」

ここは、危険なドラゴンが出る区域。特に「透奪龍(トウダツリュウ)チカレオノス」がよく出没する場所。チカレオノスは長い舌を使い縛り上げてきたり、餌となるきのこからつくった状態異常効果を含む液体を吐くなど、あらゆる自由を奪ってくる。

「今日の夕食の隠し味を獲ろうかと思ってな。今日は昆虫類をできるだけ多く狩ろう」

「分かりましたっ!」

その後、昼食を挟みながらも、二人は多くの昆虫を狩猟した。また、きのこ類も多かったために採取も行って、かなり多くの素材が集まった。

ジャストロは、多少手こずってはいたが、やはり戦い慣れしているためどんどんと狩っていった。

リンカのほうは、相手の不意打ちに尻餅をついてしまいジャストロに助けてもらったり、とにかく攻撃を走り回ってかわしたりしながら何体か狩ることができた。幸いチカレオノスの姿も見えずに済み、一件落着だった。

そして門番の約束通り、門限の10分後に間に合うように帰ってきた。

「お疲れ様です。随分と狩られたようですね」

門番が笑顔で迎えてくれた。

「あぁ、これで美味い料理が作れる。今日の時間の件、感謝だな」

「いえいえ、助け合いの精神ですよ」

ジャストロは、いつも通り軽快な会話を交わす。リンカは軽く会釈をした。

そして、二人とも札を裏返し、家を目指した。

リンカは軽々と狩りをできるジャストロにとても憧れていた。そして、また無意識のうちに兄みたいだという認識をしてしまい、顔を赤くする。

そんな事には気づかず、ジャストロはもくもくと歩き続けた。

「さあ、着いたぞ。お疲れ様だ」

そういってジャストロはリンカの頭を撫でてくれた。

「えへへ…ありがとうございますっ」

リンカは、ジャストロは家にいるとリンカに対して少し優しいような気がした。

「風呂、先に入るか?」

「いえ、お先にどうぞ」

リンカは慌てて手をふる。

「じゃあ、遠慮なく先に入るかな」

そういってジャストロは風呂場に向かった。

その間リンカは、ベッドで横になっていた。その間、ジャストロが兄だったらいいのにということや、ジャストロが何を考えているのか表情から読み取れないなど、ジャストロのことばかりを考えていたが一人のため、慌てることはなかったが、顔が熱くなるのが分かった。さっきからこんなことを無意識に考えてしまうのは何故だろう…そんなことを考えていたが、いつの間にか意識がなくなった。

目を開けてみると、既に夕食が出来上がっていた。どうやら寝てしまったらしい。

「起きたか。風呂、空いたぞ?」

ジャストロがリンカに気づき、声をかけた。

リンカは、夕食を一緒に作りたかったという気持ちと、夕食作りをジャストロに全て任せてしまったという罪悪感を感じてしまったが、そのまま風呂場へと向かった。

そして、その二つの気持ちは、風呂にはいったことで、きれいさっぱり洗い流された。

リビングに戻ると、既に料理は並べ終えてあった。

すぐに二人とも席に着き、料理を味わった。リンカは、夕食にも驚きの声をあげた。さっきとってきたキノコや昆虫類などが面白い使われ方をしていて、しかもそれが美味しいからだ。

しっかりと夕食を味わった後、リンカは皿洗いを手伝った。そしてその後、思いきった行動に出た。

「ジャストロさん…あの…こ、今夜一緒に寝てくれませんか…?そのほうが安心するので…?」

この発言に、ジャトロは困った。

「そんな事したら、俺が犯罪者みたくなるな。さすがに同じ布団で寝るっていうのはなぁ…」

しかし、リンカは真剣な顔で言った。

「今夜だけでいいんです!話たいこもあるので!」

この真剣さを、ジャストロは感じとってくれたのだろう。

「話したいことがあるのならしょうがないな。今夜だけだ」

「ありがとうございますっ!」

そういって、リンカはベッドへ向かった。布団に入ったが、やはりジャストロはリンカに背中を向けて寝た。どこまでも欲望をあらわにしないので、リンカは不思議すぎてならなかった。

