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ロールプレイングハント  作者: 閃光 眩
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第1話:日常から非日常

【ロールプレイングハントの常識】

惑星ライアスの村では、出入りの際に門のところにある木札を、村から出る時は名前が赤で書いてある面を出し、村から帰った時には名前が黒で書いてある面を出す。こうすることで、村にその人が今いるのかどうかが分かるようになっている。



さらに、村には大きな鐘が設置されている。この鐘が鳴ったら皆、自分の村に引き返す。つまり、どんなことをしていても鐘が鳴ったら直ちに村へと帰らなければならない。標的と戦を狩猟している者は、早急に決着をつけなければならないため特に大変である。

1回目は門限30分前を知らせる予鈴。2回目が門限を知らせる鐘である。

もし門限を破れば、次の日の狩りにでられる時間が他の者より約1時間程度減ってしまう。

この鐘は、聞こえないということはほぼ無い。村の指定区域の範囲まで聞こえるため、村の境や、境にある関所までは必ず聞こえる。

しかし、村の外れにある「迷いの森」は名前の通り、奥地まで行ってしまうと必ず迷ってしまう。さらに、奥地では森が音を吸収してしまうため、鐘が鳴ってもかすかな音しか聞こえない。迷いの森に入るには、地図を持ち、日が暮れる前に早めに切り上げるのが村の決まりとして挙げられている。

今までお互い、息を殺しながら様子をみていたが、先にドラゴンのほうが動き出した!

先ほどと同じく、自慢の尻尾でのハンマー攻撃。ゲームではないので、パターン攻撃は存在しないため、毎回違う角度と軌道でジャストロに近づく隙さえ与えない。

一方のジャストロは、相手のハンマーの動きにだけ意識を集中させ、ギリギリのところでかわし、着実にドラゴンに近づいている。

そして、遂にドラゴンを追い詰めた。ドラゴンの後ろは川になっており、背水の陣状態である。

そんな中、ドラゴンは捨て身の攻撃をしかけてきた。火事場の馬鹿力なのか、その脚からは考えられないバック宙を繰り出し、尻尾のハンマーでジャストロにアッパー攻撃を仕掛けてきたのだ!

しかし、僅かの差でジャストロのほうが早く動いた。同じバック宙で、ドラゴンの攻撃をなんとか避け、その勢いでドラゴンの尻尾の付け根を剣で狙い、切断した。尻尾は鮮血を撒き散らし、ジャストロの背後に飛んでいった。

最大の武器ともいえる尻尾を失ったことでドラゴンは悲鳴じみた咆哮をあげ、無残にも背中から地面に叩きつけられた。こうなってしまっては、起き上がることは至難の技。

ドラゴンは最後の抵抗とばかりに体全体を使い暴れたが、ドラゴンの必死の抵抗も虚しく、ジャストロの剣先がドラゴンの喉を付いた。

「ふぅ…危なかった…」

そんな独り言を言いながら、額の汗を拭いドラゴンを担ぎ、切った尻尾を袋に入れると村に帰った。






村に入る前に、ジャストロは村の門のところで、自分の名前が赤で書いてある木の札をひっくり返し、帰ってきたことを告げる黒色の名前が書いてある面にし、門をくぐった。

その左手には、加工場がある。狩ってきた獲物は、お金を払えばここで加工してもらえる。

自分で解体すればお金はかからないが、時間と労力がかかり、最終的に綺麗に加工出来ないのがオチだ。

この加工場なら、短時間で獲物を「肉、骨、皮、臓物、副産物」に分け、綺麗に加工してくれる。

というわけで、村の皆はここの加工場を必ず使うのだ。

大型の獲物は運ぶことができないため、部位によってうまく切り分けることで加工屋に持ち込む。

そして、加工された獲物は家に持ち帰ることもできるが、村にある店で売ってお金にもできる。

例えば肉や臓物などは肉屋に行けば買い取ってくれる。

皮は服屋や防具屋に売ればいいし、骨は武器屋や薬屋に売れば買い取ってくれる。

それらを売ったお金で、店の売り物の中から欲しいものを買うこともできる。

ジャストロは肉だけが欲しかったので、臓物は肉屋に、皮は防具屋に、骨は薬屋に、尻尾のハンマーは武器屋に売り、家に帰った。

ドラゴンの肉を冷蔵庫に入れ、戦闘での疲れを癒すため、風呂に入った。今日は特に疲れたため、薬屋に売っていた疲れをより癒してくれる「フォープランツ」という植物型からとった花粉を加工したという入浴剤を入れ、長時間風呂に浸かっていた。その後髪を洗い、風呂から出た。鏡を見るが相変わらず筋肉は付かないままだ。

