第20話:過ち・誤ち
「トイレトイレっと…あった!」
ジャストロと分かれてから、ロミはトイレの場所を全く知らないことに気がつき、村の人たちに聞いて、なんとかたどり着けた。
トイレを済ませて外に出ると、ふと視線を感じて後ろを振り向く…しかしそれは叶わず、頭をつかまれて後ろを向けないようにされてしまった。
「ち、ちょっと!…んむぅっ!?」
とっさに声をあげて助けを求めようとしたが、口に布を当てられてしまい、声を封じられてしまった。
あぁ…もうダメだ…そう考えてしまったところ、強烈な眠気に襲われ、目の前が真っ暗になった。
おかしい…もう30分以上経っている…ジャストロは時計を見ながら不安を感じていた。
トイレにしては長すぎるし、借りに村の中を回ってたしても、こんなにはかからない…
とりあえず外に出てみると、異様なほどに村の人たちが少ない…それとともに妙な胸騒ぎを感じ、怪しい場所を探り始めた。村人何人かに聞いたが、みんな首を横に振るばかりで、次第に不安と焦りが募る…最後の頼みだ…そう思って1人の女の子にダメ元で声をかけてみた、
「えぇ、なんだか大勢で地下室の方へ向かって行ったわよこの奥、突き当たりの階段の下に地下室があるの」
最後の頼みは道を切り開いてくれた。ジャストロは女の子にありがとうをいうと、急いで地下室へと向かった…
「ん…うぅ…」
ひんやりとした薄暗い空間の中。ロミは目を覚ました。口には相変わらず白い布が巻いてあり、声を満足に出せない。さらに手は上に縛り上げられており、足も縛って拘束されている。今日のために着た服も脱がされており、いつもの服にされている…
辺りにはパチパチと松明が燃え、ぼんやりと周りを照らしている。目が冴えてきたので辺りをキョロキョロと見回してみると、自分の前に無数の人影があることに気がついたわ、
「ひっ!?」
短い悲鳴をあげると、それが合図かのように一気に松明が燃え上がる…20人はいるだろうか…こちらをいやらしい目で見ている。
「おいお前ら、やっとお目覚めだぞ」
リーダーと思わしき人物がそういうと、周りが一気にどよめいた…声を聞いたところ全員男だ。いったい自分が何をしたんだ…そんな思いで周りの男たちを見渡す。
「なんでだって顔してるな…お前、トイレの場所をみんなに聞いて回っただろ?そのおかげでお前の居場所は余裕でわかった。それに、この村は女が少ないんだ…あとはわかるな…?」
それを聞いて、一気に悪寒が走った。これから何が起こるのか…すぐにわかった。
「おし、そうと決まったらまずは俺から…」
リーダー男はそういうと、ロミのむき出しの脇に指を這わせた。それとともに体がビクンと跳ね、口からくぐもった吐息が漏れる…
それを見ていた周りの男は一斉におぉおと声をあげる…
自分はこんな場所に来て汚されてしまうのか…諦めて目をつぶり、屈辱に耐えた。リーダー男の指は脇から脇腹まで降り、ヘソ周辺を撫で回す…そして今度は太ももへと触れ、そのまま上へとなぞられ、スカートを押し上げてくる…
目をつぶったことで、より一層感覚が伝敏感になる…それが嫌になり、また目を開けるが、目の前には興奮した男たち…絶望的な状況に涙が溢れてきた…もうダメだ。そう思って諦めた矢先…
勢いよく扉が開けられ、僅かだが光が漏れる…そちらに目を向けると、よく見知った顔がそこにはあった。
「ジャストロっ!」
地獄に仏とはまさにこのこと。ジャストロの顔を見たロミは、今度は嬉しさのあまり、涙が止めどなく溢れでた。
「なっ!?お前なんでここがわかったんだ!」
「村の人に聞いたら教えてくれた。何が目的だ、ロミを離せ…俺の仲間をこんな風に扱うのは許さない」
ジャストロは表情からはわからないが、明らかに怒っている雰囲気を醸し出していた。
「ロミ、戻るぞ…」
ジャストロはそういってズケズケと室内に入り、ロミの元へと向かい、口の布を外して、腕と足の縄を解こうとした。それは叶わなかった…
「ジャストロ!避けて!!」
ロミが大声で叫ぶが、気が立ってるジャストロは、反応に時間がかかった。後ろには棒を持った男が1人立っていたが、後ろを振り返る暇もなく、後頭部を思い切り殴られた。鈍いながらもじわじわと浸透する痛みをジャストロが襲う…視界がグラつき、だんだん周りが白くなって、意識を失った。
「ち、ちょっとあんた達っ!!」
ロミは大声を出し、縄を解こうと体をがむしゃらに動かした。しかし、縄は全くもって解けない…
今何が起こっているか…20人いる男達がみんなで気を失ったジャストロに、踏む、蹴るなどの暴行を加えている。既にジャストロはボロボロになり、下手をしたら死んでしまう…