「で、話ってなんだ」

最初に話をきりだしたのはジャストロだった。

「はい。あの、実は…私明日の朝、隣の村に引っ越すんです…」

ジャストロは何も答えなかったが、リンカには、空気が変わったことを感じた。

「実は、昨日怖くて一人で寝られないというのは嘘で、私の家の荷物を隣村まで運んでもらっているので、寝る場所がないのが真実なんです…」

ジャストロは、まだ何も言わない。

「それで、今日の夜がジャストロさんと過ごせる最後の夜なので、一緒に寝て欲しかったんです。せっかくこんなによくしてもらったのに、騙してごめんなさい…」

リンカは布団を握りしめながら、なんとか話し終える。

「そうか…」

ジャストロが答えたのはこれだけだった。

ジャストロが怒ってしまったことと、自分が騙してしまったことに、リンカは泣きそうだった。

しかし、すぐに泣くのも忘れてしまうほどの衝撃を感じた。

なんと、背中合わせだったはずのジャストロが、リンカを抱きしめたからだ。あれだけ躊躇していたのに、今は自分から抱きしめてきたことにも、リンカは驚きを隠せなかった。

しかし、驚くとともに今度は謎の温もりに包まれ、悲しみとは別の涙が流れた。

「離れたくないよ…ずーっと一緒に暮らしたかったよ…でも、嘘ついたから天罰が下ったのかも…」

リンカは泣きながら、本音を漏らした。もう、恥ずかしいなどとは思わなかった。

「怒ってない。リンカといた時間は今までで一番楽しかった。俺もだ…本音は離れたくない…」

そういって、ジャストロはリンカを強く抱きしめる。

「あ、あの…お、お兄ちゃんって呼んでもいいですか…?後少しでお別れですけど…」

いつものリンカなら、かなり恥ずかしいセリフだが、今は普通に言葉にできた。

「いい。ぜひそうしてくれ。じゃあ、リンカは俺の妹だな」

そういってジャストロはリンカの頭を撫でる。

「ありがとうございますっ…今までジャストロさんと色々してきて、何回か本当のお兄ちゃんみたいだって勝手に思ってたんです…私のことを一番に考えてくれるし、私にすごい優しいし、私…本当に嬉しかったんです」

リンカは、話せるだけの気持ちを全て話した。

「そうか……実は俺も、リンカのことを妹みたいって思ってたんだ。ただ、口にすることは一生なかったと思ったけどな。ここで言えてよかった」

その言葉を聞き、リンカはとても喜んだ。ジャストロが同じことを思っていたことも嬉しかったが、それ以上に、ジャストロがリンカに対して本当はかなり心を開いていたということが分かって嬉しかった。

「お兄ちゃんっ!」

リンカは嬉しさを抑えられなくなり、ジャストロに抱きついた。ジャストロは、いきなりのスキンシップにかなり戸惑っていたが、やがて優しく抱きしめてくれた。そして、二人は深い眠りに落ちた。




リンカが起きた時、昨日のように料理のいい匂いがした。今日が別れの日なのに、一緒に朝食を作れずに寝過ごしてしまったことを悔やむが、目を開けてびっくりした。隣にジャストロが座ってたからだ。

「おはようリンカ。よく眠れたか?朝ごはんの時間だ」

今日の目覚めは、リンカにとって最高だった。すぐに飛び起き、笑顔でこういった。

「おはよう、お兄ちゃんっ!」

途端にジャストロの顔が少し赤くなる。昨日は暗くて見えなかったが、まだ慣れずに照れているらしい。クールなジャストロが、照れを必死に隠そうとしているのがリンカは面白かった。

「お兄ちゃん、お腹すいちゃった!ご飯食べよ?」

「そ、そうだな。食べよう」

そんな会話をかわしながら、二人は席に着く。

そして、いつもよりもたくさん話しながら、料理を味わった。

そのあとも、お互い打ち解けあったので、兄妹のように会話をかわし、笑い、別れの時間まで過ごした…


そして、別れの時がやって来た。

隣村までは、ジーク幻将軍とキュリア麗剣士が連れていくので、ジャストロと居られるのは家の玄関までだ。もうすぐ、ジャストロの家の前に二人が来るため、二人は玄関で最後の言葉を交わす。

「もう別れの時間が来ちゃいました…本当に楽しくて、優しいお兄ちゃんもできて、夢のようでした!素敵な思い出をありがとうございます!」

玄関の前でそういって、リンカはジャストロに頭を下げた。

「そんなかしこまらなくていいぞ。なんてったって兄妹なんだからな。また会えるはずだ」

最後の最後までジャストロは、リンカに対してとても甘かった。

「最後に一つだけ。そのお兄ちゃんっていうのは、2人しかいない時だけにしてほしい。やっぱり…恥ずかしいからな」

ジャストロは最後にそう付け加えた。それがおかしく、リンカは思わず噴き出してしまった。

そんな様子にジャストロは少し拗ねていたが、やがていつもリンカに見せる優しい顔に戻った。

「あ、そろそろ時間だ。それじゃ、またいつか会おうね、お兄ちゃんっ」

「あぁ、また会う日まで」

そういって、リンカは扉を開けようとしたが、ジャストロが後ろからリンカを抱きしめた。身長差があるため、どちらかというとリンカを抱きかかえるかんじだ。

「また会う日まで悲しくならないように、俺の愛情だ。兄としての愛情と、一人の男としての愛情だ」

「ありがとうございます。お兄ちゃんの身体…あったかい…とっても…」

一分ほど抱き合った…

そして、ついに別れの時間がきた。

「では、元気でね、お兄ちゃん!」

「あぁ、リンカも体に気をつけてな!」

そういってリンカは扉を開け、出ていった。扉がしまった途端、静寂が周りを包んだ。

ジャストロはその場にへたり込み、しばらくの間動かなかった。目は髪で隠れて見えない。しかしら頬を伝う一筋の雫が、感情を物語っていた。

「やっぱり俺と一緒になる女性はみんな不幸になるのかな…」

そうポツリと呟いた…

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