そんな自分に対して溜息を吐き、服を着て髪を乾かしてから台所に向かった。

今日の料理は、狩ってきたドラゴンスタンプの肉を使ったカツにすることにした。

作り方はこの世界でも同じ。しかし、小麦粉やパン粉、植物油などの穀物・野菜類は村で栽培されているものを買ってそれを使う。

卵と肉は、この世界では特別なものを使う。先程取り出した肉に卵を付けるが、卵は「フェニックス・リュグナー」というモンスターからとれるものを使用する。ちなみに、名前にフェニックスと付いているが本物ではないため、食べても不老不死にはなれない。

ジャストロはいつも通りこれらを使って手際良くカツを作った。この後また夜の狩りにでるので、料理はこの一品だけ作った。席に着き、ソースをかけてフォークで刺し、豪快にかぶりつく。サクッという音とともに、しょっぱい肉本来の味とソースの甘酸っぱい味が混ざり合い、旨味が口いっぱいに広がり思わず溜息が漏れる。

このドラゴンの肉の食べ応えは、なんといっても尻尾の付け根部分の肉だ。このドラゴンはハンマーをふりまわすため、尻尾の付け根の筋肉が発達しており、他の部位よりも弾力があって噛みごたえがある。噛むたびに肉汁が溢れ出て、口いっぱいに広がるのが一番の特徴である。

ジャストロは、これらを十分に味わったところで、夜の狩りに出る支度をはじめた。愛用の剣を背負い、肩に防具を装着して準備完了!すぐに村を出た。

夜の狩りは希少な動物が多いため、狩人の間では密かに話題になっている。ジャストロもそれを聞いてからは夜にも狩りをするようになった。



村のはずれの草むらには、特にレアモンスターがいる。高く売れるものや、耐久力に優れた武器や装備の素材になるモンスターなどもいる。

ジャストロは今日狩ったドラゴンの生肉を餌にし、自身は草むらに身を潜めて、防具屋で買った夜でも見えるスコープを手に、獲物を待った。

10分ほどたっただろうか、近くの草むらをかきわけるような音が聞こえた。音を立てないように、餌の方をスコープで覗いてみると、一匹のモンスターが、肉に近づいているところだった。今まで、たまに見かける程度の希少動物だった。名前は「へヴァントス」全身が金色の毛に覆われており、顔は猫とドラゴンを足したような顔をしている。

この好機を逃すまいとして、ジャストロは近づく時を待った。しばらくすると、へヴァントスはフラフラと倒れた。実は肉の中に眠り薬を仕込んであった。ほとんどのモンスターは餌に何かをしかけておくと臭いで分かってしまい、警戒して全く食べない。しかし、へヴァントスなどのレアモンスターはこの時間帯にこの付近でしか活動しないため、餌を見つけたら多少の確認のみですぐ食べてしまう。

へヴァントスは眠ったが、ジャストロはへヴァントスが起きないように足音を殺して一歩一歩近づくそして、急所であると思われるところに一撃。見事にへヴァントスを仕留めた。無事仕留められて安心したからか、身体中から一気に汗が流れでた。

へヴァントスを背負ったところで、村の鐘が鳴った。あと30分程度で村の門限になるということを知らせる予鈴だ。

ジャストロは、村から遠いところで狩りをしていたため、慌てて村へ向かって走った。






村の門をくぐったと同時に、門限を知らせる鐘が鳴った。あまりの危なさと門限を守れた事により、驚きと安堵が両方襲ってきた。

札を見たところ、当たり前だが門限ギリギリのジャストロが一番最後らしい…と、思っていた。しかし、一人だけ札が赤かった。

名前は「リンカ」名前は何処かで聞いたことがあったが、顔は思い出せない。とりあえず近くにいた門番に訪ねてみる。

「この子、どんな感じの子だった?名前はわかるが、顔が思い出せないな」

「はい、身長は160cmほどの女の子で、茶髪のツインテールでしたね。誰にでも敬語を使うのが印象に残ってます」

それを聞いて、やっと顔が浮かんだ。

「あぁ、分かった。その子か。まだ帰ってきてないのか…?」

「はい…まだお帰りになられておりません。必ず門限を守る子なので、何かあったと思い、ジーク幻将軍とキュリア麗剣士に知らせました」

ジーク幻将軍(げんしょうぐん)とキュリア麗剣士(れいけんし)とは、この村で一番強く、一番偉い男女だ。ジーク幻将軍は村長、キュリア麗剣士は秘書をつとめている。ジャストロは時々見かけることはあるが、話をしたことなどは数回しかない。