「やめてっ!やめてよ!」
必死に叫ぶが、全くもって聞き入れない男達。やはりダメか。そう思った矢先…
「おい!お前ら!なにしてやがる!!」
聞き覚えのある声が地下室を揺らす。声の主は、ガロ村長。村の異変を感じ取ったのだろうか…ここにいるということは、料理の準備は終わったと見える。
「おっ、お前ら…この2人は客人だぞ!それをわかっての行動かっ!!」
落雷ともいえるようなガロ村長の怒号は、約20人いる村人を震え上がらせるのには十分すぎた。優しい人が怒ると怖いというが、まさにガロ村長はその通りだろう。
「ジャストロさん、ロミさん…悪いことをしたな…」
ガロ村長はそういってまず、ロミの拘束具を外す…そして、気を失っているジャストロを担ぎ、外に出ようとした。
「お前ら説教してやるからそこで待ってろ…逃げたら…分かるな?」
去り際のその一言に、全員が恐怖の表情で硬直した。
「う…うぅ…」
「お、気がついたか!」
「ジャストロっ!」
ここはどこなのか…確認するために起きようとしたが、頭に鋭い痛みを感じて起き上がることはできなかった。
「安静にしてろ。本当に…俺の村人達が酷いことをした…すまねぇな…」
そうだ、確かロミを助けようとしたところで殴られて、そこで記憶を失って…
「あの後、ガロ村長が助けに来てくれたんだよ!」
「そうか…それは助かりました。ありがとうございます」
「いやいや、今回はこっちが全部悪いんだ。料理だけじゃお詫びにならねぇけど…」
ガロ村長は申し訳なさそうに頭を下げた。正直、ジャストロは申し訳なく思った。ガロ村長には明るくいてほしい。悲しそうな顔を見ているのはこっちも辛い…
「そ、そうだ。料理を是非食べたいです!ガロ村長が腕をふるってくださった料理、楽しみにしてました」
「お、そうか!よかったよかった!その言葉、嬉しいぞ!さ、さ、肩貸すから、行こう」
ジャストロの必死の言葉がけに、ガロ村長はすぐにいつもの明るさを取り戻してくれた。やはりガロ村長には明るさと笑顔が似合う。そう思いながら、ジャストロはガロ村長の肩を借りて、料理を食べる部屋へと向かった。ロミも同じ気持ちを持っていたらしく、こちらを見ると意味ありげに笑って見せた。
料理はとても豪華で、海の幸がふんだんに使われていた。ジャストロもロミも、食べるのが初めてなものばかりだった。
「これは…?」
「これはなぁ、さっき2人が見たシュエロプスとシャルモンテの刺身だぜ!切り身を交互に重ねてみたんだ。どうだ?」
あの硬い甲殻の中にこんな綺麗な身が詰まっているのかと、2人は驚いた。その身は肉厚ながら透き通っており、下の身の色が透けて見えるほど。光に当たるその姿は、まるで真珠のような色と輝きを放つ…
「これは海の幸でなければできない華やかさですね。それに、ガロ村長の器用さにも驚きました」
「あたしも綺麗だと思います!まるで絵みたいです」
「いやぁ〜そんなに褒めてもらえるなんて嬉しいぜ!ありがとな。さあ食った食った」
ガロ村長は少し照れながらも料理を勧めてくれた。
ガロ村長が器用ということには本当に驚いた。豪快、大雑把、感情的といった印象が多かったが、意外にもこんなに芸術的で器用な一面もあるのかと驚いた…と同時に、やはりどの村の村長もすごい存在であると改めて思った。
「ん…美味しい…!」
「なにこれ!?海の幸ってこんなに美味しいの!?」
口に運んでみると、期待を裏切らない味が口に広がる。
身はゼリーのような弾力感のあるプリプリとした食感で、それでいて歯ごたえがあるり、噛むと同時に風船が弾けるかのように旨味が口の中にジュワッと広がる。一切味わったことのない味に、2人は驚く。
「へへっ、俺たち腕によりをかけて作ったからな!ありがたいぜ」
ガロ村長はそういって他の料理も勧めてくれた。
食べた料理は…ジャベリンシャークのヒレ煮込み(フカヒレ)・シュエロプスとシャルモンテの豪快焼き(網焼き)・ザロノアガスの燻製(保管してあったもので、長い航海の際に保存食として食べてるらしい)などをいただいた。途中でジーク幻将軍が到着し、一緒に食事を楽しんだ。どうやら、ジーク幻将軍とガロ村長は昔からの付き合いがあるらしい…
「ふー…美味しかった。久しぶりに食べたガロの料理、美味しかったよ」
「そりゃあジークと、そのお仲間さんが来るっていうから腕によりをかけたぜ!2人ともとってもいい狩人じゃねぇかよ。やっぱりジークの周りはいい人ばっかだぜ」
「そうかな?みんなが僕を慕ってくれるおかげだよ」
