第21話:結ばれし絆
「遅い…けど、昨日私が言いすぎたから別にいいけど」
「すまない。ちょっと村で色々あって」
「そんな感じみたい。あなた、ガロ村長の村からインしてるし」
そう離すゼノは、前よりも少し物腰柔らかくなった気がする。
「それで、この前は言いすぎてごめん…あんた、片手剣強かったし、変なことばっか言って反省してる…」
「反省してくれればそれでいい。で、他にもなんかあるのか?」
「あるけど、あんた村に帰らないとじゃないの?こんな時間にここにいるなんて」
意外にもゼノはこちらの心配をする。しかし、ゼノも前とは違う村からインしている。しかもジーク幻将軍の村に近い村だ。
「まあ、帰らないといけないといえばそうだ」
「なら帰って。夜の長旅は危なし、門限もあるから。じゃあ」
ゼノはなぜか一方的に通信を切断してしまった。そうか、ゼノも自分の村に帰らないといけないのかもしれないからか…
そんなことを考え、ジャストロはSTCから出て、ガロ村長と帰りの道を歩いた。帰りはジャストロのSTC使用ノルマ分の獲物を狩り、ガロ村長にすべて渡した。
「ここまででいいです」
「お?あと少しなのにいいのか?」
「義妹がいるのであってから帰りたいんです」
「おぅ、そうか。んじゃな!今度はちゃんと船載せるし、食物もたくさん用意しとくからな!」
さすが村長。ジャストロの用事に余計な口を挟まずに去っていくガロ村長は、なんだか会った時よりも楽しそうな雰囲気を醸し出していた。
それと、義妹といったがリンカは義妹じゃない。しかし、そういった方が理解しやすいと思い、ガロ村長にはそう話してみた。
また今度といったが、まさかまた会ってくれるだろうか…そう思い、リンカの家をノックする。
「はーい…って…きゃぁっ!?」
そこに出てきたのは下着姿のリンカ。まさかの格好に言葉を失う。
「これはっ…その…お、お友達が…」
「まっ、まさか…男か!」
「ちっ、違う違う!?女の子…それに、そういうのじゃないから…」
「そ、そういうことだから…せっかく来てくれたけどゆっくりしてもらいないの…ごめんね…」
「いや、べ、別に大丈夫だ。ただ、そ、その格好でドア開けてたら寒いだろ。それに、他の人に見られたらいけない」
「うん、そ、そうだね…また今度会おうね…おやすみお兄ちゃん…!」
リンカは早口でそういうと、逃げるようにドアを閉めた。
イケナイものを見て若干頭がフラフラするが、急いでジーク幻将軍が待つ我が村に帰った。
「おかえり…」
村の前で待ってたのはまさかの人物だった。
「ゼノ…なんで…」
「だって、大剣の使い方についていちいちSTCで説明するのめんどくさいし…」
「で、でもな…まさか来るとは…先に行って欲しかったな…」
「私の勝手だし…それにこの村に住むつもりで支度もしたし…大剣マスターするのは時間かかるから」
意外と豪快なところがあるな…と、まさかの来客に焦りながらも、ゼノについて門番に説明すると、村役場のジーク幻将軍の元へと向かった。ジーク幻将軍はこちらを見ると、少し目を見開いた…ように見えた。事情を説明するとオーケーしてくれたので、自身の家へと向かえた。
とりあえず、ルナクが使うはずだった部屋があるため、そこを使ってもらうことにした。部屋は一個余っているが、そこはまだ開ける気になれない…それに、そこには昔の思い出…そして恐怖が眠っている。開けるのには覚悟がいるためでもある。
いきなり増えた仲間に、昨日会ったフレード以外は戸惑っていたが、すぐに受け入れてくれた…が、問題はその後だった。数日経ったが大変なことになった。
「ジャストロさぁ〜ん。なんですかあのゼノって子!すっごい冷たいんですけど!」
「ジャストロ…あの子は私にも扱い難しい…」
「ジャストロ、ゼノって子、私が話しかけても睨んできたり怖い…」
「ゼノ…私は特にないが、なんだかいつも睨まれてるような気がするな…」
フレードは慣れたのかあまり気にしていないが、ほかの女性人全員からジャストロへの苦情が殺到した。確かにつれてきたのはジャストロで、ゼノもそれなりに優しくなったと思ったが、そうでもなかったらしい…
