第31話:懐かしき故郷
「あのさ、あたしとエレが生まれて小さい頃に住んでた村まで行ってもいいかな?」
「いいよ…興味あるし」
ロミはシルに尋ねたが、シルは直ぐに承諾してくれた。2人はどこに行くかが決まっておらず、砂漠周辺の散策を行おうと思っていた。ロミとエレの村は砂漠の近くにあるため、ロミはついでに寄ろうという考えに至っていた。
「ありがと!砂漠についてはそれなりに知ってるから安心して!」
「うん、私は本で読んだ知識しかないから助かる…」
ということで、早速砂漠へと向かった。
「ロミ、その脚の鎧はもしかして砂の中の生き物対策?」
「そうそう!サドラーとかスベガロウとか、怖い生き物が多いからねー」
そう、砂漠は砂地が広がっているため、普通の地面より柔らかく、地中に生物が潜んでいるのが当たり前である。
「サドラーは吸血してくる二枚貝みたいな生き物で、スベガロウは海にいるアンコウみたいで体に針を纏ってて、踏むと危ないよね…」
「そうそう!やっぱシルは勉強してるね。だから足元はしっかりした防具を付けていかないとね!シルはいつもの防具で脚を守ってるから大丈夫だね」
「うん…水もしっかり持ったし大丈夫」
「そうだね。砂漠は暑いからねー。これで準備おっけー!」
砂漠を通るにあたっての予習をお互いしながら、砂漠へと向かった。
砂漠はかなり暑く、ロミは慣れているもののシルは汗だくになりながら歩いていた。
「シル大丈夫!?もし水が少なくなったらあたしの水もあげるかね」
「ありがと…髪留め持ってくればよかった…」
そう、シルは髪が長いため、首の後ろなどが蒸れて熱く、無駄に体力を奪われてしまっていた」
「あ、そうだ。これ使って!水筒のところに付いてたから」
偶然にもロミの水筒だけ髪留めに似たものがあったため、シルに渡した。
「ありがと…これで涼しくなる」
シルは髪を縛ってポニーテールにし、先を急いだ。そのあとは汗もあまり出なくなり、水の消費も抑えられた。
「あ、あそこにいるの…サデトプス…?」
「お、そうだね」
そこには、背中に棘のようなものを持つドラゴンがいた。体は岩のような質感をしておりとても硬そうである。見ると、足で器用にサボテンのトゲを取っていた。
このサデトプスは、サボテンを主食としているが、トゲがあるためそのまま食べると口の中が傷ついてしまう。そのため、トゲを取って食べるが、もし体も柔らかかければトゲが刺さるため、それに合わせて体も硬く進化している。
「すこい…!本でしか見たことないけど、本物を見ると器用さがわかる…」
「そうだね。あたしもサデトプスのこの行為はいつ見ても感心するよ」
サデトプスは翼も腕もないため、そのすごさをより引き立てている。
しばらく歩くと、行く前に話していたサドラーやスベガロウが砂から顔を出してきた。もちろん、2人は脚に鎧を身につけているため、痛くもかゆくもない。
「サドラーって血を乾かないようにするんだよね…」
「そうそう。口から出す唾液が血を液体のままにするから、噛まれたら出血が止まらなくなって命を落とすんだよね」
「スベガロウはやっぱり針が怖い…あと砂に隠れて見えないし」
「もし防具がなかったら、歩けなくなるくらいに深手を負っちゃうね」
場所が変わっても、生物たちは我々の命を狙っている…その土地に行く場合はしっかりと予習することが大事だとシルは思った。
そのあとは同じ生物たちと何回も遭遇しながら、ついにロミとエレの育った村の前までたどり着いた。砂漠から10分ほど歩いたところにある村だが、やはり日差しは強い。
「多分、村長がいると思うんだけど…あたしの知り合いなんだ!アンノっていうんだけど」
ロミはそういって門に近づき、門番に何やら話しかけていた。シルは遠くで見守っている。門番が小走りに村の奥へと行くと、中から紫の髪の褐色肌の女性が出てきた。気の強そうな感じで頼りになりそうな雰囲気がした。ロミはその女性に手を振ると、向こうは驚いた表情と、懐かしいような表情でロミに駆け寄った。
ロミはそれを確認すると、シルに手招きした。
「この人がさっきいったアンノって狩人だよ」
「やあ、はじめまして。アンノっていうんだ。よろしく」
「はじめまして…シルです」