村長2人は久しぶりの会話に花を咲かせていたが、ふと、ガロ村長がジーク幻将軍に耳打ちをした。途端、ジーク幻将軍の表情が少し険しくなり、腕を組んで何か考え出した。
「ガロ、とりあえずそのひとたちを全員、地下室に集めてくれないかな?」
「わかったぜ…」
ガロ村長はそういうと席を立ち、なぜかこちらに向かってきた。
「さっきあった事件についてジークに話した。どうやら、地下室でちょっと説教するらしいから、2人も後で地下室に来て欲しいがいいか?」
もちろんといった形で、2人は頷いた。ガロ村長はすまねぇなといい、先に出て行ったジーク幻将軍の後を追った。
言われた通りに地下室に行くと、先ほどの約20人の村人とガロ村長、そして手前にはジーク幻将軍が立っていた。
「あ、来たね。じゃあ、僕の横に来てくれるかな?」
言われた通りにして横に立つと、ジーク幻将軍が静かに口を開いた。
「ガロから話はすべて聞いたよ。ここで起こったこと…僕は非常に残念だ…」
その言葉は、地下室の暗さと湿り気とともにみんなの胸に深く浸透する。
「ガロとは深い付き合いだから信用をしていた。でも、こんなことが起こったら、ガロの信用も絶対に崩れちゃうんだ」
「だから、ぼくはガロに、ここの村長をやめてもらおうと思う」
そういった瞬間に村人たちの間にどよめきが起こった。そして、驚いた顔でジーク幻将軍の方を見ているものもいる。ジャストロとロミもあまりの仕打ちに口を挟みたくなった。
「でも!」
その騒がしさをジーク幻将軍の声が遮った。また静けさが地下室に戻った。
「君たちが今回の罪を償って更生して、2度と同じ過ちを繰り返さず、またいつものようにガロと一緒に活動してくれるなら、それは無しにしよう」
それを聞いた途端、村人たちが一気に謝り始めた。やはり、自分達のやったことについて非があるとわかってはいながらやっていたのだろう…
この事件を起こした理由は、この村は極端に女が少ないため、久しぶりにきた女に欲情してしまったらしい…
「うーん、そうだったんだね。できれば、そこは力じゃなくて頭で考えて欲しかったな。君たちにだって男としての魅力はあるんだから、自分の魅力と気持ちを伝えた方がいいと思うな」
その言葉に、男たちはハッとさせられていた。男達は自分に対して自信をもてていなかった。まず、魅力がないと勝手に思い込んでいたため!そのせいで自分をどんどん卑下してしまい、そして今回こうなってしまった…
自信を持ちます…そんな声がたくさん聞こえた。ジーク幻将軍は満足そうに頷くと、ガロ村長の方へ向かった。そして握手を交わすと、こちらに目配せした。
「じゃあ、僕たちは村に帰るよ。こんな形で解散してごめんよ。今度来たときには変わってるといいな」
ジャストロとロミは慌ててジーク幻将軍の背中を追った。
残されたガロ村長と村人達…村人達はガロ村長の元に向かうと、泣きながら抱きついた。すまない、すまないと…
そんなみんなを見て、ガロ村長は馬鹿野郎っ…とつぶやくと、そのたくましい腕と手で優しく抱きしめたり、頭を撫ではじめた。目にいっぱい涙をためて…
「ふぅ、これで一件落着だね。ちょっと強引だったかもしれないけど、僕も村に戻らないといけないからね」
とはいえ、ジーク幻将軍の一言にはとても驚いた。ジャストロ達だって、もしいきなりガロ村長に「ジークに村長をやめてもらう」なんて言われたら息が止まるほど驚いてしまう…
「さ、急いで帰ろうか」
ジーク幻将軍に言われ、2人は村を出ようと歩き始めた。山には日が沈み始めている。
「あ」
ジャストロはあることを思い出して慌てて村に引き返そうとした。
「どうしたんだい?」
ジーク幻将軍が驚いて聞く。
「ちょっとSTCで会う人がいて…!夕方の約束だったんです!!先に帰っていてください。俺なら大丈夫です」
「さ、さすがに夜帰るのは危ないよ!僕たちも待ってるよ」
「おれが送ってやる!」
声の主はガロ村長
「ガロ…いいのかい?」
「おうよ!ジーク達には迷惑かけたからな。その償いになるんなら、俺がつきそうぜ」
「分かった。よろしく頼むよ。道中気をつけて!」
「おう、またな!」
いきなりの申し出だったがすぐにオーケーしてしまう村長2人…長い間固い絆で結ばれていることがよくわかった。
「おし、これでいいぜ!あんたは自分の用事、すませてきな」
「ありがとうございます!」
ジャストロはお礼をいうと、走ってSTCへと向かった。
ゼノに会うために…
閃光 眩です。今回は長編ということで、二話編成にしてみました。来月もそうなる予定です。今いる村ではなく、他の村の様子も見ることで、文化の違いなどを描いてみました。