ジーク幻将軍の武器は大剣で、誰もできないとされる大剣三連撃を大技とする男狩人。

キュリア麗剣士は、武器はレイピアで、同じく誰もできないというレイピア5連撃を大技としている女狩人である。

幻将軍と麗剣士というのは肩書きとは全く関係なく、この村の者が親しみを込めて付けただけである。他の村ではジーク村長、キュリア秘書が普通である。

「必ず門限は守る…か。その子が傷を負ったりして帰ってきたことはあるのか?」

もしかしたら深手を負っているのかもしれない。

「いえ、村の周辺でいつも狩りをするそうなので、一度も傷は追わず帰ってきています」

「無傷か…やっぱりなにか変わったことがあったのかもしれないな…」

「そうだと思われます…あ、ジーク幻将軍とキュリア麗剣士がお見えになられました」

その声を聞いて、ビックリした。まさか二人がでてくるとは、やはりかなりの一大事なのだろう…

顔を上げてみると、二人が揃ってジャストロの目のまえにいた。さっき門限ギリギリに帰って来られたときに汗をかいたが、その2倍ほどの汗、そして緊張感が体全体に出てしまう。

ジーク将軍が、リンカは戻ってきたか門番に聞いたが、門番はまだ帰っていないと答える。

「そうか…弱ったな…」

「困ったことになったわね…」

二人ともかなり深刻な顔をしていた。そして、二人がジャストロの方に目を向けた。ただ見られているというだけなのに、二人の視線から謎の圧力を感じてしまい、汗が滝のように溢れ出る。そんな中、ジーク幻将軍とキュリア麗剣士の口からでた言葉は、ジャストロをさらに驚かせた。

「君は確か…ジャストロ君…だったかな」

「なんで自分のことを知ってるのかって顔をしているわね」

それはそうだろう。全く接点のない、しかも、この村の一番偉い狩人の二人がジャストロのことを知っているのだから。

「な、なんで俺のことを知っているんですか…?」

恐る恐る聞いてみる。すると、思いもよらない答えが返ってきた。

「僕とキュリアは、毎朝村のパトロールをしているんだ。ある日君が家の庭で剣の素振りをしているところを見かけたんだよ」

「その見かけた日から、毎朝あなたの家の庭をパトロール中に見ているの。一日も欠かさずに稽古をしているのね。私たち二人とも感心したわ」

「そ、そうだったんですか。まさか見られていたとは…ありがとうございます」

二人からいきなり褒めてもらい、恥ずかしいが、お礼はきちんと言っておく。

「それに、君は覚えていないようだけど、僕とキュリアはジャストロ君のお手伝いを一回しているんだ」

そんな事があったのか?ジャストロの記憶では確実に今日が初対面である。

「また話す時が来たら、そのお手伝いの話はさせてもらうよ」

話がひと段落したところで、二人の顔が厳しくなった。

「とりあえず、リンカちゃんは僕とキュリアの二人で探してみるよ。状況からすると、多分彼女は迷いの森にいると思うね」

「そうね。これは私たちの問題でもあるわ」

そう言ってジャストロの前を立ち去ろうとしたが、ジャストロは勝手に口が開き、声をかけていた。

「ジーク幻将軍、キュリア麗剣士。探すのは俺にやらせていただけませんか?」

二人が振り向いたが、その顔には驚きの色が浮かんでいた。

「でも、もう門限になっているし、門限外に外に出るのは危険だよ」

「そうね、気持ちは嬉しいけど、これは私たちの問題だから心配しなくても大丈夫よ」

2人は真剣な表情だった。しかし、ジャストロはこう付け加えた。

「お二人がこれから着替えられるのには、時間がかかると思われます。狩猟から帰って来たばかりの服の俺が行ったほうが時間短縮になります」

「それに、迷いの森の地図もここにあるので迷うことはありません。初対面…じゃないらしいですけど、どちらにしろ無礼かと思われますが、俺に任せてもらえませんか?お願いします」

媚びるつもりは全くないが言葉が口からスラスラ流れ出て、気づいたときには頭を下げていた。

ジーク幻将軍とキュリア麗剣士は、深刻に話し合っていたが、やがて、頭上から声がした。

「分かった。君の強さは毎朝の稽古を見て分かっているから、今回はお言葉に甘えさせてもらうよ」

「ごめんなさい。私たちの問題なのに、関係ないあなたを巻き込んでしまって」

二人からお許しが出たようだ。

「ありがとうございます!必ずリンカを助け出して帰ってきます!」

ジャストロは顔を上げてお礼を言い、もう一度深々と頭を下げた。そして、頭を上げると、村の門をくぐり抜けた。二人の狩人に見送られ、外へ飛び出した。

目指すは迷いの森だ。

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