「綺麗な嬢ちゃんだね!え?髪も艶があってきめ細かいし。ま、詳しい話は村役場でしようさ」
アンノはニカッと笑って快くシルを迎え入れてくれた。このきさくな雰囲気が誰かに似ているなと思っていたが、フレードが頭の中に浮かんだ。
ロミの話によると、アンノはロミとエレが村を出て行くまでずっと仲良くしてくれていたという。アンノは2人より3つほど年上だが、まるで友達のような関係だったという、
村役場に行くと、アンノと向かい合う形で2人は席についた。
「いや〜まさかロミが来るとは!いきなりどうした?」
「あたし今、数人の狩り仲間と一緒に暮らしてるんだけど、あまり組まない2人組みで一緒にどっか行こうってなってね!で、シルと行くとこ決めたらココになったわけ」
「ふぅ〜ん、まあ、久々にあんたに会えてよかった!話したいこともあったしな!それと、エレとはまだ一緒にいるのか?」
「うん、ず〜っと一緒だよ!今も他の仲間も交えて狩りをしてるしね!」
アンノの話したいこととはなんだろう?ロミには、アンノの瞳が一瞬揺らいだようにみえた。
「そうそう、シルちゃんっていったっけ?どうよ、この村は」
「とっても素敵です…!私にとっては全てが新鮮…色々見て回りたいです…」
「おっ、そっか!じゃあ誰かに案内してもらうか」
アンノはそういうと、秘書であろうか…褐色肌の引き締まった体の男性を指名した。
「では生きましょう。気になることがあれば質問してください」
容姿は首元までの黒髪に少し冷たさを感じる切れ長な目…そこから知的なイメージがしたが、喋り方も更にそのイメージを増幅させた。
2人が出て行くと、アンノは真剣な眼差しをロミに向けた。
「ロミ、あのさ…この村にはもう戻らないのか?エレも一緒にさ」
「戻ってもいいけどね。ただ、あたしにも仲間がいるからさ。納得してくれたら戻ってももいいかも。何かあるの?」
アンノは目を閉じて深呼吸をして姿勢を整えると、鋭い声でこう言い放った。
「お前とエレに、次の村長と秘書をやってもらいたい」
「えっ…!?」
いきなりの事にロミは頭の整理ができなかった。どうにか頭の中が落ち着いても、自分たちにそんな大役が務まるかどうかは怪しい。それに、一番不安なのは、何十年もこの村にいなかった人間が、そう簡単に村長と秘書になっていいのかという事だった。
「あんたら2人は人を引きつける力があると思うよ。ロミは私タイプのきさくな感じだし、エレは頼れるうえに頭も切れる冷静タイプ…いいと思うけど」
「ちょっと待って、エレにも聞いてみないとだし、まだ頭の中がよくわからないから」
「すぐには答えを出さなくていい。帰ったらしっかり悩んで決めてくれ。それに、今のあんた達の仲間のこともあるしな」
「わかった…とりあえず考えてみる」
この村を出るまでずっと仲良しだったアンノの言葉であるため、いい加減な答えは出せない。ロミは帰ったらすぐに考える事にした。
「すみません、名乗るのを忘れていました。私、スルハノと申します」
秘書のスルハノはそういって軽くお辞儀をした。
ロミがアンノと大事な話をしているとはつゆ知らず、シルはスルハノに村の案内をしてもらっていた。
スルハノの説明では、この村は全員褐色肌が普通らしい。そのためか、肌の焼けていないシルを皆、珍しそうにみている。
「あまりに色々な人から見られてシルさんは居心地悪いかもしれませんね、申し訳ないです」
「そんな事ないです…みんな優しい方だとおもいます」
もう1つこの村の特徴は、露出の多い服装が普通ということである。そのため、実際スルハノも上半身や脚などはあまり服はない。更に、露出しているが、全員が魅力的な体つきをしている。そのせいか露出していても様になっているうえ、シルからしたら羨ましいの一言である。
その他のシルの知ってる村との違いは、野菜類や植物類の色が派手ということであった。黄色や赤など明るい色のものが多く、なんとも不思議であった。
「色々と驚かれていましたね。私としては嬉しい限りです」
閃光眩です。今回はいつも通り新しいフィールドやドラゴンも出て来ます。しかしネックは、故郷を尋ねたところ、重大な決断を迫られるといった思いがけないような展開です。