第30話:新たな可能性
「んー、なにしますかー?」
「そうだな…なにも思い浮かばない」
ルナクとエレは2人でなにをするかを考えていた。よく考えるとこの組み合わせは珍しく、謎の緊張感からかやることが思い浮かばない状態になっていた。
「んーそうだな、この前お互い神化龍を倒しに行ったが、火山地帯と凍土…どちらかに行ってみるのはどうだ?」
「あ、それいいですね!私は火山地帯に行きたいです!!」
「よし、決まりだな。すぐ支度をしよう」
エレの提案で行く場所はすぐに決まり、2人は火山地帯に行く支度をした。
「いつもの装備ではダメだ。火山地帯は暑いからな」
「えっ!?じゃあどうすればいいですかね」
「とりあえず防具屋に行こう」
ということで防具屋に行き、軽くて熱に強く、さらに体の熱を放出してくれるような防具を作ってもらった。それらを身につけ、いざ火山地帯へと向かった。
「火山地帯ってどんな生き物がいるんですか?」
「なかなか面白い生物がいるぞ。岩石に似たものが多かったな」
「ほえぇ!早く見てみたいです」
ルナクは期待に胸を膨らませ、エレはSTCではない本物の火山地帯へと行くことに少し緊張し、進んでいく。
「よし、着いたな」
「うへぇ〜…結構暑いですね」
エレはSTCで行ったために慣れているが、ルナクは既に汗が滲み出ていた。
「あ!あそこになにかいますよ?」
「あれはヴォカボルスだな」
真っ黒な体色に丸く浮き出る白い目…可愛らしい風貌だが、相手はドラゴンである。ヴォカボルスがいるという事は、この辺は炭鉱地帯ということになる。
「あ、せっかく来たから何か狩りませんか?手ぶらなのも申し訳ないですし」
「そうか。じゃあゴルワロトプスにしようか」
そういってエレが指差した先には、可愛らしいツノが生え、尻尾の先がハンマーのように発達したドラゴンがいた。
「ひょえ〜!なんですかあの不思議な格好は!!ツノ短すぎませんか?尻尾デカすぎませんか?」
ルナクは風貌に驚き、興味津々だった。
「あいつは尻尾を振り回してくるからな。気をつけて行動しないとな」
「了解です!どの辺を狙っていきますか?」
「腹の下が柔らかそうだな…そこにしよう」
ということでまずはルナクが近づき、ゴルワロトプスのお腹に一撃お見舞いする。しかし、剣は簡単に弾かれてしまった。
「でも、アンガロスの時のように集中攻撃していれば…」
諦めずにどんどん攻撃すると、少しずつ剣の傷がつき始めた。
「エレさん、お願いします!」
ルナクが叫ぶと、エレがその傷跡めがけて麻痺薬を塗った矢を放つ…
矢はしっかりと傷口をかすめる…が、まだ硬いためか弾かれてしまう。ここでゴルワロトプスが隙を見て動き始めた。大きなハンマーを振り回してルナクを仕留めようとするが、すばしっこいルナクはしっかりとその攻撃を避ける。
「ふっふーん、私の素早さを舐めないでください!」
ゴルワロトプスが疲れ始めたところで、ルナクが傷口をさらに広げようと剣を手に走り出した。
「危ないっ!」
エレの言葉に驚いて振り向くと、こちらへ猛スピードで迫ってくる生物がいた。慌てて避けると、その生物の後ろを追うようにエレの矢が迫る…矢は見事に刺さった。
「キパリパか」
「なんですかこの子!体がマグマだらけ」
キパリパに放った矢はゴルワロトプスに放つための麻痺矢だったため、キパリパはビクビクと痙攣していた。
2人がキパリパに気を取られている中、ゴルワロトプスが2人めがけてハンマーを振り回す。
「ひいぃっ!避けられませーん」
「とりあえず伏せろ!一か八かだ!」
そんなもので避けられるのか…そう思い、2人でその場にしゃがんだ。
直後、ドカーン!…と、なにかが砕けるようなものすごい音が頭上で聞こえ、思わず耳を塞ぐ。その後すぐに、大きな地響きが聞こえ、あたりを土煙が舞った。
恐る恐るあたりを見回すと、ゴルワロトプスがヨロヨロと逃げていくではないか。
「あっ!追いかけましょう!!」
「いや、待ってくれ」
エレの声に振り向くと、視線の先にはグッタリとしているヴォカボルスの姿が…どうやら、先ほどのゴルワロトプスのハンマーがお腹に直撃したらしい…
「どうも心臓は動いていないな…有難いというか哀れというか…どっちにしてもこのヴォカボルス、私たちで持ち帰ろう」
「そうですね。このまま土に還るのも可哀想ですし、私たちの事、命を絶やして助けてくれましたし」
不可抗力だったとはいえ、やはり命を粗末にするのは良くないということで、ヴォカボルスの素材や肉を持ち帰ることにした。
帰りは特に危ないような事もなく、家路についた。すでに日は山にかかり、辺りは暗くなっていたため、外殻の炭部分以外の素材は売って、肉だけを家に持ち帰り、すぐに夕食作りに取り掛かった。今回の調理当番はルナクとシルだったが、ルナクがシルにお願いし、エレと一緒に作ることとなった。
「ヴォカボルスってどんな味するんですかね?」
「蔵書館の本で調べたが、普通に焼くだけで、炭火で炙ったような味になるらしい」
「それすごいですね!!焼いただけでも1つの料理になるじゃないですか!」
ということで、夕食の一品目は肉焼きになった。
「次はどうします?」
「うーん…なかなか難しいな。炭火のものと合う食材が思いつかない」
「とりあえずみんなでこの焼いたやつを食べて貰って、そのあとどんな料理が合うかを話し合ったらどうですか?」
そのルナクの提案にエレも頷いた。
「確かにな。無理に他の食材と合わせて、素材の味を殺してしまうのも申し訳ない」
ということで、昨日の残り物と今日作ったヴォカボルスの肉焼きで夕食にした。みんな肉の味に驚いていた。
「すげぇな!この肉ただ焼いただけとか信じられねぇ」
「すごい…こんな肉を持つドラゴンがいるんだ…」
やはりただ焼いただけというのに信じられないといった感じが多かった。
夕食が終わったところでみんなにこの肉がどのような料理に合うかを書き出してもらうが、ここで登場したのがヴォカボルスの外殻。これは加工すれば筆記具として使えるが、今日は時間がなかったため、周りに薄い木の皮を巻いて使ってもらうことにした。これについては皆知ってるらしく驚かなかったが、いざ本物を見るとなると興味津々であった。
色々書き出して貰ったところで、今日は夜も遅いので寝る準備をし、明日集計をすることとなった。ルナクとエレに限らず、全員がまだ見ぬ料理への可能性を感じ、胸を高鳴らせていた。
来年はいよいよ新年度が始まりますね。私もますます小説執筆に力を入れていこうと思います。今回はコンビもの3シリーズの2つ目。2・3のコンビはどちらもあまり絡まない組み合わせのため、新鮮な感じがあるかと思います!