食事も一言も話さないし、洗濯は自分1人個別で干す。狩りも勝手に出るうえ、ジャストロを勝手に引っ張りだすために他の仲間たちと一緒に狩りがあまりできなくなった…完全に協調性はなくなり、ジャストロ自体も大剣について教えてくれるのはありがたいが、仲間をないがしろにするゼノが少しずつ憎くなってしまった。
ゼノが来て半年ほど経っただろうか…ジャストロ達には1年に思えるほどだった。
ゼノに言いたいことを全部ぶつけよう…そう思った矢先…
「ジャストロ君、ちょっといいかい?」
声の主はジーク幻将軍。なぜだかとても真剣な面持ちをしている。
「はい」
呼ばれて村役場へとついていくと、村長室へと呼ばれた。ここに呼ばれるのはジャストロもはじめてで、とてつもなく重要なことだというのを感じ取った。
「今から話すことは、決して嘘じゃないからね。驚くかもしれないけれど、しっかりとその事実を受け止めてほしいんだ」
何かあったのだろうか…理由が全く思い浮かばないジャストロは、ジーク幻将軍による答えを待った。
「心の準備はできたね。それじゃあ話すよ…」
「ゼノちゃん…実はジャストロ君の血の繋がった妹なんだ…」
「っ!?」
言葉が出なかった…そして、あの憎くなった女が妹!?しかもリンカのような感じではなくて血の繋がっている!?
「理由を話すよ。まず、君は蔵書館で禁書を読んだね?キュリアが読んでるのを見たっていってたけど」
「読みました…」
「じゃあ、自分たちに親がいることは知ってるね」
「知ってます…」
「よし、それじゃあ話が早い。実は、僕の前の村長…君の父親だったんだ。そして母親が秘書…2人とも僕の憧れの存在だったよ。そんな2人をしっかり見てきたから、ジャストロ君のことも実は知っていたんだ」
まさか…自分の父が村長!?そんなすごい人だったのか…ジャストロはまた驚いた
「それと、君の住んでる家、あれはお父さんが村長をやる前は宿屋をやっていたんだ。だからあれだけ部屋があるってわけなんだ。今じゃ大助かりだろうけどね。お父さんも空で喜んでるよ。それで、ジャストロ君とゼノちゃん。君たち2人は喧嘩することで有名な兄妹だったんだ」
もちろん60歳で記憶が途絶えるから覚えてないだろうけど…と付け加える。
「それで、60歳になった時に2人が一緒にいたらまた同じように喧嘩をしてしまって、大変なことになるだろう…そんな考えになったんだ。それで、ジャストロ君はここに、ゼノちゃんは遠くの村に送られたんだ」
ジャストロは今話されていることがどうしても理解できなかった。聞くたびに胸の奥がズキンと痛む…しかし、これからゼノとうまくやっていけるヒントがあるかもしれない…そう思い、そのまま話を聞くことに集中する。
「それで、僕が村長になった時に、お二人にこう言われたんだ。もし、2人が大きくなって出会うことになったら、それぞれに個別にこの話をしてくれない…ってね。そういうことなんだ」
「そ、そうです…か…ありがとう…ございます」
「まだ頭の整理がつかない。今日はか絵ってゆっくり休んで。あと、この話をしたあとで悪いんだけど、ゼノちゃんをここに来るように言ってくれないかな?同じことを話すよ」
「わかり…ました…」
意識が朦朧としかけ、ふらふらと立ち上がり、ジャストロは家へ戻った。
「ジーク幻将軍が…読んでる…」
「あんた顔色悪すぎ…早く寝たら」
この女が妹…もうよくわからない。ジャストロは自身のベッドにダイブし、頭の中を整理しようと試みた。
「鍵、開けといてよ」
ゼノはそういうと、玄関を出て行った。
ジーク幻将軍の元に行って、先程ジャストロが聞いたことを全て聞かされた。ゼノも心底びっくりしたようで、表情が固まったまま、来た道を引き返した。
扉を開けてリビング間に行くと、ベッドにジャストロが座っていた。静かにこちらを見ている…
あぁ…分かってる。自分が今まで突っ撥ねてきたこと、わざと拒否してしまったこと…それを考えると、いつの間にか涙が止めどなく溢れでいた。
そんなゼノを見て、ジャストロは立ち上がってこちらに歩いてきた。そして眼の前で立ち止まる…
そんなジャストロにゼノはおもわず抱きつき、小さな声でつぶやいた
「兄さん…」
2人はそのまま抱き合った。ジャストロはゼノを憎く感じたが、辛そうな顔、そして涙を見た途端、どうでもよくなった。その涙は辛いものだとなぜかわかった。やはり血が繋がっているから?同じ境遇をたどっていたから?
そんなことはどうでもよかった。妹が泣いている、そんな時は兄が安心させてあげよう…そう思った。
くぅ…と小さな音がした。
「腹、へってるのか…」
そういうと、ゼノは恥ずかしそうに顔を埋めた。
「俺がなんか作るから待ってろ」
ジャストロは腹を空かせた妹のために腕をふるった。あった食材は先日狩ったアンガロスの肉とアーロックドラゴンの肉。両方とも肉だが、アンガロスの肉は柔らかく、口の中でジュワッと溶ける脂分を多く含み、アーロックドラゴンのは噛めば噛むほど味の出る繊維質の肉で、全くの正反対である。この2つに軽くコショウとを振り、キャベツ・ピーマン・そしてトウガラニンジン(唐辛子のように辛いニンジン)を加えてピリ辛野菜炒めにした。油はしかなくてもアンガロスの肉から出るため、ヘルシーに仕上がる。
この野菜炒めにほかほかのご飯を合わせ、ゼノの前に差し出した。
「いただきます…」
ゼノは小さい声でそういうと、夢中で食べ始めた。ジャストロはその様子を眺めようとも思ったが、あまり人の食事を眺めるものでもないかと思い、ソファで横になっていた。
しばらく箸が食器を鳴らす音と野菜を噛む音が聞こえていたが、やがて鼻をすする音と、震える吐息が混じっていた。
それを聞き、ジャストロはなぜか良い気分になり、素直な気持ちにもなれた。やはり兄妹同士、抱えているものが一緒だったのか…そんなことを思いながらゼノが食べ終わるのを待った。
「ごちそうさま…」
ゼノは震える声でそう答え、席を立って歯を磨きに脱衣所への向かった。ゼノの姿が見えなくなると、ジャストロはソファから起き上がって食器を洗おうと片付けた。その食器には食べられる部分何もないほどに綺麗に跡形もなく無くなっていた。
「兄さん…ありがと…」
食器を洗い終えると、ゼノが戻ってきた。目の周りが赤いのがよくわかる。
「美味かったか?とりあえず今日は寝るぞ。もう日付が変わってる」
「うん。おやすみ…」
ゼノはそういって出て行こうとした…
「ねぇ、一緒に寝ていい…?」
突然のお願い…ジャストロには断るという選択もなく、承諾した。妹のためならあの部屋を開けられるはず…ジャストロは心の準備を決め、明日あの思い出の部屋を片付けてゼノに使ってもらうことにした。
「よし、俺のベッドで寝ればいい」
「嫌、一緒に寝たい…」
妹のワガママとはいえ、さっきまで血の繋がりを知らなかった男女だった2人が、いきなり同じベッドで寝ていいものか…?しかし、自身の体にピッタリと体を寄せてくるゼノが愛おしくなってしまい、一緒に寝ることにした。異性と一緒に寝るのはリンカ以来である…
1つわだかまりが無くなったことと、心を許せる妹が増えたことで肩の荷がおりて疲れてしまったのか、ジャストロはそのまま死んだように眠った…